9 / 52
第一部
退屈なパーティ
しおりを挟む
社交界では私とフロージアが別れたことがすぐに広まることとなった。
父が私の縁談相手を探し始め、フロージアは婚約者候補の一人と出掛けるのを目撃されたからだ。
その後のパーティやお茶会は散々だった。
噂好きの友人に囲まれ、笑われ、これまで社交界を引っ張ってきた分、反動が大きかった。
かと言ってその事に傷付いたりするほど柔な性格ではなかったが、フロージアが私ではない女性をエスコートしていると聞いた時は久しぶりに魔力を押さえ込むのにとても苦労した。
「ステラ様と別れてまだ間もないのに、フロージア殿下の配慮のない事…なんだかがっかりだわ」
笑い物にされるか、同情されるかの二択となった私は、耳を塞ぐということを初めて覚えた。
何を話しても自分にメリットがなかったからだ。
それでも、アカデミー卒業後のように自分に自信をなくして社交の場から逃げるようなことはしなかった。
配慮のかけらもない対応をフロージアがするのならば、私も遠慮することはない。
父が本当に山のように縁談相手を見つけてきて、それは他国の王族も含まれた。
王宮で開かれるパーティにいけば、縁談を申し込まれている男性からのアプローチは止まず、私は嘲笑う女性達の前で優雅に笑っていた。
やがてダンスタイムに入り、フロージアが私ではない誰かとダンスを踊っているのを見ると、やはり気分は良くなかった。
まだ過去にするには時間が足りなかったと思い知った私は、ダンスに誘う男性の手を掻い潜りながらテラスへと出た。
「正式に付き合っていたわけですらないし、あんなクズ野郎はこっちから願い下げよ」
長い時を過ごして、婚約どころか正式に告白された事もなかった。
恋人のように扱いながら、もしかしたら私を利用してたのかもしれない。
そんな事はないのは自分がよく分かっていたが、そう考えてしまう程自分が愚かだったのだ。
ヒールをカタリと鳴らしながらテラスの手摺りにもたれ掛かると、すぐ横からカタリと音が聞こえた。
「すみません。声をかければ良かったのですが」
振り向いた先には大きな柱があり、少しだけ覗き込むと、柱の奥の椅子に良く知る顔があった。
「クラーク公爵でしたか」
そこにいたのは、先代の不幸な死により若くして公爵位を継いだデイヴィッド・クラーク公爵だった。
一つ年下で、まだアカデミー在籍中のはず。
このテラスは隣のテラスと繋がった作りになっていたようで、柱の影には長いベンチが置かれていた。
「少し座って行かれますか?」
「…では少しお言葉に甘えて」
先客がいたならホールに戻ろうと思ったが、ダンスタイムは始まったばかりだ。
今日はもうダンスタイムが終わったら帰ってもいいかもしれない。
「ダンスタイムが終わったら私も戻るから、暫くここにいたらどうですか?」
「公爵を待っている方がたくさんいらっしゃるのでは?」
テラスからホールを覗き込む私は、まだ踊っているフロージアを視界に入れた後公爵の座るベンチの端に腰掛けた。
公爵とならここで時間を潰すのも悪くない。
「結婚相手を探すのにはちょうどいい宴ですが、あまり気乗りがしなくて今日も帰ろうかと思っていたところです。令嬢も少し休むと気が楽になりますよ」
王族から連なる公爵家もサラリとした金色の髪が特徴だった。
フロージアと違うところといえば、彼の瞳が綺麗なグリーンだと言うことだろうか。
ゆったりとした話し方は話していて気持ちが落ち着く。
「そうですね。私もダンスタイムが終わったら帰ろうかと思っていたところなので、ちょうどいいですね」
フワリと風が髪に触れた。
綺麗に整えられた庭園を見ながら続いた沈黙が心地よかった。
「イシュトハン家は三姉妹でしたよね?」
シャンパンで熱った頬が冷える心地よさにうっとりとしていると、唐突に公爵が私に視線を向けた。
「そうですが」
あまりに突然の質問に、私がイシュトハン家の者だと分かっていたのかとか、覚えていても当然か、とか頭を巡った挙句、口から出たのは無愛想とも受け取れる答えだった。
父が私の縁談相手を探し始め、フロージアは婚約者候補の一人と出掛けるのを目撃されたからだ。
その後のパーティやお茶会は散々だった。
噂好きの友人に囲まれ、笑われ、これまで社交界を引っ張ってきた分、反動が大きかった。
かと言ってその事に傷付いたりするほど柔な性格ではなかったが、フロージアが私ではない女性をエスコートしていると聞いた時は久しぶりに魔力を押さえ込むのにとても苦労した。
「ステラ様と別れてまだ間もないのに、フロージア殿下の配慮のない事…なんだかがっかりだわ」
笑い物にされるか、同情されるかの二択となった私は、耳を塞ぐということを初めて覚えた。
何を話しても自分にメリットがなかったからだ。
それでも、アカデミー卒業後のように自分に自信をなくして社交の場から逃げるようなことはしなかった。
配慮のかけらもない対応をフロージアがするのならば、私も遠慮することはない。
父が本当に山のように縁談相手を見つけてきて、それは他国の王族も含まれた。
王宮で開かれるパーティにいけば、縁談を申し込まれている男性からのアプローチは止まず、私は嘲笑う女性達の前で優雅に笑っていた。
やがてダンスタイムに入り、フロージアが私ではない誰かとダンスを踊っているのを見ると、やはり気分は良くなかった。
まだ過去にするには時間が足りなかったと思い知った私は、ダンスに誘う男性の手を掻い潜りながらテラスへと出た。
「正式に付き合っていたわけですらないし、あんなクズ野郎はこっちから願い下げよ」
長い時を過ごして、婚約どころか正式に告白された事もなかった。
恋人のように扱いながら、もしかしたら私を利用してたのかもしれない。
そんな事はないのは自分がよく分かっていたが、そう考えてしまう程自分が愚かだったのだ。
ヒールをカタリと鳴らしながらテラスの手摺りにもたれ掛かると、すぐ横からカタリと音が聞こえた。
「すみません。声をかければ良かったのですが」
振り向いた先には大きな柱があり、少しだけ覗き込むと、柱の奥の椅子に良く知る顔があった。
「クラーク公爵でしたか」
そこにいたのは、先代の不幸な死により若くして公爵位を継いだデイヴィッド・クラーク公爵だった。
一つ年下で、まだアカデミー在籍中のはず。
このテラスは隣のテラスと繋がった作りになっていたようで、柱の影には長いベンチが置かれていた。
「少し座って行かれますか?」
「…では少しお言葉に甘えて」
先客がいたならホールに戻ろうと思ったが、ダンスタイムは始まったばかりだ。
今日はもうダンスタイムが終わったら帰ってもいいかもしれない。
「ダンスタイムが終わったら私も戻るから、暫くここにいたらどうですか?」
「公爵を待っている方がたくさんいらっしゃるのでは?」
テラスからホールを覗き込む私は、まだ踊っているフロージアを視界に入れた後公爵の座るベンチの端に腰掛けた。
公爵とならここで時間を潰すのも悪くない。
「結婚相手を探すのにはちょうどいい宴ですが、あまり気乗りがしなくて今日も帰ろうかと思っていたところです。令嬢も少し休むと気が楽になりますよ」
王族から連なる公爵家もサラリとした金色の髪が特徴だった。
フロージアと違うところといえば、彼の瞳が綺麗なグリーンだと言うことだろうか。
ゆったりとした話し方は話していて気持ちが落ち着く。
「そうですね。私もダンスタイムが終わったら帰ろうかと思っていたところなので、ちょうどいいですね」
フワリと風が髪に触れた。
綺麗に整えられた庭園を見ながら続いた沈黙が心地よかった。
「イシュトハン家は三姉妹でしたよね?」
シャンパンで熱った頬が冷える心地よさにうっとりとしていると、唐突に公爵が私に視線を向けた。
「そうですが」
あまりに突然の質問に、私がイシュトハン家の者だと分かっていたのかとか、覚えていても当然か、とか頭を巡った挙句、口から出たのは無愛想とも受け取れる答えだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
271
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる