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第二章 グリムフォレスト
後方支援キャンプ3(リリアン視点)
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レスタリア領の後方支援キャンプに来てから二日目。
急に、キャンプにいたレスタリア領の教会の神官や聖女、聖騎士たちの動きが慌ただしくなった。
私たちはちょうど、結界張り部隊の元へ向かうために、ポーションや食糧などの物資をまとめていた時だった。
「レスタリア領主様だ!」
「先触れも無しにいらっしゃったのか!?」
慌ただしい神官たちの声が、キャンプ内に響いた。
「ふ~ん、領主様自ら来たんだ。こっちから行こうかと思ってたんだけどね」
クロエ上級神官が、細い腕を組んで挑戦的に笑った。
幼い見た目のせいか、とてもやんちゃで可愛らしく見える。
「クロエ上級神官、どうしましょうか?」
グラントさんが不安そうな表情で尋ねた。
「領主様には私が対応するよ。君たちは、このまま移動の準備を進めてて──残念だけど、結界張り部隊の所に向かうのが、少し遅れちゃいそうだね……」
クロエ上級神官は、面倒臭そうに肩をすくめて言った。
「分かりました。俺たちはこのまま作業を続けよう。クロエ上級神官の話し合いが終わったら、すぐにでも結界張り部隊の元に向かえるようにしておこう」
「「はい」」
グラントさんの指示に、私とエラは頷いた。
少しすると、レスタリア領の役人らしき人たちが、キャンプ地の奥の方までやって来た。
「領主のバルトルト・レスタリアだ。あなたが現在ここの責任者の神官か?」
声をかけてきたのは三十代ぐらいの男性で、ブラウンの髪はきっちりと撫で付けられていた。鋭いグレー色の瞳は、値踏みするようにクロエ上級神官を見下ろしていた。
「そうです。ライオネル教皇猊下直属の上級神官クロエ・アルテミアです」
クロエ上級神官が、一瞬で笑顔を貼り付けたのが分かった。片手を胸元に当て、丁寧に教会式の礼の姿勢をとっている。
「妹を拘束したと聞いたのだが、詳しく話を伺いたい」
「ええ、それでは会議用のテントまでどうぞ」
クロエ上級神官とレスタリア領主様の間には、目には見えないけれど、バチバチと火花が散っているのが分かった。
クロエ上級神官が案内するように先頭に立って歩き始めると、ゾロゾロと彼女の後をレスタリア領主様と役人たちがついて行った。
「クロエ上級神官は大丈夫でしょうか?」
エラがおろおろと心配そうに尋ねた。大きなペリドット色の瞳が不安げに揺れている。
「教皇猊下直属の部下だからな。かなりしっかりされているし、彼女に任せておけば大丈夫だろう」
グラントさんが、エラを安心させるようにしっかりと頷いた。
***
「ふぅ……あ~、やっと終わったわ~……」
クロエ上級神官がだるそうに、私たちが待機していたテントに入って来た。
結界張り部隊のサポートに向かうための荷物のまとめ作業はとっくに終わっていて、そろそろ夕方に差し掛かろうという時間帯だった。
「何、あのおっさん! 往生際が悪いし、変に粘り強いんだけど!!」
クロエ上級神官はキーッ! と地団駄を踏んだ。
やっぱり幼なげな見た目から、そんな姿もなぜかよく似合って見えた。
「とりあえず、言えることだけ報告するわ。結界張り部隊の近くに後方支援キャンプが張れるようになったわ。ここには本部の尋問部隊と、昨日拘束したアルマ聖女と神官たちだけが残るわ。……あの領主様が粘り散らかしてくれたおかげで、こんな時間になっちゃったし、実際にキャンプ地を移すのは明日ね!」
クロエ上級神官は、腕を組んでむすっと頬を膨らませて、教えてくれた。
「それから、ここから先はあたしの独り言よ。勝手に聞いてちょうだい。……あの領主様は、自分の妹を聖者の妻にしようと考えてたみたいね。教会内での影響力を高めたかったみたい。すでに聖者に婚約者がいるのを知りながら、妹に聖者を籠絡するよう強制してたみたい」
「「「えぇっ!!?」」」
クロエ上級神官のあからさまな独り言に、私たちは驚いて声をあげた。
私はドクドクと、いやに心臓が早鳴った。
ノアが、アルマ聖女に狙われていた……?
「でも、たあーっぷりと言っておいたから! 『おたくの妹さんのせいで、聖者様が行方不明になったんですよ? これを知った聖者様が、本当にそんな妹さんに好意を寄せるとお思いですか? むしろ顔も見たくありませんよね? それどころか教会内で接触禁止令が出ますよ! それにそんなことをしておいて、聖者様が今後レスタリア領で活動される可能性はあるとお思いですか? 果たしてレスタリア領の民を今後治療してくださるんでしょうかねぇ? ただでさえ、レスタリア領のためにいち早く駆けつけてくださったのに、そのご厚意に泥をかけたんですよ?』って!」
ペラペラペラリとまくし立てるクロエ上級神官の独り言を、私たちは呆気にとられて聞き入っていた。
「あの領主様は顔面蒼白になってたわよ! ザマァないわね! まぁ、今後は一切、聖者関係には手を出せなくなったからね!」
はっはっは、とクロエ上級神官が小気味良く笑い声をあげた。
私たちは、クロエ上級神官の勢いに圧倒されて、ただポカーンと彼女を見つめていた。
……でも、私が全然知らないところでそんなことが起こっていただなんて──今回はどうにかなったけれど、モヤモヤとした不安が胸のあたりに広がった。
「それから、アルマ聖女には恋仲で幼馴染の聖騎士がいるみたいね。アルマ聖女を拘束したからか、昨日襲いかかってきてね。返り討ちにしてやったわ!」
「えっ?」
クロエ上級神官が、大きな目でパッチリと私に向けてウィンクをしてくれた。
……そうよね。アルマ聖女は領主様に命令されたからであって、別にノアのことを好きだったわけじゃないものね……
アルマ聖女に他に好きな人がいると聞いて、私の心は凪いで落ち着きを取り戻していった。
それにしても、クロエ上級神官が聖騎士を返り討ちにって……かなりお強いわよね?
教会本部も、こんな風にレスタリア領側がボロを出しやすいように、わざと御しやすそうに見えるクロエ上級神官を送り込んできたのかしら……?
「……それにしても、アルマ聖女はなぜそんなことを……」
グラントさんが、にわかには信じられないといった感じで考え込んだ。
確かに、クロエ上級神官の独り言だと、アルマ聖女の指示でノアがどこかに飛ばされちゃったのよね!?
「あー……これも独り言だけど、アルマ聖女は結界張り部隊の惨状を知ってたみたい。でも、自分の周りの神官や聖女たちは、領主様の息がかかった監視役だし、自由に身動きできなかったみたいよ? だから、王都にいる信頼できる神官に頼ったみたい。……本当は、聖者の護衛に付けられたウィリアムを、戦力として結界張り部隊に送り込みたかったみたいだけどね」
クロエ上級神官が呟いた。
「えっ!? じゃあ、ノアは狙われた訳じゃなくて、本当に事故で……?」
エラもびっくりして目を丸くした。
「そうねぇ。聖者は運が良いんだか、悪いんだか……こっちに来ても、大変だったでしょうけどねぇ~」
クロエ上級神官の本当の独り言に、私は思わず共感してしまった。
ノアがウィリアムさんの代わりに危険な場所に飛ばされたのは運が悪いし、大変な目に遭っていないかものすごく心配だけれど、キャンプ地に来てても、今度はレスタリア領のハニートラップが待っていたはず……
それはそれですっごく不安だし、嫌だったかも……
……もう、ノアは本当に運が良いんだか悪いんだか!
明日こそは、ちゃんとノアに会えるはず。……早く会いたいな……
急に、キャンプにいたレスタリア領の教会の神官や聖女、聖騎士たちの動きが慌ただしくなった。
私たちはちょうど、結界張り部隊の元へ向かうために、ポーションや食糧などの物資をまとめていた時だった。
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「先触れも無しにいらっしゃったのか!?」
慌ただしい神官たちの声が、キャンプ内に響いた。
「ふ~ん、領主様自ら来たんだ。こっちから行こうかと思ってたんだけどね」
クロエ上級神官が、細い腕を組んで挑戦的に笑った。
幼い見た目のせいか、とてもやんちゃで可愛らしく見える。
「クロエ上級神官、どうしましょうか?」
グラントさんが不安そうな表情で尋ねた。
「領主様には私が対応するよ。君たちは、このまま移動の準備を進めてて──残念だけど、結界張り部隊の所に向かうのが、少し遅れちゃいそうだね……」
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「分かりました。俺たちはこのまま作業を続けよう。クロエ上級神官の話し合いが終わったら、すぐにでも結界張り部隊の元に向かえるようにしておこう」
「「はい」」
グラントさんの指示に、私とエラは頷いた。
少しすると、レスタリア領の役人らしき人たちが、キャンプ地の奥の方までやって来た。
「領主のバルトルト・レスタリアだ。あなたが現在ここの責任者の神官か?」
声をかけてきたのは三十代ぐらいの男性で、ブラウンの髪はきっちりと撫で付けられていた。鋭いグレー色の瞳は、値踏みするようにクロエ上級神官を見下ろしていた。
「そうです。ライオネル教皇猊下直属の上級神官クロエ・アルテミアです」
クロエ上級神官が、一瞬で笑顔を貼り付けたのが分かった。片手を胸元に当て、丁寧に教会式の礼の姿勢をとっている。
「妹を拘束したと聞いたのだが、詳しく話を伺いたい」
「ええ、それでは会議用のテントまでどうぞ」
クロエ上級神官とレスタリア領主様の間には、目には見えないけれど、バチバチと火花が散っているのが分かった。
クロエ上級神官が案内するように先頭に立って歩き始めると、ゾロゾロと彼女の後をレスタリア領主様と役人たちがついて行った。
「クロエ上級神官は大丈夫でしょうか?」
エラがおろおろと心配そうに尋ねた。大きなペリドット色の瞳が不安げに揺れている。
「教皇猊下直属の部下だからな。かなりしっかりされているし、彼女に任せておけば大丈夫だろう」
グラントさんが、エラを安心させるようにしっかりと頷いた。
***
「ふぅ……あ~、やっと終わったわ~……」
クロエ上級神官がだるそうに、私たちが待機していたテントに入って来た。
結界張り部隊のサポートに向かうための荷物のまとめ作業はとっくに終わっていて、そろそろ夕方に差し掛かろうという時間帯だった。
「何、あのおっさん! 往生際が悪いし、変に粘り強いんだけど!!」
クロエ上級神官はキーッ! と地団駄を踏んだ。
やっぱり幼なげな見た目から、そんな姿もなぜかよく似合って見えた。
「とりあえず、言えることだけ報告するわ。結界張り部隊の近くに後方支援キャンプが張れるようになったわ。ここには本部の尋問部隊と、昨日拘束したアルマ聖女と神官たちだけが残るわ。……あの領主様が粘り散らかしてくれたおかげで、こんな時間になっちゃったし、実際にキャンプ地を移すのは明日ね!」
クロエ上級神官は、腕を組んでむすっと頬を膨らませて、教えてくれた。
「それから、ここから先はあたしの独り言よ。勝手に聞いてちょうだい。……あの領主様は、自分の妹を聖者の妻にしようと考えてたみたいね。教会内での影響力を高めたかったみたい。すでに聖者に婚約者がいるのを知りながら、妹に聖者を籠絡するよう強制してたみたい」
「「「えぇっ!!?」」」
クロエ上級神官のあからさまな独り言に、私たちは驚いて声をあげた。
私はドクドクと、いやに心臓が早鳴った。
ノアが、アルマ聖女に狙われていた……?
「でも、たあーっぷりと言っておいたから! 『おたくの妹さんのせいで、聖者様が行方不明になったんですよ? これを知った聖者様が、本当にそんな妹さんに好意を寄せるとお思いですか? むしろ顔も見たくありませんよね? それどころか教会内で接触禁止令が出ますよ! それにそんなことをしておいて、聖者様が今後レスタリア領で活動される可能性はあるとお思いですか? 果たしてレスタリア領の民を今後治療してくださるんでしょうかねぇ? ただでさえ、レスタリア領のためにいち早く駆けつけてくださったのに、そのご厚意に泥をかけたんですよ?』って!」
ペラペラペラリとまくし立てるクロエ上級神官の独り言を、私たちは呆気にとられて聞き入っていた。
「あの領主様は顔面蒼白になってたわよ! ザマァないわね! まぁ、今後は一切、聖者関係には手を出せなくなったからね!」
はっはっは、とクロエ上級神官が小気味良く笑い声をあげた。
私たちは、クロエ上級神官の勢いに圧倒されて、ただポカーンと彼女を見つめていた。
……でも、私が全然知らないところでそんなことが起こっていただなんて──今回はどうにかなったけれど、モヤモヤとした不安が胸のあたりに広がった。
「それから、アルマ聖女には恋仲で幼馴染の聖騎士がいるみたいね。アルマ聖女を拘束したからか、昨日襲いかかってきてね。返り討ちにしてやったわ!」
「えっ?」
クロエ上級神官が、大きな目でパッチリと私に向けてウィンクをしてくれた。
……そうよね。アルマ聖女は領主様に命令されたからであって、別にノアのことを好きだったわけじゃないものね……
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教会本部も、こんな風にレスタリア領側がボロを出しやすいように、わざと御しやすそうに見えるクロエ上級神官を送り込んできたのかしら……?
「……それにしても、アルマ聖女はなぜそんなことを……」
グラントさんが、にわかには信じられないといった感じで考え込んだ。
確かに、クロエ上級神官の独り言だと、アルマ聖女の指示でノアがどこかに飛ばされちゃったのよね!?
「あー……これも独り言だけど、アルマ聖女は結界張り部隊の惨状を知ってたみたい。でも、自分の周りの神官や聖女たちは、領主様の息がかかった監視役だし、自由に身動きできなかったみたいよ? だから、王都にいる信頼できる神官に頼ったみたい。……本当は、聖者の護衛に付けられたウィリアムを、戦力として結界張り部隊に送り込みたかったみたいだけどね」
クロエ上級神官が呟いた。
「えっ!? じゃあ、ノアは狙われた訳じゃなくて、本当に事故で……?」
エラもびっくりして目を丸くした。
「そうねぇ。聖者は運が良いんだか、悪いんだか……こっちに来ても、大変だったでしょうけどねぇ~」
クロエ上級神官の本当の独り言に、私は思わず共感してしまった。
ノアがウィリアムさんの代わりに危険な場所に飛ばされたのは運が悪いし、大変な目に遭っていないかものすごく心配だけれど、キャンプ地に来てても、今度はレスタリア領のハニートラップが待っていたはず……
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