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王国の内情
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「帝国で少し前に貴族年鑑の差替えがあったと聞いたことがあったが、あれはいつ頃の話なんだ?」
アルベルトはキリルとの打ち合わせの最中にふと疑問に思った。
キャサリンから、クロッカについての情報提供の依頼が最近はほとんどない。
イリアの方へ手紙がいっているにしても情報筋を一つに絞るのは得策ではないからだ。
自分の今の状況を考えれば、思うところがあった。
「原稿にミスが多くあったというやつのことか?」
「あぁ。あの時は職人が変わったのだろうと思っていたが、翌年に反映すればいいだけの話なはずだ。全てを差し替える必要がどこにあったのだろうと思ってな」
「差し替えられたのは一年程前ではなかったかな?たしか発表から差替えまで3ヶ月かかり、貴族年鑑の紛失で何人か処罰されたはずで…正確な時期を調べようか」
キリルは記憶を頼りに本棚からいくつか本を取り出した。
「日付で見ればこの辺りだと思うんだが外交官の見聞録には、記載がないな」
「差し替えの記述もないのか?」
「ないな」
キリルは最初に辿った本に戻り、もう一度確認していく。
「私も見よう」
「いや、多分載っていないアルベルトはハワード様に聞きに行くのがいいかと」
そう言われて、すぐにアルベルトはベイリーのところへと足を運ぶ。
丁度帝国から帰国したばかりだから、いくつか情報も手に入るはずだ。
「ハワード、入るぞ」
雑なノックで扉を開けたが、そこには誰もいなかった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「夜分遅くに申し訳ない」
ベイリー・ハワードは、帰国の挨拶を陛下に行った後、ハイランス領へと向かっていた。
「いやいや、帰国早々に遠くまでお疲れではないですか?」
「ご令嬢がいなくなってからは、旅にも慣れたものです」
「そうですか。うちの娘が、馬車に乗ったらすぐ寝る癖がついたと言っていたのを思い出します。大変な仕事でございますね」
ベイリーの前に座ったエドレッドは懐かしい思い出を思い浮かべ、頬を緩ませていた。
「仕事中であったにも関わらず護れず申し訳ありませんでした」
ハワードはエドレッドに会うたびにこうして頭を下げる。
「騎士の方も大勢亡くなっています。うちの子の盾になってくれた者が沢山いたのも理解しているんです。だからもう謝罪は結構。ここ最近はもうクロッカがいないと言うことを受け止めなければいけないと考えているんですよ」
空を見つめるように目線を上げたエドレッドをベイリーは頭を上げて見ることができなかった。
ーー娘の生存を諦めるというのか。私でも諦め切れていないというのに。
「ハイランス家が諦めたら…国が諦めるのも時間の問題です」
「貴方がそれを言うのですか!!今まで国が何をしてくれました?国がっ!すぐ近くの服一つ見つけるのに2年ですよ!…どれだけの証拠がこれまでに消えていったか想像は容易い。娘が…娘が生きていたら今どのような状況だと考えていらっしゃいますか?すでに死んでくれていた方が、幸せなんじゃないか。今の状況で生きているのを望む方がおかしい話だ」
もしクロッカが生きていれば、未だに生存を知らせることが出来ない状況だということ。
ただ監禁されているだけならば目的が見当たらない。
マリジェラはクロッカが死んだと主張しており、身代金を要求してくることもない。
売り払われていたとしても、最初から無事に逃げていたとしても、酷い状況に追い込まれていなければ、どんな方法でも生存を知らせてくるはずだ。
エドレッドが怒ることも無理もない配慮のない発言だった。
「申し訳ない」
「こちらこそ大きな声を出し申し訳ありません。大臣をはじめ、アルベルトや両殿下にも捜索に尽力いただいていることは理解しています。しかし、もう誰もがクロッカは死んだと結論づけている。娘と騎士、たった2人のために捜索しつづけるのが困難なのは頭ではわかっているのです。ただそこに感情が追いつかないのです」
エドレッドが悔しそうに強く拳を握り締めていた。
それを見てハワードは少し迷っていた。
帰国してすぐにハイランス伯爵領まで足を運んだのに、不確実な情報を教えて希望を持たせてもいいものかと、どうしても頭を過ぎる。
「実はここに来たのは、ある噂を耳にしまして」
「噂?」
「はい。帝国の南部で金髪のウェーブヘアの女性の旅商人の噂があります。帝国の南部地域を布や貴金属を売りながら横断しているようでいくつか目撃情報があるのです。まだ若く、口もうまいことからよく売れるそうで、ご令嬢の可能性はないかと、詳しく調べさせているところです」
「女性が一人で旅を?」
「個人の旅商人達はスケジュールの合った顔見知り数人で次の街へと移動するものなので、完全に一人という訳ではありません。上手く紛れたなら可能性は0ではないと思っています」
僅かな可能性でも確認したい。
この情報にぬか喜びするほどエドレッドもハワードも愚かではない。
ハイブロンドの女性というだけで探しては、該当する女性は多くいる。
比較的男女共に好まれる、憧れの髪色でもあるブロンドの中でもハイブロンドの髪が、クロッカの特徴の一部だ。
ふわりとカールしたハイブロンドにブルーの瞳、近くに現れれば噂にはなるだろう。
アルベルトはキリルとの打ち合わせの最中にふと疑問に思った。
キャサリンから、クロッカについての情報提供の依頼が最近はほとんどない。
イリアの方へ手紙がいっているにしても情報筋を一つに絞るのは得策ではないからだ。
自分の今の状況を考えれば、思うところがあった。
「原稿にミスが多くあったというやつのことか?」
「あぁ。あの時は職人が変わったのだろうと思っていたが、翌年に反映すればいいだけの話なはずだ。全てを差し替える必要がどこにあったのだろうと思ってな」
「差し替えられたのは一年程前ではなかったかな?たしか発表から差替えまで3ヶ月かかり、貴族年鑑の紛失で何人か処罰されたはずで…正確な時期を調べようか」
キリルは記憶を頼りに本棚からいくつか本を取り出した。
「日付で見ればこの辺りだと思うんだが外交官の見聞録には、記載がないな」
「差し替えの記述もないのか?」
「ないな」
キリルは最初に辿った本に戻り、もう一度確認していく。
「私も見よう」
「いや、多分載っていないアルベルトはハワード様に聞きに行くのがいいかと」
そう言われて、すぐにアルベルトはベイリーのところへと足を運ぶ。
丁度帝国から帰国したばかりだから、いくつか情報も手に入るはずだ。
「ハワード、入るぞ」
雑なノックで扉を開けたが、そこには誰もいなかった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「夜分遅くに申し訳ない」
ベイリー・ハワードは、帰国の挨拶を陛下に行った後、ハイランス領へと向かっていた。
「いやいや、帰国早々に遠くまでお疲れではないですか?」
「ご令嬢がいなくなってからは、旅にも慣れたものです」
「そうですか。うちの娘が、馬車に乗ったらすぐ寝る癖がついたと言っていたのを思い出します。大変な仕事でございますね」
ベイリーの前に座ったエドレッドは懐かしい思い出を思い浮かべ、頬を緩ませていた。
「仕事中であったにも関わらず護れず申し訳ありませんでした」
ハワードはエドレッドに会うたびにこうして頭を下げる。
「騎士の方も大勢亡くなっています。うちの子の盾になってくれた者が沢山いたのも理解しているんです。だからもう謝罪は結構。ここ最近はもうクロッカがいないと言うことを受け止めなければいけないと考えているんですよ」
空を見つめるように目線を上げたエドレッドをベイリーは頭を上げて見ることができなかった。
ーー娘の生存を諦めるというのか。私でも諦め切れていないというのに。
「ハイランス家が諦めたら…国が諦めるのも時間の問題です」
「貴方がそれを言うのですか!!今まで国が何をしてくれました?国がっ!すぐ近くの服一つ見つけるのに2年ですよ!…どれだけの証拠がこれまでに消えていったか想像は容易い。娘が…娘が生きていたら今どのような状況だと考えていらっしゃいますか?すでに死んでくれていた方が、幸せなんじゃないか。今の状況で生きているのを望む方がおかしい話だ」
もしクロッカが生きていれば、未だに生存を知らせることが出来ない状況だということ。
ただ監禁されているだけならば目的が見当たらない。
マリジェラはクロッカが死んだと主張しており、身代金を要求してくることもない。
売り払われていたとしても、最初から無事に逃げていたとしても、酷い状況に追い込まれていなければ、どんな方法でも生存を知らせてくるはずだ。
エドレッドが怒ることも無理もない配慮のない発言だった。
「申し訳ない」
「こちらこそ大きな声を出し申し訳ありません。大臣をはじめ、アルベルトや両殿下にも捜索に尽力いただいていることは理解しています。しかし、もう誰もがクロッカは死んだと結論づけている。娘と騎士、たった2人のために捜索しつづけるのが困難なのは頭ではわかっているのです。ただそこに感情が追いつかないのです」
エドレッドが悔しそうに強く拳を握り締めていた。
それを見てハワードは少し迷っていた。
帰国してすぐにハイランス伯爵領まで足を運んだのに、不確実な情報を教えて希望を持たせてもいいものかと、どうしても頭を過ぎる。
「実はここに来たのは、ある噂を耳にしまして」
「噂?」
「はい。帝国の南部で金髪のウェーブヘアの女性の旅商人の噂があります。帝国の南部地域を布や貴金属を売りながら横断しているようでいくつか目撃情報があるのです。まだ若く、口もうまいことからよく売れるそうで、ご令嬢の可能性はないかと、詳しく調べさせているところです」
「女性が一人で旅を?」
「個人の旅商人達はスケジュールの合った顔見知り数人で次の街へと移動するものなので、完全に一人という訳ではありません。上手く紛れたなら可能性は0ではないと思っています」
僅かな可能性でも確認したい。
この情報にぬか喜びするほどエドレッドもハワードも愚かではない。
ハイブロンドの女性というだけで探しては、該当する女性は多くいる。
比較的男女共に好まれる、憧れの髪色でもあるブロンドの中でもハイブロンドの髪が、クロッカの特徴の一部だ。
ふわりとカールしたハイブロンドにブルーの瞳、近くに現れれば噂にはなるだろう。
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