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公爵の結婚
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デリックはハリエットとウィルソンが出ていくと大きなため息をついて頭を抱えた。
皇帝陛下のただの使いである自分が、無闇矢鱈に発言をすることは躊躇われたのだ。
アガトン殿下はハリエットがワイニー伯爵家に来る前に皇帝の使いとして秘密裏にワイニー家に訪れていた。
寝たきりのワイニー伯爵に直接ハリエットのことを頼んだのがアガトン殿下だ。
「あんなに怒るとは予想外だ」
ハリエットが置いていった行政執行の書類を再び手に取ると、デリックは机に突っ伏してしまった。
しばしそのまま顔を伏せた後、決断したように迷いなく机の引き出しを開け、便箋を取り出す。
『チョーク発生につき、5にて対応求める』
いつもの門番に直接手紙を渡しに部屋を出る。
ハリエットが早くに使用人達を整理していたら、もっと動きやすかったのだが、こればっかりは仕方がない。
アガトン殿下からの圧がどれほど大きかったのかいつか伝える日が来るだろうか。
デリックは門番に手紙を渡し、そのまま街の情報屋の店に足を運んだ。
「あぁ、あのお嬢ちゃん次は情報収集機関を作る計画を立ててるようだね」
「情報収集機関!?」
諜報活動を大々的にやるなんて周りから爪弾きにされてしまうのではないか、それにまだ領地は安定しているともいえない。
これ以上公的機関を作れば大きな赤字になる。
デリックが来たのは色街にいる皇帝陛下直属の情報屋の女性のところだ。
「どこも大なり小なり情報屋を雇っているだろう。ギルドで情報の売買をしている領地もあるし、それほど驚くことでもないよ。これはあのお嬢ちゃんが使ってる情報屋の名前。誰に紹介されたんだか、分かっている数人だけでも小物から大物までセンスがいいね。大物だけを揃えたって使い辛いだけだからねぇ」
「陛下にはもう伝えたのですか?」
紫煙を燻らす年齢不詳の女は、昼間から訪ねてきた迷惑な客に茶を出すこともしない。
「んあぁ、当たり前よ。あぁ、あと坊ちゃんにもね」
もっと頻繁にここに来るべきだったと今になって後悔をする。
ハリエットが視察に行くのは領地の理解を深めるためであり、日常の一部だった。
前回ここに来た時も「プラチナゴールドのお嬢ちゃんがいるって少しずつ街で噂になっているよ」という役に立たない情報しか得られなかった。
その程度の情報ならどこからでも仕入れられる。
ハリエットが商会を立ち上げた時も、自警団を解体した時も、村長達と直接やりとりしている時も、まだ拙い言葉で話す彼女に警戒は必要ないと判断したのだ。
「これは古い情報なのですね」
「古いといえば古い。情報は常に更新されるものだ。この煙のように常に漂っているものだからね」
「では最新の情報は?」
デリックはベッドに寝そべるその女の私物であろう無動作に置かれた煌びやかな宝石達に視界を向ける。
情報屋は変な奴ばかりだ。
「クシュリプトの人間がこの地にも何人も入ってきている。騎士団はもちろん仕事を求めた平民がね。それと厄介なネズミが一匹動いているね」
「厄介なネズミ?」
「あぁ、まだ特定はしていないが、大通りのパン屋の2階に住んでる男だ。あれは多分どこかの貴族だね。奴はアイナス語しか話せないようだが、帝都で裏家業を任されてたリグイってやつと接触がある。気をつけな」
相手が貴族ならば下手に手出しをすれば返り討ちに合うこともある。
相手を見極めるまで様子を見るしかない。
「あぁ、それと次は夜に来ておくれ。情報は夜に更新されるからね」
「悪かった。次はちゃんと客として扉を叩くよ」
「わたしはもう寝る。お代は次でいいよ。どうせすぐ来るんだろう」
デリックは言われた通りすぐに彼女の元に訪れることとなった。
皇帝陛下の直属の臣下のデリックはグスチでは有名で、贔屓にしていると噂になった彼女はデリックの顔を見るたびに迷惑そうに顔を歪めることになる。
******
一方その噂が流れ始めた頃、アガトンがデリックからの密書を受け取っていた。
「すぐにグスチに立つ。暫く不在となるからあとは頼むよ」
自ら馬に乗ったアガトンは3人の護衛と共にゴードランを発った。
皇帝陛下のただの使いである自分が、無闇矢鱈に発言をすることは躊躇われたのだ。
アガトン殿下はハリエットがワイニー伯爵家に来る前に皇帝の使いとして秘密裏にワイニー家に訪れていた。
寝たきりのワイニー伯爵に直接ハリエットのことを頼んだのがアガトン殿下だ。
「あんなに怒るとは予想外だ」
ハリエットが置いていった行政執行の書類を再び手に取ると、デリックは机に突っ伏してしまった。
しばしそのまま顔を伏せた後、決断したように迷いなく机の引き出しを開け、便箋を取り出す。
『チョーク発生につき、5にて対応求める』
いつもの門番に直接手紙を渡しに部屋を出る。
ハリエットが早くに使用人達を整理していたら、もっと動きやすかったのだが、こればっかりは仕方がない。
アガトン殿下からの圧がどれほど大きかったのかいつか伝える日が来るだろうか。
デリックは門番に手紙を渡し、そのまま街の情報屋の店に足を運んだ。
「あぁ、あのお嬢ちゃん次は情報収集機関を作る計画を立ててるようだね」
「情報収集機関!?」
諜報活動を大々的にやるなんて周りから爪弾きにされてしまうのではないか、それにまだ領地は安定しているともいえない。
これ以上公的機関を作れば大きな赤字になる。
デリックが来たのは色街にいる皇帝陛下直属の情報屋の女性のところだ。
「どこも大なり小なり情報屋を雇っているだろう。ギルドで情報の売買をしている領地もあるし、それほど驚くことでもないよ。これはあのお嬢ちゃんが使ってる情報屋の名前。誰に紹介されたんだか、分かっている数人だけでも小物から大物までセンスがいいね。大物だけを揃えたって使い辛いだけだからねぇ」
「陛下にはもう伝えたのですか?」
紫煙を燻らす年齢不詳の女は、昼間から訪ねてきた迷惑な客に茶を出すこともしない。
「んあぁ、当たり前よ。あぁ、あと坊ちゃんにもね」
もっと頻繁にここに来るべきだったと今になって後悔をする。
ハリエットが視察に行くのは領地の理解を深めるためであり、日常の一部だった。
前回ここに来た時も「プラチナゴールドのお嬢ちゃんがいるって少しずつ街で噂になっているよ」という役に立たない情報しか得られなかった。
その程度の情報ならどこからでも仕入れられる。
ハリエットが商会を立ち上げた時も、自警団を解体した時も、村長達と直接やりとりしている時も、まだ拙い言葉で話す彼女に警戒は必要ないと判断したのだ。
「これは古い情報なのですね」
「古いといえば古い。情報は常に更新されるものだ。この煙のように常に漂っているものだからね」
「では最新の情報は?」
デリックはベッドに寝そべるその女の私物であろう無動作に置かれた煌びやかな宝石達に視界を向ける。
情報屋は変な奴ばかりだ。
「クシュリプトの人間がこの地にも何人も入ってきている。騎士団はもちろん仕事を求めた平民がね。それと厄介なネズミが一匹動いているね」
「厄介なネズミ?」
「あぁ、まだ特定はしていないが、大通りのパン屋の2階に住んでる男だ。あれは多分どこかの貴族だね。奴はアイナス語しか話せないようだが、帝都で裏家業を任されてたリグイってやつと接触がある。気をつけな」
相手が貴族ならば下手に手出しをすれば返り討ちに合うこともある。
相手を見極めるまで様子を見るしかない。
「あぁ、それと次は夜に来ておくれ。情報は夜に更新されるからね」
「悪かった。次はちゃんと客として扉を叩くよ」
「わたしはもう寝る。お代は次でいいよ。どうせすぐ来るんだろう」
デリックは言われた通りすぐに彼女の元に訪れることとなった。
皇帝陛下の直属の臣下のデリックはグスチでは有名で、贔屓にしていると噂になった彼女はデリックの顔を見るたびに迷惑そうに顔を歪めることになる。
******
一方その噂が流れ始めた頃、アガトンがデリックからの密書を受け取っていた。
「すぐにグスチに立つ。暫く不在となるからあとは頼むよ」
自ら馬に乗ったアガトンは3人の護衛と共にゴードランを発った。
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