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帰国の知らせ
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「答えていただきましょうか?」
パーティの夜の部も終わり、朝早くから起きているクロッカは早く部屋に帰りたいと思いながらも、2人掛けのソファに窮屈そうに座らされている男3人を眺めていた。
「フェリペ?何を黙っているのです?貴方が答えるのですよ?」
それぞれの膝の上には20キロの小麦粉の袋が乗り、袋を抱えるように小さくなっている3人は、いつものソファに踏ん反り返るような態度は取れない。
それが心理的にも作用しているのか、いつもの飄々としたフェリペは鳴りを潜めており、キャサリンはもう敬称もつけずに睨みつける。
「だから、黙っていたことはすまなかったと言っているだろう」
「過去を捏造するんじゃないっ!聞き直ったにも関わらず何も答えられない。あなたはオツムの中身を王国に置いて来たのかしら?」
「キャサリン妃、殿下にあまりに…「黙っていなさい」」
フェリペの護衛があまりの侮辱に声を掛けるが、声を掛けるならば、小麦の袋を3人に担がせて運ばせた時点が正解だっただろう。
「いい?クシュリプト王国のフェリペという王子が、ハイランス伯爵令嬢の視察にも協力している、アイナス帝国のキャサリン妃を陥れた。今日のことはそういうことよ?」
「なら私は解放してくれても…」
口を出したはいいが、キャサリンに威圧されて声が小さくなっていくホルスは、最後の方は話し始めたことを後悔しているようだった。
「貴方も私に嘘をついた1人でしょう。貴方に至っては陛下にも黙っているように依頼して。脳味噌が足りないならその小麦粉でも練って詰めておきなさい」
皇帝陛下にはホルスがパーティに出席することは伝えられていた。
アガトンが遅れた理由である橋の崩落による遠回りを、彼らも強いられた結果、遅れることになったらしい。
「私はサプライズに喜ぶと思って…」
「最初から子供達と一緒に来ると言ってくれた方が喜ぶに決まっているじゃない。会えると喜ぶと分かっているのに、来られないと聞いた私がどう思うか、考えられないのは何故なの?悲しませておいて、それは嘘でしたで通用するわけないでしょう」
「すまなかった」
「ホルスは後でたっぷりと説教してあげます。くだらない事しか言えないのだから大人しく小麦を抱いていなさい。次!アルベルト、貴方はクロッカが怒ると分かっていたのに、何故このバカ王子に従ったのかしら?」
ホルスは小麦を抱え直すように腕を回した後、顎を乗せて丸い目を伏せている。
どこか哀愁漂う捨てられた犬ような姿にすら見えたが、久しぶり会えた妻による長いお説教が続くことは、お気の毒としか言えない。
一回り以上違う男達が怒られている場面は見るに耐えないが、それでも迷惑を被った側にしてみればキャサリンをもっと応援したくなるのも仕方がなく、複雑な思いでクロッカは熱いお茶を啜った。
「俺はちゃんと伝えるべきだと言ったが、フェリペを止めることが出来なかったんだ」
気不味そうにチラリとクロッカを見るが、知ったこっちゃない。
大人しくキャサリンに絞られて学ぶべきだ。
「どうして自分だけでも知らせるという選択をしなかったのよ」
「知らせようとはしたが……フェリペに邪魔された」
「あ、お前秘書官なのに私を売ったなっ!」
「黙りなさいっ!」
「うっ」
わちゃわちゃとした子供の喧嘩のようなやりとりに、呆れ果てる。
「アルベルト、貴方が何も伝えずにここにいる結果からすれば、フェリペに邪魔されたとしても、それは言い訳にならない事は分かっているわね?」
「それは分かっている。私は事実として伝えたつもりだ」
「なら、クロッカに怒られる事を容認するほどの理由はなんだったの?」
「クロッカの顔を見て安心したかったというのが1番近いと思う」
ガシャンとカップがソーサーに当たり音を立ててしまった。
会いたくないと思っている間に、会いたいと思っていたということは少なからず嬉しいと感じたが、同時にどの口がそんな言葉を言うのかと責めたてる自分がいる。
「貴方、結婚を断られたんじゃなかった?婚約は仕方なく継続していただけの関係では?」
「それでもクロッカを幼い頃から見ているのも事実だ。心配したっておかしいことはないだろう」
「あぁ……?そう…そうかしらね。あなた、案外可哀想な思考をしているのね」
キャサリンは理解できないとばかりに首を傾げたが、すぐに思い至ったように何か言いたげなアルベルトを切り捨てると、フェリペ殿下の前に立った。
「フェリペちゃん?一周して貴方に戻って来たけど、どういう態度が正解か理解出来たかしら?」
「キャサリンそんなに怒るなよ…」
「分かっていないなら、貴方がここ3ヶ月でわざわざルフェーベル商会以外から購入した品の一覧を読み上げてもいいのよ?」
にっこりと楽しそうに見下すキャサリンに、途端に青褪めるフェリペ。
「悪かった。アルベルトを連れて行くと言って断られたら嫌だなと思って黙って連れて来ることにしたんだ。浅はかだった。本当にすまなかった」
ため息しか出ない言い訳に、その後キャサリンの雷は夜中まで落ち続けた。
パーティの夜の部も終わり、朝早くから起きているクロッカは早く部屋に帰りたいと思いながらも、2人掛けのソファに窮屈そうに座らされている男3人を眺めていた。
「フェリペ?何を黙っているのです?貴方が答えるのですよ?」
それぞれの膝の上には20キロの小麦粉の袋が乗り、袋を抱えるように小さくなっている3人は、いつものソファに踏ん反り返るような態度は取れない。
それが心理的にも作用しているのか、いつもの飄々としたフェリペは鳴りを潜めており、キャサリンはもう敬称もつけずに睨みつける。
「だから、黙っていたことはすまなかったと言っているだろう」
「過去を捏造するんじゃないっ!聞き直ったにも関わらず何も答えられない。あなたはオツムの中身を王国に置いて来たのかしら?」
「キャサリン妃、殿下にあまりに…「黙っていなさい」」
フェリペの護衛があまりの侮辱に声を掛けるが、声を掛けるならば、小麦の袋を3人に担がせて運ばせた時点が正解だっただろう。
「いい?クシュリプト王国のフェリペという王子が、ハイランス伯爵令嬢の視察にも協力している、アイナス帝国のキャサリン妃を陥れた。今日のことはそういうことよ?」
「なら私は解放してくれても…」
口を出したはいいが、キャサリンに威圧されて声が小さくなっていくホルスは、最後の方は話し始めたことを後悔しているようだった。
「貴方も私に嘘をついた1人でしょう。貴方に至っては陛下にも黙っているように依頼して。脳味噌が足りないならその小麦粉でも練って詰めておきなさい」
皇帝陛下にはホルスがパーティに出席することは伝えられていた。
アガトンが遅れた理由である橋の崩落による遠回りを、彼らも強いられた結果、遅れることになったらしい。
「私はサプライズに喜ぶと思って…」
「最初から子供達と一緒に来ると言ってくれた方が喜ぶに決まっているじゃない。会えると喜ぶと分かっているのに、来られないと聞いた私がどう思うか、考えられないのは何故なの?悲しませておいて、それは嘘でしたで通用するわけないでしょう」
「すまなかった」
「ホルスは後でたっぷりと説教してあげます。くだらない事しか言えないのだから大人しく小麦を抱いていなさい。次!アルベルト、貴方はクロッカが怒ると分かっていたのに、何故このバカ王子に従ったのかしら?」
ホルスは小麦を抱え直すように腕を回した後、顎を乗せて丸い目を伏せている。
どこか哀愁漂う捨てられた犬ような姿にすら見えたが、久しぶり会えた妻による長いお説教が続くことは、お気の毒としか言えない。
一回り以上違う男達が怒られている場面は見るに耐えないが、それでも迷惑を被った側にしてみればキャサリンをもっと応援したくなるのも仕方がなく、複雑な思いでクロッカは熱いお茶を啜った。
「俺はちゃんと伝えるべきだと言ったが、フェリペを止めることが出来なかったんだ」
気不味そうにチラリとクロッカを見るが、知ったこっちゃない。
大人しくキャサリンに絞られて学ぶべきだ。
「どうして自分だけでも知らせるという選択をしなかったのよ」
「知らせようとはしたが……フェリペに邪魔された」
「あ、お前秘書官なのに私を売ったなっ!」
「黙りなさいっ!」
「うっ」
わちゃわちゃとした子供の喧嘩のようなやりとりに、呆れ果てる。
「アルベルト、貴方が何も伝えずにここにいる結果からすれば、フェリペに邪魔されたとしても、それは言い訳にならない事は分かっているわね?」
「それは分かっている。私は事実として伝えたつもりだ」
「なら、クロッカに怒られる事を容認するほどの理由はなんだったの?」
「クロッカの顔を見て安心したかったというのが1番近いと思う」
ガシャンとカップがソーサーに当たり音を立ててしまった。
会いたくないと思っている間に、会いたいと思っていたということは少なからず嬉しいと感じたが、同時にどの口がそんな言葉を言うのかと責めたてる自分がいる。
「貴方、結婚を断られたんじゃなかった?婚約は仕方なく継続していただけの関係では?」
「それでもクロッカを幼い頃から見ているのも事実だ。心配したっておかしいことはないだろう」
「あぁ……?そう…そうかしらね。あなた、案外可哀想な思考をしているのね」
キャサリンは理解できないとばかりに首を傾げたが、すぐに思い至ったように何か言いたげなアルベルトを切り捨てると、フェリペ殿下の前に立った。
「フェリペちゃん?一周して貴方に戻って来たけど、どういう態度が正解か理解出来たかしら?」
「キャサリンそんなに怒るなよ…」
「分かっていないなら、貴方がここ3ヶ月でわざわざルフェーベル商会以外から購入した品の一覧を読み上げてもいいのよ?」
にっこりと楽しそうに見下すキャサリンに、途端に青褪めるフェリペ。
「悪かった。アルベルトを連れて行くと言って断られたら嫌だなと思って黙って連れて来ることにしたんだ。浅はかだった。本当にすまなかった」
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