クロッカ・マーガレット・ハイランスの婚約破棄は初恋と共に

佐原香奈

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オルボアール

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「ベルガモットの香りがすごく良いわ。飲む時に爽やかに鼻に抜けて、後味も苦味が残らない。クロッカ、これ…どうして勧めたの?」


「2杯目は私もアールグレイが飲みたいなと思っただけですよ?」


「うん。アールグレイも美味しいよ。ここはどの飲み物も美味しいんだろうね」


「ふーん。まぁいいわ。このアールグレイの茶葉を分けて貰えるか確認してもらえる?」



やはり自分の気に入っている店の茶葉ならば他の美味しい茶葉との区別が何となくでもつくのだろう。
茶葉のサイズや収穫時期いろいろな要素で味は変わっていく。
その中でもっとも適したものを選別し、時にはブレンドして出来上がったこの店の紅茶が、他の店と違うと感じるのは、完成された味と香りのバランスを感じられるからだろう。



「キャサリンは新聞は読んだ?」


「新聞…?どうせ2枚目くらいの下の方にチグハグな衣装で参加とか書いてあるんでしょう?」



「すごい。正解」


「そういうのは記載する順番がほとんど決まってるのよ。表紙には皇帝陛下のパーティでの様子と、これまでの功績や近年の活躍ぶりについて、裏表紙に皇帝陛下の挨拶についての詳細とパーティ招待者との関係性や対応が書かれてるわ」



読んでいなくても記事について粗方言い当てるキャサリンは、これまで何度自分の記事を目にしたのだろうか。
王国の男爵から帝国の王子との結婚、そしてプリンセスとして認められるまでの苦労が垣間見えた気がした。



「アガトン殿下について結構大きく取り上げられていたけど、それには理由があるのかしら?」



先程見たアガトン殿下の記事は、小さく纏められた他の記事とは違い半分も使われており、橋の崩落にも関わらずパーティに参加されたこと、王国での留学と留学先で想定される生活、剣の腕前についてまで細かく記載されていた。



「んー、留学する者はあまりいないからかな?殆どが帝都の学園を卒業するからね」


「関心は高いというのは伝わったけど、もっと継承権の高い方も他の記事と同じくらい小さいのが気になったの」



現に、ホルス公爵殿下の記事はキャサリンとの記事と、フェリペ殿下と共に遅れて参加したことにしか触れられていない。


「王国は友好国として真っ先に上げられる国だけど、災害により遅れてやってきた2大派閥の争いは、クロッカの上げた声を受けて、各派閥内は混沌としていた。圧倒的に改革派有利と見られていたけど、伝統があり影響力の大きいランデルヤード侯爵家と、長く騎士達を束ねてきたウィルナー公爵家が保守派に残り、2大派閥の対立は本格的に表面化し始めたところ。しかもそこに派閥に囚われずに行われている夫人達のストライキ。その女性たちの革命運動の中のアガトン殿下の留学は不安視されているのも事実。皇帝陛下の命による情報統制で出来上がった記事だから不自然に感じるのよ」



大きく分けるならばこの革命運動に参加している婦人たちは改革派となる。
当主が保守派に属していても勇気ある者は声を上げて革命運動活動をしている。
貴族達の裁量で任されていた部分にメスを入れ、王国としての法制度を固めていきたい改革派の中でも、女性の社会進出に否定的な者は多く、中立派として流動的な立ち位置に属するものも増えているのも事実だった。


「情報統制…ですか。意外ですし初めて聞きました」


「僕も不安視しているのは宮廷内だけだと思っていたよ」


王族の1人であるアガトンが知覚していないならば、クロッカが知り得るはずもなかった。



「剣術もいいですが、王国ではもう少し勉強も頑張って下さいね。報道の自由というのは王国の方が進んでいるのは確かです。しかし王国ではその分利権が絡んでおり、情報の取捨選択が必要です。新聞社に出資しているのは誰なのか、記者はどういう人間なのかによって記事の正確性を疑う事も必要です」


「記事の書き方によっては扇動者になれるわけか。情報統制と言っても王領内に留まる。他の領地の新聞も見てみたいものだね」


「本当ですね。王国では当たり前に記事の正確性に疑問を持って紙面の比較をしていましたが、帝国内ではあまり気にしたことがありませんでした」


帝国内の新聞社は少なく、各地域に密着している地方紙と、帝国内の最新情報が載る帝国が出資している新聞の2種類で、大きい街ではもう一社増えることもあるが、稀なことだ。



「偏向報道に気を付けているつもりでも、多方面から見た報道が他になければ、その記事が真実だと判断してしまうのも無理はない話ね。比較対象がないのだもの。小さな報道規制があるだけだけど、基本的には皇帝陛下の意思を汲んだ偏向報道と言われるものよ」



旅をして回るくらいの大きな領地となった王領内では、情報統制も必要なのかもしれない。
それを否定するつもりはないが、正しく認識できていると思っていた事象も、別の角度から考え直さなければいけないこともあるのかもしれないと冷や汗を感じた。
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