126 / 130
王国の内情
1
しおりを挟む
イリア・ロベールが私設騎士団を王都に構えた。
ロベール侯爵家とは完全に独立したイリアの意志によって動く騎士団は、王国騎士団への不信感から置かれた。
もちろん、事件当時の騎士団の不審な動きは調べ上げられ、改革派に属する家紋であり、実績も実力もある騎士団長が新たに任命されたが、多くの貴族の信頼を失った。
クシュリプトの南部の一部をマリジェラが占拠し、戦争が始まった。
内戦とマリジェラとの戦争で騎士の派遣が続き、国庫からの支出は膨らむ。
この不安定な状況は当然のように王家に不満の矛先が向かった。
イリアが私設騎士団を置いたことは、騎士団への不信感を顕著に表している傍ら、保守派への牽制にも繋がった。
主権者である王の権力が削がれつつあるこの現状を打破する決定的なものがなく、目の前の戦争は人々の心をやつれさせていったが、内戦が起こっているのは領民のことを考えずに税を上げる既存意識の高い保守派の領地が主である。
改革を推し進める王家と、改革を期待する国民の意思は同じであったが、何も進まずに状況は悪化する一方であることで、王家が信頼を取り戻すのは難しかった。
ここまで拗れてしまったのは、マリジェラが進軍してきてからも帝国の支援が最低限の域を超えなかったことが大きい。
マリジェラは大陸の敵だと各国が協力を申し入れ、物資に困ることはなかった。
しかし、それ以上の支援はない。
同時に内戦があちこちで起こっている状況が、支援を足踏みさせたのだ。
国内も不安定なクシュリプトがもし戦争に負ければ、クシュリプトを手に入れ力を増すマリジェラを敵にすることになる。
当然次に攻め込まれるのは自分の国だ。
マリジェラへの経済的制裁は大陸会議に参加する全ての国で行われていたが、最初の勢いは消え失せている。
内戦をまずどうにかしなければならない。
騎士団、宮廷役人、貴族院、改革派の躍進によって法整備は進んでいる。
人の排除も問題なく進んでいる。
それなのに、落ち着かない国内。
掴めていない勢力があることは確実だった。
どこかで国民の不満を煽っている者がいるが、中々尻尾を出さなかった。
「クロッカと騎士の服が見つかったと聞いたが?」
忙しなく過ぎている日々で、クロッカ・ハイランスについての調査は段々と有耶無耶になっていた。
一度も連絡がないことからも、死亡は確実だという扱いを受けている。
そんな中、突然にもたらされた情報に、アルベルトはすぐに執務室を出て、知らせを出したフェリペの元に向かった。
「持ってきてやれ」
ユーエランとフェリペ、両殿下が揃っているとは思わずアルベルトと共に部屋に入ったキリルは驚いた。
「西のクーベルの森で見つかった。今まで碌に調べていなかったんだろう」
西から王都にかけては当時多くの人員を割いて調べたはずだった。
今となって見つかったのは、騎士団長を入れ替えたことが大きいと考えているのだろう。
「この生地、汚れているがこの特徴的なレースはルフェーベル商会のもので間違いない。専属の職人のものだ」
「騎士の服は名前が微かに読み取れた。二人のものと考えて間違いないはずだ」
並べられた服とも呼べない布切れは、幾つもの布が重ねられている為ドレスだとやっと分かる程度だ。
「服だけ見つかったということは脱いだか、脱がされたか。クーベルの森ならば近くに宿場もあるだろう。王国騎士団が近くで遠征していたわけじゃない。ならば着替えてどこへ向かったのか」
「移動する為に服を変えたというのはどのみち変わらないだろ?カルビン補佐官も東に逃げているのを考えても、自ら着替えたとしたら何かしらの理由があったのは間違いない。だが、服だけでは何も分からないか…」
フェリペが持ってきた布たちををひっくり返し、細部まで確認していくと、アルベルトが「ちょっと」とその手を止めさせる。
「汚れているとはいえ、血痕や切り裂かれたような傷はないな」
「それもそうだ。無理に着替えさせたとしたら、どちらも抵抗されたはずだ。少し汚れを落とさせてみるか」
「兄上、ここでやりましょう。泥を落とす程度しかどうせ出来ません」
フェリペが自ら服を水に晒し、表面の泥を洗い流した。
やっと見つけた痕跡に焦っているのは一見飄々としたフェリペも同じだった。
ロベール侯爵家とは完全に独立したイリアの意志によって動く騎士団は、王国騎士団への不信感から置かれた。
もちろん、事件当時の騎士団の不審な動きは調べ上げられ、改革派に属する家紋であり、実績も実力もある騎士団長が新たに任命されたが、多くの貴族の信頼を失った。
クシュリプトの南部の一部をマリジェラが占拠し、戦争が始まった。
内戦とマリジェラとの戦争で騎士の派遣が続き、国庫からの支出は膨らむ。
この不安定な状況は当然のように王家に不満の矛先が向かった。
イリアが私設騎士団を置いたことは、騎士団への不信感を顕著に表している傍ら、保守派への牽制にも繋がった。
主権者である王の権力が削がれつつあるこの現状を打破する決定的なものがなく、目の前の戦争は人々の心をやつれさせていったが、内戦が起こっているのは領民のことを考えずに税を上げる既存意識の高い保守派の領地が主である。
改革を推し進める王家と、改革を期待する国民の意思は同じであったが、何も進まずに状況は悪化する一方であることで、王家が信頼を取り戻すのは難しかった。
ここまで拗れてしまったのは、マリジェラが進軍してきてからも帝国の支援が最低限の域を超えなかったことが大きい。
マリジェラは大陸の敵だと各国が協力を申し入れ、物資に困ることはなかった。
しかし、それ以上の支援はない。
同時に内戦があちこちで起こっている状況が、支援を足踏みさせたのだ。
国内も不安定なクシュリプトがもし戦争に負ければ、クシュリプトを手に入れ力を増すマリジェラを敵にすることになる。
当然次に攻め込まれるのは自分の国だ。
マリジェラへの経済的制裁は大陸会議に参加する全ての国で行われていたが、最初の勢いは消え失せている。
内戦をまずどうにかしなければならない。
騎士団、宮廷役人、貴族院、改革派の躍進によって法整備は進んでいる。
人の排除も問題なく進んでいる。
それなのに、落ち着かない国内。
掴めていない勢力があることは確実だった。
どこかで国民の不満を煽っている者がいるが、中々尻尾を出さなかった。
「クロッカと騎士の服が見つかったと聞いたが?」
忙しなく過ぎている日々で、クロッカ・ハイランスについての調査は段々と有耶無耶になっていた。
一度も連絡がないことからも、死亡は確実だという扱いを受けている。
そんな中、突然にもたらされた情報に、アルベルトはすぐに執務室を出て、知らせを出したフェリペの元に向かった。
「持ってきてやれ」
ユーエランとフェリペ、両殿下が揃っているとは思わずアルベルトと共に部屋に入ったキリルは驚いた。
「西のクーベルの森で見つかった。今まで碌に調べていなかったんだろう」
西から王都にかけては当時多くの人員を割いて調べたはずだった。
今となって見つかったのは、騎士団長を入れ替えたことが大きいと考えているのだろう。
「この生地、汚れているがこの特徴的なレースはルフェーベル商会のもので間違いない。専属の職人のものだ」
「騎士の服は名前が微かに読み取れた。二人のものと考えて間違いないはずだ」
並べられた服とも呼べない布切れは、幾つもの布が重ねられている為ドレスだとやっと分かる程度だ。
「服だけ見つかったということは脱いだか、脱がされたか。クーベルの森ならば近くに宿場もあるだろう。王国騎士団が近くで遠征していたわけじゃない。ならば着替えてどこへ向かったのか」
「移動する為に服を変えたというのはどのみち変わらないだろ?カルビン補佐官も東に逃げているのを考えても、自ら着替えたとしたら何かしらの理由があったのは間違いない。だが、服だけでは何も分からないか…」
フェリペが持ってきた布たちををひっくり返し、細部まで確認していくと、アルベルトが「ちょっと」とその手を止めさせる。
「汚れているとはいえ、血痕や切り裂かれたような傷はないな」
「それもそうだ。無理に着替えさせたとしたら、どちらも抵抗されたはずだ。少し汚れを落とさせてみるか」
「兄上、ここでやりましょう。泥を落とす程度しかどうせ出来ません」
フェリペが自ら服を水に晒し、表面の泥を洗い流した。
やっと見つけた痕跡に焦っているのは一見飄々としたフェリペも同じだった。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる