クロッカ・マーガレット・ハイランスの婚約破棄は初恋と共に

佐原香奈

文字の大きさ
61 / 130
気持ち

3

しおりを挟む
シュゼインが心を抑えきれず猪突猛進とクロッカの元へと向かってしまったのと時を同じくして、何も知らないアルベルトは王都のアウストリア家へ足を運んでいた。



「アルベルトが私を訪ねてくるなんて初めてのことね。いい話では無さそう」


アルベルトが案内されて応接室に入るなり、イリアはくすりと笑った。
赤い紅がその上がった口元を強調している。
赤い紅にボリュームのある赤いドレス。夜会にいたら勝負服と言えそうな出で立ちだった。



「久しぶりだね。イリア・ロベール」



「久しぶりでないことなんて一度もないわ。さぁ、どうぞお座りになって」



アルベルトが座るとすぐに紅茶の入ったカップが出された。
カップの縁の外側に青と緑の2本の線が入っている。
イディル地方の腕のある職人にデザインを渡して作らせブランド化させたティーセットだった。ワーデン領主となってからアルベルトが成功させた事業の一つである。


「これはPLANETの新作のティーセットだね。使ってもらえていて嬉しいよ」


「えぇ。イディルの技術と洗練されたこのデザイン。そして一目でPLANETだと分かるこのライン。気に入っているのよ」


「2本のラインを提案したのはカリーナだった。喜んでいるだろう」


焼き物の産地として有名となったイディルだが、その地域の中でも作り手によって技術力には差があるのは当然のこと。
それをブランド化することでイディル産のものでも最高級品と認識させるものを作った。
この青と緑の線は空と木々の色。カリーナが試作品から迷わずに選んだ色だった。


PLANETはワーデン家が独占権を持ち、各商会へ卸している。
ラースロー家に唯一与えることが出来たアルベルトとの婚姻での利益と言っていい。


「そうね…それで、私への用とはどんなことなのかしら」



うっとりと見ていたカップからアルベルトに視線を移す。
アルベルトは出来ればしたくなかった話を持ってここへ来たのだ。
アルベルトの表情が曇っていく。
イリアはそれにもちろん気付いていた。



「君は私がハイランス嬢と婚約したのがシュゼインの為だと思っていたんだよな?それが違うと分かった時どう思った」



「そうね……意外だったとか、考えすぎだったのかとかそんなすぐに忘れてしまうようなことしか思ってなかったけど、それが今日いらしたこととどう関係が?」



イリアはアルベルトが訪問すると聞いて、これは良くない話なのではないかと思っていた。
出来れば早く本題に入りたい。カリーナの話を切りあげるほど、心は落ち着かなかった。



「息子とハイランス嬢の隠れ蓑に、私との結婚を使うつもりはなかった。しかしそれは、息子がどう足掻いても結局はハイランス嬢を選ぶと思っていたからなんだ。私も領地を継ぐ息子の横には、ハイランス嬢に立って欲しいと考えていて、彼女がいれば公爵家と離縁しても最終的には領地は発展するだろうと…思っていたんだ。彼女が修道院へ入ったり、他の者に取られないようにとハイランス嬢を自分で囲いこむことにした。アウストリア家は一度婚姻さえ結べば離縁は受けざるを得ないだろうという打算があった。申し訳ない」



ブルーグレーの彼の髪は頭を下げても乱れる事はない。
髪はふわりと風が撫でたように流れているのに不思議なものだ。


「そう。幽閉すら考えていたのですもの、離縁を申し出されたらもちろん受けたでしょうし、この場で申し込まれても迷わず受け入れる事でしょう。それが今日の目的ということ…いや…あなたはこれから2人の隠れ蓑になるつもり。ということかしら?」


やはり…イリアは想定していた話の流れに、心の中でため息をついた。
2年経っての離縁というのは世間的に見ても早すぎる訳ではないだろう。
しかし、公爵家との縁を切ることになる伯爵家は、他の貴族の忖度により支援する者がいなくなるのは予想が出来る。
欲しいものは全て手に入れるアルベルトが、それを許すとは思えなかった。
とすれば、2年前否定した幽閉を望むということではないだろうか。
世間的には婚姻は続け、ステファニーはアウストリア家で人の目に触れぬよう幽閉し、ハイランス嬢と事実上の結婚生活を送る…アルベルトと婚姻をしていれば、ハイランス嬢が子を孕んだとしてもアルベルトの子とすれば、表面上問題はなくなる。
2年前にはそれが出来ない理由があったということだろう。
イリアは覚悟を決めていた。



「流石はイリア・ロベール。しかし、今日はそんなお願いに来たわけではない」


イリアはこれからのアウストリア家としての対応に思考が巡っていた。
早急にステファニーの姉であるフランソワの縁談を決めるべきだし、幽閉するなら離れを人の目に触れぬように対策しなければならない。


アルベルトの言葉を聞いても動き出した頭は暫く止められなかった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...