冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜

拝詩ルルー

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第二章 グリムフォレスト

破邪の大鎚

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 本日の結界張り作業が終わると、結界張り部隊は仮のキャンプ地を築いた。 

 支援物資にあった保存の効くパンと、ロックリザードの焼き肉で簡単な食事を済ませると、俺は焚き火の近くに座り込んで、空間収納からハンマーを取り出した──本日のロックリザード戦で、大活躍してくれた武器だ。

 戦闘後はすぐに怪我をした聖騎士や神官たちの治療をしていたから、ずっと空間収納にしまいっぱなしだった。
 いろいろ汚れがついたままだし、汚れをそのままにしてると武器が錆びる原因にもなるからな。武器の手入れは、冒険者だった頃から欠かせない大事な習慣だ。頑張ってもらったんだし、綺麗にして労ってやらないと。

 いらなくなった布切れと、水魔術を使える神官から水をもらって、丁寧に汚れを拭っていく。

 こういう地味な作業をしてると、今まで全く気にしてなかった所にも目がいくな……

 金属製のハンマーなんだけど、俺がまだ見たことのない金属なんだよな……もしかして、これが噂のミスリル? アイアン・ケルベロスみたいな貧乏冒険者じゃなくて、一国の騎士団長様とか、「鉄竜の鱗」や「火竜の鉤爪かぎづめ」みたいなSランク冒険者パーティーのメンバーが愛用してるって噂の……!?

 でも、教会の貸与品だから、もしかしたら……!

 ハンマーの頭部分の側面には、複雑な紋様が彫り込まれてて、かっこいいんだけど、掃除するのは大変だ。どうしても、この溝の奥に詰まった汚れが気になってしまう……!!

 ハンマーの側面に付いてる真っ赤な魔石は、初めて見たやつだ。
 俺が見たことがないってことは、ドラゴニアの片田舎にはいない魔物か、Aランク以上の強い魔物のものだ。もしくは、どこかのダンジョンで発見されたとか……??

 どちらにしろ、高価すぎて本来なら俺が持てるような代物ではないな。

 俺が考え事をしながらハンマーを磨いていると──

『よう! 俺は破邪の大鎚おおつちガラガルディア様だ! 気軽にガンちゃんとでも呼んでくれ!!』

 俺の頭の中に直接、「野郎」としか言いようがないダミ声が響いた。

「うわっ!? し、しゃべった!!?」

 俺はびっくりしすぎて、思わずハンマーを放り出した。ドスンッと重たい音を立てて、ハンマーが少し地面にめり込んだ。

『おい、おい、おい! 酷ぇ野郎だな! こ~んなナイスバディの俺様を放り出すなんて!!』

 また変なダミ声が頭の中に響いてくる。

「えっ、えっ? またしゃべ……それに、ナイスバディ……???」
『この魅惑の寸胴カーブは、ハンマー的ナイスバディの証だぜ!!』

 陽気なダミ声が返してくる。

 それよりも、寸胴ならカーブもクソもないだろっ!!

「おや? ノアさん、無事に主人認定されましたね」

 俺の慌てぶりを見た、通りすがりのウィリアムさんに声をかけられた。

「えぇっ!? 主人認定!? どういうことですか!?」

 俺は助けを求めるように、ウィリアムさんを見上げた。説明をお願いします!!

「これは聖鎚せいついガラガルディアですよ。教会から聖騎士に貸し出される貸与武器ですね。ただ、聖騎士って、ほとんど全員が剣士じゃないですか。だから、聖騎士は皆この武器がハンマーだからと敬遠するんですよ。『剣じゃない』って。……まぁ、ガラガルディアはこの重量ですからね。元から馬鹿力を持っているか、『怪力』スキル持ちでもない限り、そもそも重すぎて扱えないんですよ」

 ウィリアムさんが丁寧に解説してくれた。

「はぁ……」

 そ、それで、この自称ガンちゃんがしゃべってるのは、なんで!?

「実は、聖剣や聖槍、聖鎚は意識を持ってるんです。だから、しゃべれるんですよ。実際に言葉をしゃべる物もいますが、ほとんどは念話で主人と認めた者とだけ会話をします」

 俺の無言の疑問が通じたのか、ウィリアムさんが説明してくれた。

『コイツ、面白ぇ奴なんだよ。ヒョロくてひ弱そうな奴だと残念に思ってたんだが、なかなかの怪力野郎じゃねぇか。しかも使用後にちゃんと手入れもできる奴だ。悪くねぇ』

 ガンちゃんが口? 念話? を挟んできた。

「ノアさんなら条件に合いますし、それに聖騎士みたいに別に『聖剣じゃなきゃ嫌だ』という縛りもないでしょう? それなら、ガラガルディアを振ってくれるかと思いまして」

 ウィリアムさんがあっさりと答えた。

 あれ? もしかして、ウィリアムさんにもガンちゃんの念話って通じてるの?

「ここ数百年、ガラガルディアは主人無しでしたからね。今まで構ってあげられなかった分、存分に振って暴れさせてあげてくださいね」

 ウィリアムさんに、にっこりと笑顔で念を押された。

 聖武器といえば、聖騎士たちの憧れの逸品だ。聖騎士の中でも一握りの者だけが扱うことを許される、特別な武器だ。

 仮のキャンプ地にいた聖騎士やその見習いたちは、半分羨ましいような、でも微妙に違うんだよな、というなんとも言えない表情で俺を見てきた。

「そんな、ペットみたいな……」

 俺はなんとも言えない声をあげた。

 ガンちゃん、俺の空間収納のほとんどを占めてるんだよな……せっかく空間収納の容量を増やしたはずなのに、実際に自由に物を入れられる分量は減ってるし……

「ガラガルディアは聖武器にしては気のいい奴ですよ。主人に恵まれないのが難点なだけで」

 ウィリアムさんが、ポンッとガンちゃんの側面を軽く叩いた。

「ウィリアムさんは、ガンちゃんは使わなかったんですか?」
「こんなオヤジ臭い聖鎚より、乙女な聖槍の方がいいです」

 俺の質問に、ウィリアムさんはいい笑顔でキッパリと言い切った。

『ガハハッ! ミセリアは嫉妬深ぇし、コイツはこんなだし、俺だって願い下げだ!』

 ガンちゃんも、ウィリアムさんに同意してる……!?

「あれ? じゃあ、なんでウィリアムさんはガンちゃんを持ってたんですか!?」
「私はただ教会からガラガルディアを預かってただけですよ。ミセリアが他の聖武器の使用を許してくれなかったということもありますが」

『そういうことだ! いい加減諦めろ! よろしくな、相棒!!』
「そんな……」

 そんな殺し文句ってありなのか?

 ウィリアムさんは、もうガンちゃんを引き取ってくれないみたいだし、次の主人が見つかるまでは俺が聖鎚ガラガルディアを管理することになった……俺の空間収納の容量がぁあぁああ……!!!


 俺は、ガンちゃん磨きの続きを始めた。
 ウィリアムさんも焚き火の近くに座って、お茶を沸かして飲み始めた。

 焚き火の周りには、聖武器に興味津々の聖騎士やその見習いたちが集まっていた。

『う~、あ゛~……そこそこ……』
「気持ち悪いから黙っててくれ……」

 脳内に直接響くおっさん臭い声に、俺は苦情を入れた。
 ガンちゃん磨きのやる気が、ガクッと下がった。

「そういえば、ガラガルディアはそういうところも敬遠されてましたね……」

 ウィリアムさんが、思い出したようにポツリと呟いた。

……なんだか、とんでもない武器に選ばれちゃったな……

 俺はただひたすらに遠い目をした。


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