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芽生え
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公爵家であるアウストリア家から縁談がくれば間違いなく嬉々として受け入れることだろう。
さらに言えば母親は友人同士。
喜び舞い上がる母の顔が浮かんだ。侯爵家の娘であるので、政略結婚も覚悟はできている。
王家の2人の殿下の正妃候補として、同じ年代の娘をもつ有力貴族は婚約を控えていた。それが最近になって第二王子の婚約者も決まったことから、伯爵家以上の娘は縁談の山を抱えきれないほどに抱えている。
侯爵家となると下位貴族からの縁談は来ないため伯爵家ほど山のような縁談はないのだが、それでもそれなりにカリーナの元にも縁談が舞い込んできていた。
考える余地はあるかもしれない。しかしそれが問題だ。
政略結婚でとんでもないところに嫁がされる心配がなくなるだけでもメリットはある。
ジャクリーンも今はこんなポンコツの塊のような男だが、勤勉で自領に対しても真面目に向き合っているようだし、人間関係も良好そうなのだが、カリーナには心を寄せる人がいた。
それがアルベルト・ワーデンだった。
「ジャクリーン、貴方の言う通りアウストリア家から縁談が来れば、メリットしかないわ。私の気持ちは別として、貴方と結婚することになるでしょう。でも、私の心を無視した政略結婚のようなことをしても、貴方に愛を返すことが出来ないと思うわ。愛のある結婚を望んでいる貴方に、その方法だけはとって欲しくないというのが私の本音よ。ごめんなさい。私は片想いだけれど好きな人がいるの。私のことを本当に想ってくれているのなら、私の気持ちが変わるまで縁談の話は待っていてもらえないかしら」
真剣な気持ちには真剣に答えなければならない。
ジャクリーンの言葉は思ったことを何も考えず押し付けるのではなく、家のメリットを持ち出した少し小狡さはあったものの、篤実さを感じさせる言葉だった。
だからこそ、カリーナも嘘偽りなく返すべきだろうと考えたのだ。
ジャクリーンの目を見れば、傷付いていることは明らかだった。泣いてしまうのではないかと言うほど眉も目も垂れ下がっている。
「本音を言えば、君に想い人がいると聞いて、君が手に入るのなら無理をしてでも、今すぐに、縁談を申し込みたい気持ちだけど、君に振り向いてもらえるように僕は努力をする。少しだけでも僕を頭の片隅に置いて考えてくれないだろうか」
可愛らしさの残る丸い目がカリーナを見上げるようにしている。
罪悪感に押しつぶされそうだった。
男の人だと忘れたことはなかったが、恋愛対象としてジャクリーンを見たことは一度もなかった。
それでも昔から好感の持てる男として捉えていた。友人としてこれからも良い関係を築いていくものだと思っていた。
「ごめんなさい。私は先程の発言を訂正しなくてはいけないわ。出来れば気持ちが変わるのを待って欲しいと言ったけれど、あれは期待を持たせる不適切な言葉選びだった。今、私の気持ちはジャクリーンにはないの。これだけはしっかり伝えなくてはいけなかった。貴方の気持ちはとっても驚いたし、とっても光栄なことよ。そしてとっても嬉しい。だけど、同じくらい困惑しているの。それは今の私では大切な貴方を傷つける未来しか用意できないと分かっているからなの。本当にごめんなさい」
閉じた扇を握った右手が震えるのを力を入れて無理やり抑える。
もうジャクリーンを見据えるだけの余裕はなかった。
真剣に向き合っている友人を傷付けているという事実が、胸を締め付けた。
気を抜けば泣いてしまいそうだった。逃げることは簡単に出来ただろうが、すべてジャクリーンに押し付けて逃げるようなことはしたくなかった。
彼は真っ直ぐな人だ。だからカリーナも自分の気持ちを真っ直ぐにぶつけたのだろう。
それが彼の為にできる唯一のことだった。
カリーナの長いまつ毛が伏せた大きな目に影を落としていた。
そして気持ちの良い風が何度か2人の間を通り過ぎていた。
「君の気持ちは分かった。それでも僕はカリーナが好きだよ。振られてしまったからってそれが変わるわけじゃない。でも、そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。僕はまた間違えたみたいだね。僕が君を好きだということを忘れないでいてくれたら今回はもうそれでいいよ。」
眉も目も垂れ下がったままにっこりと笑みを見せたジャクリーンを見て、更に追い込まれたような気持ちになったカリーナは、コクリとうなづくことしか出来なかった。
言葉を出したら泣く資格なんかないのに涙がこぼれ落ちてしまいそうだった。
さらに言えば母親は友人同士。
喜び舞い上がる母の顔が浮かんだ。侯爵家の娘であるので、政略結婚も覚悟はできている。
王家の2人の殿下の正妃候補として、同じ年代の娘をもつ有力貴族は婚約を控えていた。それが最近になって第二王子の婚約者も決まったことから、伯爵家以上の娘は縁談の山を抱えきれないほどに抱えている。
侯爵家となると下位貴族からの縁談は来ないため伯爵家ほど山のような縁談はないのだが、それでもそれなりにカリーナの元にも縁談が舞い込んできていた。
考える余地はあるかもしれない。しかしそれが問題だ。
政略結婚でとんでもないところに嫁がされる心配がなくなるだけでもメリットはある。
ジャクリーンも今はこんなポンコツの塊のような男だが、勤勉で自領に対しても真面目に向き合っているようだし、人間関係も良好そうなのだが、カリーナには心を寄せる人がいた。
それがアルベルト・ワーデンだった。
「ジャクリーン、貴方の言う通りアウストリア家から縁談が来れば、メリットしかないわ。私の気持ちは別として、貴方と結婚することになるでしょう。でも、私の心を無視した政略結婚のようなことをしても、貴方に愛を返すことが出来ないと思うわ。愛のある結婚を望んでいる貴方に、その方法だけはとって欲しくないというのが私の本音よ。ごめんなさい。私は片想いだけれど好きな人がいるの。私のことを本当に想ってくれているのなら、私の気持ちが変わるまで縁談の話は待っていてもらえないかしら」
真剣な気持ちには真剣に答えなければならない。
ジャクリーンの言葉は思ったことを何も考えず押し付けるのではなく、家のメリットを持ち出した少し小狡さはあったものの、篤実さを感じさせる言葉だった。
だからこそ、カリーナも嘘偽りなく返すべきだろうと考えたのだ。
ジャクリーンの目を見れば、傷付いていることは明らかだった。泣いてしまうのではないかと言うほど眉も目も垂れ下がっている。
「本音を言えば、君に想い人がいると聞いて、君が手に入るのなら無理をしてでも、今すぐに、縁談を申し込みたい気持ちだけど、君に振り向いてもらえるように僕は努力をする。少しだけでも僕を頭の片隅に置いて考えてくれないだろうか」
可愛らしさの残る丸い目がカリーナを見上げるようにしている。
罪悪感に押しつぶされそうだった。
男の人だと忘れたことはなかったが、恋愛対象としてジャクリーンを見たことは一度もなかった。
それでも昔から好感の持てる男として捉えていた。友人としてこれからも良い関係を築いていくものだと思っていた。
「ごめんなさい。私は先程の発言を訂正しなくてはいけないわ。出来れば気持ちが変わるのを待って欲しいと言ったけれど、あれは期待を持たせる不適切な言葉選びだった。今、私の気持ちはジャクリーンにはないの。これだけはしっかり伝えなくてはいけなかった。貴方の気持ちはとっても驚いたし、とっても光栄なことよ。そしてとっても嬉しい。だけど、同じくらい困惑しているの。それは今の私では大切な貴方を傷つける未来しか用意できないと分かっているからなの。本当にごめんなさい」
閉じた扇を握った右手が震えるのを力を入れて無理やり抑える。
もうジャクリーンを見据えるだけの余裕はなかった。
真剣に向き合っている友人を傷付けているという事実が、胸を締め付けた。
気を抜けば泣いてしまいそうだった。逃げることは簡単に出来ただろうが、すべてジャクリーンに押し付けて逃げるようなことはしたくなかった。
彼は真っ直ぐな人だ。だからカリーナも自分の気持ちを真っ直ぐにぶつけたのだろう。
それが彼の為にできる唯一のことだった。
カリーナの長いまつ毛が伏せた大きな目に影を落としていた。
そして気持ちの良い風が何度か2人の間を通り過ぎていた。
「君の気持ちは分かった。それでも僕はカリーナが好きだよ。振られてしまったからってそれが変わるわけじゃない。でも、そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。僕はまた間違えたみたいだね。僕が君を好きだということを忘れないでいてくれたら今回はもうそれでいいよ。」
眉も目も垂れ下がったままにっこりと笑みを見せたジャクリーンを見て、更に追い込まれたような気持ちになったカリーナは、コクリとうなづくことしか出来なかった。
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