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盗人世にはばかり
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「……すごいっ」
あっさりと伸されて捕縛されてしまった盗賊3人とジルとを見比べて、リオンは感嘆の声を上げた。
やはり可愛らしい容姿はしているが、男の子らしく強い者や格好いいことに憧れるらしい。
「そうねぇ、すごいわねぇ」
うんうん、とイヴも同意を示して頷く。
「ああ……っ、ありがとうございました、ありがとうございました!」
助けてもらった商人は平身低頭でジルに頭を下げている。
その感謝の言葉と賞賛の嵐に決まり悪そうに頭を掻くと「別に、たいしたことじゃねぇ」とジルはそっぽを向いた。
「いいえ、本当に助かりました! あなた様がいらっしゃらなかったら、我々は一体今頃どうなっていたことか!」
「だーー! もういいから! とっとと次の街にでもどこにでも行っちまえよ、おまえら!!」
そう言うジルの頬は真っ赤に染まっている。
ジルは褒められることの慣れていない狼なのである。
それを微笑ましく思いつつも、商人は「そういうわけには参りません」ときっぱりと言った。
「このままでは我々の気が済みません。ぜひとも何かお礼をさせていただきたい」
一歩も引く気のなさそうな商人の態度にぐっと言葉と態度に詰まる。
ジル、狼の獣人、29歳。
つくづく押しに弱い男である。
「礼っつったってなぁ……」
「夕食には少し早めになりますが、お食事などはご一緒にいかがですか?この先にある街にとても素敵なレストランがありまして……」
その言葉にイヴはほんの少しだが、心が曇るのを感じる。
だいたいの宿屋では食事代は別料金のため、節約もかねて食事はイヴが作ることにしていた。
ジルにはここまでとても世話になっているし、今も活躍をしたので、夜はジルの好物ばかりを作る気でいたのだ。
しかしジルにしてみればいくら好物といえど、素人の作る物よりもプロの作る美味しい料理の方が良いだろう。
仕方がない、と内心でそこまで考え「あら、いいじゃない、おじさん。ご馳走になりましょうよ」と言おうとしたところで、
「いや、昼飯はもう食ったし、晩飯はオムライスなんだ」
――と、ジルが先にその提案を断ってしまった。
少しの間だけ、ぽかん、としてしまう。オムライスはジルの好物だ。そしてイヴが作ろうとしていたのもオムライスだ。
「だから、いらねぇ」
はっきりと言い切るその言い方に、おまえの考えなどお見通しだと言われているような期待していると言われているようなそんな心持ちになった。
胸が、むずむずする。
なんだかとっても落ち着かない。
「オムライスって、なに?」
リオンが袖を引いて尋ねるのに「世界で一番美味しい食べ物よ」とイヴは笑って答えた。
そのやりとりに商人も何かを察したのか「いやはや、申し訳ない」と頭を掻くと「では、この荷馬車から好きな品物を持って行ってください」と新たな提案を持ちかけた。
「それぞれ一つずつ、お好みの物をお持ちください」
「あら、わたし達もいいの?」
「ええ、ええ、ぜひ! 実質、助けてくださったのはジル様ですが、ジル様のご身内である貴方がたも大切な命の恩人ですから!!」
それに……、と商人はそっとイヴの耳元で囁く。
「どうやら私は、礼という名目でとんでもないお邪魔をしてしまう所だったようなので、そのお詫びもかねて」
まぁ、とイヴは頬を染める。それがイヴ達を遠慮させないようにという配慮の言葉なのは明白だったが、言われて悪い気もしなかった。
「わかるかしら、実はわたし達はそういう仲なの!」
「どーいう仲だ。エサをやる住人と近所の野良猫か?」
聞き捨てならなかったのか、ジルが会話に割り込んでくる。
「まぁ、おじさん!おじさんは猫っていうより犬じゃないかしら?」
「野良猫はてめぇのことだよ!」
「あら、わたし、おじさんにエサをたかった事なんてあったかしら? エサを持っていってあげた覚えはたくさんあるのだけれど……」
「……ぐっ」
「ちなみに今回のこの旅行もすべてわたし持ちだし! わたしったら一家の大黒柱!!」
うぐぐ、と言い返せずにしばし唸ると「いいからとっとと品物を選べ」とジルは言い捨てて逃げた。
あっさりと伸されて捕縛されてしまった盗賊3人とジルとを見比べて、リオンは感嘆の声を上げた。
やはり可愛らしい容姿はしているが、男の子らしく強い者や格好いいことに憧れるらしい。
「そうねぇ、すごいわねぇ」
うんうん、とイヴも同意を示して頷く。
「ああ……っ、ありがとうございました、ありがとうございました!」
助けてもらった商人は平身低頭でジルに頭を下げている。
その感謝の言葉と賞賛の嵐に決まり悪そうに頭を掻くと「別に、たいしたことじゃねぇ」とジルはそっぽを向いた。
「いいえ、本当に助かりました! あなた様がいらっしゃらなかったら、我々は一体今頃どうなっていたことか!」
「だーー! もういいから! とっとと次の街にでもどこにでも行っちまえよ、おまえら!!」
そう言うジルの頬は真っ赤に染まっている。
ジルは褒められることの慣れていない狼なのである。
それを微笑ましく思いつつも、商人は「そういうわけには参りません」ときっぱりと言った。
「このままでは我々の気が済みません。ぜひとも何かお礼をさせていただきたい」
一歩も引く気のなさそうな商人の態度にぐっと言葉と態度に詰まる。
ジル、狼の獣人、29歳。
つくづく押しに弱い男である。
「礼っつったってなぁ……」
「夕食には少し早めになりますが、お食事などはご一緒にいかがですか?この先にある街にとても素敵なレストランがありまして……」
その言葉にイヴはほんの少しだが、心が曇るのを感じる。
だいたいの宿屋では食事代は別料金のため、節約もかねて食事はイヴが作ることにしていた。
ジルにはここまでとても世話になっているし、今も活躍をしたので、夜はジルの好物ばかりを作る気でいたのだ。
しかしジルにしてみればいくら好物といえど、素人の作る物よりもプロの作る美味しい料理の方が良いだろう。
仕方がない、と内心でそこまで考え「あら、いいじゃない、おじさん。ご馳走になりましょうよ」と言おうとしたところで、
「いや、昼飯はもう食ったし、晩飯はオムライスなんだ」
――と、ジルが先にその提案を断ってしまった。
少しの間だけ、ぽかん、としてしまう。オムライスはジルの好物だ。そしてイヴが作ろうとしていたのもオムライスだ。
「だから、いらねぇ」
はっきりと言い切るその言い方に、おまえの考えなどお見通しだと言われているような期待していると言われているようなそんな心持ちになった。
胸が、むずむずする。
なんだかとっても落ち着かない。
「オムライスって、なに?」
リオンが袖を引いて尋ねるのに「世界で一番美味しい食べ物よ」とイヴは笑って答えた。
そのやりとりに商人も何かを察したのか「いやはや、申し訳ない」と頭を掻くと「では、この荷馬車から好きな品物を持って行ってください」と新たな提案を持ちかけた。
「それぞれ一つずつ、お好みの物をお持ちください」
「あら、わたし達もいいの?」
「ええ、ええ、ぜひ! 実質、助けてくださったのはジル様ですが、ジル様のご身内である貴方がたも大切な命の恩人ですから!!」
それに……、と商人はそっとイヴの耳元で囁く。
「どうやら私は、礼という名目でとんでもないお邪魔をしてしまう所だったようなので、そのお詫びもかねて」
まぁ、とイヴは頬を染める。それがイヴ達を遠慮させないようにという配慮の言葉なのは明白だったが、言われて悪い気もしなかった。
「わかるかしら、実はわたし達はそういう仲なの!」
「どーいう仲だ。エサをやる住人と近所の野良猫か?」
聞き捨てならなかったのか、ジルが会話に割り込んでくる。
「まぁ、おじさん!おじさんは猫っていうより犬じゃないかしら?」
「野良猫はてめぇのことだよ!」
「あら、わたし、おじさんにエサをたかった事なんてあったかしら? エサを持っていってあげた覚えはたくさんあるのだけれど……」
「……ぐっ」
「ちなみに今回のこの旅行もすべてわたし持ちだし! わたしったら一家の大黒柱!!」
うぐぐ、と言い返せずにしばし唸ると「いいからとっとと品物を選べ」とジルは言い捨てて逃げた。
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