世界一の魔術鍛治師〜どんな剣も名剣へ〜

海月 結城

文字の大きさ
1 / 63

プロローグ

しおりを挟む
「どこかに良い鍛冶屋さん無いかなぁ」

 ある少年は冒険者だった。クエストに向かい、討伐指定モンスターと戦っている時に大切なメインウェポンが壊れてしまった。少年は命からがらモンスターから逃げることができたが、クエストは失敗した。幸いしたのが、常駐クエストであったことだ。このクエストには、失敗しても罰金が発生しないから、無一文になるのは避けることができた。だが、それでも少年は金欠だって。
 その時、ふと武器を打つ音が耳に入ってきた。その音がする方に向かって、路地を右へ、左へと進み、どんどん奥に入っていく。
 そして、少年はある鍛冶屋を見つけた。

「ごめんください」

 少年が、鍛冶屋に向かい声を掛けるが、一向に武器を打つ音は鳴り止まない。
 少年は、人が来たのにも関わらずその集中力で武器を造る人を見てみたいと、衝動的に中に入ってしまう。
 そこで、自分の領域に誰かが侵入したことに気づいた鍛治師は、武器を打っていた手を止め、近くにあった杖を拾い少年の前に構えた。

「お前、何者だ? ここには、誰にも入らないようにしたんだがな」
「え、あ、僕は、鍛冶屋を探していたら偶々武器を打っている音が聞こえたので、その方向に歩いてたらここに辿り着きました」

 鍛治師はそこで、何かを考えるそぶりを見せた。

「……これも、神の導きなのかな」
「なにか言いました?」
「いや、なんでもない。なぁ、少年。武器を探していたんだよな」
「……はい。今日のクエストで武器が壊れてしまって、もう使えなくなってしまったんです」
「そうか、見せてみろ」

 少年は腰から下げていた剣を抜き出し、鍛治師に渡した。
 その武器を見た鍛治師は一言。

「……頑張ったな」

 その呟きは、静かな部屋に綺麗に響き渡った。

「頑張った?」

 少年が気になり、聞き返すと、こんな答えが帰ってきた。

「実はな、この武器は少し前、一週間程前に壊れても良い状態だったんだよ。それが、持ち主にもっと使って欲しいと剣が思ったのか、今の今まで持ちこたえてたからな、この剣にはその言葉何より大事だったんだよ」

 少年はその声に絶句した。たしかに、この剣は大切な両親から、旅に出る前にもらったものだった。だから、毎日のメンテナンスは欠かさず行って、大事に使ってきた。もし、今の剣が言われた通りの時期に壊れて、新しい武器を使っても、一週間程度で慣れる訳もなく、今回のクエストで死んでいたかもしれないと思うとゾッとする。

「なぁ、少年。この剣を軸に、新しく少年専用の武器を作ってみないか?」
「え!? 良いんですか!? でも、今お金がないです」
「なぁに、気にするな。こんなに武器を大切に扱ってくれる人なんて、あまり出会えないからな。今回は俺の善意だ。気にするな」
「分かりました! お言葉に甘えます。僕は、カナハルムと言います」
「おう! 俺は、ルークだ。これからも、よろしくな」

 これが、世界一の魔術鍛治師と、世界の英雄との出会いであった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ざまぁにはざまぁでお返し致します ~ラスボス王子はヒロインたちと悪役令嬢にざまぁしたいと思います~

陸奥 霧風
ファンタジー
仕事に疲れたサラリーマンがバスの事故で大人気乙女ゲーム『プリンセス ストーリー』の世界へ転生してしまった。しかも攻略不可能と噂されるラスボス的存在『アレク・ガルラ・フラスター王子』だった。 アレク王子はヒロインたちの前に立ちはだかることが出来るのか?

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...