星を継ぐ少年 ~祈りを受け継ぎし救世主、星命創造の力で世界を変え、星の危機に挑む~

cocososho

文字の大きさ
34 / 63
飛躍篇

第三十三話:血の代償と夜明けの盟約

しおりを挟む
王都、王国騎士団庁舎の応接間。重々しい空気が、ルシアンとエリアナの肩にのしかかっていた。
国王アラルディス陛下が、部屋の奥で静かに腰掛けており、その傍らに騎士団長ガウェインが立つ。

ガウェインは、一歩前に進み出ると、一通の公式な羊皮紙を広げ、厳粛な声で読み上げ始めた。

「国王陛下の御名代として、王命を伝達する」

「クロスロード自治領、アステリア代表ルシアン殿。先日のアルバート・ド・ドゥヴェリューによる襲撃事件、並びに、レジナルド・ボーモン国家反逆事件における、多大なる貢献をここに称える。よって、シルベリア王国は、その功労者であるルシアン殿個人、並びに、ルシアン殿が所属するクロスロードに対し、以下の賠償と報奨を下賜する」

ガウェインは、一度言葉を区切ると、その内容を告げた。

「一つ。ルシアン殿個人への賠償として、金十億ゴールド」
「一つ。その功績を称え、**『王国名誉騎士勲章』を授与する」
「一つ。クロスロードへの賠償として、旧ボーモン侯爵領に存在する『グレイロック鉱山』**の所有権を、クロスロードへ譲渡する」

「じゅ、十億…!?」
エリアナは、その天文学的な数字に、思わず声を上げた。ルシアンもまた、息を呑んだ。金や名誉には興味はない。だが、グレイロック鉱山――それがクロスロードの物となれば、アステリアの未来にとって、計り知れない価値を持つ。

ガウェインは、呆然とする二人を前に、淡々と続ける。
「この内容は、既にクロスロードの両ギルド長へ、王国の正式な使者を通じて通達済みである。双方の合意が確認され次第、後日、正式な調印式、並びに、ルシアン殿への叙勲式を執り行う」

あまりにも目まぐるしい展開に、ルシアンは珍しく戸惑いを見せていた。
(これは…もう、俺個人の話じゃない。アステリアと、クロスロードと、そしてシルベリア王国。国と国との、やり取りなんだ…)
彼は、自分が、もはや引き返すことのできない、大きな奔流の中心に立たされていることを、改めて痛感していた。



エリアナは、もはや呆然としていた。十億ゴールド、名誉騎士勲章、鉱山の譲渡…。あまりにも現実離れした言葉の数々に、途中からその内容が全く頭に入ってこなかった。

ガウェインによる王命の代読が終わり、堅苦しい儀礼が一段落すると、国王アラルディスが、静かに、しかし有無を言わさぬ響きで口を開いた。
「ガウェイン、少し席を外せ。ここからは、私と彼らだけの話だ」
「はっ」
ガウェインが退出すると、応接間の空気は、公式なものから、より密やかで、重いものへと変わった。

「さて」と、国王は切り出した。「この場を設けた、本当の意味を話そう」
彼の表情から、先程までの穏やかさが消え、一国の王としての、厳しい顔つきに変わっていた。

「レジナルド・ボーモンは、ただの有力貴族ではない。その『太陽の炎』は、我がシルベリア王国における、最強の戦力であり、抑止力であった。今回の彼の喪失は、国家間のパワーバランスを、根底から崩壊させる」

国王は、窓の外、東の方角を睨みつける。
「情報統制は敷いているが、時間の問題だろう。レジナルドという牙を失ったと知れば、宿敵ヴァルカス帝国が、この機を逃すはずがない」

その、あまりにも深刻な言葉に、ルシアンとエリアナは息を呑んだ。
国王は、再び二人に視線を戻すと、今度は、王としてではなく、一人の男として、深々と頭を下げた。

「そこで、頼みがある。レジナルドをも一蹴したルシアン殿、そして、その内に太陽の片鱗を宿すエリアナ殿。君たちのその規格外の力を、どうか、この国のために貸してはくれまいか」

それは、一国の王からの、魂からの願いだった。
ルシアンは、国家間の争いという、これまでとは次元の違う問題の大きさを痛感する。彼は、静かに、しかしはっきりと答えた。
「…陛下。お言葉ですが、即答はできかねます。俺は、アステリアの民の未来を預かる身。この件は、一度村へ持ち帰り、仲間たちと相談させてください」

その、私情や名誉に流されず、民を第一に考える姿勢。国王は、目の前の少年が、ただの強者ではないことを、改めて理解した。
「…うむ。もっともだ。良き返事を、待っている」



国王は、国家間の問題という重い話から、今度は事件に関わった者たちの処遇へと、静かに話題を移した。

「ボーモン家、ドゥヴェリュー家は、今回の国家反逆の罪により、取り潰しとする。貴族位は剥奪、財産は全て王国が没収する」
その決定は、揺るぎない響きを持っていた。
「首謀者であるレジナルドと、その計画に加担した第一夫人エレオノーラは、過去の所業も踏まえ、極刑は免れまい。アルバートは、奴隷として鉱山へ送られることになるだろう」

淡々と語られる、名門貴族の末路。そして、国王は、そこで一度、言葉を止めた。

「…そして、ユリウスのことだが」
その声には、わずかながら苦渋の色が滲んでいた。
「ユリウスは、王国内の一部有力者や騎士団からの評判も良く、本人も誠実で、まさに次期ボーモン家の当主として期待されていた。今回の一件で、法に則れば奴隷落ちは妥当。だが…」

国王は、再び言葉を止めると、今度は、まっすぐにルシアンを見つめた。
「ルシアン殿。ユリウスを、お主のところで面倒を見てはくれまいか」

「…それは、どういう意味でしょうか、陛下」
ルシアンが、静かに問い返す。

「身分は、奴隷としてだ。だが、王国内では、瓦解したボーモン家の影響が大きすぎる。関係する貴族一派からの恨みを買い、ユリウスは生きてはいけまい。しかし、あの若者は惜しい人材だ。その可能性を、どうにか守ってやりたいのだよ」

その言葉を聞き、ルシアンの脳裏に、あの燃え盛る屋敷での光景が蘇った。絶望の中で、それでも王国貴族としての責務を全うしようと、実の父親に剣を向けた、誠実な若者の姿。
彼は、隣に座るエリアナへと、そっと視線を移した。彼女は、複雑な表情で俯いている。ユリウスは、彼女にとって、この世に残された唯一の血縁者なのだ。

ルシアンは、覚悟を決めた。
「…分かりました。あくまで、奴隷としてのユリウスを、この私が引き受けます」

その答えに、国王は、心の底から安堵したような、穏やかな表情を浮かべた。




かくして、一ヶ月後。王都では、シルベリア王国とクロスロードとの賠償内容に関する公式な調印式、並びに、ルシアンへの叙勲式が厳かに執り行われた。
王命の各内容が正式に発表され、辺境の銀級冒険者であった少年が、一夜にして王国を救った英雄へと祭り上げられる。

調印式にクロスロードの代表として訪れていたカインは、王国の要人たちと堂々と渡り合うルシアンの姿を、感慨深げに、そして畏怖の念を込めて見つめていた。
(…もはや、俺の手の内には収まらん。あの少年が、これからの時代を創っていくのだな)
彼は、新たな時代の幕開けを確信していた。

その頃、アステリアでは、評議会のメンバーたちが集会所に集まり、王都から届く怒涛の知らせに、興奮と戸惑いを隠せずにいた。

「まさか、ルシアン殿が、王国騎士団の名誉勲章を…」
「グレイロック鉱山が、我らクロスロードのものに…! バルディン殿、これで鉄には困らんな!」
「ええ、ええ! これで、本格的な工房が建てられますわ!」
クララとコンラッドが、未来の計画に目を輝かせる。

その様子を、ブレンナは温かいお茶を淹れながら、母親のような優しい目で見守っていた。
「あの子は、昔からそうだ。いつも自分のことより、誰かのために無理ばかりする。…でも、今はあの子を支えてくれる、あんた達みたいな頼もしい仲間がいてくれて、母さん、本当に嬉しいよ」

その時、監視塔から、帰還を知らせる鐘の音が鳴り響いた。

村の門の前に、人々が駆け寄っていく。そこに立っていたのは、数ヶ月前とは比べ物にならないほど、精悍な顔つきになったルシアンと、自信に満ちた笑みを浮かべるエリアナ、そして、なぜか当然のようにその隣にいるレンの姿だった。

「ルシアン!」「エリアナ様!」
仲間たちの歓声に、ルシアンは穏やかに手を挙げて応える。
「ああ、ただいま。みんな、留守をありがとう」
エリアナもまた、嬉しそうに微笑んだ。「すごい…! 私たちがいない間に、こんなに村が大きくなってる!」

出発の時よりも、村はさらに発展し、人々の顔には活気が満ちている。季節は、穏やかな秋から、冬の気配が感じられる頃へと移り変わっていた。

そして、村人たちは気づく。一行の後ろに、もう一人、静かに佇む若者の姿があることに。
奴隷の身分を示す簡素な服を着せられ、しかし、その瞳にまだ光を失っていない、ユリウスだった。

ルシアンは、皆の前に進み出ると、静かに告げた。
「彼が、ユリウスだ。今日から、俺たちの新しい仲間として、このアステリアで暮らすことになった」

その言葉に、村人たちの間に動揺は走らない。また、我らが長が、行き場のない者を救ってきたのだ。ただ、それだけのこと。ガルバが、温かい笑みで一歩前に出た。
「ようこそ、ユリウス殿。アステリアへ」

ルシアンは、ユリウスの隣に立つエリアナへと、そっと視線を送った。
エリアナは、こくりと頷くと、俯いたままのユリウスの前に、ゆっくりと歩み寄った。

「…ユリウス、兄さん」

その、か細い、しかし確かな声に、ユリウスは弾かれたように顔を上げた。彼の瞳が、驚きに見開かれる。
エリアナは、少しだけ頬を赤らめながらも、精一杯の、優しい笑みを向けた。
「おかえりなさい」

その一言が、全てを失い、絶望の淵にいたユリウスの凍てついた心を、ほんの少しだけ、温かく溶かしていくのを感じた。

新たにユリウスを加え、アステリアへと帰還した一行。彼らの心には、自らの大きな成長と、村の発展への希望。そして、これから向き合う国家間の困難という、一抹の不安が同居していた。それでも、彼らはまた一歩、未来へと踏み出す。アステリアの、新たな日常が始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...