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公爵の結婚
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スーザンが邸宅に住むようになると、家の中は少しずつ変化していった。
「ハリエット様、いつまでわたし1人で食事をさせるつもりかね?」
スーザンは広々としたダイニングテーブルに並べられた多くの皿越しにハリエットに尋ねる。
「スーザン、私は別でいただきますので」
目の前に置かれた美しく盛られた食事を前に、ハリエットは冷ややかな声で答えた。
「もうお分かりでしょう。ここに並べられているのは私の食事ではないのです」
「おや、どういうことだい」
こんなもの茶番劇だ。
スーザンは答えを既に確信しているくせに意地悪そうに笑みを浮かべながら魚の破片を口に含む。
「私は伯爵令嬢であり後継者ですから、信用出来る物しか口にしませんの」
スーザンとのやりとりは全てアイナス語であり、壁に控えている使用人達には理解できていないだろうが、ハリエットはそれでも声を温めることはなかった。
「嫌だねえ。お貴族様ってやつも自分の家でもまともに食事もできないのかい。道の片隅で寝てる奴らとそう変わりはしないもんだね」
「リンハード、私の代わりに食べますか?」
この部屋で唯一アイナス語を理解出来るのは、スーザンの後ろに立っている、通訳として雇った男だ。
ハリエットはリンハードにあげるとでもいうように目の前の皿を遠くへずらして置いた。
「い…いいえ。お嬢様の食事に手をつけるなんてことはとても出来ません」
「そう。先程の話を聞いては、手も出ないわよね。そこの侍女に聞いてみたら?この皿に毒は入っているのか?とね」
リンハードはどこかとの繋がりが疑っている。
周辺地域と王都で大々的に通訳を探そうとしていたが、募集の張り紙を各地に張り出し始めて1週間もかからずに彼はこの家の門を叩いたので、驚いてはいた。
デリックを通さずに進めたこの話が皇帝陛下に漏れたとも思えず、また、もし皇帝陛下だったと仮定するとなると、1週間で手の者を送り込むには滞在先と距離も離れすぎているように思う。
人材の確保が出来たのが偶然が、仕組まれた者だったのか疑ってる間に、不自然な手紙のやりとりが何度か目撃されてた。
邸内のことで怪しむことが出来るようになったのは、スーザンが来たことで流石に自分もウィルソン以外にも近くに人を置く必要があると感じ、自分付きのメイドを2人雇ったことだ。
屋敷付きではないため、給与も自分の懐から出している。
他人の仲介のない雇用で、周りの影響を最小限にした。
そのメイド2人は元々商家での使用人だったのを街で何度か見かけた程度だったが、直接声をかけて引き抜いた。
彼女たちは貴族のしきたりに慣れてはいないが、とても優秀な働きぶりで、家の中の情報を少なからず手に入れることができるようになったのは幸運だった。
彼女たちが、リンハードの不穏な動きを報告してきたのだ。
「私にはそんな事は聞けませんよ…」
「まぁそうでしょうね。後でゆっくり食べてね。ところで…スーザン、お父様はどう?歩けるようにはなりそう?」
伯爵はスーザンの作った薬を飲み始めてから、だいぶ顔色も良くなった。
今までの薬は長い間服用しすぎて効き目が薄くなっているのではないか。
その一声は、伯爵家付きの医師も薬が効かなくなるとはどう言うことだと驚いたというが、今ではスーザンの治療について熱心にメモをとっている。
「伯爵様はもっと食べさせなきゃダメだね。野菜、肉、魚。今までパンをスープに浸して食べるだけだったんだ。次から次に病気になるのも納得さね。食べることは生きること。食べれないわけじゃない。それさえ出来れば後は薬と身体に動くことを思い出させれば、少しずつ動けるようにもなるだろう」
「それはいい知らせだわ!起き上がることが出来たら、ほんの少しでも庭に連れて行きたいの。それで、画家にでも来てもらって、昔話とか、家族のこととかを本に纏めたりとか。楽しいことがたくさんあるのだと。もっと生きたいなぁと思ってくれたら」
コーネルはもう何度も余命宣告を受けていて、風邪を引くたびに生死を彷徨うような状態が続いて、生きていることに罪悪感でもあるかのように思うことがある。
「気持ちは分からんでもないさね。自分では何も出来ないと心まで病に侵されていってしまう。ハリエット様ももう少し家にいたらもっといいが難しいんだろう?」
「今でも出来る限り顔を見せているのだけど、デリックがいても私もまだ勉強中のことも多いし、なかなか難しくて…今度は隣のコードランに二、三日行こうと思ってるの。スーザン、この家での滞在は本当に問題ない?一応騎士を手配して外部の目を入れようと思ってるけど」
今のところ、スーザンは伯爵の治療のためにきているということと、正式な客であることから、使用人も手厚く対応してくれている。
それでも、心配になるのはやはりハイランス家の使用人には考えられないような対応を自分がされているからだ。
「あぁ、リンハードもいるし困ることはないさね。ハリエット様もその内薬を飲むことにならないか心配だねぇ。年寄りにこんな心配させているようじゃまだまだだよ」
「スーザン…私は元気だから問題ないわよ!」
ここ最近はずっと金庫と睨めっこの毎日だった。
外交路の整備を隣のゴードランと、南のシュバリアンと話し合いをしたいと考えていたのだが、ゴードランは王領であり、シュバリアンはランドルフ侯爵領である。
今はランドルフ領へ行くにはゴードランへ迂回するしか馬車が通れる整備された道がなく、グスチとしては何とか早急に整備をしたいところなのだが、お金が回らず投資出来ずにいたのだ。
ある程度領地の収益とは別にワイニー家としての収入を用意できて、投資の提案をできる段階にはなったが、もちろん両方の地からも出資してくれるような商社を見つけなければならない。
通行料がどれほど見込めるのか、数字との戦いの日々がハリエットの睡眠時間を削っていた。
「ハリエット様、いつまでわたし1人で食事をさせるつもりかね?」
スーザンは広々としたダイニングテーブルに並べられた多くの皿越しにハリエットに尋ねる。
「スーザン、私は別でいただきますので」
目の前に置かれた美しく盛られた食事を前に、ハリエットは冷ややかな声で答えた。
「もうお分かりでしょう。ここに並べられているのは私の食事ではないのです」
「おや、どういうことだい」
こんなもの茶番劇だ。
スーザンは答えを既に確信しているくせに意地悪そうに笑みを浮かべながら魚の破片を口に含む。
「私は伯爵令嬢であり後継者ですから、信用出来る物しか口にしませんの」
スーザンとのやりとりは全てアイナス語であり、壁に控えている使用人達には理解できていないだろうが、ハリエットはそれでも声を温めることはなかった。
「嫌だねえ。お貴族様ってやつも自分の家でもまともに食事もできないのかい。道の片隅で寝てる奴らとそう変わりはしないもんだね」
「リンハード、私の代わりに食べますか?」
この部屋で唯一アイナス語を理解出来るのは、スーザンの後ろに立っている、通訳として雇った男だ。
ハリエットはリンハードにあげるとでもいうように目の前の皿を遠くへずらして置いた。
「い…いいえ。お嬢様の食事に手をつけるなんてことはとても出来ません」
「そう。先程の話を聞いては、手も出ないわよね。そこの侍女に聞いてみたら?この皿に毒は入っているのか?とね」
リンハードはどこかとの繋がりが疑っている。
周辺地域と王都で大々的に通訳を探そうとしていたが、募集の張り紙を各地に張り出し始めて1週間もかからずに彼はこの家の門を叩いたので、驚いてはいた。
デリックを通さずに進めたこの話が皇帝陛下に漏れたとも思えず、また、もし皇帝陛下だったと仮定するとなると、1週間で手の者を送り込むには滞在先と距離も離れすぎているように思う。
人材の確保が出来たのが偶然が、仕組まれた者だったのか疑ってる間に、不自然な手紙のやりとりが何度か目撃されてた。
邸内のことで怪しむことが出来るようになったのは、スーザンが来たことで流石に自分もウィルソン以外にも近くに人を置く必要があると感じ、自分付きのメイドを2人雇ったことだ。
屋敷付きではないため、給与も自分の懐から出している。
他人の仲介のない雇用で、周りの影響を最小限にした。
そのメイド2人は元々商家での使用人だったのを街で何度か見かけた程度だったが、直接声をかけて引き抜いた。
彼女たちは貴族のしきたりに慣れてはいないが、とても優秀な働きぶりで、家の中の情報を少なからず手に入れることができるようになったのは幸運だった。
彼女たちが、リンハードの不穏な動きを報告してきたのだ。
「私にはそんな事は聞けませんよ…」
「まぁそうでしょうね。後でゆっくり食べてね。ところで…スーザン、お父様はどう?歩けるようにはなりそう?」
伯爵はスーザンの作った薬を飲み始めてから、だいぶ顔色も良くなった。
今までの薬は長い間服用しすぎて効き目が薄くなっているのではないか。
その一声は、伯爵家付きの医師も薬が効かなくなるとはどう言うことだと驚いたというが、今ではスーザンの治療について熱心にメモをとっている。
「伯爵様はもっと食べさせなきゃダメだね。野菜、肉、魚。今までパンをスープに浸して食べるだけだったんだ。次から次に病気になるのも納得さね。食べることは生きること。食べれないわけじゃない。それさえ出来れば後は薬と身体に動くことを思い出させれば、少しずつ動けるようにもなるだろう」
「それはいい知らせだわ!起き上がることが出来たら、ほんの少しでも庭に連れて行きたいの。それで、画家にでも来てもらって、昔話とか、家族のこととかを本に纏めたりとか。楽しいことがたくさんあるのだと。もっと生きたいなぁと思ってくれたら」
コーネルはもう何度も余命宣告を受けていて、風邪を引くたびに生死を彷徨うような状態が続いて、生きていることに罪悪感でもあるかのように思うことがある。
「気持ちは分からんでもないさね。自分では何も出来ないと心まで病に侵されていってしまう。ハリエット様ももう少し家にいたらもっといいが難しいんだろう?」
「今でも出来る限り顔を見せているのだけど、デリックがいても私もまだ勉強中のことも多いし、なかなか難しくて…今度は隣のコードランに二、三日行こうと思ってるの。スーザン、この家での滞在は本当に問題ない?一応騎士を手配して外部の目を入れようと思ってるけど」
今のところ、スーザンは伯爵の治療のためにきているということと、正式な客であることから、使用人も手厚く対応してくれている。
それでも、心配になるのはやはりハイランス家の使用人には考えられないような対応を自分がされているからだ。
「あぁ、リンハードもいるし困ることはないさね。ハリエット様もその内薬を飲むことにならないか心配だねぇ。年寄りにこんな心配させているようじゃまだまだだよ」
「スーザン…私は元気だから問題ないわよ!」
ここ最近はずっと金庫と睨めっこの毎日だった。
外交路の整備を隣のゴードランと、南のシュバリアンと話し合いをしたいと考えていたのだが、ゴードランは王領であり、シュバリアンはランドルフ侯爵領である。
今はランドルフ領へ行くにはゴードランへ迂回するしか馬車が通れる整備された道がなく、グスチとしては何とか早急に整備をしたいところなのだが、お金が回らず投資出来ずにいたのだ。
ある程度領地の収益とは別にワイニー家としての収入を用意できて、投資の提案をできる段階にはなったが、もちろん両方の地からも出資してくれるような商社を見つけなければならない。
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