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婚約期間はおかず、教会が押さえられ次第婚姻の発表をし、同時に1ヶ月後に結婚式を行うことを発表するが決まり、ステファニーは発表に合わせて1年間休学をすることになった。
ドレスを新調するであろう招待客のことを考えると、1ヶ月後というのはかなりギリギリだったが、ジャクリーンの話を丸ごと承諾し文句は言わなかった。そのかわり、その急な手配はアウストリア家で行うようにと、自然な流れで丸ごとそのまま押しつけていた。
アルベルトは学園へ通うために王都の屋敷に滞在しているシュゼインに、屋敷を渡すことにした。
当主の座は今は渡せないが、学園の卒業後には伯爵の地位を継ぐためその方がいいだろうという判断だった。
その為、アルベルトは新たに王都の屋敷を購入することになった。さらに今回結婚に合わせて1ヶ月以内に引っ越すということで、式の段取りをアウストリア家へ押し付けても、慌ただしい日が続くことになるだろう。
屋敷はすでにいくつか目星を付けていたがまだ決まってはいない。
話もまとまりかけたその時、応接室のドアがノックされ、侍女が対応しようとしたが、そのまま扉は大きく開かれ、バタンと音を立てた。
「あなた。今日私が出掛けると知っていて大切なお客様を呼ぶなんてどういうことなのか説明してくださる?」
そこに現れたのはバタンと音を立てて扉を開けた人物とは思えないほど姿勢がよく、深い緑のドレスに白いレースを上品に誂えた貴婦人だった。
鼻筋は綺麗に通り、派手さのある顔の作りだが、気品漂う控えめさも同時に感じる。
「イリアどうして…」
ジャクリーンはポカンと口を開けていた。
アルベルトとシュゼインはすぐに分かった。ジャクリーンの妻だと。
夜会には出ず、数人の友達の前にしか姿を表さないという彼女、イリア・ロベール。
今はイリア・アウストリアなのだが、旧姓であるイリア・ロベールとして作家活動をしているため、世の中は今でもイリア・ロベールとして周知してしまっている。
本を出せば即日完売。初版本はどの本も欲しいと願う人が多く、高値で取引されている。
さらに、重版をするごとに、表紙に使われる紙を変えるというという独自性が受け、重版してもすぐに売り切れてしまう。
舞台の台本にも手を出すようになり、イリア・ロベールをこの国で知らない者はいない。
アルベルトは彼女とは特進科へ進むまで同じクラスであり、なによりも、シュゼインと名付けるきっかけになった、カリーナの愛読書の作者がイリア・ロベールであった。
シュゼインは幼い頃から何度も会っている。
カリーナが生きていた頃はワーデン家でのお茶会に来ていたし、カリーナが亡くなってからも、新作を出すと本を持って王都のワーデン家の屋敷を訪れていたからだ。
ワーデン家の書室にはイリア・ロベールの全ての初版本が並んでいる。
「久しぶりだなイリア・ロベール」
形だけの挨拶をせずとも、アルベルトに文句を言う者はこの場にはいない。
彼は昔からこうであるし、シュゼインにも見慣れた対応だった。
「恥ずかしいところを見せたわ。アルベルト、本当に久しぶりに顔を見るわね。シュゼインの方がよっぽど顔を合わせるわ。この間ぶりね、シュゼイン」
2人に目線を送り、澄ましたように微笑んだ後、彼女はジャクリーンをどかすように対面のソファーへ座った。
「ごめんなさいね、うちの主人と娘がお馬鹿でご迷惑をかけて。本当に恥ずかしい限りだわ。こちらの面子を考えて挨拶にいらしたのでしょうけど、本来ならそれすらも失礼なこと。この度の事はワーデン家には謝っても償い切れません。本当に申し訳ありませんでした」
そのまま深く頭を下げるその姿勢すらも美しく、滑らかに流れるような動作に、流石は公爵家の嫁だと感じさせた。
場を制しているのは頭を下げている彼女なのだ。
「イリア・ロベール。頭を上げてくれ。うちの息子も甘かったんだ。しかし、我々の気持ちを汲んでくれた謝罪には感謝する」
アルベルトはジャクリーンと話していた時とは別人のようにまじめに答えた。
ジャクリーンは一度も謝らなかった。謝って欲しかったわけでもないし、むしろ驚いた程のことだったが、やはりどこかで釈然としないものはどこかに残っていたのだろう。体を脱ぎ捨ててしまったのかというほどにシュゼインの心が軽くなった。
「いいえ、夫と娘のした事は許されることではありません。公爵家の娘という逃れられない責務のためにここにいるだけのこと。娘は真に幸せになれる事はこの先ないでしょう。自分の罪を背負い生きていくのです。たくさんの不幸の下に自分はいるのだと感じながら……。娘とは形だけの婚姻で構いません。子だけはそうはいかないと思いますが、娘は我が家で幽閉することだって出来ます。アルベルトとシュゼイン、それからハイランス家にもこの結末からでも得られる幸せを探して欲しいのです。大切な友人たちをこんな茶番に巻き込んでおいて、申し訳ないとしか言えないなんて、自分にとても失望しているの。カリーナに合わせる顔もないわ」
その美しい顔を苦い物でも噛んだかのように歪ませたイリアは、この結末自体を許せないようだった。
自分の友人であり、亡くした友人の家族でもある彼らの幸せを祈っていたのに、自分の家族がその幸せを奪ったという事実が彼女の心を締め付けていた。
ドレスを新調するであろう招待客のことを考えると、1ヶ月後というのはかなりギリギリだったが、ジャクリーンの話を丸ごと承諾し文句は言わなかった。そのかわり、その急な手配はアウストリア家で行うようにと、自然な流れで丸ごとそのまま押しつけていた。
アルベルトは学園へ通うために王都の屋敷に滞在しているシュゼインに、屋敷を渡すことにした。
当主の座は今は渡せないが、学園の卒業後には伯爵の地位を継ぐためその方がいいだろうという判断だった。
その為、アルベルトは新たに王都の屋敷を購入することになった。さらに今回結婚に合わせて1ヶ月以内に引っ越すということで、式の段取りをアウストリア家へ押し付けても、慌ただしい日が続くことになるだろう。
屋敷はすでにいくつか目星を付けていたがまだ決まってはいない。
話もまとまりかけたその時、応接室のドアがノックされ、侍女が対応しようとしたが、そのまま扉は大きく開かれ、バタンと音を立てた。
「あなた。今日私が出掛けると知っていて大切なお客様を呼ぶなんてどういうことなのか説明してくださる?」
そこに現れたのはバタンと音を立てて扉を開けた人物とは思えないほど姿勢がよく、深い緑のドレスに白いレースを上品に誂えた貴婦人だった。
鼻筋は綺麗に通り、派手さのある顔の作りだが、気品漂う控えめさも同時に感じる。
「イリアどうして…」
ジャクリーンはポカンと口を開けていた。
アルベルトとシュゼインはすぐに分かった。ジャクリーンの妻だと。
夜会には出ず、数人の友達の前にしか姿を表さないという彼女、イリア・ロベール。
今はイリア・アウストリアなのだが、旧姓であるイリア・ロベールとして作家活動をしているため、世の中は今でもイリア・ロベールとして周知してしまっている。
本を出せば即日完売。初版本はどの本も欲しいと願う人が多く、高値で取引されている。
さらに、重版をするごとに、表紙に使われる紙を変えるというという独自性が受け、重版してもすぐに売り切れてしまう。
舞台の台本にも手を出すようになり、イリア・ロベールをこの国で知らない者はいない。
アルベルトは彼女とは特進科へ進むまで同じクラスであり、なによりも、シュゼインと名付けるきっかけになった、カリーナの愛読書の作者がイリア・ロベールであった。
シュゼインは幼い頃から何度も会っている。
カリーナが生きていた頃はワーデン家でのお茶会に来ていたし、カリーナが亡くなってからも、新作を出すと本を持って王都のワーデン家の屋敷を訪れていたからだ。
ワーデン家の書室にはイリア・ロベールの全ての初版本が並んでいる。
「久しぶりだなイリア・ロベール」
形だけの挨拶をせずとも、アルベルトに文句を言う者はこの場にはいない。
彼は昔からこうであるし、シュゼインにも見慣れた対応だった。
「恥ずかしいところを見せたわ。アルベルト、本当に久しぶりに顔を見るわね。シュゼインの方がよっぽど顔を合わせるわ。この間ぶりね、シュゼイン」
2人に目線を送り、澄ましたように微笑んだ後、彼女はジャクリーンをどかすように対面のソファーへ座った。
「ごめんなさいね、うちの主人と娘がお馬鹿でご迷惑をかけて。本当に恥ずかしい限りだわ。こちらの面子を考えて挨拶にいらしたのでしょうけど、本来ならそれすらも失礼なこと。この度の事はワーデン家には謝っても償い切れません。本当に申し訳ありませんでした」
そのまま深く頭を下げるその姿勢すらも美しく、滑らかに流れるような動作に、流石は公爵家の嫁だと感じさせた。
場を制しているのは頭を下げている彼女なのだ。
「イリア・ロベール。頭を上げてくれ。うちの息子も甘かったんだ。しかし、我々の気持ちを汲んでくれた謝罪には感謝する」
アルベルトはジャクリーンと話していた時とは別人のようにまじめに答えた。
ジャクリーンは一度も謝らなかった。謝って欲しかったわけでもないし、むしろ驚いた程のことだったが、やはりどこかで釈然としないものはどこかに残っていたのだろう。体を脱ぎ捨ててしまったのかというほどにシュゼインの心が軽くなった。
「いいえ、夫と娘のした事は許されることではありません。公爵家の娘という逃れられない責務のためにここにいるだけのこと。娘は真に幸せになれる事はこの先ないでしょう。自分の罪を背負い生きていくのです。たくさんの不幸の下に自分はいるのだと感じながら……。娘とは形だけの婚姻で構いません。子だけはそうはいかないと思いますが、娘は我が家で幽閉することだって出来ます。アルベルトとシュゼイン、それからハイランス家にもこの結末からでも得られる幸せを探して欲しいのです。大切な友人たちをこんな茶番に巻き込んでおいて、申し訳ないとしか言えないなんて、自分にとても失望しているの。カリーナに合わせる顔もないわ」
その美しい顔を苦い物でも噛んだかのように歪ませたイリアは、この結末自体を許せないようだった。
自分の友人であり、亡くした友人の家族でもある彼らの幸せを祈っていたのに、自分の家族がその幸せを奪ったという事実が彼女の心を締め付けていた。
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