71 / 130
開かれた道
4
しおりを挟む
「そう捉えられても仕方ないな。大事なことが抜けていたよ。こちらからは留学生として送るが、アイナス帝国では女性官僚の視察を名目として賓客として扱われることになる。もちろん護衛も侍女も連れて行ってもらうし、下手に扱われる事は絶対にない」
フェリペは何が可笑しいのか笑いながら説明を付け足したのだが、賓客とすることが決まっているなら、既に皇帝にまで話が行っていると言うことだ。それこそ断れるわけが無い。全く笑えない話だった。
王国内で漏れることはなくても帝国には断ったことがダダ漏れということ。クロッカには拒否権などあるわけがなかった。
「お受け致しますが、視察を名目としても見るものの目がどれほど変わるか…殿下の名の下、私の身の安全の確保を条件にさせていただきます」
「いいだろう。私ではなく陛下勅命での視察とすればいい。国へ帰ることが目的だと皆が理解するだろう。学園の卒業時期に合わせて帰国し、そのまま君は外務大臣の補佐あたりに着任してもらう。それで、君たちの結婚はいつになるんだい。1ヶ月以内にはして欲しいのだが」
王妃が女性の社会活動の支援を発表している以上、卒業後に女官を割り当てられることはほぼないだろうとは思っていたが、外務大臣の補佐官とはまた大きい場所に当てがわれるなと思っていた。女性を奴隷の様に扱う国すらある。苦労することは目に見えている。
しかしそれよりもクロッカには疑問なことがあった。
殿下は結婚するものだと思っているのに帝国行きを当たり前のように提案した。
特進科への編入希望も知った上でなぜ当たり前に結婚をすると思っているのだろうか。
この頭の中を覗いてみたいと思うほど奇怪な話だ。
「特進科への希望も結婚する予定がないからですわ。お気遣いは無用です。殿下に嘘をつくわけにはいきません。正直に申しますと、アルベルトとはうまくいかなかったのです。しかし、こちらにはデメリットしかない婚約破棄をするのもおかしな話だと思い至り、私を傷つける結末は自分で用意させるべきだと放っておくことにしたのです」
フェリペはみるみると顔色を変え、目を段々と大きく開いていった。
クロッカは何でもないことのようにアールグレイを口に含み音も立てず喉に通す。
まだエドレッドとの話し合いもされていなかったので、フェリペが知らないのも無理はないことだった。
「おいおいおいおい。それでは君は婚約者を捨てて留学をするようなもんだ。とんでもない捉え方をされるぞ。」
フェリペ殿下は、アルベルトと結婚をする前提で留学の話を考えていた。アルベルトの権威も借り、既婚者であればありもしない疑惑が持ち上がることもないと考えていたのだ。
今国民の先頭に立っているような立場のクロッカに、実際にどういう反応が待っているかは分からない。
しかし、印象操作を間違えれば途端にクロッカの足元は崩れ去る事だろう。
それはクロッカのお陰で躍進した改革派も、そして改革派を押した王族も望まないことだった。
「そうは言われましても、これはアルベルトが引き起こしたこと。私の名誉など元からありませんもの。その分私は努力をするまでのこと。大したことじゃありませんわ」
「努力が認められるまでには時間がかかる。その間に叩き潰されることもあるのだぞ?」
フェリペとて、クロッカを可愛がっていた1人だ。
アルベルトがシュゼインの婚約者としていなかったら、甥たちの婚約者に押し上げたことだろう。
そのクロッカを苦労の道へ進ませることは本意ではない。
「そうですわね。それでも私は潰されるわけにはいきません。その悪意ごと潰す位でなければ、女である私が官職として認められるのは無理なことでしょう。」
クロッカは四面楚歌となるだろう未来に、相当の覚悟を持っていた。今はエドレッドとアルベルトの庇護下にいることを、伯爵令嬢として甘んじて受け入れているが、卒業後はそうはいかない。自分の手で自分を守れるだけの手段を持たなければいけない。
もちろん実家の伯爵家を頼ることは有るだろうが、それもデメリットを押し付けるようでは話にならないのだ。
「その覚悟があるならばそのままアルベルトと結婚しろ。自分を守る手段として利用してやればいい」
フェリペの言葉に、はたと思考が止まった。
しかし結局は自分の望まない結婚だと思い至る。
心から支え合える相手でないのなら、自分の道には邪魔なものでしかない。
「利用してやることは仕返しにはいいかもしれませんね。しかし、その仕返しで自分を傷つけてしまっては結局は後悔するだけ。自分のためにその選択をするわけにはいきませんの」
まっすぐに向き合いフェリペを見据える。
先に目を逸らし下を向いたのはフェリペだった。
「はぁ…分かった。しかし婚約破棄は帰国まではさせない。アルベルトにも私から話そう。君は準備を始めてくれ。出来るだけ早く出国の手続きを取ろう」
てっきり夫婦で官職になるものだと思っていたのだが。と残念そうに呟きながら去って行った彼の背中は、つい最近見たエドレッドの背中を思い起こさせるものだった。
違う所と言ったら、山盛りの焼き菓子を残して行ったことだろう。
フェリペは何が可笑しいのか笑いながら説明を付け足したのだが、賓客とすることが決まっているなら、既に皇帝にまで話が行っていると言うことだ。それこそ断れるわけが無い。全く笑えない話だった。
王国内で漏れることはなくても帝国には断ったことがダダ漏れということ。クロッカには拒否権などあるわけがなかった。
「お受け致しますが、視察を名目としても見るものの目がどれほど変わるか…殿下の名の下、私の身の安全の確保を条件にさせていただきます」
「いいだろう。私ではなく陛下勅命での視察とすればいい。国へ帰ることが目的だと皆が理解するだろう。学園の卒業時期に合わせて帰国し、そのまま君は外務大臣の補佐あたりに着任してもらう。それで、君たちの結婚はいつになるんだい。1ヶ月以内にはして欲しいのだが」
王妃が女性の社会活動の支援を発表している以上、卒業後に女官を割り当てられることはほぼないだろうとは思っていたが、外務大臣の補佐官とはまた大きい場所に当てがわれるなと思っていた。女性を奴隷の様に扱う国すらある。苦労することは目に見えている。
しかしそれよりもクロッカには疑問なことがあった。
殿下は結婚するものだと思っているのに帝国行きを当たり前のように提案した。
特進科への編入希望も知った上でなぜ当たり前に結婚をすると思っているのだろうか。
この頭の中を覗いてみたいと思うほど奇怪な話だ。
「特進科への希望も結婚する予定がないからですわ。お気遣いは無用です。殿下に嘘をつくわけにはいきません。正直に申しますと、アルベルトとはうまくいかなかったのです。しかし、こちらにはデメリットしかない婚約破棄をするのもおかしな話だと思い至り、私を傷つける結末は自分で用意させるべきだと放っておくことにしたのです」
フェリペはみるみると顔色を変え、目を段々と大きく開いていった。
クロッカは何でもないことのようにアールグレイを口に含み音も立てず喉に通す。
まだエドレッドとの話し合いもされていなかったので、フェリペが知らないのも無理はないことだった。
「おいおいおいおい。それでは君は婚約者を捨てて留学をするようなもんだ。とんでもない捉え方をされるぞ。」
フェリペ殿下は、アルベルトと結婚をする前提で留学の話を考えていた。アルベルトの権威も借り、既婚者であればありもしない疑惑が持ち上がることもないと考えていたのだ。
今国民の先頭に立っているような立場のクロッカに、実際にどういう反応が待っているかは分からない。
しかし、印象操作を間違えれば途端にクロッカの足元は崩れ去る事だろう。
それはクロッカのお陰で躍進した改革派も、そして改革派を押した王族も望まないことだった。
「そうは言われましても、これはアルベルトが引き起こしたこと。私の名誉など元からありませんもの。その分私は努力をするまでのこと。大したことじゃありませんわ」
「努力が認められるまでには時間がかかる。その間に叩き潰されることもあるのだぞ?」
フェリペとて、クロッカを可愛がっていた1人だ。
アルベルトがシュゼインの婚約者としていなかったら、甥たちの婚約者に押し上げたことだろう。
そのクロッカを苦労の道へ進ませることは本意ではない。
「そうですわね。それでも私は潰されるわけにはいきません。その悪意ごと潰す位でなければ、女である私が官職として認められるのは無理なことでしょう。」
クロッカは四面楚歌となるだろう未来に、相当の覚悟を持っていた。今はエドレッドとアルベルトの庇護下にいることを、伯爵令嬢として甘んじて受け入れているが、卒業後はそうはいかない。自分の手で自分を守れるだけの手段を持たなければいけない。
もちろん実家の伯爵家を頼ることは有るだろうが、それもデメリットを押し付けるようでは話にならないのだ。
「その覚悟があるならばそのままアルベルトと結婚しろ。自分を守る手段として利用してやればいい」
フェリペの言葉に、はたと思考が止まった。
しかし結局は自分の望まない結婚だと思い至る。
心から支え合える相手でないのなら、自分の道には邪魔なものでしかない。
「利用してやることは仕返しにはいいかもしれませんね。しかし、その仕返しで自分を傷つけてしまっては結局は後悔するだけ。自分のためにその選択をするわけにはいきませんの」
まっすぐに向き合いフェリペを見据える。
先に目を逸らし下を向いたのはフェリペだった。
「はぁ…分かった。しかし婚約破棄は帰国まではさせない。アルベルトにも私から話そう。君は準備を始めてくれ。出来るだけ早く出国の手続きを取ろう」
てっきり夫婦で官職になるものだと思っていたのだが。と残念そうに呟きながら去って行った彼の背中は、つい最近見たエドレッドの背中を思い起こさせるものだった。
違う所と言ったら、山盛りの焼き菓子を残して行ったことだろう。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる