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10話 心のかけらたち3
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(また、お父様、レヴィ様が私を望んでいるだのおかしなことを言い出したわ……)
エリンは眉を顰めてふうーっと首を左右に振る。
「ハリー、お父様、ありがとう」
これはクロエから二倍になって仕返しされるなあと嘆息する。
「エリン、今までクロエからあんな風に絡まれていたのか?」
「えっ」
エリンはベンの問いかけから挙動不審気味になる。今までベンに告げ口しなかったのは、陰でより陰湿な方法でやりかえされるからだ。
だけど。
この際、言った方がいい。
「セレナお義母様とクロエにはお父様が再婚された頃から虐められてましたけど」
今更なあとエリンはため息をひとつ、零した。
「……なっ」
絶句するベンにハリーが追い打ちをかけた。
「ベンお父様が今まで知らなかっただけだよ。セレナお母様とクロエ、ずっとエリンお姉様を虐めてたよ」
淡々と言うからベンはぎょっとする。それに困惑気味のエリンが言葉を紡いだ。
「ベンお父様とハリーが関わると余計ややこしくなるのよ。二人ともベンお父様とハリーが私を庇うから更にむきになるし」
だから今まで黙ってきたのにとエリンは沈黙する。
「……エリン」
「それよりお父様、ダグラス家主催の夜会に招待されました」
「そうか。エリンのドレスや当日の馬車の手配をしないとなあ」
ふうと息を吐いて、ベンは顎に手をやる。
「セレナとクロエについては、考える」
ハリーとエリンが顔を見合わせて、黙り込んだ。
「それよりエリン。お前はその頭のまま夜会に出席するのか?」
ベンが呆れたようにエリンの前髪に視線をやる。前髪は伸ばしたい放題で後ろの髪も手入れをしていないので枝毛がある状態だ。
「……。さすがにまずいかなあと思って、お父様に髪のことはわからないですよね」
「その前髪を切るのか! 何度周囲の人間が切れと言っても聞かなかったお前が!」
男性であるベンが気になっていたとはと驚愕するとともにエリンは何故かかちんとした。だが、この髪をどうにかしないとまずい。パートナーのレヴィだけではなくて、ダグラス伯爵家の面子を潰す。
「お父様に言われたくないですけど、前髪も後ろの髪も切りますよ」
エリンがそう言うなり、ベンがぱんぱんと手を鳴らした。どどっとスミス家の使用人たちが現れる。
「お、お父様?」
エリンとハリーは、何が行われるのだろうと二人で再び顔を見合わせる。
「エリン様!」
スミス家の家政婦がじゃらじゃらと腰の鍵を鳴らしながらエリンに近づいてくる。いつもはしかめっ面の顔が若干緩んでいる。
「まあまあ。エリン様が髪をお切りになられるとは……。このマチルダ、嬉しいです」
そっと涙をハンカチで押さえると、さっと侍女たちに目を光らせる。
「エリン様を徹底的にお綺麗にして!」
スミス家の女性の使用人たちに指で指図する。
「え? え……」
エリンとハリーは恐怖のあまり、二人で手を取り合い、固まった。
だが、エリンが侍女たちに連れ去られると、ハリーはさっとベンの後ろに隠れた。
「ハリー! ちょっと助けて!」
「エリンお姉様! 頑張って~!」
ベンの後ろから現れて、ハリーは手をぶんぶんと振る。
「この裏切り者!」
調子のいい弟にエリンは絶叫した。
エリンは、まずは風呂に放り込まれて身体を洗われると、次に身体中に香油をぬられてマッサージされた。そして、最後に手入れをされた髪にハサミを入れられる。大きな姿見の前でジョキンと言う音と共に傷んだ後ろの髪が切られる。
「エリン様、それでは前髪を切りますよ!」
ベン付きの侍女の声がする。ジョキンという音がして前髪から隠した青の大きな瞳が現れる。エリンを守護する水の精霊の女王が印を瞳につけた色彩だ。レヴィならば炎の精霊王が守っているので紅の瞳という色彩だ。
「まあ! 精霊様が付けたお印のお綺麗な色合いの青の瞳が見えてますよ!」
スペンサー王国の民ならば誰でも精霊の愛し子になることに憧れる。そしてその愛し子たちは敬愛される。物心ついた時にはセレナとクロエとそのお付きの者たちに気持ち悪いと言われてきたエリンは、敬愛されることに慣れないでいた。
大きな姿見には水の精霊の女王の印の濁りのない、青の色彩を記された大きな瞳の愛くるしい少女が移っていた。
エリンは眉を顰めてふうーっと首を左右に振る。
「ハリー、お父様、ありがとう」
これはクロエから二倍になって仕返しされるなあと嘆息する。
「エリン、今までクロエからあんな風に絡まれていたのか?」
「えっ」
エリンはベンの問いかけから挙動不審気味になる。今までベンに告げ口しなかったのは、陰でより陰湿な方法でやりかえされるからだ。
だけど。
この際、言った方がいい。
「セレナお義母様とクロエにはお父様が再婚された頃から虐められてましたけど」
今更なあとエリンはため息をひとつ、零した。
「……なっ」
絶句するベンにハリーが追い打ちをかけた。
「ベンお父様が今まで知らなかっただけだよ。セレナお母様とクロエ、ずっとエリンお姉様を虐めてたよ」
淡々と言うからベンはぎょっとする。それに困惑気味のエリンが言葉を紡いだ。
「ベンお父様とハリーが関わると余計ややこしくなるのよ。二人ともベンお父様とハリーが私を庇うから更にむきになるし」
だから今まで黙ってきたのにとエリンは沈黙する。
「……エリン」
「それよりお父様、ダグラス家主催の夜会に招待されました」
「そうか。エリンのドレスや当日の馬車の手配をしないとなあ」
ふうと息を吐いて、ベンは顎に手をやる。
「セレナとクロエについては、考える」
ハリーとエリンが顔を見合わせて、黙り込んだ。
「それよりエリン。お前はその頭のまま夜会に出席するのか?」
ベンが呆れたようにエリンの前髪に視線をやる。前髪は伸ばしたい放題で後ろの髪も手入れをしていないので枝毛がある状態だ。
「……。さすがにまずいかなあと思って、お父様に髪のことはわからないですよね」
「その前髪を切るのか! 何度周囲の人間が切れと言っても聞かなかったお前が!」
男性であるベンが気になっていたとはと驚愕するとともにエリンは何故かかちんとした。だが、この髪をどうにかしないとまずい。パートナーのレヴィだけではなくて、ダグラス伯爵家の面子を潰す。
「お父様に言われたくないですけど、前髪も後ろの髪も切りますよ」
エリンがそう言うなり、ベンがぱんぱんと手を鳴らした。どどっとスミス家の使用人たちが現れる。
「お、お父様?」
エリンとハリーは、何が行われるのだろうと二人で再び顔を見合わせる。
「エリン様!」
スミス家の家政婦がじゃらじゃらと腰の鍵を鳴らしながらエリンに近づいてくる。いつもはしかめっ面の顔が若干緩んでいる。
「まあまあ。エリン様が髪をお切りになられるとは……。このマチルダ、嬉しいです」
そっと涙をハンカチで押さえると、さっと侍女たちに目を光らせる。
「エリン様を徹底的にお綺麗にして!」
スミス家の女性の使用人たちに指で指図する。
「え? え……」
エリンとハリーは恐怖のあまり、二人で手を取り合い、固まった。
だが、エリンが侍女たちに連れ去られると、ハリーはさっとベンの後ろに隠れた。
「ハリー! ちょっと助けて!」
「エリンお姉様! 頑張って~!」
ベンの後ろから現れて、ハリーは手をぶんぶんと振る。
「この裏切り者!」
調子のいい弟にエリンは絶叫した。
エリンは、まずは風呂に放り込まれて身体を洗われると、次に身体中に香油をぬられてマッサージされた。そして、最後に手入れをされた髪にハサミを入れられる。大きな姿見の前でジョキンと言う音と共に傷んだ後ろの髪が切られる。
「エリン様、それでは前髪を切りますよ!」
ベン付きの侍女の声がする。ジョキンという音がして前髪から隠した青の大きな瞳が現れる。エリンを守護する水の精霊の女王が印を瞳につけた色彩だ。レヴィならば炎の精霊王が守っているので紅の瞳という色彩だ。
「まあ! 精霊様が付けたお印のお綺麗な色合いの青の瞳が見えてますよ!」
スペンサー王国の民ならば誰でも精霊の愛し子になることに憧れる。そしてその愛し子たちは敬愛される。物心ついた時にはセレナとクロエとそのお付きの者たちに気持ち悪いと言われてきたエリンは、敬愛されることに慣れないでいた。
大きな姿見には水の精霊の女王の印の濁りのない、青の色彩を記された大きな瞳の愛くるしい少女が移っていた。
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