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別れ
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忘れることはない、暑さを感じ春の終わりを確かに感じた日だった。
カリーナ・エルサ・ワーデンが小さな風邪を拗らせて息を引き取った。
利発で、儚さとは無縁な印象を与えていた彼女は、やつれることもなく、美しい姿のままその生涯を閉じた。
死ぬ直前まで、周りは顔色は悪いが快方に向かっていると考えていたのだが、心配したアルベルトが帰宅した日の夜、眠ったまま息を引き取った。
異変に気付いたのは、寝る前に一度様子を見たいと訪れたアルベルトだった。
何かがおかしいと感じて触れると、既に身体は冷え始めていた。わすがに心臓は動いていたため、すぐに医師が呼ばれたが、到着した頃にはカリーナの心臓は動きを止めていたという。
風邪ではなかったのかもしれないが、毒物などは否定され、それまでの見立て通り、悪い風邪を拗らせてしまったのだろうと結論づけられた。
当たり前のように寝ていたシュゼインも、母のもとに呼ばれた。寝室に入ると、母を抱きしめて泣く父のもとにゆっくりと歩み、半分夢の中で父の背中を撫でた。父に何かとても悲しいことが起こったのだ。何がそんなに悲しいのかと考えながらいつも母がしてくれたように父の背中を撫でた。
呼んでも目を開けることはなく、触れても温かさのない母を、母が人形になったのだと思った。
死を真に理解するにはシュゼインはまだ幼すぎた。
中一日空け、ラタンの棺に寝かされたカリーナを包み込むように、たくさんの手紙が一緒に入れられた。その中にシュゼインも一つ手紙を忍ばせた。
大好きな気持ちをたくさん書いた手紙を母に送ろうと、昨晩、アルベルトと一緒に描いたものだった。
そして手紙の上からたくさんのかすみ草を入れた。
白い花で囲まれたカリーナはウェディングドレスを纏っているようだと、花を入れているカリーナの母が呟くと、皆が納得した。
集まった家族たちは、棺に花を入れる度にこの現実を受け入れるしかないのだと、自分に言い聞かせていた。
母はこれから旅に出ると聞いたシュゼインは、黄色い水仙を一輪真っ白な母の上に置いた。
これを見れば母はすぐにでも帰ってきたくなるかもしれないね。とたくさんの花を持ってきた男が言ったからだった。
そして、アルベルトも大きな花びらの、淡いピンク色をしたカタクリの花を水仙に沿わせるようにカリーナの胸元に置き、カリーナの額に唇を落とし、名残惜しむように頬を撫でていた。
全員が一つずつ花を入れ終わるとコンラトがアルベルトの後ろへ歩み寄り腰を折った。
「…マイロード…そろそろお時間です」
慈愛を隠さず、しかし落ち着いてしっかりとした声だった。
普段は飄々としているのにどこか威厳のある近寄り難さを感じる風なのだが、それは作られた印象だったのかもしれない。
「あぁ、そうだな。シュゼインおいで、カリーナに最後の挨拶を」
最後にゆっくりと頬に唇を落とすと、アルベルトはカリーナの足元にいたシュゼインを呼び寄せ、抱き上げた。
「母上、大好きなので早く帰ってきてくださいね」
シュゼインが身を乗り出して母の頭を撫でると、皆が声を押し殺して涙を流した。
カリーナ・エルサ・ワーデンが小さな風邪を拗らせて息を引き取った。
利発で、儚さとは無縁な印象を与えていた彼女は、やつれることもなく、美しい姿のままその生涯を閉じた。
死ぬ直前まで、周りは顔色は悪いが快方に向かっていると考えていたのだが、心配したアルベルトが帰宅した日の夜、眠ったまま息を引き取った。
異変に気付いたのは、寝る前に一度様子を見たいと訪れたアルベルトだった。
何かがおかしいと感じて触れると、既に身体は冷え始めていた。わすがに心臓は動いていたため、すぐに医師が呼ばれたが、到着した頃にはカリーナの心臓は動きを止めていたという。
風邪ではなかったのかもしれないが、毒物などは否定され、それまでの見立て通り、悪い風邪を拗らせてしまったのだろうと結論づけられた。
当たり前のように寝ていたシュゼインも、母のもとに呼ばれた。寝室に入ると、母を抱きしめて泣く父のもとにゆっくりと歩み、半分夢の中で父の背中を撫でた。父に何かとても悲しいことが起こったのだ。何がそんなに悲しいのかと考えながらいつも母がしてくれたように父の背中を撫でた。
呼んでも目を開けることはなく、触れても温かさのない母を、母が人形になったのだと思った。
死を真に理解するにはシュゼインはまだ幼すぎた。
中一日空け、ラタンの棺に寝かされたカリーナを包み込むように、たくさんの手紙が一緒に入れられた。その中にシュゼインも一つ手紙を忍ばせた。
大好きな気持ちをたくさん書いた手紙を母に送ろうと、昨晩、アルベルトと一緒に描いたものだった。
そして手紙の上からたくさんのかすみ草を入れた。
白い花で囲まれたカリーナはウェディングドレスを纏っているようだと、花を入れているカリーナの母が呟くと、皆が納得した。
集まった家族たちは、棺に花を入れる度にこの現実を受け入れるしかないのだと、自分に言い聞かせていた。
母はこれから旅に出ると聞いたシュゼインは、黄色い水仙を一輪真っ白な母の上に置いた。
これを見れば母はすぐにでも帰ってきたくなるかもしれないね。とたくさんの花を持ってきた男が言ったからだった。
そして、アルベルトも大きな花びらの、淡いピンク色をしたカタクリの花を水仙に沿わせるようにカリーナの胸元に置き、カリーナの額に唇を落とし、名残惜しむように頬を撫でていた。
全員が一つずつ花を入れ終わるとコンラトがアルベルトの後ろへ歩み寄り腰を折った。
「…マイロード…そろそろお時間です」
慈愛を隠さず、しかし落ち着いてしっかりとした声だった。
普段は飄々としているのにどこか威厳のある近寄り難さを感じる風なのだが、それは作られた印象だったのかもしれない。
「あぁ、そうだな。シュゼインおいで、カリーナに最後の挨拶を」
最後にゆっくりと頬に唇を落とすと、アルベルトはカリーナの足元にいたシュゼインを呼び寄せ、抱き上げた。
「母上、大好きなので早く帰ってきてくださいね」
シュゼインが身を乗り出して母の頭を撫でると、皆が声を押し殺して涙を流した。
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