クロッカ・マーガレット・ハイランスの婚約破棄は初恋と共に

佐原香奈

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気持ち

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いつかクロッカを自分の元に戻すつもりでいるとシュゼインに聞いた時、アルベルトは身体中に怒りに満ちるような感覚に襲われていた。


いつかでは遅いのだと。いつかと言ってる内はそのいつかは来る事はない。
明確なビジョンもなく、ただただ夢物語を願っているだけなのだ。


「お前ではクロッカを修道院へ行かせる事を止める事はできない。諦めろ」


賭けに負けた自分を嘲笑いながらもシュゼインにも失望していた。
自分の見立てが甘かったのだと苦水を飲むことになったのだ。
自分がまだ婚約者であるうちに修道院行きを止めなければならない。


アルベルトはこれまでになく焦っていた。







アルベルトの言葉に漸く追いついたイリアは首を傾げた。では何故そんな話をするのかと。



「君ならカリーナの気持ちが分かるのではないかと思って尋ねて来たんだ」



アルベルトはクロッカを名実ともに妻にすることに決めていた。
しかしそうなると、やはり妻はカリーナだけだと思う自分がいる。
クロッカの言い放った言葉たちが、妻にする事を決めたアルベルトの手を止めさせるのだ。
愛せないのなら妻にするべきではないと。



「仰っている意味がわかりませんわ」




イリアは困惑していた。
眉を寄せ、視線を逸らしたままのアルベルトの様子を伺うように見つめる。



「隠れ蓑ではなく、クロッカを妻に置きたいと考えているんだ。シュゼインにはステファニーを捨てる覚悟も公爵家を敵に回す覚悟もないんだ。官職のみとなる私の妻になっても彼女の才は生かせない。それでも彼女を失いたくないと思うんだよ」


こんなことを話すのは不服だとでも言うように口元を隠し、決してイリアを見ようとはしない。
こんなアルベルトを見る日が来るとは誰が想像できただろうか。


「まさかあなた、恋愛相談をしにこちらにいらしたの!?」


思わず立ち上がってしまったイリアは驚愕していた。
冷静になれば聞きたい事は山ほどある。しかしそれどころではなかった。
目の前にいるのは、カリーナを嵐のように一瞬で奪っていった男だ。
それがハイランス伯爵令嬢を妻に置きたいと考えているのに行動に移さず思い悩んでいる。


しかも、カリーナへの裏切りと考えているのなら妻に置きたいと考えるわけもない。
その選択を絶対にしない男がアルベルトだと思っていたのだ。信じられない話である。



「恋愛と言えばそうかもしれないが、まだ私には娘にしか思えていない。ハイランス嬢にも婚約する前に、自分を愛さない男の妻になるくらいなら修道院にいった方がマシだと言われているんだ。実際今は婚約破棄される寸前の状態なんだ」



あのアルベルトがフラれる寸前とは信じ難い。
ハイランス伯爵令嬢はそれほど凄い娘なのだろう。
自分がアルベルトを見下げていることにここでやっと気づいた。
何事もなかったように座り直して一口お茶を含むと少し冷静さが戻ってきた気がした。


「ハイランス伯爵令嬢は、あなたとの婚約する事を拒否していたような言い方ですが、シュゼインと結ばれる為の婚約だったのでしょう。ハイランス伯爵令嬢はあくまでシュゼインが離婚して、正式に婚姻を結びたいと考えているということですの?今はそれがダメそうだから婚約破棄するとおっしゃっていると…」



イリアはまず、そのありえない情報を整理しようと考えた。事実確認というのはとても大事なものである。



「いや、ハイランス嬢は今でも知らないんだ。シュゼインが全てを捨てる覚悟を持てなければ辛いだけだと思って話していない。ただ私は時間稼ぎのつもりで手元に置いたに過ぎないが、彼女はそれを知らないんだ。2年経っても娘にしか見えないなら婚約を継続するのは無意味だと考えたようで、婚約破棄寸前というわけだ」



右から左へ言葉が流れていくようにイリアの頭には文字が入ってこなかった。
もう一度アルベルトのセリフを頭の中で再生させた。


イリアの頭の中ではクロッカの立場で物語が進んでいた。
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