婚約破棄されたのに、運命の相手を紹介されました

佐原香奈

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寝耳に水

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騎士科のテラスは、一般科のテラスとは違い、シンプルな作りだった。
一般科のテラスは広く作られており、休憩時間などには給仕の者がおり、菓子やお茶を手に、話に花を咲かせる。
しかし、テラス自体は大きいのだが、4人掛けのテーブルが一つある以外は、ただのベンチが2つあるだけで、あまり使われていないことが分かる。
きっと、給仕の者も付いていないだろう。




「ありがとうございます。シーセル様はリーリエとお話があるのでしたね?」


シェーラをエスコートしていたシーセルに椅子を引いてもらって最初に座ったシェーラがまだ、その後ろに立つシーセルを振り返る。


「はい」

「では、シーセル様は私の隣にお座りください。カナリアは私の前よ」

「ほら、リーリーエ座りましょう?」

「え、えぇ…」

指定はされなくても残りはシーセルの前だけだ。
シーセルは態々回り込んでカナリアの椅子を引いてカナリアを座らせる。


「シュエトン子爵令嬢もどうぞ」


もちろん、続けて私の座る椅子も引いてシーセルが待っている。


「ありがとうございます」

子爵令嬢の私がいつまでも立ってるわけにもいかず、私はシーセルが引いてくれた椅子に大人しく座った。
そのまま、シーセルは正面の椅子に座ると、ニコッと私に笑顔を見せた。


その隣で、シェーラが『まぁ!』と声を出さずに見惚れたのは言うまでもない。


「突然時間をいただき申し訳ありませんでした」

「いえ。それで、昨日の今日でどういったお話なのでしょうか?」

「はい。昨日、テンサー家の秘書は辞退してきました。まずはそのご報告をと思いまして」

「………?」


秘書といっても、まだ学生の内だから、慣らしの期間のようなものだろうと考えてはいた。いたが、それを突然辞めた?
昨日、シーセルは私にフラれたようなものだ。
もしかして、子爵令嬢にフラれたのをプライドが許さなかった?


「シーセル様、何故ご辞退を?」

シェーラはリーリエの代わりとでも言うようにシーセルに質問をした。


「幸運にも、すぐにリビルト卿が婚約破棄をしてくれたので、これ以上いる必要がなくなったのです」


カナリアとリーリエは、何を言っているのか理解できず、一度こっそりと「分かる?」と見つめ合ったが、首を振るしかなかった。
私たちが婚約破棄するとシーセルに何かしらのメリットが?



「リーリエとあのボンクラとの婚約破棄を望んでいたと?」

「いえ、元々そこまでは望んでいませんでした。シュエトン子爵令嬢が結婚する先で秘書になっていれば、彼女を一生眺めていられると考えていた程度です」


麗しい容姿からとんでもない言葉が発せられた気がした。
私を一生眺めていて何が楽しい。

「なるほど、リーリエの事が好きだったのか」

「待って!シェーラ!話をこれ以上進めないで!」


はしたなくも音を立てて立ち上がると、三人の目線が一気に自分に集まった。
暫く続く沈黙が怖い。


「シュエトン子爵令嬢をお慕いしていますし、正式に縁談の話を持ちかけています」


今朝の時点では縁談なんて来ていませんでしたけどーーー!?


「プフッ」


静かな空間で、カナリアの抑えきれなかった笑いが耳に届いた。


「失礼しました」

「カナリア?何が楽しいの?」


ギギギギッと怒りで音を立てるようにゆっくりと首が横に動くのを感じる。


「え?プッ…そんな…楽しいだなんて…………リーリエ、彼と結婚したらどう?」

「どうしたらそんな事を思えるの?私は昨日、キッパリと彼のことはお断りしていますわ!」


明らかに面白がっているカナリアだが、笑い事ではない。
シェーラがシーセルの隣で怖い顔をしている。
シェーラはシーセルを一目見るために一日のスケジュールを丁寧に丁寧に組み立てている程のガチ追っかけをしているのだ。
決してプライベートには踏み込まず、騎士科の移動時間にはテラスからシーセルを探し、騎士科の訓練では練習場の観覧席にいてもオペラグラスを手放すことはないほどなのに、今は目の前のテーブルをひたすらに凝視している。


ーーシェーラ…


彼女を傷つけてしまったのではないかと思うと、楽しそうに笑うカナリアに怒りすら湧いてしまうのだ。


「彼の秘書官との結婚は拒否していましたが、私自身を拒否した訳ではなかったと理解しています」

「ポジティブなその思考、少しばかり楽天的すぎませんか?私はお断りです!」


屁理屈を繰り出されると私も強く否定するしかない。
シェーラは私の大切な友人だし、シーセルにも彼女を通した感情しか持ち合わせていないのだ。


「リーリエ」

「はっはい!」

黙っていたシェーラが口を開いたので、騎士にも負けないほどの素早さで返事を返した。
何を言われるのか怖い。
キュッと目を瞑って、罵られることを覚悟していた。



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