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第一部
失態の代償
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私たちの結婚は、彼がアカデミーを卒業したらと考えられていた。急ぐ理由もないから、春の結婚ラッシュが終わったあたりで、社交シーズンの真っ只中に盛大にやろうという計画だ。
「結婚式は私に任せて」
そう言ったのは、私ではなくデイヴィッドだった。社交の多い公爵家の都合も考え、私は彼に全て任せることにした。当主自ら結婚式の手配をしているらしいと噂が流れるまで時間は要らなかった。
「聞きましたわよ。クラーク公爵自ら足を運んで式場の下見をしているらしいじゃないですか。私、羨ましくって」
寄付を募ったりして孤児院の支援などで国へ貢献するために作られた婦人会の会合に呼ばれて参加してみれば、そこは完全なる女の園だった。今年の活動のまとめをされるとのことだったが、今の所そんなの様子はない。
「ステラ様はプロムナードへもご一緒に参加されるのでしょう?昨年はフロージア殿下がパートナーでしたし、二度も素敵な男性とプロムナードで踊られるなんて夢のようですわね。そういえば、ジュニアプロムも殿下と参加されておいでだったのでは?」
「確かそうでしたわよね。素敵な女性には素敵な男性が現れるものですわね。本当に羨ましいですわ」
プロムナードの話が出れば、フロージアとのプロムの参加も同時に話題に上がることは必然と言える。ただ、今回ばかりは私を侮辱するために投げかけられた話題ではなかった。
「でもフロージア殿下を射止めたのは、アルギミール侯爵令嬢でしたわね。聞きましたわ。すでに孕っていらっしゃるとか?無理して参加してしてくださらなくてもよろしかったですのに」
同じ席で、カップに手をつけることもなく座っていたのが、ドレスショップで会ったアルギミール侯爵令嬢だ。今日は嫌味をぶつけてくるような不躾な態度はなく、顔も青白い。妊娠は公的には発表されてはいないが、恐らく事実だろう。皇太子の結婚披露パーティの予定が未定である理由が妊娠と考えれば納得がいく。
「いえ、私も是非お力になりたいと思い参加させていただきました」
「まぁ、嬉しい限りですが、体調があまりよろしくないようですわ。まだ結婚も済んでいないのですから、ご無理せずご帰宅くださいませ。馬車をお呼びしますわ」
結婚が済んでいない以上、彼女はまだ侯爵令嬢だ。だが、私もまた辺境伯の娘である。しかし、私の生家はイシュトハンという歴史ある特別な家であり、魔力に恵まれている私の立場は爵位だけでは言い表せない。
結婚もしていないのに孕った、はしたない女性。それがすぐに皇太子妃となる令嬢であっても咎められるのが貴族の世界だ。結婚を済ませる前に妊娠していることがバレたのは明らかに皇室のミスであるが、孕っている皇太子妃をドレスショップに一人で行かせていた位なので、王宮での彼女の立場は非常に弱いのかもしれない。
妊娠が本当だとしたら、一度たりとも王宮からは出さないくらいの徹底した情報統制が必要だったはずだし、今も会合に出ている彼女も非常に危機感が足りない。
彼女を守るはずのフロージアは何をしているのだろうか。これを許していては、彼女は自分の足場を固めることもできない。
従者に付き添われ、唇を噛み締めながら席を立った彼女に声をかけるほど私は優しい人間ではないし、立場的にも皇太子妃が力をつけることは望んでいないので、静観するのみだ。
「陛下はフリードリヒ殿下に王位を譲るのではないかと噂されていますわね」
「実際、フリードリヒ殿下はクロエ様との結婚をずっと望まれていますものね。お二人が結婚となれば、フロージア殿下よりフリードリヒ殿下の方がという声が上がらないか心配になりますわ」
「本当ですわね。皇太子妃となるご令嬢も、結婚披露宴も行えない失態を危惧できなかったとは、本当に残念なことね。彼女を庇えば、娘にも影響が出ますもの。もっとしっかりしていただきたかったわ」
「本当です。噂のある中いらっしゃったので、噂は嘘なのかと思いましたのに…どうして周りは止めないのかしら…心配だわ」
今日皇太子妃となる彼女の軽率な行動を咎めずに味方をしてしまえば、それが許される家だと思われてしまう。娘にも同じ考えで教育しているのだろうと思われても仕方がない。これは婚姻が済むまで決して漏れてはいけない情報だったのに、ひどい失態をしたことで起きた悲劇としか言えない。
「お立場を考えれば、婦人会に顔を出す気持ちもわかりますわ。本来なら、婚約期間中に婦人会との関係を築き上げるものですもの。急に結婚となれば無理して顔も出したくなるというものです。私たちと顔を合わせたかったと思えば、そこまで冷たくはできませんわね」
王妃に継ぐ女性代表という地位は、皇太子妃が座るものだが、元々魔術師として魔法省に勤めていた王妃は社交界には疎く、クラーク公爵夫人が長らく社交界をまとめ上げていた。そこに長いこと皇太子のパートナーであった桁違いの魔力を持った家の娘がそのクラーク公爵家に入るとなれば、彼女の社交界の立場は難しいものになる。
前に会った時には彼女にその手腕があるとはとても思えなかった。この茶番にいつまでも巻き込まれているのもごめんだから、早いうちに私も立場を固めたほうがいい。彼女がいない間はチャンスとなるかもしれない。
「確かにそうですわね。そういえば、聞きまして?エルシュバルツ国の第二王子であるリュカ様が春にこちらに遊学に出るんですって!一年だけの滞在で調整していらっしゃるようよ」
「まぁホントですの?うちの娘は大ファンなんです。街で売ってる姿絵を集めて騒いでいるのに、きっと本人を見たら倒れてしまいますわ」
私はその名前を聞いてドキリとした。父が選んだ縁談相手の一人として会う約束をしていたのをデイヴィッドと会ってお断りしてしまったからだ。
相手が皇族だったので、私からも父からも丁寧に断りの手紙を認めたけど、会ったら少し気まずいかもしれない。
向こうはもしかしたら本人の知らぬところで進められていた縁談だった可能性はあるので、そうであって欲しい。
「結婚式は私に任せて」
そう言ったのは、私ではなくデイヴィッドだった。社交の多い公爵家の都合も考え、私は彼に全て任せることにした。当主自ら結婚式の手配をしているらしいと噂が流れるまで時間は要らなかった。
「聞きましたわよ。クラーク公爵自ら足を運んで式場の下見をしているらしいじゃないですか。私、羨ましくって」
寄付を募ったりして孤児院の支援などで国へ貢献するために作られた婦人会の会合に呼ばれて参加してみれば、そこは完全なる女の園だった。今年の活動のまとめをされるとのことだったが、今の所そんなの様子はない。
「ステラ様はプロムナードへもご一緒に参加されるのでしょう?昨年はフロージア殿下がパートナーでしたし、二度も素敵な男性とプロムナードで踊られるなんて夢のようですわね。そういえば、ジュニアプロムも殿下と参加されておいでだったのでは?」
「確かそうでしたわよね。素敵な女性には素敵な男性が現れるものですわね。本当に羨ましいですわ」
プロムナードの話が出れば、フロージアとのプロムの参加も同時に話題に上がることは必然と言える。ただ、今回ばかりは私を侮辱するために投げかけられた話題ではなかった。
「でもフロージア殿下を射止めたのは、アルギミール侯爵令嬢でしたわね。聞きましたわ。すでに孕っていらっしゃるとか?無理して参加してしてくださらなくてもよろしかったですのに」
同じ席で、カップに手をつけることもなく座っていたのが、ドレスショップで会ったアルギミール侯爵令嬢だ。今日は嫌味をぶつけてくるような不躾な態度はなく、顔も青白い。妊娠は公的には発表されてはいないが、恐らく事実だろう。皇太子の結婚披露パーティの予定が未定である理由が妊娠と考えれば納得がいく。
「いえ、私も是非お力になりたいと思い参加させていただきました」
「まぁ、嬉しい限りですが、体調があまりよろしくないようですわ。まだ結婚も済んでいないのですから、ご無理せずご帰宅くださいませ。馬車をお呼びしますわ」
結婚が済んでいない以上、彼女はまだ侯爵令嬢だ。だが、私もまた辺境伯の娘である。しかし、私の生家はイシュトハンという歴史ある特別な家であり、魔力に恵まれている私の立場は爵位だけでは言い表せない。
結婚もしていないのに孕った、はしたない女性。それがすぐに皇太子妃となる令嬢であっても咎められるのが貴族の世界だ。結婚を済ませる前に妊娠していることがバレたのは明らかに皇室のミスであるが、孕っている皇太子妃をドレスショップに一人で行かせていた位なので、王宮での彼女の立場は非常に弱いのかもしれない。
妊娠が本当だとしたら、一度たりとも王宮からは出さないくらいの徹底した情報統制が必要だったはずだし、今も会合に出ている彼女も非常に危機感が足りない。
彼女を守るはずのフロージアは何をしているのだろうか。これを許していては、彼女は自分の足場を固めることもできない。
従者に付き添われ、唇を噛み締めながら席を立った彼女に声をかけるほど私は優しい人間ではないし、立場的にも皇太子妃が力をつけることは望んでいないので、静観するのみだ。
「陛下はフリードリヒ殿下に王位を譲るのではないかと噂されていますわね」
「実際、フリードリヒ殿下はクロエ様との結婚をずっと望まれていますものね。お二人が結婚となれば、フロージア殿下よりフリードリヒ殿下の方がという声が上がらないか心配になりますわ」
「本当ですわね。皇太子妃となるご令嬢も、結婚披露宴も行えない失態を危惧できなかったとは、本当に残念なことね。彼女を庇えば、娘にも影響が出ますもの。もっとしっかりしていただきたかったわ」
「本当です。噂のある中いらっしゃったので、噂は嘘なのかと思いましたのに…どうして周りは止めないのかしら…心配だわ」
今日皇太子妃となる彼女の軽率な行動を咎めずに味方をしてしまえば、それが許される家だと思われてしまう。娘にも同じ考えで教育しているのだろうと思われても仕方がない。これは婚姻が済むまで決して漏れてはいけない情報だったのに、ひどい失態をしたことで起きた悲劇としか言えない。
「お立場を考えれば、婦人会に顔を出す気持ちもわかりますわ。本来なら、婚約期間中に婦人会との関係を築き上げるものですもの。急に結婚となれば無理して顔も出したくなるというものです。私たちと顔を合わせたかったと思えば、そこまで冷たくはできませんわね」
王妃に継ぐ女性代表という地位は、皇太子妃が座るものだが、元々魔術師として魔法省に勤めていた王妃は社交界には疎く、クラーク公爵夫人が長らく社交界をまとめ上げていた。そこに長いこと皇太子のパートナーであった桁違いの魔力を持った家の娘がそのクラーク公爵家に入るとなれば、彼女の社交界の立場は難しいものになる。
前に会った時には彼女にその手腕があるとはとても思えなかった。この茶番にいつまでも巻き込まれているのもごめんだから、早いうちに私も立場を固めたほうがいい。彼女がいない間はチャンスとなるかもしれない。
「確かにそうですわね。そういえば、聞きまして?エルシュバルツ国の第二王子であるリュカ様が春にこちらに遊学に出るんですって!一年だけの滞在で調整していらっしゃるようよ」
「まぁホントですの?うちの娘は大ファンなんです。街で売ってる姿絵を集めて騒いでいるのに、きっと本人を見たら倒れてしまいますわ」
私はその名前を聞いてドキリとした。父が選んだ縁談相手の一人として会う約束をしていたのをデイヴィッドと会ってお断りしてしまったからだ。
相手が皇族だったので、私からも父からも丁寧に断りの手紙を認めたけど、会ったら少し気まずいかもしれない。
向こうはもしかしたら本人の知らぬところで進められていた縁談だった可能性はあるので、そうであって欲しい。
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