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動乱篇
第四十一話:星の咆哮
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「すごい…! 体の中から、力が…!」
「これが…竜の力…!」
「信じられん…!」
エリアナ、レン、ユリウスは、自らの内に宿った、あまりにも強大な力に、ただ呆然としていた。純白の炎、黄金の翼、そして雷霆。それは、ほんの数分前の自分たちとは、もはや別次元の力だった。
その仲間たちの様子を、ルシアンは静かに見ていた。彼の体の中にもまた、ドラゴンの膨大な力が、嵐のように渦巻いている。だが、彼はその奔流に呑まれることなく、静かにその本質を感じ取っていた。
(これが…竜の力…! なんという、純粋な破壊の奔流だ…)
彼は、天を仰いだ。激闘の余韻で、墓所を覆う空は、まだ禍々しい魔力の淀みと、厚い雲に覆われている。
ルシアンは、その淀んだ空を晴らすかのように、ゆっくりと天に手のひらをかざした。そして、自らの内に渦巻く竜の力を、そこに収束させていく。
ゴオオオオオ…
彼の掌に、周囲の空間が歪むほどの、凄まじいエネルギーが集い始めた。それは、まるで小さな太陽が生まれ出るかのようだった。まばゆいばかりの光が、闇に閉ざされた墓所全体を、真昼のように照らし出す。
次の瞬間、ルシアンはその光を解放した。
放たれた閃光は、音もなく、墓所を覆っていた漆黒の空を貫き、大気圏外にまで達するほどの、巨大な光の柱となった。
世界から、一切の音が消える。一瞬の静寂。
そして――。
ドゴォォォォォンッ!!!
遅れてやってきた轟音と衝撃波が、世界そのものを揺るがした。空の淀みと厚い雲は、まるで巨大な手で拭い去るかのように、まとめて吹き飛ばされてしまった。
「……嘘でしょ…」
エリアナは、そのあまりの光景に、ただ呆然と呟くことしかできない。レンとユリウスもまた、言葉を失い、ただ青く澄み渡っていく空を、信じられないといった表情で見上げていた。
後に残されたのは、どこまでも青く、澄み渡った空だけだった。
唖然とする仲間たちを前に、ルシアンは、自らの新たなスキル――【竜星の咆哮(りゅうせいのほうこう)】――の、あまりの威力に驚きつつも、その本質を冷静に分析していた。
(ただの破壊の力じゃない。俺のマナと混ざり合うことで、浄化の力にもなるのか…)
彼は、また一つ、自らの力の深淵に触れたのだった。
◇
どこまでも青く、澄み渡った空。先程までの禍々しいまでの闇が、嘘のようだった。
力を落ち着かせたルシアンは、この戦いの全てを冷静に分析し、仲間たちに自らの仮説を語り始めた。
「この巨大な墓跡は、遥か昔、何か強大な存在を祀ったものだろう。そして、あの宝珠は、依頼書にあった通り、本物の『魂の宝珠』だったに違いない」
彼は、仲間たちに向き直る。
「みんな、聞いてくれ。俺がルナリアで一人向かった、あの古代の祠のことを覚えているか? あの最深部で、俺は一種の古い記録に触れた。そこに、この世界の理の一部が記されていたんだ」
ルシアンは、祠で見た古文書の一節を、仲間たちに分かりやすく説明する。
「古文書によれば、この世界には『淀み』と呼ばれる、魔力が異常に集まりやすい場所があるらしい。『器よりあぶれ、行き場をなくした親なき闇は、星の息吹が薄れる大地の傷――「淀み」へと、惹き寄せられるように集う』…まさに、この場所のことだったんだ」
彼は、朽ち果てたドラゴンの亡骸へと、視線を移した。
「そこへ、かつて深手を負ったドラゴンが、理由は不明だが飛来し、宝珠の力で魂だけをこの地に留めていた。肉体が朽ちてもなお、その力を保ち続けていたんだ。二十年前に斥候が見たというのは、その状態だったんだろう」
「だが、永い年月の間に、この土地の強すぎる淀みが、その竜の魂をも飲み込み、俺たちが最初に戦った、あの八目の怪物と化した…」
「そして、ネロが最後にドラゴンにトドメを刺したことで、魂という依り代を失った宝珠は、その役目を終え、砕け散った…多分、そんなところだろう」
その考察に、エリアナたちはただ息を呑む。
(だが、本当にそれだけか…?)
ルシアンは、砕け散った宝珠の欠片を一つ、拾い上げた。彼の脳裏には、一つの違和感が残っていた。
(この宝珠は、ただ竜の魂を留めていただけじゃない。もっと巨大な、何かを…この大地そのものを、無理やり抑え込むための…楔…? ネロが竜を倒し、宝珠が砕け散ったあの瞬間、俺は感じた。何かが『終わった』のではなく、何かが『解き放たれた』ような、そんな感覚を…)
その、まだ言葉にならない漠然とした不安は、しかし、この星に生きる誰もが、永い間忘れてしまっていた、真実の欠片だった。
(今は考えても仕方ないな...)
淀みは晴れ、宝珠もドラゴンも消えた。この場所は、もはやただの遺跡に戻ったのだろう。
「帰ろう。クロスロードに」
その言葉に、仲間たちは力強く頷いた。
◇
死闘の末、一行は人知を超えた力を手に入れた。
クロスロードへの帰路、その足取りは、来た時とは比べ物にならないほど力強く、自信に満ち溢れている。
旅の途中、一行が休憩のために立ち止まった、その時だった。
「ルシアン」
レンが、真顔で静かに彼を呼んだ。ルシアンが「ん?」と振り返った瞬間、彼女の姿が、ふっと掻き消えた。
次の瞬間、レンはルシアンの背後に音もなく現れると、その背中に、ぽすん、と優しく寄りかかった。
「…隙あり」
「わっ…!?」
突然のことに驚くルシアン。しかし、彼が何かを言うよりも早く、別の声が飛んできた。
「ちょっと、レン! あなた、ルシアンに何してるのよ!」
エリアナが、頬を膨らませて二人の間に割って入る。
「訓練です」と、レンは真顔で返す。
「彼は、まだ背後への警戒が足りません。一行の戦闘能力を常に最高の状態に保つのは、師としての当然の責務です」
「師は、私のでしょ! ルシアンのは関係ないじゃない!」
「いいえ、関係あります。リーダーの危機は、パーティー全体の危機ですから」
二人の間で、バチバチと、見えない火花が散った。
ルシアンは、そんな二人を見て、深く、一つため息をついた。
「二人とも、そのくらいにしておけ」
その声は穏やかだったが、有無を言わさぬ響きがあった。二人は何も言えなくなり、少しだけ気まずそうに、しかし素直に、彼の後ろをついて歩き始めた。
そのやり取りを、少し離れた場所で見ていたユリウスは、思わず苦笑を漏らした。
その日の夜。野営の準備をする中、ルシアンは一人、薪を拾い集めるエリアナの元へ向かった。
「エリアナ」
「…何よ」
まだ少しだけ、拗ねたような声で彼女は答える。
ルシアンは、そんな彼女の隣にそっと座ると、静かに言った。
「ありがとうな。昼間、俺の代わりに怒ってくれて。少し、安心した」
「え…?」
「レンとのことだ。俺一人じゃ、どうしていいか分からなかったから」
その言葉に、エリアナの心は、じんわりと温かくなっていくのを感じた。
「…ばか」
彼女は、そう呟くと、彼の肩に、こてん、と頭を乗せた。
その、温かい光景を。
少し離れた木の影から、一人のエルフが、じっと見つめていた。
レンだった。
彼女は、無表情のまま、足元の小石を、つま先で小さく、コツン、と蹴った。
長い旅路の果てに、クロスロードの街並みが見えてくる。
◇
世界の北の果て。全てが雪と氷に閉ざされた、常冬の大地。
その中央にそびえる巨大な活火山の火口で、煮えたぎるマグマが、突如として、巨大な心臓のように、ドクン、ドクンと激しく脈動を始めた。
ゴゴゴゴゴ…!
その脈動は徐々に大きくなり、山全体を震わせるほどの、巨大な隆起となっていく。
そして、それは一気に弾けた。
凄まじい噴火が、山の上部半分を吹き飛ばし、灼熱の溶岩が、雪と氷に覆われた大地を蹂躙していく。
しかし、噴き出したのは、溶岩だけではなかった。光を喰らい、音を飲み込む、純粋な闇そのものが、噴煙となって天を覆い尽くした。
全てを破壊し尽くす、その闇の中心。
そこに、一つの、完全な球体が、ただ静かに、音もなく宙に浮いていた。
それは、黒い色をしているのではない。
まるで、世界の法則に穴が空いたかのような、絶対的な『無』だった。
ルシアンたちが英雄として帰還する、その裏側で。
古文書に記された真の「厄災」が、静かに産声を上げた。
「これが…竜の力…!」
「信じられん…!」
エリアナ、レン、ユリウスは、自らの内に宿った、あまりにも強大な力に、ただ呆然としていた。純白の炎、黄金の翼、そして雷霆。それは、ほんの数分前の自分たちとは、もはや別次元の力だった。
その仲間たちの様子を、ルシアンは静かに見ていた。彼の体の中にもまた、ドラゴンの膨大な力が、嵐のように渦巻いている。だが、彼はその奔流に呑まれることなく、静かにその本質を感じ取っていた。
(これが…竜の力…! なんという、純粋な破壊の奔流だ…)
彼は、天を仰いだ。激闘の余韻で、墓所を覆う空は、まだ禍々しい魔力の淀みと、厚い雲に覆われている。
ルシアンは、その淀んだ空を晴らすかのように、ゆっくりと天に手のひらをかざした。そして、自らの内に渦巻く竜の力を、そこに収束させていく。
ゴオオオオオ…
彼の掌に、周囲の空間が歪むほどの、凄まじいエネルギーが集い始めた。それは、まるで小さな太陽が生まれ出るかのようだった。まばゆいばかりの光が、闇に閉ざされた墓所全体を、真昼のように照らし出す。
次の瞬間、ルシアンはその光を解放した。
放たれた閃光は、音もなく、墓所を覆っていた漆黒の空を貫き、大気圏外にまで達するほどの、巨大な光の柱となった。
世界から、一切の音が消える。一瞬の静寂。
そして――。
ドゴォォォォォンッ!!!
遅れてやってきた轟音と衝撃波が、世界そのものを揺るがした。空の淀みと厚い雲は、まるで巨大な手で拭い去るかのように、まとめて吹き飛ばされてしまった。
「……嘘でしょ…」
エリアナは、そのあまりの光景に、ただ呆然と呟くことしかできない。レンとユリウスもまた、言葉を失い、ただ青く澄み渡っていく空を、信じられないといった表情で見上げていた。
後に残されたのは、どこまでも青く、澄み渡った空だけだった。
唖然とする仲間たちを前に、ルシアンは、自らの新たなスキル――【竜星の咆哮(りゅうせいのほうこう)】――の、あまりの威力に驚きつつも、その本質を冷静に分析していた。
(ただの破壊の力じゃない。俺のマナと混ざり合うことで、浄化の力にもなるのか…)
彼は、また一つ、自らの力の深淵に触れたのだった。
◇
どこまでも青く、澄み渡った空。先程までの禍々しいまでの闇が、嘘のようだった。
力を落ち着かせたルシアンは、この戦いの全てを冷静に分析し、仲間たちに自らの仮説を語り始めた。
「この巨大な墓跡は、遥か昔、何か強大な存在を祀ったものだろう。そして、あの宝珠は、依頼書にあった通り、本物の『魂の宝珠』だったに違いない」
彼は、仲間たちに向き直る。
「みんな、聞いてくれ。俺がルナリアで一人向かった、あの古代の祠のことを覚えているか? あの最深部で、俺は一種の古い記録に触れた。そこに、この世界の理の一部が記されていたんだ」
ルシアンは、祠で見た古文書の一節を、仲間たちに分かりやすく説明する。
「古文書によれば、この世界には『淀み』と呼ばれる、魔力が異常に集まりやすい場所があるらしい。『器よりあぶれ、行き場をなくした親なき闇は、星の息吹が薄れる大地の傷――「淀み」へと、惹き寄せられるように集う』…まさに、この場所のことだったんだ」
彼は、朽ち果てたドラゴンの亡骸へと、視線を移した。
「そこへ、かつて深手を負ったドラゴンが、理由は不明だが飛来し、宝珠の力で魂だけをこの地に留めていた。肉体が朽ちてもなお、その力を保ち続けていたんだ。二十年前に斥候が見たというのは、その状態だったんだろう」
「だが、永い年月の間に、この土地の強すぎる淀みが、その竜の魂をも飲み込み、俺たちが最初に戦った、あの八目の怪物と化した…」
「そして、ネロが最後にドラゴンにトドメを刺したことで、魂という依り代を失った宝珠は、その役目を終え、砕け散った…多分、そんなところだろう」
その考察に、エリアナたちはただ息を呑む。
(だが、本当にそれだけか…?)
ルシアンは、砕け散った宝珠の欠片を一つ、拾い上げた。彼の脳裏には、一つの違和感が残っていた。
(この宝珠は、ただ竜の魂を留めていただけじゃない。もっと巨大な、何かを…この大地そのものを、無理やり抑え込むための…楔…? ネロが竜を倒し、宝珠が砕け散ったあの瞬間、俺は感じた。何かが『終わった』のではなく、何かが『解き放たれた』ような、そんな感覚を…)
その、まだ言葉にならない漠然とした不安は、しかし、この星に生きる誰もが、永い間忘れてしまっていた、真実の欠片だった。
(今は考えても仕方ないな...)
淀みは晴れ、宝珠もドラゴンも消えた。この場所は、もはやただの遺跡に戻ったのだろう。
「帰ろう。クロスロードに」
その言葉に、仲間たちは力強く頷いた。
◇
死闘の末、一行は人知を超えた力を手に入れた。
クロスロードへの帰路、その足取りは、来た時とは比べ物にならないほど力強く、自信に満ち溢れている。
旅の途中、一行が休憩のために立ち止まった、その時だった。
「ルシアン」
レンが、真顔で静かに彼を呼んだ。ルシアンが「ん?」と振り返った瞬間、彼女の姿が、ふっと掻き消えた。
次の瞬間、レンはルシアンの背後に音もなく現れると、その背中に、ぽすん、と優しく寄りかかった。
「…隙あり」
「わっ…!?」
突然のことに驚くルシアン。しかし、彼が何かを言うよりも早く、別の声が飛んできた。
「ちょっと、レン! あなた、ルシアンに何してるのよ!」
エリアナが、頬を膨らませて二人の間に割って入る。
「訓練です」と、レンは真顔で返す。
「彼は、まだ背後への警戒が足りません。一行の戦闘能力を常に最高の状態に保つのは、師としての当然の責務です」
「師は、私のでしょ! ルシアンのは関係ないじゃない!」
「いいえ、関係あります。リーダーの危機は、パーティー全体の危機ですから」
二人の間で、バチバチと、見えない火花が散った。
ルシアンは、そんな二人を見て、深く、一つため息をついた。
「二人とも、そのくらいにしておけ」
その声は穏やかだったが、有無を言わさぬ響きがあった。二人は何も言えなくなり、少しだけ気まずそうに、しかし素直に、彼の後ろをついて歩き始めた。
そのやり取りを、少し離れた場所で見ていたユリウスは、思わず苦笑を漏らした。
その日の夜。野営の準備をする中、ルシアンは一人、薪を拾い集めるエリアナの元へ向かった。
「エリアナ」
「…何よ」
まだ少しだけ、拗ねたような声で彼女は答える。
ルシアンは、そんな彼女の隣にそっと座ると、静かに言った。
「ありがとうな。昼間、俺の代わりに怒ってくれて。少し、安心した」
「え…?」
「レンとのことだ。俺一人じゃ、どうしていいか分からなかったから」
その言葉に、エリアナの心は、じんわりと温かくなっていくのを感じた。
「…ばか」
彼女は、そう呟くと、彼の肩に、こてん、と頭を乗せた。
その、温かい光景を。
少し離れた木の影から、一人のエルフが、じっと見つめていた。
レンだった。
彼女は、無表情のまま、足元の小石を、つま先で小さく、コツン、と蹴った。
長い旅路の果てに、クロスロードの街並みが見えてくる。
◇
世界の北の果て。全てが雪と氷に閉ざされた、常冬の大地。
その中央にそびえる巨大な活火山の火口で、煮えたぎるマグマが、突如として、巨大な心臓のように、ドクン、ドクンと激しく脈動を始めた。
ゴゴゴゴゴ…!
その脈動は徐々に大きくなり、山全体を震わせるほどの、巨大な隆起となっていく。
そして、それは一気に弾けた。
凄まじい噴火が、山の上部半分を吹き飛ばし、灼熱の溶岩が、雪と氷に覆われた大地を蹂躙していく。
しかし、噴き出したのは、溶岩だけではなかった。光を喰らい、音を飲み込む、純粋な闇そのものが、噴煙となって天を覆い尽くした。
全てを破壊し尽くす、その闇の中心。
そこに、一つの、完全な球体が、ただ静かに、音もなく宙に浮いていた。
それは、黒い色をしているのではない。
まるで、世界の法則に穴が空いたかのような、絶対的な『無』だった。
ルシアンたちが英雄として帰還する、その裏側で。
古文書に記された真の「厄災」が、静かに産声を上げた。
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