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37話 祝福12
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シエナは十歳の頃に戻っていた。炎の精霊たちがシエナの周囲にふわふわと浮いている。
『シエナ! お父さんに炎の力を見せてあげるといいよ! 料理を作る時に炎の力があると、喜ぶよ!』
シエナは金色の大きな瞳を瞬かせる。この前までシエナは普通の女の子だった。十歳の誕生日を迎えた日に突然、魔力に目覚めたのだ。炎の精霊たちが見えるようになったのも最近で。シエナは躊躇っていた。魔女は呪われた存在だと父親が何度もシエナに教えていたから。
『大丈夫だよ! お父さんはシエナを可愛がっているから、魔女だとわかっても怒らないよ!』
それなのについ、炎の精霊の言葉を信じてしまったのだ。自分の娘なら受け入れてくれるかもしれないと考えたシエナは、悩んだ。
「シエナ~! 料理を手伝ってくれ!」
父親の声に炎の精霊と戯れていたシエナは厨房へと走る。父親が忙しそうにランチの仕込みをしていた。そこへ厨房の火が消えたのだ。
「しまった、料理が出来ない」
困っている父親にシエナが言った。
「お父さん、私が火をおこしてあげる!」
シエナは、指先に火を出現させた。そうして、シエナの魔法を見て、父親は叫んだ。
「悪魔!」
と。
夢に見た、父親に首を絞められる夢を。そうしてまたシエナは忌々しい顔をした父親に首を絞められたのだ。
(これは夢? 現実?)
誰かが嘲笑っている。夢の中で大好きな父親に首を絞められて殺されてしまえ、と。そう、愛していた父親に殺されれば本望だ。シエナは目を閉じた。ハリーには裏切られた。もう誰も信じたくない。もう夢の中で死んでしまおう。
シエナははっとする。
(夢!)
シエナは瞳を開いた。自分の首を絞めていたのは、アスター公爵だった。シエナは必死に魔法の呪文を詠唱する。シエナの指から大きな炎が現れて、アスター公爵を襲った。アスター公爵はシエナの首を絞めていた手を離したが、炎から避けきれなかった。
「くそ! 夢から覚めていたとは!」
自分を睨みつけるアスター公爵にシエナは戸惑う。
(私はアスター公爵に殺される筋合いはないわ。生き延びて、ハリーに会わないと!)
シエナは魔法陣を発動させて、魔法の杖を呼び出した。魔法の杖さえあれば、魔法の呪文を詠唱することなく、魔法を振るえるのだ。アスター公爵の腕輪と同じ魔道具である。
「サラマンダーよ! 炎の形を取り、攻撃せよ!」
シエナは杖を軽く振るう。すると、シエナの手から炎がくるくると巻き起こり、サラマンダーの形を取り、アスター公爵たちを攻撃した。
「無駄だ!」
アスター公爵は腕輪に念じて、水の結界を張る。
「嘘! サラマンダーでも倒せない?」
シエナは呆然とした。ユーリの水の力はシエナとほぼ互角だ。今まで魔法の模擬戦で戦ったことがあるが、力はほぼ同じであった。それが何故シエナの力が通じないのだろうか。
(おかしいわ!)
シエナはアスター公爵の攻撃に炎の結界を張り、防ぎながら考え込む。
◇
一方、ハリーは『妖精の瞳』を失ったことに後悔の念を抱いていた。
「はあ」
シエナの笑顔を脳裏に浮かべてため息を吐いた。自分は何と愚かなことをしたのだろうか。そして、失って始めてその価値に気づいたのだ。そこへ自室の窓がカリカリと引っかかれる音がする。窓を見るとラブがいて、ハリーは仰天する。
「何だ? ラブ!」
ハリーは窓を開けて、ラブを中に入れた。
『みゃあ』
必死に何かを訴えるラブにハリーは首を横に振った。
「何だ? 私はもう『妖精の瞳』を失った。ラブ、今、私は君の言葉は分からない」
ラブが爪でハリーの服を引っ張った。
「みゃーん! みゃあ!」
その懸命な鳴き声にハリーは首を傾げる。
「ラブ?」
「ラブは助けを求めているのさ。シエナがアスター公爵に囚われた」
レイモンドが箒に乗って窓の外から現れた。ハリーは驚いた。
「レイモンド?」
「ラブに呼ばれた。シエナを助けたいか?」
レイモンドは真摯な瞳でハリーに向き直る。
「……」
「ハリー。アスター公爵は、俺たち塔の魔女や魔法使いを殺しては、その力を吸収して、強い魔力を手に入れているとんでもない化け物だ。シエナは、塔の中でも四大魔女と呼ばれていて、強いが今のアスター公爵にはかなわないかもしれない。お前を唆して、『愛の囁き』を解呪した。魔女は只人に術を破られれば、力が弱くなるのだ。どうする? 助けに行くか?」
レイモンドの言葉にハリーは衝撃を受けて、狼狽える。
「レイモンド、君こそ、どうして……」
レイモンドはいつもの翳りのある顔とは違う笑顔を浮かべた。心からの笑顔だ。
「俺は、謝りに来たんだ。俺の恋人に怒られてな。今までのことを全て恋人に白状したんだ。過去のことも、塔主の命令でお前に近づいたことも。それでお前らを助けろと泣かれた。塔の命令で近づいたにしろ、お前は俺の親友だ。すまなかった」
ハリーは心が晴れやかになるのを感じるが、シエナに対するひっかかりがあった。
「しかし、私はシエナを裏切った……」
躊躇するハリーにレイモンドが切れた。
「あああ! 本当にお前は面倒くさいな! シエナを助けたいか?」
「助けたい!」
即答するハリーににやりとレイモンドは笑う。
「なら決まりだ! 箒の後ろに乗れ!」
ハリーは、慌ててレイモンドは箒の後ろ側に跨った。それを見たラブが不服そうに唸る。
『みゃーん』
「ラブは俺の方に乗れ」
『みゃあ』
「行くぞ!」
ラブがぴょんとレイモンドの右肩に飛び乗った。それと同時に箒が凄まじい勢いで飛び始めた。レイモンドは魔法の詠唱を始めた。転移の扉が現れて、三人は扉に移動する。
転移した先はアスター公爵の屋敷だった。屋敷の一部が燃え焦げ落ちていた。この前訪れた時の重厚な屋敷の面影すらない。そこではシエナが戦いを繰り広げていたが、ハリーの瞳には映ってなかった。
「ハリー。もう一度お前の想いを口にして、シエナに口づけろ。それでシエナの力は元に戻る」
「しかし……」
「もう二度とシエナと触れあえなくてもいいのか!」
レイモンドは、ためらい気味なハリーの気持ちを押す。だが、ハリーは自分が知らなかったとはいえ、シエナの力を弱体化させたことや自分が彼女を裏切ったことにためらいを感じていた。ハリーは想いを口にすることに逡巡する。
「ハリー! 時間がない!」
レイモンドの声にハリーは我に返った。
「シエナ。済まなかった。私は君を愛している。君がいるだけで私の世界は光り輝くんだ」
ハリーがシエナへの愛を囁いた。その瞬間、ハリーの周囲を光り輝く何かが取り巻いた。あまりの眩しさに瞳を閉じる。再び目を開く。ハリーの瞳にシエナの戦う姿が映っていた。
「見える……。シエナの炎の力が水の力に押されている」
ハリーは自分の見ている世界が信じられないが、それを肯定するようにレイモンドが叫ぶ。
「ハリー、やったな! シエナの所に行くぞ!」
「わかった!」
箒が旋回して、シエナのいる屋敷へ近づく。
『シエナ! お父さんに炎の力を見せてあげるといいよ! 料理を作る時に炎の力があると、喜ぶよ!』
シエナは金色の大きな瞳を瞬かせる。この前までシエナは普通の女の子だった。十歳の誕生日を迎えた日に突然、魔力に目覚めたのだ。炎の精霊たちが見えるようになったのも最近で。シエナは躊躇っていた。魔女は呪われた存在だと父親が何度もシエナに教えていたから。
『大丈夫だよ! お父さんはシエナを可愛がっているから、魔女だとわかっても怒らないよ!』
それなのについ、炎の精霊の言葉を信じてしまったのだ。自分の娘なら受け入れてくれるかもしれないと考えたシエナは、悩んだ。
「シエナ~! 料理を手伝ってくれ!」
父親の声に炎の精霊と戯れていたシエナは厨房へと走る。父親が忙しそうにランチの仕込みをしていた。そこへ厨房の火が消えたのだ。
「しまった、料理が出来ない」
困っている父親にシエナが言った。
「お父さん、私が火をおこしてあげる!」
シエナは、指先に火を出現させた。そうして、シエナの魔法を見て、父親は叫んだ。
「悪魔!」
と。
夢に見た、父親に首を絞められる夢を。そうしてまたシエナは忌々しい顔をした父親に首を絞められたのだ。
(これは夢? 現実?)
誰かが嘲笑っている。夢の中で大好きな父親に首を絞められて殺されてしまえ、と。そう、愛していた父親に殺されれば本望だ。シエナは目を閉じた。ハリーには裏切られた。もう誰も信じたくない。もう夢の中で死んでしまおう。
シエナははっとする。
(夢!)
シエナは瞳を開いた。自分の首を絞めていたのは、アスター公爵だった。シエナは必死に魔法の呪文を詠唱する。シエナの指から大きな炎が現れて、アスター公爵を襲った。アスター公爵はシエナの首を絞めていた手を離したが、炎から避けきれなかった。
「くそ! 夢から覚めていたとは!」
自分を睨みつけるアスター公爵にシエナは戸惑う。
(私はアスター公爵に殺される筋合いはないわ。生き延びて、ハリーに会わないと!)
シエナは魔法陣を発動させて、魔法の杖を呼び出した。魔法の杖さえあれば、魔法の呪文を詠唱することなく、魔法を振るえるのだ。アスター公爵の腕輪と同じ魔道具である。
「サラマンダーよ! 炎の形を取り、攻撃せよ!」
シエナは杖を軽く振るう。すると、シエナの手から炎がくるくると巻き起こり、サラマンダーの形を取り、アスター公爵たちを攻撃した。
「無駄だ!」
アスター公爵は腕輪に念じて、水の結界を張る。
「嘘! サラマンダーでも倒せない?」
シエナは呆然とした。ユーリの水の力はシエナとほぼ互角だ。今まで魔法の模擬戦で戦ったことがあるが、力はほぼ同じであった。それが何故シエナの力が通じないのだろうか。
(おかしいわ!)
シエナはアスター公爵の攻撃に炎の結界を張り、防ぎながら考え込む。
◇
一方、ハリーは『妖精の瞳』を失ったことに後悔の念を抱いていた。
「はあ」
シエナの笑顔を脳裏に浮かべてため息を吐いた。自分は何と愚かなことをしたのだろうか。そして、失って始めてその価値に気づいたのだ。そこへ自室の窓がカリカリと引っかかれる音がする。窓を見るとラブがいて、ハリーは仰天する。
「何だ? ラブ!」
ハリーは窓を開けて、ラブを中に入れた。
『みゃあ』
必死に何かを訴えるラブにハリーは首を横に振った。
「何だ? 私はもう『妖精の瞳』を失った。ラブ、今、私は君の言葉は分からない」
ラブが爪でハリーの服を引っ張った。
「みゃーん! みゃあ!」
その懸命な鳴き声にハリーは首を傾げる。
「ラブ?」
「ラブは助けを求めているのさ。シエナがアスター公爵に囚われた」
レイモンドが箒に乗って窓の外から現れた。ハリーは驚いた。
「レイモンド?」
「ラブに呼ばれた。シエナを助けたいか?」
レイモンドは真摯な瞳でハリーに向き直る。
「……」
「ハリー。アスター公爵は、俺たち塔の魔女や魔法使いを殺しては、その力を吸収して、強い魔力を手に入れているとんでもない化け物だ。シエナは、塔の中でも四大魔女と呼ばれていて、強いが今のアスター公爵にはかなわないかもしれない。お前を唆して、『愛の囁き』を解呪した。魔女は只人に術を破られれば、力が弱くなるのだ。どうする? 助けに行くか?」
レイモンドの言葉にハリーは衝撃を受けて、狼狽える。
「レイモンド、君こそ、どうして……」
レイモンドはいつもの翳りのある顔とは違う笑顔を浮かべた。心からの笑顔だ。
「俺は、謝りに来たんだ。俺の恋人に怒られてな。今までのことを全て恋人に白状したんだ。過去のことも、塔主の命令でお前に近づいたことも。それでお前らを助けろと泣かれた。塔の命令で近づいたにしろ、お前は俺の親友だ。すまなかった」
ハリーは心が晴れやかになるのを感じるが、シエナに対するひっかかりがあった。
「しかし、私はシエナを裏切った……」
躊躇するハリーにレイモンドが切れた。
「あああ! 本当にお前は面倒くさいな! シエナを助けたいか?」
「助けたい!」
即答するハリーににやりとレイモンドは笑う。
「なら決まりだ! 箒の後ろに乗れ!」
ハリーは、慌ててレイモンドは箒の後ろ側に跨った。それを見たラブが不服そうに唸る。
『みゃーん』
「ラブは俺の方に乗れ」
『みゃあ』
「行くぞ!」
ラブがぴょんとレイモンドの右肩に飛び乗った。それと同時に箒が凄まじい勢いで飛び始めた。レイモンドは魔法の詠唱を始めた。転移の扉が現れて、三人は扉に移動する。
転移した先はアスター公爵の屋敷だった。屋敷の一部が燃え焦げ落ちていた。この前訪れた時の重厚な屋敷の面影すらない。そこではシエナが戦いを繰り広げていたが、ハリーの瞳には映ってなかった。
「ハリー。もう一度お前の想いを口にして、シエナに口づけろ。それでシエナの力は元に戻る」
「しかし……」
「もう二度とシエナと触れあえなくてもいいのか!」
レイモンドは、ためらい気味なハリーの気持ちを押す。だが、ハリーは自分が知らなかったとはいえ、シエナの力を弱体化させたことや自分が彼女を裏切ったことにためらいを感じていた。ハリーは想いを口にすることに逡巡する。
「ハリー! 時間がない!」
レイモンドの声にハリーは我に返った。
「シエナ。済まなかった。私は君を愛している。君がいるだけで私の世界は光り輝くんだ」
ハリーがシエナへの愛を囁いた。その瞬間、ハリーの周囲を光り輝く何かが取り巻いた。あまりの眩しさに瞳を閉じる。再び目を開く。ハリーの瞳にシエナの戦う姿が映っていた。
「見える……。シエナの炎の力が水の力に押されている」
ハリーは自分の見ている世界が信じられないが、それを肯定するようにレイモンドが叫ぶ。
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