皇太子殿下に捨てられた私の幸せな契約結婚

佐原香奈

文字の大きさ
10 / 52
第一部

運命のパーティ

しおりを挟む
「突然の質問に驚かせてしまいましたか?」

「いえ、私の事はお忘れなのかと思っていたので驚いただけです」

失礼だなどと怒ることもなく、彼は少し申し訳なさそうにしていた。
これまでフロージアの隣で挨拶を交わした程度の最低限の交流しか彼とはしたことがなかったが、せっかちな私が彼のゆったりとした時間の流れの中にいるかのような不思議な感覚に襲われた。


「何度もご挨拶した事はありますし、勿論令嬢の事はすぐに分かりましたよ」


すぐに分かったのならば、令嬢などと暈した呼び方はしないで欲しいものだ。


「そうでしたか。そういえば今日はまだご挨拶がまだでしたね。ステラ・リラ・イシュトハン。お忘れだったかもしれませんが三姉妹の長女ですわ」


この言い方は少し意地悪だったかしら?と少しばかり思いながらも彼ならば許してくれるだろうと確信していた。


「デイヴィッド・ファイル・クラークです。兄弟はいないので、今は母に早く結婚してくれと毎日泣かれています」

「まぁ!夫人が?フフッ彼女を泣かすだなんてとんでもないことですわ」

先代公爵の奥様は、元魔術師で社交界に疎い王妃の代わりにと言っていいかは分からないが、社交界を牽引する強き女性というイメージだった。
派閥による嫌がらせや陰口もあっただろうが、公爵家の力の使い方がうまく、大きな批判を受けた事がない素晴らしき手腕の持ち主だ。


ある時は影から援助し、邪魔者を始末し、綺麗事だけじゃ収まらない社交界の中心で生きてきた方、皇太子妃を目指した私はもちろん何度もお茶会やパーティに参加したことがある。


「えぇ。母は恐ろしい方ですから、こうして反抗することもなくパーティへ参加しているのですが、それも今日までのようです」

「あら、ついにストライキでもなさるのかしら」


クスクスと笑いながら私の身体は自然と彼の方をしっかりと向いていた。


「いえ、明日の朝、イシュトハン家に縁談を申し込もうかと。辺境伯とはあまり交流がありませんが、私に可能性はありそうですか?」


「縁談を?イシュトハン家は政略結婚はしないので、イシュトハン家に来た縁談は全てお断りしています。ただ、父と交友関係にある方との縁談だけ娘に伝わることもあるというくらいでしょうか?因みに次女のダリアは婚約を済ませていますし、末の妹はまだ社交界にも出ていませんので、本気なのでしたらもう少し待ったほうが…」


難しそうだとやんわりとお断りしながら彼の顔を見上げていって、彼が三姉妹の誰かとの縁談という意味ではなく、私との縁談を希望しているのだと気付いた。
ドキリとする位真剣な視線とぶつかると、こんなにハッキリと口説かれているのに気付かずに的外れな事を言っている自分が恥ずかしくなった。
今まで一度だって口説かれた事なく生きてきたのだ。
私には皇太子が隣に必ずいたのだから当然のことだ。


「えっと…私はイシュトハンの後継者ですし、公爵様が婿に入る事は困難かと思うのですが」


「ですが、フロージア殿下の隣に立っていたという事は、継承権は放棄する気でいたということなのでは?」

「それは…」


その通りだ。
私はずっと後継者として生きてきたが、それだけが道ではないと考えていたし、違う道を選択することも許可されていた。
社交界でも暗黙の了解として妹のどちらかがイシュトハンを継ぐのだろうと考えられていたのに、後継者だからと振られた惨めな女が私だった。


「それに、あのまま彼を呑気に踊らせるのも嫌でしょう?私たちはオーラの色も似ているし、お互いに結婚相手を探している。もし私が気に入らないのなら仕方ありませんが、もし宜しければ私と一曲踊っていただけませんか?」

「気に入らないなんてそんなことはありませんが、いいのですか?きっとすぐに噂は広まりますよ?」


もしかしたら私の最初の独り言を聞いて、哀れに思ってくれたのかもしれない。
王宮を守る結界を張る私は、正直結婚相手としてはあまり好まれない立場になってしまった。
王族と縁を結びたい中流貴族や、他国の高位貴族にはまだ歓迎されるだろうが、自領の防衛のための結界を張るのを任せたい魔力目当ての貴族達は一気に興味をなくしたことだろう。


現に、王宮の結界を維持するのはかなりの魔力を消費しており、私の食事回数を増やして対応している。
常時数人で維持していた結界を一人で補うのだから、陛下の命令で犠牲になったものはとても大きいものだった。


「噂なんて大歓迎ですよ。さぁ、派手に戻って注目を攫いましょう」


公爵は私の手を取ると、私の身体はふわりと宙に浮いた。
魔法で扉を開けてそのままホールへと空を歩きながらエスコートされた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結】姫将軍の政略結婚

ユリーカ
恋愛
 姫将軍ことハイランド王国第四王女エレノアの嫁ぎ先が決まった。そこは和平が成立したアドラール帝国、相手は黒太子フリードリヒ。  姫将軍として帝国と戦ったエレノアが和平の条件で嫁ぐ政略結婚であった。  人質同然で嫁いだつもりのエレノアだったが、帝国側にはある事情があって‥‥。  自国で不遇だった姫将軍が帝国で幸せになるお話です。  不遇な姫が優しい王子に溺愛されるシンデレラストーリーのはずが、なぜか姫が武装し皇太子がオレ様になりました。ごめんなさい。  スピンオフ「盲目な魔法使いのお気に入り」も宜しくお願いします。 ※ 全話完結済み。7時20時更新します。 ※ ファンタジー要素多め。魔法なし物理のみです。 ※ 第四章で魔物との戦闘があります。 ※ 短編と長編の違いがよくわかっておりません!すみません!十万字以上が長編と解釈してます。文字数で判断ください。

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

完結 殿下、婚姻前から愛人ですか? 

ヴァンドール
恋愛
婚姻前から愛人のいる王子に嫁げと王命が降る、執務は全て私達皆んなに押し付け、王子は今日も愛人と観劇ですか? どうぞお好きに。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

処理中です...