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伯爵令嬢の帰都
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エマは予想外にもめて残業となった夜、夕食を済ませるのも遅くなり、すっかり疲れて部屋に戻った。
「シュタインハート伯爵令嬢、皇太子との縁談が上がってるらしいよ?聞いた?」
エマが部屋に戻ればアンナがベッドに横になりながら、待っていたアンナがムクリと起き上がった。
「シュタインハートのご令嬢に!?」
誘拐されて領地に引っ込み、結婚はこの先難しく、修道院にでも入るのだろうと考えられていた彼女に、皇太子妃となることに許可が下りたのかと驚く。
「そうらしいよ。近衛騎士達が奥間で話してるの聞こえたんだ。婚約者が起こした事件の被害者の名誉を挽回したいらしいよ」
「そっそう…そんなことが許されるのね」
エマはその後アンナと風呂に向かったが、皇太子の縁談の話が頭を駆け巡り、その日、朝まで眠ることは出来なかった。
次の日、騎士団に現れたのは再び噂の中心となった伯爵令嬢だった。エマは伯爵令嬢の予定のない訪問に直接対応することになる。
「あら、あなたもしかしてエマさん?ほら、公園でお会いしたの覚えてない?」
おもてなしが必要、または門番では判断できなかった訪問客を捌くのがエマの仕事だった。エマはまさか自分のことを覚えているとは思ってもいなかったので、反応に困る。
「あの時はご挨拶もせず申し訳ありません。お客様対応をしておりますエマと申します。ジャン様は訓練中ですので、少しお待ちいただくことになりますが、お茶をご用意いたします。こちらへどうぞ」
エマはジャンに会いに来たと門番に伝えていた伯爵令嬢を応接室に通すことにした。伯爵家のご令嬢なら、個室で話すことを望んでいると判断した。
「ありがとう。貴族に言われる前に話しかけるなんてタブーだもの。でもまさかエマさんが王立騎士団にいるなんて…ジャンって結構秘密主義なのよねぇ。ねぇ、ジャンはどう?頑張ってる?」
「はい。恐らく問題ないと思います」
新人騎士に関することの噂はほとんど耳に届かない。余程優秀か余程家柄がいいか、もしくは余程出来が悪いかのどちらかでなければ噂は立ちようがない。
「思ったより冷たいのね。ジャンじゃなくてあの時の男を選んだの?」
伯爵令嬢の言葉に、エマは一瞬足を止めそうになったが、まっすぐ応接室までの道を見つめた。もうすぐそこだ。
「彼とお付き合いきてるんです」
「なんだ、ジャンは振られちゃったの…あっ!まさか私とジャンの噂を信じていたりしないわよね?あれは貴族の家では良くやる手だから!見目も良くてガタイの良い男を隣に置いて置けば、よっぽど自信がある男とか何も考えていない処理の簡単な男位しか声をかけて来ないっていう手法の…ねぇエマさん、ジャンはちゃんと説明していたわよね?大丈夫?」
エマは思ってもない大声で伯爵令嬢が話すので、すぐに口を押さえつけたかったが、貴族相手にそんなこと許されるはずもなく、キョロキョロと周りを伺うことしかできなかった。
「こ、困ります!こんなところでこんな話を!」
「そっそうね。ごめんなさい」
エマは応接室の扉を急いで開けると、伯爵令嬢を押し込む様にしてドアを閉めた。
「私の彼は騎士なんです。彼に勘違いされたくないので、ジャンの話は控えてもらいたいです」
エマはトーマスに誤解されたくなかった。ジャンと幼馴染や同僚以上の関係も望んでいない。余計な波風は御免被りたかった。
「えっと…ごめんなさい」
「いえ…こちらこそ…失礼いたしました。お茶をおいれします」
エマがお茶を入れていると、ノックの音がして、ジャンが入ってきた。エマを見つけるとジャンは小さく微笑んでから伯爵令嬢の方を向いた。
「お嬢様、お久しぶりですね」
「えぇ。頑張ってるみたいね。王都に来たから、一度位は挨拶でもと思って」
「光栄です」
ジャンは騎士団では決してしないような丁寧な言葉遣いで話していた。そう言えば、ジャンは再会したころは、貴族の様な話し方だったが、王立騎士団に入ってからは周りに合わせるためか、些かラフな話し方に戻っている。準貴族になってから話し方が雑になるとはおかしな話だ。
「もう貴方は私の騎士ではないのよ?気を張る必要はないわ」
「はい。でもお嬢様は伯爵令嬢ですので、この対応に間違いがあるわけではありません」
「全く…いつまで経っても私はお嬢様なのね。友人にでもなれるかと思っていたのに。辞めてもその態度なの?」
エマはジャンのお茶も入れたが先に話が始まってしまい、差し出すタイミングを逃してしまった。普通、お茶が出るまでは軽い挨拶をして待っているものなのに…それだけ久々の再会に花が咲いてしまったのだろうか…チクリと胸が痛むのを、エマは感じた。
「あぁ、エマさんごめんなさい。お茶を入れてくれたのよね?ありがとう」
ただの侍女にお礼を言う人はとても少ない。最初の一杯のお茶にお礼を言う人はいないに等しい。エマはお茶を二人の前に差し出すと、応接室を後にした。昔の失恋が蘇った様にエマに襲いかかる。伯爵令嬢は朗らかで、花の様に明るくて、それでいて優しい方だ。羨ましい…そう思った自分が惨めに感じた。
「シュタインハート伯爵令嬢、皇太子との縁談が上がってるらしいよ?聞いた?」
エマが部屋に戻ればアンナがベッドに横になりながら、待っていたアンナがムクリと起き上がった。
「シュタインハートのご令嬢に!?」
誘拐されて領地に引っ込み、結婚はこの先難しく、修道院にでも入るのだろうと考えられていた彼女に、皇太子妃となることに許可が下りたのかと驚く。
「そうらしいよ。近衛騎士達が奥間で話してるの聞こえたんだ。婚約者が起こした事件の被害者の名誉を挽回したいらしいよ」
「そっそう…そんなことが許されるのね」
エマはその後アンナと風呂に向かったが、皇太子の縁談の話が頭を駆け巡り、その日、朝まで眠ることは出来なかった。
次の日、騎士団に現れたのは再び噂の中心となった伯爵令嬢だった。エマは伯爵令嬢の予定のない訪問に直接対応することになる。
「あら、あなたもしかしてエマさん?ほら、公園でお会いしたの覚えてない?」
おもてなしが必要、または門番では判断できなかった訪問客を捌くのがエマの仕事だった。エマはまさか自分のことを覚えているとは思ってもいなかったので、反応に困る。
「あの時はご挨拶もせず申し訳ありません。お客様対応をしておりますエマと申します。ジャン様は訓練中ですので、少しお待ちいただくことになりますが、お茶をご用意いたします。こちらへどうぞ」
エマはジャンに会いに来たと門番に伝えていた伯爵令嬢を応接室に通すことにした。伯爵家のご令嬢なら、個室で話すことを望んでいると判断した。
「ありがとう。貴族に言われる前に話しかけるなんてタブーだもの。でもまさかエマさんが王立騎士団にいるなんて…ジャンって結構秘密主義なのよねぇ。ねぇ、ジャンはどう?頑張ってる?」
「はい。恐らく問題ないと思います」
新人騎士に関することの噂はほとんど耳に届かない。余程優秀か余程家柄がいいか、もしくは余程出来が悪いかのどちらかでなければ噂は立ちようがない。
「思ったより冷たいのね。ジャンじゃなくてあの時の男を選んだの?」
伯爵令嬢の言葉に、エマは一瞬足を止めそうになったが、まっすぐ応接室までの道を見つめた。もうすぐそこだ。
「彼とお付き合いきてるんです」
「なんだ、ジャンは振られちゃったの…あっ!まさか私とジャンの噂を信じていたりしないわよね?あれは貴族の家では良くやる手だから!見目も良くてガタイの良い男を隣に置いて置けば、よっぽど自信がある男とか何も考えていない処理の簡単な男位しか声をかけて来ないっていう手法の…ねぇエマさん、ジャンはちゃんと説明していたわよね?大丈夫?」
エマは思ってもない大声で伯爵令嬢が話すので、すぐに口を押さえつけたかったが、貴族相手にそんなこと許されるはずもなく、キョロキョロと周りを伺うことしかできなかった。
「こ、困ります!こんなところでこんな話を!」
「そっそうね。ごめんなさい」
エマは応接室の扉を急いで開けると、伯爵令嬢を押し込む様にしてドアを閉めた。
「私の彼は騎士なんです。彼に勘違いされたくないので、ジャンの話は控えてもらいたいです」
エマはトーマスに誤解されたくなかった。ジャンと幼馴染や同僚以上の関係も望んでいない。余計な波風は御免被りたかった。
「えっと…ごめんなさい」
「いえ…こちらこそ…失礼いたしました。お茶をおいれします」
エマがお茶を入れていると、ノックの音がして、ジャンが入ってきた。エマを見つけるとジャンは小さく微笑んでから伯爵令嬢の方を向いた。
「お嬢様、お久しぶりですね」
「えぇ。頑張ってるみたいね。王都に来たから、一度位は挨拶でもと思って」
「光栄です」
ジャンは騎士団では決してしないような丁寧な言葉遣いで話していた。そう言えば、ジャンは再会したころは、貴族の様な話し方だったが、王立騎士団に入ってからは周りに合わせるためか、些かラフな話し方に戻っている。準貴族になってから話し方が雑になるとはおかしな話だ。
「もう貴方は私の騎士ではないのよ?気を張る必要はないわ」
「はい。でもお嬢様は伯爵令嬢ですので、この対応に間違いがあるわけではありません」
「全く…いつまで経っても私はお嬢様なのね。友人にでもなれるかと思っていたのに。辞めてもその態度なの?」
エマはジャンのお茶も入れたが先に話が始まってしまい、差し出すタイミングを逃してしまった。普通、お茶が出るまでは軽い挨拶をして待っているものなのに…それだけ久々の再会に花が咲いてしまったのだろうか…チクリと胸が痛むのを、エマは感じた。
「あぁ、エマさんごめんなさい。お茶を入れてくれたのよね?ありがとう」
ただの侍女にお礼を言う人はとても少ない。最初の一杯のお茶にお礼を言う人はいないに等しい。エマはお茶を二人の前に差し出すと、応接室を後にした。昔の失恋が蘇った様にエマに襲いかかる。伯爵令嬢は朗らかで、花の様に明るくて、それでいて優しい方だ。羨ましい…そう思った自分が惨めに感じた。
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