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第一部
最高のパーティ
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会場中の視線が自分たちに集まることになって、彼の作戦は成功したようだった。
「陛下がみえているわけでもないのに床で踊るなんて無意味な事です。さぁ楽しみましょう」
音楽の途中から踊り出したのに、彼の手はまるで最初から踊っているかのように自然に腰に当てられていた。
周りの腰くらいの高さまで浮いている私たちの周りは、少しずつ空いていって、いつの間にかホールの中心で私たちは踊っていた。
「公爵…こんなに楽しいのは久しぶりです」
私はいつの間にかうっとりと彼に身を任せていた。
彼は私のステップにも違和感なくついてきて、寧ろこれまでで1番踊りやすかった。
私が身を任せて彼の動きに合わせているようで、彼が私の動きやすいように動いてくれているのだと気付くと、おかしくてたまらなかった。
ーーなんでこんな人にまだ婚約者もいないのかしら?
本当に不思議でたまらなかったが、視界に入る私を見るフロージアの顔も気にならないくらい私は彼とのダンスを楽しんでいた。
「流石に疲れましたわ」
「私もです」
私はお酒もあってか少し息も上がっていた。
「フフッ!あぁ可笑しい。公爵、明日から私たち大変ですよ?」
社交界の噂は距離なんて関係なくすぐに広まってしまう。
もうすぐ社交シーズンも終わりを告げるが、まだ多くの貴族は王都に残っていた。
きっと私の元にはたくさんの招待状が届く事だろう。
「お水です。どうぞ」
ちょうど通りかかった執事から彼がお水をもらい、私に手渡してくれた。
少しだけ触れた彼の指は温かかった。
「ありがとうございます」
二口、三口と水を含んだあと彼を見ると、彼は息一つ乱していない事に気付いた。
「私のことはデイヴィッドとお呼びください」
「なら、私のこともステラと」
そう言って見つめ合う私には、ザワザワと話す周りの声は耳に届かなかった。
結局、私はパーティの終盤まで彼と一緒にいた。
縁談のことなんて冗談だろうと思っていたが、丁寧に邸宅まで送ってもらった翌日、起きた時にはクラーク家から縁談の申し込みが父と私宛に届いた。
「まさか本気だったの!?」
彼への返事の催促もなく、私は縁談について返事をした覚えはなかった。
今思えば強引にホールに連れ出し、ほぼ強制的にダンスを踊ったに近いが、私はいつものように蹴散らすでもなく楽しい時間を過ごしていた。
私に同情して、フロージアに見せつけてやれと気を使ってくれたのだとばかり思っていた。
私の評判は昨日の一件でガラリと変わったことだろう。
皇太子に捨てられて行き遅れた女から、公爵夫人候補になったわけだ。
「ステラ姉様、大きな声を出してどうしたの?」
父の部屋の前で大きな声を出してしまった私は、朝食を食べていたダイニングからクロエが顔を出しているのに気が付いた。
「クロエ丁度いいところにいたわね」
私はいいところに出てきたと、クロエと朝食を取ることにした。
「今日は私の大好物セットが朝食だよ?」
「あらそう。それは楽しみね」
そうして並べられた料理は、フルーツのたっぷり乗ったパンケーキに、バターソテーされたバナナ、アップルパイと甘いもののオンパレードだった。
「今日も一日中裏山に篭もる気ね?」
「えへへ、お父様が魔導書を買ってくれたから早く試したくて」
クロエは魔法バカとでも言えそうなほど魔法を使うことが好きな子だ。
ただ、魔力の強い姉妹の中でも一番魔力に恵まれて、国一番の魔力保持量を誇り、特殊な魔法な使い方をするため、イシュトハンの機密は主にクロエに関することになってしまった。
「そういえば最近フリードリヒの話をしないじゃない。喧嘩でもしたの?」
喧嘩と言っても、イシュトハンに引きこもりのクロエと、王宮に引きこもるフリードリヒでは、喧嘩といえるほどのことはなさそうなのだが、何かしらすれ違いがあったようだ。
「フリードは私のことは嫌いみたいだからもういいの」
婚約者候補の女性たちの前で堂々とクロエの話を繰り広げるフリードが、クロエのことを嫌いなんてことはないのだが、大好物を前にフォークを置いてしまったクロエを見ていると、自分のことが嫌いだということを確信させた何かがあったのだろう。
「私がもしどこかの家に嫁いだら、クロエはイシュトハンを継ぎたい?」
クロエは王族の仲間入りしても、ストレスで禿げてしまうかもしれない。
基本的には楽天家だし、負けず嫌いではあるが人に嫌われることを極度に怖がる性格では、きっとやっていけないだろう。
だけど、茨の道でもクロエが望むのならば、助けるのが姉の役目だ。
「もちろん継ぎたいです!」
クロエは迷いなく答えたが「あっ。でも、ステラ姉様がフロージアと結婚するならあんまり嬉しくない…」
わざわざフラれたとは伝えていないが、話は聞いているだろう。
どこにいても何をしていてもどこからか話が耳に入ったはずだ。
「大丈夫よ。フロージアのところへ嫁ぐなんて、王命でも拒むわ!」
「ならいいですけど…ステラ姉様の相手はステラ姉様がちゃんと幸せでいられる相手がいいと思います」
ふんっ!と小鼻を膨らませながら話すクロエが、フロージアは私を幸せに出来ないと思っていたとは驚いた。
幼馴染でもあるフロージアのことは当たり前に好きなのだと思っていたがそうでもなかったようだ。
「陛下がみえているわけでもないのに床で踊るなんて無意味な事です。さぁ楽しみましょう」
音楽の途中から踊り出したのに、彼の手はまるで最初から踊っているかのように自然に腰に当てられていた。
周りの腰くらいの高さまで浮いている私たちの周りは、少しずつ空いていって、いつの間にかホールの中心で私たちは踊っていた。
「公爵…こんなに楽しいのは久しぶりです」
私はいつの間にかうっとりと彼に身を任せていた。
彼は私のステップにも違和感なくついてきて、寧ろこれまでで1番踊りやすかった。
私が身を任せて彼の動きに合わせているようで、彼が私の動きやすいように動いてくれているのだと気付くと、おかしくてたまらなかった。
ーーなんでこんな人にまだ婚約者もいないのかしら?
本当に不思議でたまらなかったが、視界に入る私を見るフロージアの顔も気にならないくらい私は彼とのダンスを楽しんでいた。
「流石に疲れましたわ」
「私もです」
私はお酒もあってか少し息も上がっていた。
「フフッ!あぁ可笑しい。公爵、明日から私たち大変ですよ?」
社交界の噂は距離なんて関係なくすぐに広まってしまう。
もうすぐ社交シーズンも終わりを告げるが、まだ多くの貴族は王都に残っていた。
きっと私の元にはたくさんの招待状が届く事だろう。
「お水です。どうぞ」
ちょうど通りかかった執事から彼がお水をもらい、私に手渡してくれた。
少しだけ触れた彼の指は温かかった。
「ありがとうございます」
二口、三口と水を含んだあと彼を見ると、彼は息一つ乱していない事に気付いた。
「私のことはデイヴィッドとお呼びください」
「なら、私のこともステラと」
そう言って見つめ合う私には、ザワザワと話す周りの声は耳に届かなかった。
結局、私はパーティの終盤まで彼と一緒にいた。
縁談のことなんて冗談だろうと思っていたが、丁寧に邸宅まで送ってもらった翌日、起きた時にはクラーク家から縁談の申し込みが父と私宛に届いた。
「まさか本気だったの!?」
彼への返事の催促もなく、私は縁談について返事をした覚えはなかった。
今思えば強引にホールに連れ出し、ほぼ強制的にダンスを踊ったに近いが、私はいつものように蹴散らすでもなく楽しい時間を過ごしていた。
私に同情して、フロージアに見せつけてやれと気を使ってくれたのだとばかり思っていた。
私の評判は昨日の一件でガラリと変わったことだろう。
皇太子に捨てられて行き遅れた女から、公爵夫人候補になったわけだ。
「ステラ姉様、大きな声を出してどうしたの?」
父の部屋の前で大きな声を出してしまった私は、朝食を食べていたダイニングからクロエが顔を出しているのに気が付いた。
「クロエ丁度いいところにいたわね」
私はいいところに出てきたと、クロエと朝食を取ることにした。
「今日は私の大好物セットが朝食だよ?」
「あらそう。それは楽しみね」
そうして並べられた料理は、フルーツのたっぷり乗ったパンケーキに、バターソテーされたバナナ、アップルパイと甘いもののオンパレードだった。
「今日も一日中裏山に篭もる気ね?」
「えへへ、お父様が魔導書を買ってくれたから早く試したくて」
クロエは魔法バカとでも言えそうなほど魔法を使うことが好きな子だ。
ただ、魔力の強い姉妹の中でも一番魔力に恵まれて、国一番の魔力保持量を誇り、特殊な魔法な使い方をするため、イシュトハンの機密は主にクロエに関することになってしまった。
「そういえば最近フリードリヒの話をしないじゃない。喧嘩でもしたの?」
喧嘩と言っても、イシュトハンに引きこもりのクロエと、王宮に引きこもるフリードリヒでは、喧嘩といえるほどのことはなさそうなのだが、何かしらすれ違いがあったようだ。
「フリードは私のことは嫌いみたいだからもういいの」
婚約者候補の女性たちの前で堂々とクロエの話を繰り広げるフリードが、クロエのことを嫌いなんてことはないのだが、大好物を前にフォークを置いてしまったクロエを見ていると、自分のことが嫌いだということを確信させた何かがあったのだろう。
「私がもしどこかの家に嫁いだら、クロエはイシュトハンを継ぎたい?」
クロエは王族の仲間入りしても、ストレスで禿げてしまうかもしれない。
基本的には楽天家だし、負けず嫌いではあるが人に嫌われることを極度に怖がる性格では、きっとやっていけないだろう。
だけど、茨の道でもクロエが望むのならば、助けるのが姉の役目だ。
「もちろん継ぎたいです!」
クロエは迷いなく答えたが「あっ。でも、ステラ姉様がフロージアと結婚するならあんまり嬉しくない…」
わざわざフラれたとは伝えていないが、話は聞いているだろう。
どこにいても何をしていてもどこからか話が耳に入ったはずだ。
「大丈夫よ。フロージアのところへ嫁ぐなんて、王命でも拒むわ!」
「ならいいですけど…ステラ姉様の相手はステラ姉様がちゃんと幸せでいられる相手がいいと思います」
ふんっ!と小鼻を膨らませながら話すクロエが、フロージアは私を幸せに出来ないと思っていたとは驚いた。
幼馴染でもあるフロージアのことは当たり前に好きなのだと思っていたがそうでもなかったようだ。
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