星を継ぐ少年 ~祈りを受け継ぎし救世主、星命創造の力で世界を変え、星の危機に挑む~

cocososho

文字の大きさ
41 / 63
動乱篇

第三十九話:朽ち竜の番人

しおりを挟む
竜の骨が山脈を成す、あの異様な光景の中を、一行は進んでいた。
やがて、巨大な肋骨がアーチのように折り重なる、広大な空間へとたどり着く。その中央、高さ10メートルほどの、祭壇のように盛り上がった場所に、淡い光を放つ物体が見えた。

「…おそらく、あれが魂の宝珠…」
ルシアンが、静かに呟いた。

一行が意を決して祭壇へと歩みを進めた、その瞬間。宝珠が、警報のようにまばゆい光を放った!

ゴゴゴゴゴ…!

地鳴りと共に、祭壇の周りに溜まっていた、黒い泥のような「淀み」が、まるで意思を持つかのように蠢き、一つの巨大な姿を形作っていく。
空気が鉛のように重くなり、呼吸すらままならない。それは、ただの魔力ではない。魂そのものを直接握り潰すかのような、純粋な悪意の塊だった。

やがて、それは体長20メートルほどの、竜に似た異形の怪物と化す。目も口もない、のっぺりとした頭部。しかし、その代わりに、八つの赤い瞳が不気味に輝き、全ての瞳が独立して動き、一行の動きを完全に捉えていた。

その八つの瞳が一斉に四人を見据えた瞬間、甲高い雄叫びとも、断末魔の悲鳴ともつかぬ、精神に直接響く絶叫が、戦いの開始を告げた。



「散開しろ! 距離を取って動きを読め!」
ルシアンの指示が飛ぶ。四人は即座に散開し、八目の黒竜を囲むように陣形を組んだ。

「牽制します!」
レンの放った真空の刃が、黒竜の巨体を襲う。しかし、八つの赤い瞳は、その全てを完璧に予測していた。巨体は滑るように動き、風の刃は空しく岩壁を削る。

「右翼は任せろ!」
ユリウスが炎の壁を展開し、黒竜の退路を塞ぐ。だが、黒竜は壁が完成するよりも早く、触手のような腕を伸ばし、その魔力の中心を的確に叩き潰した。

「くっ…! なら、こっちよ!」
エリアナが、死角から回り込み、炎の鳥を放つ。しかし、それすらも別の瞳に捉えられ、振り下ろされた尻尾によって、いとも容易く叩き落とされた。全く隙がない。

(駄目だ…! 全ての動きが、読まれている…!)
膠着状態を打破するため、エリアナが動いた。
「私が、隙を作る!」

彼女はスキル【炎身】を発動。その体が陽炎のように揺らめくと、これまでにない高速で黒竜の懐へと潜り込み、至近距離から、極限まで密度を高めた炎の槍を放とうとする。

しかし、その瞬間。八つの瞳の一つが、不気味な赤い光を強く放った。
エリアナめがけて、紅蓮の光線が放たれる!

「エリアナ!」

ルシアンは、咄嗟に【星命創造】の力を解放。地面から無数の蔦を伸ばし、光線が直撃する寸前で、エリアナの体を危険な軌道から強引に引き剥がした。

これを皮切りに、八目の黒竜は複数の瞳から次々と光線を乱射し始めた。遠距離からの、逃げ場のない無数の光の雨。一行は、防戦一方に追い込まれる。
「くっ…!」
レンの風の障壁が貫かれ、ユリウスの肩が光線に灼かれる。すぐに彼の治癒の炎が傷を癒すが、その消耗は激しい。

ルシアンもまた、決定的な一撃を入れられずにいた。



「くっ…! このままじゃ、ジリ貧だ…!」
ルシアンは、八つの瞳が、彼の神速の動きすら完全に見切っていることに、焦りを覚えていた。下手に懐に飛び込めば、光線の一斉掃射で蒸発させられるのがオチだろう。

その、絶望的な膠着状態を破ったのは、誰の指示でもない、小さな影だった。
物陰に潜んでいたネロが、主の危機を察知し、自らの意志で黒い弾丸のように飛び出したのだ!

「ネロ!?」
ルシアンの制止の声も届かない。ネロは、降り注ぐ光線を紙一重で躱しながら、八目の黒竜の巨体へと喰らいつく。そして、その黒い体から、光すら飲み込むほどの禍々しい闇の渦を発生させた。

渦は、黒竜の体を覆う黒い「淀み」を、まるで掃除機のように、少しずつ、しかし確実に吸い込んでいく。
すると、黒竜の体が、わずかに薄くなった。そして、その背中の一点に、これまで見えなかった、鉱石のような鈍い輝きが、一瞬だけ現れた。

その一瞬を、ルシアンの【星見の瞳】は見逃さなかった。
(あれは…! 奴の魔力が、異常に集中している一点だ…!)

「そこだ!」
彼は、全員に叫んだ。「背中の鉱石が、奴の弱点だ! 全員、そこへ集中攻撃を!」

その指示に、仲間たちは最後の力を振り絞った。
「風よ、道を切り拓け!」
レンが放った真空の刃が、黒竜の体勢をわずかに崩す。

「太陽の炎よ!」
ユリウスとエリアナ、二人の炎が一つとなり、巨大な螺旋を描きながら、背中の核へと突き刺さった。

ヴォォォォォ!!!
初めて、黒竜が苦悶の絶叫のような重低音で唸った。その動きが、一瞬、完全に止まる。

好機は、今、この一瞬しかない。
ルシアンは、自らの身に迫る触手や光線を意に介さず、一直線に突進した。体に走る灼けるような痛みも、砕けるような衝撃も、全て無視する。
ただ一点、あの輝きだけを見据えて。

彼は、天高く跳躍すると、光の剣を逆手に持ち替え、自らの体重の全てを乗せて、剥き出しになった鉱石へと、渾身の力で突き立てた。

――砕けろッ!!



バキィッッ!!!

甲高い破壊音と共に、ルシアンの光の剣が、背中の鉱石を完全に砕き割った。
すると、八目の黒竜の巨体を覆っていた黒い「淀み」が、まるで陽光に晒された闇のように、じゅわじゅわと音を立てて溶け落ちていく。

断末魔の叫びを上げる間もなく、その巨体は形を失い、黒い泥の海となって地面に広がった。

「…やった…!」
ユリウスが、安堵の息を漏らす。
エリアナは、ただ息を切らし、目の前の光景を信じられないといった表情で見つめている。

しかし、ルシアンだけは、まだ剣を構えたまま、その視線を黒い泥の中心から外していなかった。
【星見の瞳】が、その奥に、これまでとは比較にならないほど、巨大で、禍々しい「何か」の気配を捉えていたからだ。

「…まだだ! 何か来るぞ!」

ルシアンの叫びと同時に、黒い泥の中から、ゆっくりと、何かが姿を現し始める。
それは、全身の肉がそげ落ち、骨が剥き出しになった、あまりにも巨大な、朽ち果てたドラゴンの亡骸だった。先程の八目の黒竜は、この亡骸を操るための、ただの鎧に過ぎなかったのだ。

「嘘…でしょう…?」
エリアナの声が、絶望に震える。
「ドラゴン…本物の、ドラゴンだと…?」
ユリウスは、書物でしか見たことのない、伝説そのものの存在を前に、ただ呆然と立ち尽くす。
レンは、乾いた笑みを浮かべるでもなく、ただその顔から血の気を失い、目の前の光景を凝視していた。

朽ちたドラゴンは、ゆっくりと、その巨大な頭蓋骨を上げた。
そして、空っぽのはずの眼窩に、死そのものを凝縮したかのような、禍々しい紫色の光が、二つ、灯った。

仲間たちが、その圧倒的な存在感を前に、絶望に支配されかける中、ルシアンは、ただ一人、光の剣を構え直した。
その瞳には、恐怖も、絶望もない。ただ、目の前の理不尽な存在を、斬り伏せるという、静かな闘志だけが燃えていた。

「…さあ、始めようか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

処理中です...