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動乱篇
第四十話:星の影、竜を喰らう
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仲間たちが、その圧倒的な存在感を前に、絶望に支配されかける中、ルシアンは、ただ一人、光の剣を構え直した。
その瞳には、恐怖も、絶望もない。ただ、目の前の理不尽な存在を、斬り伏せるという、静かな闘志だけが燃えていた。
「…さあ、始めようか」
しかし、現実はあまりにも無慈悲だった。
朽ちたドラゴンは、ただ、その巨大な顎をゆっくりと開いた。ゴゴゴゴゴ…と、まるで嵐の前の静けさのように、周囲の空気がその口元へと吸い込まれていく。
「まずい、ブレスが来るぞ!」
ルシアンは、咄嗟に【星命創造】の力を解放。地面から分厚い土壁を、一枚、二枚、三枚と、立て続けに出現させた。
「全員、最大防御!」
その後ろで、エリアナ、ユリウス、レンが、ありったけの魔力を込めた三重の魔法障壁を展開する。炎の赤、黄金の輝き、風の翠色が、悲鳴を上げるように混じり合い、一行を守る最後の盾となった。
次の瞬間。
ドラゴンの顎から、全てを無に帰すかのような、禍々しい紫色の奔流が、音もなく放たれた。
ズドオオオオオオオオオオオンッ!!!
世界から、音が消えた。
ルシアンが創り出した土壁は、触れた瞬間に蒸発し、三人が展開した魔法障壁もまた、蜘蛛の巣状の亀裂を走らせ、ガラスのように砕け散る。
かろうじて直撃は免れたものの、その衝撃波だけで、一行は木の葉のように吹き飛ばされた。
「ぐ…っ、は…!」
全身を打撲し、魔力を使い果たした仲間たちが、地面に倒れ伏す。
(なんだ…今の…? レジナルドの炎ですら、これほどの絶望は感じなかった…!)
ルシアンの脳裏に、初めて敗北という二文字が浮かんだ。
(嘘…せっかく、力が戻ったのに…何もできない…!)エリアナは、自分の無力さに唇を噛む。
(次元が違う…! これでは、戦いにすらならない…!)レンは、ただ呆然と、その力の差に戦慄した。
(父上の炎とは、比べ物にならん…! ただ、純粋な、破壊の奔流…!)ユリウスは、本能的な恐怖に体が震えるのを止められなかった。
「これが…ドラゴンの力…」
ルシアンは、絶望的な力の差を前に、叫んだ。「撤退だ! 逃げるぞ!」
仲間を庇いながら後退しようとするが、エリアナが叫んだ。
「ネロは!? ネロがいないわ!」
その言葉に、ルシアンははっとする。いつの間にか、あの小さな相棒の姿が、どこにも見当たらなかった。
◇
朽ちたドラゴンは、一行にとどめを刺すべく、再びブレスの準備を始めた。
その顎に、先程よりもさらに強大で、凝縮された紫色の光が、ゴオオオッと音を立てて収束していく。空気が震え、空間そのものが悲鳴を上げている。
(もう、防げない…!)
ルシアンは、絶望的な力の差を前に、仲間を庇いながら後退しようとした。
「クソッ! 逃げるしかない!」
その時だった。
ドラゴンの背後、何もない空間から、突如として漆黒の闇が、まるでインクを水に垂らしたかのように、じわりと湧き出した。
ドラゴンは、初めて明確な警戒の色を見せ、溜め込んでいたブレスを、そちらへ向けて放つ!
ズオオオオオオオッ!
紫色の破壊の奔流が、闇へと殺到する。しかし、闇は、その全てを飲み込んだ。
シュゴオオオオオ…
風が吸い込まれるような音と共に、あれほど強大だったブレスは、音もなく、光もなく、ただただ静かに、その漆黒の中へと吸い込まれて消えていった。
闇が、晴れていく。
そこに立っていたのは、一匹の、黒い獣だった。
だが、それはいつもの小さな黒猫ではない。しなやかで、流線形の、美しい黒豹のような体躯。その毛並みは、星明かりすら吸い込むほどの深い黒。そして、そのルビーのような瞳は、冷徹なまでの知性を宿していた。
「…ネロ…なのか…?」
ルシアンの呆然とした呟きに、その美しい獣は、答えるかのように、喉を鳴らした。
それは、猫の鳴き声ではなかった。
鈴を転がすような、清らかで、神聖な音色。
魂に直接響き渡る、始まりの音。
◇
朽ちたドラゴンは、目の前に現れた黒い獣を、初めて強者として認識した。その空っぽの眼窩に宿る紫色の光が、侮りから、純粋な敵意と警戒へとその色を変える。
ドラゴンは、もはやルシアンたちなど意に介さず、その全ての敵意を、一体の獣へと集中させた。ターゲットを完全にネロへと変え、最大級のブレスを構える。
ゴオオオオオオオオッ!
その顎から、空間そのものを歪ませるほどの、禍々しい紫色の光が収束していく。墓所の空気が震え、地面の小石がカタカタと踊る。それは、もはやブレスというよりも、星の理そのものを破壊しかねない、純粋な力の奔流だった。
しかし、ネロは少し首を傾げると、ゆっくりと、その一歩一歩に一切の無駄なく、まるで流れる影のようにドラゴンへと歩み寄っていく。
その姿には、焦りも、恐怖も、一切感じられない。
ただ、絶対的な静寂だけが、その黒い毛並みに宿っていた。
ドラゴンの最強の一撃が、この空間の全てを無に帰さんと放たれた。
「ネロ!!!」
エリアナの悲痛な叫びが、墓所に響き渡る。
だが、次の瞬間、信じられない光景が広がった。
ビュンッ!
紫色の破壊の奔流、その中心を、鋭く、そしてあまりにも速い、漆黒の一閃が貫いた。
一瞬の静寂。
...ゴトリ
重い音を立てて、ドラゴンの巨大な頭蓋骨が、地面に転がり落ちた。
同時に、祭壇の上で輝いていた宝珠もまた、共鳴するかのように、パリン、と音を立てて砕け散った。
ブレスの余韻の中から、ゆっくりと、いつもの小さな黒猫の姿に戻ったネロが、何事もなかったかのように現れた。
ルシアンは、ドラゴンの亡骸を見て、はっと気づく。八目の黒竜が溶けてまとわりついていたはずの、あの黒い淀みが、骨から綺麗さっぱり消え失せている。
(まさか…ネロ、お前、あの淀みをずっと吸収していたのか…!? だから、あの姿に…)
◇
静まり返った墓跡。ルシアンは、まだ呆然と、いつもの姿に戻ったネロを見つめていた。
(さっきの、あの力…。そうだ、あの黒い淀みだ。八目の黒竜を覆っていた、あの禍々しい魔力の塊。ネロは、あれを喰って、一時的にあの姿になったのか…?)
ルシアンがそこまで考えた時、足元のネロが、まるで「それだけじゃないよ」と言いたげに、彼の顔をじっと見上げて、一声鳴いた。
ネロは、主の視線に応えるように、今度は朽ちたドラゴンそのものの亡骸へと、ゆっくりと歩み寄った。そして、その巨大な骨にそっと触れると、再びその身に、禍々しいまでの闇の渦を纏い始めた。
ドラゴンの亡骸が、紫色の光の粒子となって、ネロの体へと吸い込まれていく。
その瞬間、ルシアンの体を、これまでとは比較にならないほど、巨大で、そして純粋な力の奔流が駆け巡った。
「ぐっ…!」
あまりの力に、ルシアンは思わず膝をつきそうになる。
「みんな、早く! 俺に触れて!」
エリアナ、レン、ユリウスの三人は、そのただならぬ様子にすぐさま駆け寄り、ルシアンを中心に、固く手を繋ぎ、一つの輪を作った。
ルシアンは、その奔流を、自分の中だけに留めず、仲間たちへと流すイメージを、強く描いた。
「えぇっ!?」
エリアナとレンが、その凄まじい浮遊感に、思わず驚愕の声を上げる。ユリウスは、あまりの感覚に、もはや半笑いになるしかなかった。
魂の器が、無理やりこじ開けられ、そこに伝説の竜の力が、奔流となって注ぎ込まれていく。
(熱い…! 体の中から、何かが生まれ変わるみたい…!)
エリアナは、自分の魂の中心で、これまでとは比べ物にならないほど力強い、何かが燃え上がるのを感じていた。彼女の瞳がカッと見開かれると、その手に宿った炎は、もはや赤ではなく、太陽そのもののような、純白の輝きを放っていた。
(これが…本当の、ボーモン家の力…? いや、違う。これは、私の力…!)
ユリウスの背中から、黄金の光が溢れ出した。光は、巨大な慈愛の翼を形作り、その羽ばたきは、傷ついた仲間たちに癒しと勇気を与えていくようだった。
(嘘でしょう…? 私の魔力が、風だけじゃない…!?)
レンは、自らの内に流れ込んだ、これまでとは異質の力に導かれるように、指先を天へと向けた。
次の瞬間、バチッ!と激しい音が鳴り、彼女の指先から、一条の雷霆が放たれた!
ズガァン!
という轟音と共に、遥か彼方の大木が、一瞬にして黒焦げの炭と化していた。
その瞳には、恐怖も、絶望もない。ただ、目の前の理不尽な存在を、斬り伏せるという、静かな闘志だけが燃えていた。
「…さあ、始めようか」
しかし、現実はあまりにも無慈悲だった。
朽ちたドラゴンは、ただ、その巨大な顎をゆっくりと開いた。ゴゴゴゴゴ…と、まるで嵐の前の静けさのように、周囲の空気がその口元へと吸い込まれていく。
「まずい、ブレスが来るぞ!」
ルシアンは、咄嗟に【星命創造】の力を解放。地面から分厚い土壁を、一枚、二枚、三枚と、立て続けに出現させた。
「全員、最大防御!」
その後ろで、エリアナ、ユリウス、レンが、ありったけの魔力を込めた三重の魔法障壁を展開する。炎の赤、黄金の輝き、風の翠色が、悲鳴を上げるように混じり合い、一行を守る最後の盾となった。
次の瞬間。
ドラゴンの顎から、全てを無に帰すかのような、禍々しい紫色の奔流が、音もなく放たれた。
ズドオオオオオオオオオオオンッ!!!
世界から、音が消えた。
ルシアンが創り出した土壁は、触れた瞬間に蒸発し、三人が展開した魔法障壁もまた、蜘蛛の巣状の亀裂を走らせ、ガラスのように砕け散る。
かろうじて直撃は免れたものの、その衝撃波だけで、一行は木の葉のように吹き飛ばされた。
「ぐ…っ、は…!」
全身を打撲し、魔力を使い果たした仲間たちが、地面に倒れ伏す。
(なんだ…今の…? レジナルドの炎ですら、これほどの絶望は感じなかった…!)
ルシアンの脳裏に、初めて敗北という二文字が浮かんだ。
(嘘…せっかく、力が戻ったのに…何もできない…!)エリアナは、自分の無力さに唇を噛む。
(次元が違う…! これでは、戦いにすらならない…!)レンは、ただ呆然と、その力の差に戦慄した。
(父上の炎とは、比べ物にならん…! ただ、純粋な、破壊の奔流…!)ユリウスは、本能的な恐怖に体が震えるのを止められなかった。
「これが…ドラゴンの力…」
ルシアンは、絶望的な力の差を前に、叫んだ。「撤退だ! 逃げるぞ!」
仲間を庇いながら後退しようとするが、エリアナが叫んだ。
「ネロは!? ネロがいないわ!」
その言葉に、ルシアンははっとする。いつの間にか、あの小さな相棒の姿が、どこにも見当たらなかった。
◇
朽ちたドラゴンは、一行にとどめを刺すべく、再びブレスの準備を始めた。
その顎に、先程よりもさらに強大で、凝縮された紫色の光が、ゴオオオッと音を立てて収束していく。空気が震え、空間そのものが悲鳴を上げている。
(もう、防げない…!)
ルシアンは、絶望的な力の差を前に、仲間を庇いながら後退しようとした。
「クソッ! 逃げるしかない!」
その時だった。
ドラゴンの背後、何もない空間から、突如として漆黒の闇が、まるでインクを水に垂らしたかのように、じわりと湧き出した。
ドラゴンは、初めて明確な警戒の色を見せ、溜め込んでいたブレスを、そちらへ向けて放つ!
ズオオオオオオオッ!
紫色の破壊の奔流が、闇へと殺到する。しかし、闇は、その全てを飲み込んだ。
シュゴオオオオオ…
風が吸い込まれるような音と共に、あれほど強大だったブレスは、音もなく、光もなく、ただただ静かに、その漆黒の中へと吸い込まれて消えていった。
闇が、晴れていく。
そこに立っていたのは、一匹の、黒い獣だった。
だが、それはいつもの小さな黒猫ではない。しなやかで、流線形の、美しい黒豹のような体躯。その毛並みは、星明かりすら吸い込むほどの深い黒。そして、そのルビーのような瞳は、冷徹なまでの知性を宿していた。
「…ネロ…なのか…?」
ルシアンの呆然とした呟きに、その美しい獣は、答えるかのように、喉を鳴らした。
それは、猫の鳴き声ではなかった。
鈴を転がすような、清らかで、神聖な音色。
魂に直接響き渡る、始まりの音。
◇
朽ちたドラゴンは、目の前に現れた黒い獣を、初めて強者として認識した。その空っぽの眼窩に宿る紫色の光が、侮りから、純粋な敵意と警戒へとその色を変える。
ドラゴンは、もはやルシアンたちなど意に介さず、その全ての敵意を、一体の獣へと集中させた。ターゲットを完全にネロへと変え、最大級のブレスを構える。
ゴオオオオオオオオッ!
その顎から、空間そのものを歪ませるほどの、禍々しい紫色の光が収束していく。墓所の空気が震え、地面の小石がカタカタと踊る。それは、もはやブレスというよりも、星の理そのものを破壊しかねない、純粋な力の奔流だった。
しかし、ネロは少し首を傾げると、ゆっくりと、その一歩一歩に一切の無駄なく、まるで流れる影のようにドラゴンへと歩み寄っていく。
その姿には、焦りも、恐怖も、一切感じられない。
ただ、絶対的な静寂だけが、その黒い毛並みに宿っていた。
ドラゴンの最強の一撃が、この空間の全てを無に帰さんと放たれた。
「ネロ!!!」
エリアナの悲痛な叫びが、墓所に響き渡る。
だが、次の瞬間、信じられない光景が広がった。
ビュンッ!
紫色の破壊の奔流、その中心を、鋭く、そしてあまりにも速い、漆黒の一閃が貫いた。
一瞬の静寂。
...ゴトリ
重い音を立てて、ドラゴンの巨大な頭蓋骨が、地面に転がり落ちた。
同時に、祭壇の上で輝いていた宝珠もまた、共鳴するかのように、パリン、と音を立てて砕け散った。
ブレスの余韻の中から、ゆっくりと、いつもの小さな黒猫の姿に戻ったネロが、何事もなかったかのように現れた。
ルシアンは、ドラゴンの亡骸を見て、はっと気づく。八目の黒竜が溶けてまとわりついていたはずの、あの黒い淀みが、骨から綺麗さっぱり消え失せている。
(まさか…ネロ、お前、あの淀みをずっと吸収していたのか…!? だから、あの姿に…)
◇
静まり返った墓跡。ルシアンは、まだ呆然と、いつもの姿に戻ったネロを見つめていた。
(さっきの、あの力…。そうだ、あの黒い淀みだ。八目の黒竜を覆っていた、あの禍々しい魔力の塊。ネロは、あれを喰って、一時的にあの姿になったのか…?)
ルシアンがそこまで考えた時、足元のネロが、まるで「それだけじゃないよ」と言いたげに、彼の顔をじっと見上げて、一声鳴いた。
ネロは、主の視線に応えるように、今度は朽ちたドラゴンそのものの亡骸へと、ゆっくりと歩み寄った。そして、その巨大な骨にそっと触れると、再びその身に、禍々しいまでの闇の渦を纏い始めた。
ドラゴンの亡骸が、紫色の光の粒子となって、ネロの体へと吸い込まれていく。
その瞬間、ルシアンの体を、これまでとは比較にならないほど、巨大で、そして純粋な力の奔流が駆け巡った。
「ぐっ…!」
あまりの力に、ルシアンは思わず膝をつきそうになる。
「みんな、早く! 俺に触れて!」
エリアナ、レン、ユリウスの三人は、そのただならぬ様子にすぐさま駆け寄り、ルシアンを中心に、固く手を繋ぎ、一つの輪を作った。
ルシアンは、その奔流を、自分の中だけに留めず、仲間たちへと流すイメージを、強く描いた。
「えぇっ!?」
エリアナとレンが、その凄まじい浮遊感に、思わず驚愕の声を上げる。ユリウスは、あまりの感覚に、もはや半笑いになるしかなかった。
魂の器が、無理やりこじ開けられ、そこに伝説の竜の力が、奔流となって注ぎ込まれていく。
(熱い…! 体の中から、何かが生まれ変わるみたい…!)
エリアナは、自分の魂の中心で、これまでとは比べ物にならないほど力強い、何かが燃え上がるのを感じていた。彼女の瞳がカッと見開かれると、その手に宿った炎は、もはや赤ではなく、太陽そのもののような、純白の輝きを放っていた。
(これが…本当の、ボーモン家の力…? いや、違う。これは、私の力…!)
ユリウスの背中から、黄金の光が溢れ出した。光は、巨大な慈愛の翼を形作り、その羽ばたきは、傷ついた仲間たちに癒しと勇気を与えていくようだった。
(嘘でしょう…? 私の魔力が、風だけじゃない…!?)
レンは、自らの内に流れ込んだ、これまでとは異質の力に導かれるように、指先を天へと向けた。
次の瞬間、バチッ!と激しい音が鳴り、彼女の指先から、一条の雷霆が放たれた!
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