婚約破棄されたのに、運命の相手を紹介されました

佐原香奈

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紳士失格

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ドナドナと連れ去られていると、私はこれまでこのアカデミーで出会ったことなど一度もなかったあの男が近づいてくるのが見えた。

友人二人はまだ気付いていない。
逃げるべきか、はたまた仲介するべきなのか、引き摺られながらも思案をつづけた。


「シェーラ様、奇跡的に今すぐに誤解が解けそうです」


私はシェーラが誤解していそうな内容の弁解を本人にしてもらおうと、そう閃いてしまったのだ。
シェーラに恩も売れて誤解で引きちぎられそうだった友情もきっと復活するわ!


「リーリエ?なんだ、ガゼボまで待て」

中庭のガゼボはすぐ目の前だなと確認してから、リーリエはシェーラを見つめた。


「シェーラ様、あちらにシーセル・マーサー卿がおられます。今朝の記事の誤解もすぐに解けることでしょう」


シェーラはリーリエが言い終わるより前にリーリエの目線を追う。

シェーラはもちろんリーバスの秘書となったことも調べていて、その秘書を私に充てがわれたと思っているに違いない。


「シーセル様……こんなところで見れるなんて…」


すっかり乙女になったシェーラの力が抜け、私は無事に彼女の腕からの脱出に成功した。


「私は彼と婚約なんてしませんよ、シェーラ様」


どうだ、ただの誤解なのよ?と、ニコッと笑って見せたのだが、シェーラの顔は途端に曇る。
何かまずい事を言った?と確認のためにカナリアの顔を見るが、カナリアも分からない様子。


「シュエトン子爵令嬢」


余所見をしている間に、シーセルは声を掛けられるほど近くまで来ていた。


「マーサー卿、ご機嫌麗しゅう」


名前を呼ばれたので、一応畏まってみる。
が、彼は一体私に何の用があるのだろうか。
記事について文句をつけたいくらいしかないが、文句をつけられたところで、もう世に出てしまった記事なので取り消せやしないし、取り消すつもりもない。



「少しお時間よろしいですか?」


騎士科のかっちりとした制服で帯剣した姿は、ファンがいるのも納得な佇まいである。
普通に話をしていたら非常識な人とは思わないが、昨日出会ってしまったばっかりに、うかうかと見惚れられないのは悲しい限りだ。



「申し訳ありません。今は友人と一緒におりまして…あぁ、彼女は…」

「シルベマヤ国のクロスシード侯爵令嬢、そしてクラブスート伯爵令嬢ですね」


この機会に紹介して取り持とうと思ったが、彼が先に答えてしまう。


「私達のことをご存じで?」


そうやってシェーラが驚くことも無理はない。
カナリアだって目玉が飛び出なかったことが不思議なくらい目を見開いたのだから。



「シュエトン嬢のご友人の名前位は把握しております。少し彼女をお借りしても?」


「お借りしないでください」


ふぅ…危うく色気に負けたシェーラが私を差し出すその寸前で、拒否することが出来た。
中立派であるカナリアの背に私は隠れることにした。


「マーサー卿、私は婚約者でもない殿方と二人きりになるような節操なしではございません。それに、今更テンサー家の秘書に連れ出されるなんて、何をされるか分かりませんもの。恐ろしいことですわ」


私はシェーラの誤解が解ければそれで満足なのだ。
トチ狂って秘書になったマーサー卿は信じるに値しないし、文句があるならここで言って欲しい。
連れ去られたら怖いというのは本当のことだもの。


「まぁ、そうだな。カナリア、マーサー様が同席しても構わないよな?」


レディの常識は、嫉妬に狂ったシェーラにも通用したらしい。


「私は構いませんけど、マーサー卿がいらっしゃると少し目立つのでは?」


たしかに、騎士科の校舎から遠い中庭で、騎士科の制服の煌びやかな男がいれば、ガゼボの屋根で隠れていたとしても、彼自身から発せられている輝かしいオーラは隠せない気がした。


「二人で話したかったのですが、仕方ありません。では騎士科のテラス席はいかがですか?普段から空いていますから」


一般科の風の抜けて気持ちいいテラスは、いつも争奪戦なのだが、騎士科はそうではないらしい。
中庭を抜けた先、彼が今来た道を戻る形で騎士科の校舎に向かうことになりそうだ。
彼が今朝の新聞に対して文句を言いたいのなら、たしかに彼にとって醜聞になり得ない話になるのは分かるが、そこを気にするのなら抗議文でも送って他人の目に触れない形で送ってくるべきだ。
形に残して弱みを握らせたくないとでも思っているのだろうか。


「ほら、リーリエ、行くわよ」


考え込んでいる間にシェーラとシーセルが歩き出していた。
カナリアにつられて、自らの足も騎士科の校舎へと向かう。
シェーラをエスコートしているにも関わらず、後ろをチラリチラリと見てくるシーセルは、それが不本意とでも言っているようで、紳士として失格である。
シェーラは、慣れないエスコートに困惑しているのであろうシーセルを嬉しそうに眺めている。


ーーシェーラは間近でマーサー卿を見れて浮かれ上がっているわね…


きっとこんなチャンス二度とないと思って、たっぷり観察しようとでも思っているのだろうと考えると、このままもうばっくれてもいいんじゃないかと悪い考えが浮かぶ。


「リーリエ、私、シーセル・マーサーって無敵で隙のない男だと思ってたんだけど、実際見ると結構普通なのね」

「カナリア様、シーセル様はどう考えたって普通なんかじゃありません。辺境伯の息子で、騎士団からいくつも声がかかっていただろうに、卒業後は格下のテンサー家の息子の秘書になるのですから」


悪い考えを押しやりながらカナリアと話していると、シェーラから早く来いと文句が入った。
シェーラのドレスのベルトに付けられた短剣に日が反射して、強制されるかのようにカナリアと先を急いだ。
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