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第一部
呼び出し
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魔術師は魔力制御の効かない幼い頃に、多くのものを失う。
大事にしていたぬいぐるみも、お気に入りのソファも、そして大切な家族でさえも、傷付けてしまう。
魔力とはそういうものであって、人間というものは簡単に死んでしまう生き物だ。
「姉様、アイツ、ウィリアムにキスしやがったんだ。ウィリアムがアイツを庇って内緒にしていたのも許せない」
「ダリア、ウィリアムは貴女を心配して黙っていたのよ。貴女を心配して私のところに来たんだから。ダリアを助けてほしいってね。ウィリアムのことは許してあげなさい」
「検討だけはしておく…」
唇をかみしめて、ダリアは泣いた。
楽しいことが好きで、いつも笑っているダリアに涙は似合わないと思って、頭をポンと扇子で叩く。
「それで?国王は殺したの?」
本城が煤まみれのボロボロなのを見ている私は、今後を考えなければいけなかった。
ダリアを守るには国を潰すしかないかなと頭を過ったのだ。
「あのクソ野郎、あの姫の処分、なんて言ったと思う?」
「そうねぇ…陛下なら処分なしとかもありえそうね」
くだらない人間の考えなんて似たり寄ったりだと考えながら、私たちは煤けた春の宮を歩いた。
「「可愛い姫の悪戯だ。許してやれ」、それだけだったわ」
陛下にとって可愛い姪っ子姫でも、私たちには存在を許してやっている下等生物にしか思えなかった。
魔力も低ければ、頭も悪い。加えてピーチクパーチク雛鳥のように口を開けることしか能がない。
「あー面白い」
私はそう言って、どさくさに紛れて名前を覚える価値もないゴミの五月蝿い声に向かって雷撃を送った。
春の宮なんて呼ばれていた建物は崩れ、私たちは自分の周りに結界を張りながら外に出た。
「姉様って結構腹黒いわよね。みんな気付いてないけど」
「あら、こんなに優しいお姉様は中々いないと思うわよ?」
周りには大勢の魔術師がいるし、運が良ければ助かるだろう。
あわよくばそのまま死に絶えればいい。
権力を持つというのならば、最低限の礼節を欠かしてはいけない。
己の行動一つで、敵は増えるのだから。
家に帰ったら、予定をキャンセルした縁談相手に謝罪の手紙を書かないといけないことを考えると憂鬱だった。
それでも、姫などと呼ばれていた女よりは気を使う価値のあることだ。
フロージアと会いたくなかった私は、本来は安否を確認するべき国王陛下の顔を見ることなく、投げかけられる声を無視してイシュトハンへと戻った。
人を見る目だけはあるお父様が持ってくる縁談相手に会うのは苦ではなかった。
アカデミーを卒業してから婚活というものをしている私にも、数多くの縁談がやってきていたし、他国からも熱心な求婚を受けていた。
フロージアは私を振った後すぐに婚約者候補で王宮に上がっていた侯爵令嬢と噂になっている。
男というのは結局はそんなものなのだろう。
縁談相手に期待というものをしなくなって、得たものは虚無感だけだった。
それでも、急遽予定をキャンセルをしたことに対する謝罪の手紙を書いていると、覇気のない父からダリアと共に王宮に向かうように伝えられた。
「なぜ私が」
ダリアに対する処分ならばダリアだけ呼び出せばいい問題だ。
今回のことは王家に非があるのだから、ダリアに罰を与えると言い出せばイシュトハンを敵に回すことになる。
だがどうだろう、父は項垂れるだけで処分を恐れているようだった。
「お父様、イシュトハンが国に縋る理由はありませんよね?」
隣国から流れてくる雄大な川に、広い土地、めったに農作物に困ることはないし、今の魔力の強い姉妹のいるイシュトハンを敵に回す国もない。
「王国から出ればサリスに苦労をかけることになる。新しい外交ルートの確保や社交も必要になる。私たちの隠居は遅くなるだろう。それはサリスに申し訳ないじゃないか」
魔力の少なさから、魔力の高い嫁を求めて魔術師のトップにいた母を願い、侯爵家の娘だった母と政略結婚したという父。
多くの魔力を持つ母が睡眠と食事を生活の中心に置くほど魔力を使わせていることの負目により、母には頭が上がらない。
さっさと隠居したいというのが両親の口癖だ。
溜め息を吐きつつも、私は仕方なしに目的も分からず王都に向かった。
大事にしていたぬいぐるみも、お気に入りのソファも、そして大切な家族でさえも、傷付けてしまう。
魔力とはそういうものであって、人間というものは簡単に死んでしまう生き物だ。
「姉様、アイツ、ウィリアムにキスしやがったんだ。ウィリアムがアイツを庇って内緒にしていたのも許せない」
「ダリア、ウィリアムは貴女を心配して黙っていたのよ。貴女を心配して私のところに来たんだから。ダリアを助けてほしいってね。ウィリアムのことは許してあげなさい」
「検討だけはしておく…」
唇をかみしめて、ダリアは泣いた。
楽しいことが好きで、いつも笑っているダリアに涙は似合わないと思って、頭をポンと扇子で叩く。
「それで?国王は殺したの?」
本城が煤まみれのボロボロなのを見ている私は、今後を考えなければいけなかった。
ダリアを守るには国を潰すしかないかなと頭を過ったのだ。
「あのクソ野郎、あの姫の処分、なんて言ったと思う?」
「そうねぇ…陛下なら処分なしとかもありえそうね」
くだらない人間の考えなんて似たり寄ったりだと考えながら、私たちは煤けた春の宮を歩いた。
「「可愛い姫の悪戯だ。許してやれ」、それだけだったわ」
陛下にとって可愛い姪っ子姫でも、私たちには存在を許してやっている下等生物にしか思えなかった。
魔力も低ければ、頭も悪い。加えてピーチクパーチク雛鳥のように口を開けることしか能がない。
「あー面白い」
私はそう言って、どさくさに紛れて名前を覚える価値もないゴミの五月蝿い声に向かって雷撃を送った。
春の宮なんて呼ばれていた建物は崩れ、私たちは自分の周りに結界を張りながら外に出た。
「姉様って結構腹黒いわよね。みんな気付いてないけど」
「あら、こんなに優しいお姉様は中々いないと思うわよ?」
周りには大勢の魔術師がいるし、運が良ければ助かるだろう。
あわよくばそのまま死に絶えればいい。
権力を持つというのならば、最低限の礼節を欠かしてはいけない。
己の行動一つで、敵は増えるのだから。
家に帰ったら、予定をキャンセルした縁談相手に謝罪の手紙を書かないといけないことを考えると憂鬱だった。
それでも、姫などと呼ばれていた女よりは気を使う価値のあることだ。
フロージアと会いたくなかった私は、本来は安否を確認するべき国王陛下の顔を見ることなく、投げかけられる声を無視してイシュトハンへと戻った。
人を見る目だけはあるお父様が持ってくる縁談相手に会うのは苦ではなかった。
アカデミーを卒業してから婚活というものをしている私にも、数多くの縁談がやってきていたし、他国からも熱心な求婚を受けていた。
フロージアは私を振った後すぐに婚約者候補で王宮に上がっていた侯爵令嬢と噂になっている。
男というのは結局はそんなものなのだろう。
縁談相手に期待というものをしなくなって、得たものは虚無感だけだった。
それでも、急遽予定をキャンセルをしたことに対する謝罪の手紙を書いていると、覇気のない父からダリアと共に王宮に向かうように伝えられた。
「なぜ私が」
ダリアに対する処分ならばダリアだけ呼び出せばいい問題だ。
今回のことは王家に非があるのだから、ダリアに罰を与えると言い出せばイシュトハンを敵に回すことになる。
だがどうだろう、父は項垂れるだけで処分を恐れているようだった。
「お父様、イシュトハンが国に縋る理由はありませんよね?」
隣国から流れてくる雄大な川に、広い土地、めったに農作物に困ることはないし、今の魔力の強い姉妹のいるイシュトハンを敵に回す国もない。
「王国から出ればサリスに苦労をかけることになる。新しい外交ルートの確保や社交も必要になる。私たちの隠居は遅くなるだろう。それはサリスに申し訳ないじゃないか」
魔力の少なさから、魔力の高い嫁を求めて魔術師のトップにいた母を願い、侯爵家の娘だった母と政略結婚したという父。
多くの魔力を持つ母が睡眠と食事を生活の中心に置くほど魔力を使わせていることの負目により、母には頭が上がらない。
さっさと隠居したいというのが両親の口癖だ。
溜め息を吐きつつも、私は仕方なしに目的も分からず王都に向かった。
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