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婚約破棄
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クロッカの死は、マリジェラの犯行声明とともに、国民にも知れ渡ると、クロッカ•ハイランスは排除されたのではと噂が広まり、瞬く間に国内の情勢は傾いていった。
戦争の噂が流れたことも影響して、国内は荒れ、領主達は平民を押さえつける為の施策を展開して、あちこちで平民達は内乱を起こしている。
そんな折り、王都のイリア•ロベール邸に、ジャクリーンは初めて呼び出されていた。
「アウストリア公爵がお見えです」
「早く通して」
そのまま座っていることも出来ず、イリアは侍女が閉めた扉をそのまま開ける。
「アウストリア公、待ちくたびれましたわ!」
「すまない。どうしても一緒に来ると聞かなくて」
階段を登ってきたジャクリーンと目が合うと、イリアはすかさず声をかけた。
ジャクリーンの後ろから、階段を登り終えたシュゼインが視界に入る。
「あら、シュゼイン?」
「イリア様、ご無沙汰しております」
「シュゼイン…あなたが理由なら仕方ないと言いたいけど、今日は控えてもらえると助かるわ」
今日はシュゼインの前で出来る話は一つもない。
「実は、ステファニーが段々と食も細くなり、寝込むことが多くなりました。公爵家へ暫く帰らせようと思っています」
「そうなさい。アウストリア公、ステファニーを頼みますよ」
ステファニーは日に日に追い詰められていた。
子供だけでつながる関係と、自分の犯した罪の重さに押し潰されてしまったのだろう。
それでも、シュゼインが望まないのならば離縁させるわけにはいかない。
それがシュゼインのためでもあるのだから。
「もちろん構わないが…」
「ただの療養ならよくあることよ」
ジャクリーンも娘可愛さにステファニーを手元に戻したいと思っていたに違いない。
それをここまで話を持ってきたことだけでも褒めてやるべきか。
自分の罪を忘れてはいないのだろう。ステファニーを追い詰めたのも己なのだと。
「もう用は済んだわね。今日は帰りなさい」
「イリア様…私にも耳に届く噂があります。協力させて下さい」
「ハッ…妻を放り出して何の協力をしたいというのかしら。協力は不要よ」
シュゼインの言いたいことはすぐに分かった。
少し調べればクロッカの生存の可能性に行き着くことになる。
遺体は送り付けられてはいないし、一緒に行方不明になった護衛について、マリジェラはなにも公表していない。
イリアもまた、クロッカの生存に希望を持った1人だ。
しかし、ステファニー1人の扱いに困っているような決断力のないシュゼインが、なにか出来るとは到底思えなかった。
底知れぬ禍々しい黒さを含んだ瞳を、安易に信用出来るものでもない。
「お願いします。きっと役に立てます。何かやれることがあるならやりたいんです」
「シュゼインが優秀な領主であることは認めます。領の発展に伴い、多くの寄付もしてもらっていることも含めて、クロッカの力になりたいと考えていることも理解しているつもりです。だけど…シュゼイン、私は貴方にはもっと他にするべきことがあると思います。少し冷静になりなさい。何かあれば連絡をします」
イリアはシュゼインを追い出すと、ジャクリーンを応接室に押し込んだ。
「ミンネ、私は冷たい水でいいわ」
すぐにお茶の用意を始めた侍女にイリアは声をかける。
「あぁ、なら私も水でいい」
「そう。なら焼き菓子はやめてゼリーにしましょうか。ミンネ、後で持ってきてちょうだい」
「畏まりました」
侍女はグラスに冷えた水を注いで2人の前に置くと部屋を後にした。
部屋のドアには背の高い護衛が立っている。
「それで、今日招待してくれたのは私にとって利になることかな」
「図々しいわよ」
「男はいつでも下心を持ち合わせているものだ」
ジャクリーンは平然とイリアの睨み顔に笑みを浮かべた。
「あなたの事なんてどうでもいいわ。クロッカの事ですけど…」
「君は娘のことよりもハイランス家の御令嬢が大事なのかい?」
「ステファニーは自分で撒いた種。母として助言は出来ますが、自分で罪と向き合うべきだわ。貴方にも言える事ですが?」
「あっ…あぁ…」
ジャクリーンはよく冷えた水を喉に流し込んだ後、もう一度笑みを貼り付けた。
イリアは一口だけ水を口に含むと、扇子を取り出して二度仰ぐとパタリと音を立ててそれを閉じた。
「貴方には力を貸して欲しくて呼んだのだけど、気が進まないかしら」
「君のためなら何でも協力するよ」
鳥の羽を赤く染め上げてアクセントとしてあつらえた帽子が身を乗り出したイリアに追いつこうと揺れている。
イリアとジャクリーンとを隔てるテーブルの上には、ゼリーの置き場所などないほど大きな地図が広げられることになった。
侍女がゼリーをカートに乗せてきて呆れ果ててしまった、ジャクリーンが初めてイリア・ロベール邸へ招かれたこの日は、クロッカの死亡宣告から3ヶ月目のことだった。
クロッカの生存を信じてハイランス家はあらゆる情報を求めて新聞の一面を買い取る毎日を送っていた。
そしてアガトン殿下はマリジェラの犯行声明が届いた次の日には安全の確保が難しいことを理由に留学を終了することに決め、王国の騎士にも付き添われながらアイナス帝国に帰国している。
戦争の噂が流れたことも影響して、国内は荒れ、領主達は平民を押さえつける為の施策を展開して、あちこちで平民達は内乱を起こしている。
そんな折り、王都のイリア•ロベール邸に、ジャクリーンは初めて呼び出されていた。
「アウストリア公爵がお見えです」
「早く通して」
そのまま座っていることも出来ず、イリアは侍女が閉めた扉をそのまま開ける。
「アウストリア公、待ちくたびれましたわ!」
「すまない。どうしても一緒に来ると聞かなくて」
階段を登ってきたジャクリーンと目が合うと、イリアはすかさず声をかけた。
ジャクリーンの後ろから、階段を登り終えたシュゼインが視界に入る。
「あら、シュゼイン?」
「イリア様、ご無沙汰しております」
「シュゼイン…あなたが理由なら仕方ないと言いたいけど、今日は控えてもらえると助かるわ」
今日はシュゼインの前で出来る話は一つもない。
「実は、ステファニーが段々と食も細くなり、寝込むことが多くなりました。公爵家へ暫く帰らせようと思っています」
「そうなさい。アウストリア公、ステファニーを頼みますよ」
ステファニーは日に日に追い詰められていた。
子供だけでつながる関係と、自分の犯した罪の重さに押し潰されてしまったのだろう。
それでも、シュゼインが望まないのならば離縁させるわけにはいかない。
それがシュゼインのためでもあるのだから。
「もちろん構わないが…」
「ただの療養ならよくあることよ」
ジャクリーンも娘可愛さにステファニーを手元に戻したいと思っていたに違いない。
それをここまで話を持ってきたことだけでも褒めてやるべきか。
自分の罪を忘れてはいないのだろう。ステファニーを追い詰めたのも己なのだと。
「もう用は済んだわね。今日は帰りなさい」
「イリア様…私にも耳に届く噂があります。協力させて下さい」
「ハッ…妻を放り出して何の協力をしたいというのかしら。協力は不要よ」
シュゼインの言いたいことはすぐに分かった。
少し調べればクロッカの生存の可能性に行き着くことになる。
遺体は送り付けられてはいないし、一緒に行方不明になった護衛について、マリジェラはなにも公表していない。
イリアもまた、クロッカの生存に希望を持った1人だ。
しかし、ステファニー1人の扱いに困っているような決断力のないシュゼインが、なにか出来るとは到底思えなかった。
底知れぬ禍々しい黒さを含んだ瞳を、安易に信用出来るものでもない。
「お願いします。きっと役に立てます。何かやれることがあるならやりたいんです」
「シュゼインが優秀な領主であることは認めます。領の発展に伴い、多くの寄付もしてもらっていることも含めて、クロッカの力になりたいと考えていることも理解しているつもりです。だけど…シュゼイン、私は貴方にはもっと他にするべきことがあると思います。少し冷静になりなさい。何かあれば連絡をします」
イリアはシュゼインを追い出すと、ジャクリーンを応接室に押し込んだ。
「ミンネ、私は冷たい水でいいわ」
すぐにお茶の用意を始めた侍女にイリアは声をかける。
「あぁ、なら私も水でいい」
「そう。なら焼き菓子はやめてゼリーにしましょうか。ミンネ、後で持ってきてちょうだい」
「畏まりました」
侍女はグラスに冷えた水を注いで2人の前に置くと部屋を後にした。
部屋のドアには背の高い護衛が立っている。
「それで、今日招待してくれたのは私にとって利になることかな」
「図々しいわよ」
「男はいつでも下心を持ち合わせているものだ」
ジャクリーンは平然とイリアの睨み顔に笑みを浮かべた。
「あなたの事なんてどうでもいいわ。クロッカの事ですけど…」
「君は娘のことよりもハイランス家の御令嬢が大事なのかい?」
「ステファニーは自分で撒いた種。母として助言は出来ますが、自分で罪と向き合うべきだわ。貴方にも言える事ですが?」
「あっ…あぁ…」
ジャクリーンはよく冷えた水を喉に流し込んだ後、もう一度笑みを貼り付けた。
イリアは一口だけ水を口に含むと、扇子を取り出して二度仰ぐとパタリと音を立ててそれを閉じた。
「貴方には力を貸して欲しくて呼んだのだけど、気が進まないかしら」
「君のためなら何でも協力するよ」
鳥の羽を赤く染め上げてアクセントとしてあつらえた帽子が身を乗り出したイリアに追いつこうと揺れている。
イリアとジャクリーンとを隔てるテーブルの上には、ゼリーの置き場所などないほど大きな地図が広げられることになった。
侍女がゼリーをカートに乗せてきて呆れ果ててしまった、ジャクリーンが初めてイリア・ロベール邸へ招かれたこの日は、クロッカの死亡宣告から3ヶ月目のことだった。
クロッカの生存を信じてハイランス家はあらゆる情報を求めて新聞の一面を買い取る毎日を送っていた。
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