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第一部
大切なこと
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甘いものというのは魔力回復に欠かせないものだが、食事で補うには限度がある。
クロエの大好物セットと呼ばれる朝食は王宮の結界を張っている私にも丁度いいのだが、甘いばかりではすぐに手が止まってしまう。
私も目の前のクロエのように甘い物はいくらでも食べれるような時もあったのに、いつの間にかクロエを羨ましいと思うまでに歳を重ねたようだ。
「コーヒーを濃いめに入れてちょうだい」
給仕している執事に声を掛けると、暫くクロエの食べているところを視界に入れる。
「ステラ姉様?もうお腹いっぱい?」
「いいえ、最後までいただくわ。クロエもしっかり食べておきなさいね」
「はい」
「ところで、さっきの話だけど、もしもこの先クロエがイシュトハンを継げないと思う日が来たら、あまり悩まないでイシュトハンなんて捨ててしまいなさい。未来の私たちの子供をイシュトハン家の養子にしてもいいし、もしそれが無理な状況でも爵位のない従兄弟に継がせることも出来るわ」
フロージアには、私は後継者だと言い続けてきた。
それは紛れもない事実であったけど、フロージアと一緒になるのならば、二番目に大切なものは諦めるしかなかった。
もしクロエが継がなくなれば気軽に帰れる家がなくなり、私もダリアも結婚したことを後悔するかもしれない。
その位、私たちにとってこの家は過ごしやすい場所で、私たち三人姉妹は、私たちを理解できる唯一の仲間だ。
自分の子供が継ぐならば兎も角、それ以外の者が継げばこの家でゆっくりと過ごすということはなくなるのだろう。
それはとても惜しいことだ。
しかし、私にも継ぐか継がないか選択肢があったように、クロエにも選択肢があるべきだ。
「お姫様を夢見ていた時もありました。でも、それは私が後継者になるとは夢にも思っていなかった頃で、ステラ姉様があのフロージアと、ダリア姉様がウィリアムと結婚するのだと理解した時には私は絶対にここに残るって決めたんです。だから、ステラ姉様が継がないから私が継ぐと…思う…」
「まだ分からないけどね、継がない選択肢もあるのだと覚えてくれてたらそれでいいわ。お父様やお母様には内緒ね。きっとこんなこと言ったら怒っちゃうわ」
「泣きながら早く引退させてくれって言うパターンもあるかも?」
「それもあり得るわね」
私はコーヒーの苦味を味わいながら完食した。
クロエはミルクを飲んだりオレンジジュースを飲んだりとても朝食を楽しんでいるようだ。
クロエは私やダリアとは違い、魔力が人一倍多いにも関わらず魔力制御を容易くマスターしたのだが、不思議と無感情になることはなかった。
クロエの起こした事件前後は、家族とも笑い合うことが無くなるほど感情を読み取ることが難しい時もあったのだが、今ではまた一見見ただけでは能天気な町娘のように表情がクルクルと変わる。
感情の制御は魔力制御の基本であり、魔力が強い者程制御を覚えるのは大変なことだ。
私はクロエくらいの頃に漸く魔力が暴発することがなくなったのだが、クロエは五歳の頃にはもうある程度の魔力制御が終わっていた。
成長期の終盤まで、増え続ける魔力に困惑したものだが、クロエはそんな気配すらもない。
イシュトハンの隠す様々なクロエの魔法の才能は家族だけの秘密だ。
それでも、それをいつまで隠せるだろうか。
出来ることならば妹が大人になるまで見つからないでいてほしい。
否応なく王家に嫁ぐことになる異才だからだ。
今でも私はフロージアと結婚するべきだったと思う。
イシュトハンの為にも王家のためにも、この国の為にもだ。
それでも例えもう一度チャンスがあろうと、私はその道を決して選ばない。
「魔法の練習には誰かを連れて行きなさいね」
「うっ…分かっていますよぅ」
きっと今日も一人で魔法の練習をするつもりだったであろうクロエを置いて、私は自室に戻った。
「もうすでに縁談を受ける気でいるのが最高に笑えるわね」
クラーク公爵家に私は手紙を出した。
転送装置で送れば直ぐにクラーク家に到着する。
公爵家という家柄に、整った顔、人柄も社交界のお墨付きである。
それに、最終的に縁談を受けるかは別として、彼ともう一度話してみたいと私が思っている。
今朝縁談がきていなかったら、もしかしたらここまで考えなかったかもしれない。
兎に角私はもう一度彼に会うことにしたのだ。
クロエの大好物セットと呼ばれる朝食は王宮の結界を張っている私にも丁度いいのだが、甘いばかりではすぐに手が止まってしまう。
私も目の前のクロエのように甘い物はいくらでも食べれるような時もあったのに、いつの間にかクロエを羨ましいと思うまでに歳を重ねたようだ。
「コーヒーを濃いめに入れてちょうだい」
給仕している執事に声を掛けると、暫くクロエの食べているところを視界に入れる。
「ステラ姉様?もうお腹いっぱい?」
「いいえ、最後までいただくわ。クロエもしっかり食べておきなさいね」
「はい」
「ところで、さっきの話だけど、もしもこの先クロエがイシュトハンを継げないと思う日が来たら、あまり悩まないでイシュトハンなんて捨ててしまいなさい。未来の私たちの子供をイシュトハン家の養子にしてもいいし、もしそれが無理な状況でも爵位のない従兄弟に継がせることも出来るわ」
フロージアには、私は後継者だと言い続けてきた。
それは紛れもない事実であったけど、フロージアと一緒になるのならば、二番目に大切なものは諦めるしかなかった。
もしクロエが継がなくなれば気軽に帰れる家がなくなり、私もダリアも結婚したことを後悔するかもしれない。
その位、私たちにとってこの家は過ごしやすい場所で、私たち三人姉妹は、私たちを理解できる唯一の仲間だ。
自分の子供が継ぐならば兎も角、それ以外の者が継げばこの家でゆっくりと過ごすということはなくなるのだろう。
それはとても惜しいことだ。
しかし、私にも継ぐか継がないか選択肢があったように、クロエにも選択肢があるべきだ。
「お姫様を夢見ていた時もありました。でも、それは私が後継者になるとは夢にも思っていなかった頃で、ステラ姉様があのフロージアと、ダリア姉様がウィリアムと結婚するのだと理解した時には私は絶対にここに残るって決めたんです。だから、ステラ姉様が継がないから私が継ぐと…思う…」
「まだ分からないけどね、継がない選択肢もあるのだと覚えてくれてたらそれでいいわ。お父様やお母様には内緒ね。きっとこんなこと言ったら怒っちゃうわ」
「泣きながら早く引退させてくれって言うパターンもあるかも?」
「それもあり得るわね」
私はコーヒーの苦味を味わいながら完食した。
クロエはミルクを飲んだりオレンジジュースを飲んだりとても朝食を楽しんでいるようだ。
クロエは私やダリアとは違い、魔力が人一倍多いにも関わらず魔力制御を容易くマスターしたのだが、不思議と無感情になることはなかった。
クロエの起こした事件前後は、家族とも笑い合うことが無くなるほど感情を読み取ることが難しい時もあったのだが、今ではまた一見見ただけでは能天気な町娘のように表情がクルクルと変わる。
感情の制御は魔力制御の基本であり、魔力が強い者程制御を覚えるのは大変なことだ。
私はクロエくらいの頃に漸く魔力が暴発することがなくなったのだが、クロエは五歳の頃にはもうある程度の魔力制御が終わっていた。
成長期の終盤まで、増え続ける魔力に困惑したものだが、クロエはそんな気配すらもない。
イシュトハンの隠す様々なクロエの魔法の才能は家族だけの秘密だ。
それでも、それをいつまで隠せるだろうか。
出来ることならば妹が大人になるまで見つからないでいてほしい。
否応なく王家に嫁ぐことになる異才だからだ。
今でも私はフロージアと結婚するべきだったと思う。
イシュトハンの為にも王家のためにも、この国の為にもだ。
それでも例えもう一度チャンスがあろうと、私はその道を決して選ばない。
「魔法の練習には誰かを連れて行きなさいね」
「うっ…分かっていますよぅ」
きっと今日も一人で魔法の練習をするつもりだったであろうクロエを置いて、私は自室に戻った。
「もうすでに縁談を受ける気でいるのが最高に笑えるわね」
クラーク公爵家に私は手紙を出した。
転送装置で送れば直ぐにクラーク家に到着する。
公爵家という家柄に、整った顔、人柄も社交界のお墨付きである。
それに、最終的に縁談を受けるかは別として、彼ともう一度話してみたいと私が思っている。
今朝縁談がきていなかったら、もしかしたらここまで考えなかったかもしれない。
兎に角私はもう一度彼に会うことにしたのだ。
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