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第二章 グリムフォレスト
後方支援キャンプ2(リリアン視点)
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ウィリアムさんが呼んだという応援はすぐにやって来た。
「クロエ・アルテミアよ。ウィリアムから話は聞いてるわ」
教会本部から応援にやって来たのは、子供のように背の低い女性神官一人だけだった。
カールの入った柔らかそうな金髪に、パッチリと大きな青銅色の瞳。少年のような少女のような中性的な見た目で、愛らしい笑顔——幼い見た目の彼女に、私は少しだけ不安になった。
でも、詰襟の神官服には、教皇猊下直属の印である白いラインが入っている——優秀な人材であることに変わりはないはず……
「……あら? モノケロス卿は……?」
後方支援キャンプの奥から、数人の神官を引き連れて一人の聖女が出てきた。
緑色の長い髪は腰のあたりで切り揃えられ、淡いグレー色の瞳は優しそうな垂れ目だ。
責任者というには非常に若い、儚げで品の良い聖女だ。
「ウィリアム・モノケロスは別の用事でここを立ちました。代わりに事実確認に参りました、ライオネル教皇猊下直属の上級神官クロエ・アルテミアです」
クロエ上級神官がにっこりと微笑んだ。
聖女が引き連れている神官達の顔が強張った。
「このキャンプの責任者をしておりますアルマ・レスタリアですわ。お話はこちらで伺いますわ」
アルマ聖女は、私達をとあるテントに案内してくれた。
案内されたのは、キャンプ地の奥の方にある少し大きめのテントだった。テントに入ると、真ん中にテーブルが置かれ、それを囲むように椅子がいくつか置かれていた。
このキャンプ地で会議をするための場所みたい。
アルマ聖女の前に、クロエ上級神官とグラントさんが座り、私とエラは二人の邪魔にならない位置に座った。
アルマ聖女の側にも、数人、レスタリア領の教会の神官が控えていた。
「まずはご報告したいことが。聖者が転移スクロールの事故に巻き込まれ、現在行方不明となっております」
クロエ上級神官が、冷静に切り出した。
先ほどまでの愛らしい笑顔は、キリリと固く真面目な表情に変わっていた。
「まぁ……それは……私達でよろしければ、何かしらご協力させていただければと思います」
アルマ聖女は口元を押さえて一瞬びっくりすると、痛ましげに表情を翳らせた。
「ええ、是非お願いします。何せ、そのスクロール事故の原因を仕込んだ犯人は、レスタリア領出身の神官ですから」
クロエ上級神官は、アルマ聖女とレスタリアの神官達をぐるりと見回した。青銅色の瞳は理知的で、何事も見逃さないといった風に澄んでいた。
レスタリア領の神官達の間に、動揺が広がった。
「……我々をお疑いなのですか!?」
一人の神官が声を荒げた。
「教会は今回の事件を大変重く見ています。百年ぶりの聖者ですからね。そして、聖者失踪への関与だけでなく、レスタリア領の後方支援部隊には教会への命令違反についても疑いがかけられています。あなた達は、本来であれば結界張り部隊の後方支援についているはずでしょう? それなのに、結界からかなり離れたこんな所にキャンプを築いて、何もしていない……命令違反ととられても仕方がないでしょう?」
クロエ上級神官が、質問してきた神官を睨み上げた。
クロエ上級神官の見た目は幼く見えるのに、彼女が醸し出す雰囲気にはとても凄みがあった。
「そ、それは、領からここにしかキャンプを張る許可が下りなかったからだ! それに、領主様の妹君であるアルマ様がここにいらっしゃるからな。野蛮な戦場になど、誰が連れて行けるか!」
別の神官が、横柄な態度で答えた。
「アルマ聖女、本当にそうなのですか?」
クロエ上級神官は、静かにアルマ聖女の方を向いた。
「キャンプを張る場所の許可についてはそうですが、私は聖女ですから。癒すべき相手がいるのでしたら、どこへでも参りましょう」
アルマ聖女は落ち着き払って、粛々と語った。
「アルマ様……!」
神官がキッと鋭い視線を、アルマ聖女に投げかけた。
「領の方へは教会からも正式に苦情を入れさせてもらいます。これでは結界張り業務もままなりませんからね。それから、今回のことは、あなた達を管轄する教会支部にも報告させてもらいます」
クロエ上級神官が冷徹にそう言い放つと、神官達はギリリと悔しそうな表情をした。
「ええ、分かりましたわ」
アルマ聖女が厳かに答えた。
「アルマ様!」
神官が声を荒げた。睨みつけるようにアルマ聖女を見つめている。
「それでは、これよりこの後方支援キャンプの指揮は、教会本部が引き取ります。あなた達にはいろいろと聞きたいことがありますので、後方支援業務に就くことと、このキャンプ地から出ることを禁止させていただきます」
クロエ上級神官が、淡々と言い放った。
「横暴だ!!」
「いくら本部とはいえど、やっていい事と悪い事があるだろう!!」
神官達は次々と反論していった。彼らがガタガタッと席を立とうとした瞬間——
「私達は、教会本部の指示に従います」
アルマ聖女は、神官達のことは気にせず、凛と答えた。
「なっ……」
「アルマ様、いくら何でもこれは……」
「あなた達。自分達がしたことがどういうことか分かって言っているの? それに、私達は教会内で疑いをかけられているのですよ? ここで反抗すれば、さらに自分達の立場が危うくなりますよ?」
神官達がさらに言い募ろうとすると、アルマ聖女がピシャリと嗜めた。
神官達は悔しそうに顔を真っ赤にして、「ぐぅ……」と言葉を飲み込んだ。
「はーい! それでは、お願いしまーす!」
クロエ上級神官がパンパンッと手を叩くと、一瞬のうちに仮面を被った聖騎士達が、レスタリアの神官達の後ろに現れた。
仮面の聖騎士達の制服には、白いラインが入っていた。
「……クロエ上級神官……?」
グラントさんが、顔を強張らせて尋ねた。
「はじめからいましたよ? じゃあ、さっさと連れて行ってくださーい!」
クロエ上級神官の掛け声で、仮面の聖騎士達は、レスタリアの神官達を拘束して、続々とテントの外へと連れて行った。一番最後に、アルマ聖女は自分の足でテントの外へと出た。
「さて。君達には移動の準備をしてもらうよ! 最低限のキャンプだけここに残して、他は結界張り部隊の支援に向かってもらうよ!」
クロエ上級神官は、私達の方を振り返ってにっこりと笑った。
笑顔だけ見ると、とっても可愛い……レスタリア領の神官達を追い詰めていった時の迫力にはびっくりしたけれど……
——その時、テントの中にモゾモゾと動く真っ黒い生き物が現れた。荷物の影からちょこんと小さな頭を出すと、地面を這うように素早く駆け抜けて、グラントさんの膝に飛び乗った。
小さな前脚を突っ張って、見上げてきた顔にはクリッと丸い目が三つ付いていて、細い首元には手紙が括り付けられていた。
「……これは、ウィリアム騎士の使い魔!?」
グラントさんが急いで手紙を外すと、その三つ目イタチの使い魔は、また影の中に潜って行った。
「……良かった……ウィリアム騎士は無事にノアと会えたようだ。怪我もなく、元気にしているそうだよ」
グラントさんがホッと表情を緩ませて、私に手紙を渡してくれた。
手紙には走り書きで、ノアと合流できたことと、結界張り部隊の現状が書かれていた。
追伸には、私宛に『ノアさんに怪我はなく、こちらで元気に仕事してますよ。元気すぎて守るのが大変ですが、リリアン嬢のお願い通り無事にお連れしますね』と書かれていた。
「君、もしかしてウィリアムにお願いしたの? 勇者だねぇ~。あ、でも乙女か。セーフだ」
横から手紙を覗き込んでいたクロエ上級神官が、驚きで大きく目を見開いて言った。
勇者? 乙女だとセーフ……??
私がいろいろと疑問に思っていると、
「あいつは気軽に頼っていい男じゃないよ。調子が良さそうに見えるけど、気難しいし。『お願い』は今回だけで止めておきな」
クロエ上級神官が難しい顔をして、私の瞳をまっすぐに見つめてきた。
「? ……分かりました」
理由はよく分からなかったけれど、クロエ上級神官の様子から、このアドバイスは真面目に受け止めた方がいいような気がして、私は素直に頷いた。
——とにかく、ノアが無事で良かった……
私が手紙を握り締めてフッと安堵の息を吐いていると、エラがそっと優しく私の背中を撫でてくれた。
「結界張り部隊も大変みたいだね~ま、ウィリアムがいるし、魔物はどうにかなるでしょ。今日はもう暗いし、あたし達はこっちで物資の準備をして、明日には彼らの所に向かえるようにしないとね!」
クロエ上級神官の言葉に、私達は真剣に相槌を打った。
「クロエ・アルテミアよ。ウィリアムから話は聞いてるわ」
教会本部から応援にやって来たのは、子供のように背の低い女性神官一人だけだった。
カールの入った柔らかそうな金髪に、パッチリと大きな青銅色の瞳。少年のような少女のような中性的な見た目で、愛らしい笑顔——幼い見た目の彼女に、私は少しだけ不安になった。
でも、詰襟の神官服には、教皇猊下直属の印である白いラインが入っている——優秀な人材であることに変わりはないはず……
「……あら? モノケロス卿は……?」
後方支援キャンプの奥から、数人の神官を引き連れて一人の聖女が出てきた。
緑色の長い髪は腰のあたりで切り揃えられ、淡いグレー色の瞳は優しそうな垂れ目だ。
責任者というには非常に若い、儚げで品の良い聖女だ。
「ウィリアム・モノケロスは別の用事でここを立ちました。代わりに事実確認に参りました、ライオネル教皇猊下直属の上級神官クロエ・アルテミアです」
クロエ上級神官がにっこりと微笑んだ。
聖女が引き連れている神官達の顔が強張った。
「このキャンプの責任者をしておりますアルマ・レスタリアですわ。お話はこちらで伺いますわ」
アルマ聖女は、私達をとあるテントに案内してくれた。
案内されたのは、キャンプ地の奥の方にある少し大きめのテントだった。テントに入ると、真ん中にテーブルが置かれ、それを囲むように椅子がいくつか置かれていた。
このキャンプ地で会議をするための場所みたい。
アルマ聖女の前に、クロエ上級神官とグラントさんが座り、私とエラは二人の邪魔にならない位置に座った。
アルマ聖女の側にも、数人、レスタリア領の教会の神官が控えていた。
「まずはご報告したいことが。聖者が転移スクロールの事故に巻き込まれ、現在行方不明となっております」
クロエ上級神官が、冷静に切り出した。
先ほどまでの愛らしい笑顔は、キリリと固く真面目な表情に変わっていた。
「まぁ……それは……私達でよろしければ、何かしらご協力させていただければと思います」
アルマ聖女は口元を押さえて一瞬びっくりすると、痛ましげに表情を翳らせた。
「ええ、是非お願いします。何せ、そのスクロール事故の原因を仕込んだ犯人は、レスタリア領出身の神官ですから」
クロエ上級神官は、アルマ聖女とレスタリアの神官達をぐるりと見回した。青銅色の瞳は理知的で、何事も見逃さないといった風に澄んでいた。
レスタリア領の神官達の間に、動揺が広がった。
「……我々をお疑いなのですか!?」
一人の神官が声を荒げた。
「教会は今回の事件を大変重く見ています。百年ぶりの聖者ですからね。そして、聖者失踪への関与だけでなく、レスタリア領の後方支援部隊には教会への命令違反についても疑いがかけられています。あなた達は、本来であれば結界張り部隊の後方支援についているはずでしょう? それなのに、結界からかなり離れたこんな所にキャンプを築いて、何もしていない……命令違反ととられても仕方がないでしょう?」
クロエ上級神官が、質問してきた神官を睨み上げた。
クロエ上級神官の見た目は幼く見えるのに、彼女が醸し出す雰囲気にはとても凄みがあった。
「そ、それは、領からここにしかキャンプを張る許可が下りなかったからだ! それに、領主様の妹君であるアルマ様がここにいらっしゃるからな。野蛮な戦場になど、誰が連れて行けるか!」
別の神官が、横柄な態度で答えた。
「アルマ聖女、本当にそうなのですか?」
クロエ上級神官は、静かにアルマ聖女の方を向いた。
「キャンプを張る場所の許可についてはそうですが、私は聖女ですから。癒すべき相手がいるのでしたら、どこへでも参りましょう」
アルマ聖女は落ち着き払って、粛々と語った。
「アルマ様……!」
神官がキッと鋭い視線を、アルマ聖女に投げかけた。
「領の方へは教会からも正式に苦情を入れさせてもらいます。これでは結界張り業務もままなりませんからね。それから、今回のことは、あなた達を管轄する教会支部にも報告させてもらいます」
クロエ上級神官が冷徹にそう言い放つと、神官達はギリリと悔しそうな表情をした。
「ええ、分かりましたわ」
アルマ聖女が厳かに答えた。
「アルマ様!」
神官が声を荒げた。睨みつけるようにアルマ聖女を見つめている。
「それでは、これよりこの後方支援キャンプの指揮は、教会本部が引き取ります。あなた達にはいろいろと聞きたいことがありますので、後方支援業務に就くことと、このキャンプ地から出ることを禁止させていただきます」
クロエ上級神官が、淡々と言い放った。
「横暴だ!!」
「いくら本部とはいえど、やっていい事と悪い事があるだろう!!」
神官達は次々と反論していった。彼らがガタガタッと席を立とうとした瞬間——
「私達は、教会本部の指示に従います」
アルマ聖女は、神官達のことは気にせず、凛と答えた。
「なっ……」
「アルマ様、いくら何でもこれは……」
「あなた達。自分達がしたことがどういうことか分かって言っているの? それに、私達は教会内で疑いをかけられているのですよ? ここで反抗すれば、さらに自分達の立場が危うくなりますよ?」
神官達がさらに言い募ろうとすると、アルマ聖女がピシャリと嗜めた。
神官達は悔しそうに顔を真っ赤にして、「ぐぅ……」と言葉を飲み込んだ。
「はーい! それでは、お願いしまーす!」
クロエ上級神官がパンパンッと手を叩くと、一瞬のうちに仮面を被った聖騎士達が、レスタリアの神官達の後ろに現れた。
仮面の聖騎士達の制服には、白いラインが入っていた。
「……クロエ上級神官……?」
グラントさんが、顔を強張らせて尋ねた。
「はじめからいましたよ? じゃあ、さっさと連れて行ってくださーい!」
クロエ上級神官の掛け声で、仮面の聖騎士達は、レスタリアの神官達を拘束して、続々とテントの外へと連れて行った。一番最後に、アルマ聖女は自分の足でテントの外へと出た。
「さて。君達には移動の準備をしてもらうよ! 最低限のキャンプだけここに残して、他は結界張り部隊の支援に向かってもらうよ!」
クロエ上級神官は、私達の方を振り返ってにっこりと笑った。
笑顔だけ見ると、とっても可愛い……レスタリア領の神官達を追い詰めていった時の迫力にはびっくりしたけれど……
——その時、テントの中にモゾモゾと動く真っ黒い生き物が現れた。荷物の影からちょこんと小さな頭を出すと、地面を這うように素早く駆け抜けて、グラントさんの膝に飛び乗った。
小さな前脚を突っ張って、見上げてきた顔にはクリッと丸い目が三つ付いていて、細い首元には手紙が括り付けられていた。
「……これは、ウィリアム騎士の使い魔!?」
グラントさんが急いで手紙を外すと、その三つ目イタチの使い魔は、また影の中に潜って行った。
「……良かった……ウィリアム騎士は無事にノアと会えたようだ。怪我もなく、元気にしているそうだよ」
グラントさんがホッと表情を緩ませて、私に手紙を渡してくれた。
手紙には走り書きで、ノアと合流できたことと、結界張り部隊の現状が書かれていた。
追伸には、私宛に『ノアさんに怪我はなく、こちらで元気に仕事してますよ。元気すぎて守るのが大変ですが、リリアン嬢のお願い通り無事にお連れしますね』と書かれていた。
「君、もしかしてウィリアムにお願いしたの? 勇者だねぇ~。あ、でも乙女か。セーフだ」
横から手紙を覗き込んでいたクロエ上級神官が、驚きで大きく目を見開いて言った。
勇者? 乙女だとセーフ……??
私がいろいろと疑問に思っていると、
「あいつは気軽に頼っていい男じゃないよ。調子が良さそうに見えるけど、気難しいし。『お願い』は今回だけで止めておきな」
クロエ上級神官が難しい顔をして、私の瞳をまっすぐに見つめてきた。
「? ……分かりました」
理由はよく分からなかったけれど、クロエ上級神官の様子から、このアドバイスは真面目に受け止めた方がいいような気がして、私は素直に頷いた。
——とにかく、ノアが無事で良かった……
私が手紙を握り締めてフッと安堵の息を吐いていると、エラがそっと優しく私の背中を撫でてくれた。
「結界張り部隊も大変みたいだね~ま、ウィリアムがいるし、魔物はどうにかなるでしょ。今日はもう暗いし、あたし達はこっちで物資の準備をして、明日には彼らの所に向かえるようにしないとね!」
クロエ上級神官の言葉に、私達は真剣に相槌を打った。
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