星を継ぐ少年 ~祈りを受け継ぎし救世主、星命創造の力で世界を変え、星の危機に挑む~

cocososho

文字の大きさ
42 / 63
動乱篇

第四十話:星の影、竜を喰らう

しおりを挟む
仲間たちが、その圧倒的な存在感を前に、絶望に支配されかける中、ルシアンは、ただ一人、光の剣を構え直した。
その瞳には、恐怖も、絶望もない。ただ、目の前の理不尽な存在を、斬り伏せるという、静かな闘志だけが燃えていた。

「…さあ、始めようか」

しかし、現実はあまりにも無慈悲だった。
朽ちたドラゴンは、ただ、その巨大な顎をゆっくりと開いた。ゴゴゴゴゴ…と、まるで嵐の前の静けさのように、周囲の空気がその口元へと吸い込まれていく。

「まずい、ブレスが来るぞ!」

ルシアンは、咄嗟に【星命創造】の力を解放。地面から分厚い土壁を、一枚、二枚、三枚と、立て続けに出現させた。

「全員、最大防御!」

その後ろで、エリアナ、ユリウス、レンが、ありったけの魔力を込めた三重の魔法障壁を展開する。炎の赤、黄金の輝き、風の翠色が、悲鳴を上げるように混じり合い、一行を守る最後の盾となった。

次の瞬間。
ドラゴンの顎から、全てを無に帰すかのような、禍々しい紫色の奔流が、音もなく放たれた。

ズドオオオオオオオオオオオンッ!!!

世界から、音が消えた。
ルシアンが創り出した土壁は、触れた瞬間に蒸発し、三人が展開した魔法障壁もまた、蜘蛛の巣状の亀裂を走らせ、ガラスのように砕け散る。
かろうじて直撃は免れたものの、その衝撃波だけで、一行は木の葉のように吹き飛ばされた。

「ぐ…っ、は…!」
全身を打撲し、魔力を使い果たした仲間たちが、地面に倒れ伏す。
(なんだ…今の…? レジナルドの炎ですら、これほどの絶望は感じなかった…!)
ルシアンの脳裏に、初めて敗北という二文字が浮かんだ。
(嘘…せっかく、力が戻ったのに…何もできない…!)エリアナは、自分の無力さに唇を噛む。
(次元が違う…! これでは、戦いにすらならない…!)レンは、ただ呆然と、その力の差に戦慄した。
(父上の炎とは、比べ物にならん…! ただ、純粋な、破壊の奔流…!)ユリウスは、本能的な恐怖に体が震えるのを止められなかった。

「これが…ドラゴンの力…」
ルシアンは、絶望的な力の差を前に、叫んだ。「撤退だ! 逃げるぞ!」

仲間を庇いながら後退しようとするが、エリアナが叫んだ。

「ネロは!? ネロがいないわ!」

その言葉に、ルシアンははっとする。いつの間にか、あの小さな相棒の姿が、どこにも見当たらなかった。



朽ちたドラゴンは、一行にとどめを刺すべく、再びブレスの準備を始めた。
その顎に、先程よりもさらに強大で、凝縮された紫色の光が、ゴオオオッと音を立てて収束していく。空気が震え、空間そのものが悲鳴を上げている。

(もう、防げない…!)
ルシアンは、絶望的な力の差を前に、仲間を庇いながら後退しようとした。
「クソッ! 逃げるしかない!」

その時だった。

ドラゴンの背後、何もない空間から、突如として漆黒の闇が、まるでインクを水に垂らしたかのように、じわりと湧き出した。

ドラゴンは、初めて明確な警戒の色を見せ、溜め込んでいたブレスを、そちらへ向けて放つ!

ズオオオオオオオッ!

紫色の破壊の奔流が、闇へと殺到する。しかし、闇は、その全てを飲み込んだ。

シュゴオオオオオ…

風が吸い込まれるような音と共に、あれほど強大だったブレスは、音もなく、光もなく、ただただ静かに、その漆黒の中へと吸い込まれて消えていった。


闇が、晴れていく。


そこに立っていたのは、一匹の、黒い獣だった。


だが、それはいつもの小さな黒猫ではない。しなやかで、流線形の、美しい黒豹のような体躯。その毛並みは、星明かりすら吸い込むほどの深い黒。そして、そのルビーのような瞳は、冷徹なまでの知性を宿していた。


「…ネロ…なのか…?」


ルシアンの呆然とした呟きに、その美しい獣は、答えるかのように、喉を鳴らした。
それは、猫の鳴き声ではなかった。
鈴を転がすような、清らかで、神聖な音色。
魂に直接響き渡る、始まりの音。



朽ちたドラゴンは、目の前に現れた黒い獣を、初めて強者として認識した。その空っぽの眼窩に宿る紫色の光が、侮りから、純粋な敵意と警戒へとその色を変える。

ドラゴンは、もはやルシアンたちなど意に介さず、その全ての敵意を、一体の獣へと集中させた。ターゲットを完全にネロへと変え、最大級のブレスを構える。

ゴオオオオオオオオッ!

その顎から、空間そのものを歪ませるほどの、禍々しい紫色の光が収束していく。墓所の空気が震え、地面の小石がカタカタと踊る。それは、もはやブレスというよりも、星の理そのものを破壊しかねない、純粋な力の奔流だった。

しかし、ネロは少し首を傾げると、ゆっくりと、その一歩一歩に一切の無駄なく、まるで流れる影のようにドラゴンへと歩み寄っていく。

その姿には、焦りも、恐怖も、一切感じられない。

ただ、絶対的な静寂だけが、その黒い毛並みに宿っていた。

ドラゴンの最強の一撃が、この空間の全てを無に帰さんと放たれた。


「ネロ!!!」


エリアナの悲痛な叫びが、墓所に響き渡る。

だが、次の瞬間、信じられない光景が広がった。

ビュンッ!

紫色の破壊の奔流、その中心を、鋭く、そしてあまりにも速い、漆黒の一閃が貫いた。 


一瞬の静寂。


...ゴトリ


重い音を立てて、ドラゴンの巨大な頭蓋骨が、地面に転がり落ちた。

同時に、祭壇の上で輝いていた宝珠もまた、共鳴するかのように、パリン、と音を立てて砕け散った。

ブレスの余韻の中から、ゆっくりと、いつもの小さな黒猫の姿に戻ったネロが、何事もなかったかのように現れた。

ルシアンは、ドラゴンの亡骸を見て、はっと気づく。八目の黒竜が溶けてまとわりついていたはずの、あの黒い淀みが、骨から綺麗さっぱり消え失せている。

(まさか…ネロ、お前、あの淀みをずっと吸収していたのか…!? だから、あの姿に…)



静まり返った墓跡。ルシアンは、まだ呆然と、いつもの姿に戻ったネロを見つめていた。
(さっきの、あの力…。そうだ、あの黒い淀みだ。八目の黒竜を覆っていた、あの禍々しい魔力の塊。ネロは、あれを喰って、一時的にあの姿になったのか…?)
ルシアンがそこまで考えた時、足元のネロが、まるで「それだけじゃないよ」と言いたげに、彼の顔をじっと見上げて、一声鳴いた。

ネロは、主の視線に応えるように、今度は朽ちたドラゴンそのものの亡骸へと、ゆっくりと歩み寄った。そして、その巨大な骨にそっと触れると、再びその身に、禍々しいまでの闇の渦を纏い始めた。

ドラゴンの亡骸が、紫色の光の粒子となって、ネロの体へと吸い込まれていく。
その瞬間、ルシアンの体を、これまでとは比較にならないほど、巨大で、そして純粋な力の奔流が駆け巡った。
「ぐっ…!」
あまりの力に、ルシアンは思わず膝をつきそうになる。

「みんな、早く! 俺に触れて!」

エリアナ、レン、ユリウスの三人は、そのただならぬ様子にすぐさま駆け寄り、ルシアンを中心に、固く手を繋ぎ、一つの輪を作った。
ルシアンは、その奔流を、自分の中だけに留めず、仲間たちへと流すイメージを、強く描いた。

「えぇっ!?」
エリアナとレンが、その凄まじい浮遊感に、思わず驚愕の声を上げる。ユリウスは、あまりの感覚に、もはや半笑いになるしかなかった。
魂の器が、無理やりこじ開けられ、そこに伝説の竜の力が、奔流となって注ぎ込まれていく。


(熱い…! 体の中から、何かが生まれ変わるみたい…!)
エリアナは、自分の魂の中心で、これまでとは比べ物にならないほど力強い、何かが燃え上がるのを感じていた。彼女の瞳がカッと見開かれると、その手に宿った炎は、もはや赤ではなく、太陽そのもののような、純白の輝きを放っていた。


(これが…本当の、ボーモン家の力…? いや、違う。これは、私の力…!)
ユリウスの背中から、黄金の光が溢れ出した。光は、巨大な慈愛の翼を形作り、その羽ばたきは、傷ついた仲間たちに癒しと勇気を与えていくようだった。


(嘘でしょう…? 私の魔力が、風だけじゃない…!?)
レンは、自らの内に流れ込んだ、これまでとは異質の力に導かれるように、指先を天へと向けた。
次の瞬間、バチッ!と激しい音が鳴り、彼女の指先から、一条の雷霆が放たれた!
ズガァン!
という轟音と共に、遥か彼方の大木が、一瞬にして黒焦げの炭と化していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

スキル素潜り ~はずれスキルで成りあがる

葉月ゆな
ファンタジー
伯爵家の次男坊ダニエル・エインズワース。この世界では女神様より他人より優れたスキルが1人につき1つ与えられるが、ダニエルが与えられたスキルは「素潜り」。貴族としては、はずれスキルである。家族もバラバラ、仲の悪い長男は伯爵家の恥だと騒ぎたてることに嫌気をさし、伯爵家が保有する無人島へ行くことにした。はずれスキルで活躍していくダニエルの話を聞きつけた、はずれもしくは意味不明なスキルを持つ面々が集まり無人島の開拓生活がはじまる。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...