皇太子殿下に捨てられた私の幸せな契約結婚

佐原香奈

文字の大きさ
24 / 52
第一部

秋の狩猟大会

しおりを挟む
社交シーズンの終わりは、少し早めに王都を出て避暑地で過ごしたり、別荘地で過ごしたりする貴族は少なくない。


毎年あちこちで行われる狩猟大会も、余暇を楽しむために王妃様の誕生パーティ後に行われることが多い。ミッドランドの森で行われる狩猟大会は王都に近いこともあり、人気の狩猟大会の一つだ。


この日の為に私はデイヴィッドにアスコットタイを贈り、お揃いで彼の愛馬マックイーンも身につけている。


「今日は運が来てる気がするよ」

「頑張って!私も頑張ってくるから」

「うん。それじゃあ行ってくる。毛皮は期待してもいいよ!」

「怪我だけはしないでね!」


デイヴィッドにハグして送り出すと、私も息を大きく吸って気合いを入れた。狩猟大会は朝から昼までと待ち時間が長い。その間女性達はテントで過ごす。もちろん、仲のいいグループが集まることになるが、今日はマリチェッター夫人も来て、私の地位を固める予定だ。


「ステラ嬢、デイヴィッドは大丈夫でしたか?」


クラーク公爵家のテントに戻ると、すでに多くの人が集まっていた。
流石社交界をまとめ上げている女性だけあり、高位貴族の方ばかりだ。


「はい。怪我なく帰ってきてくれるといいんですけど」


狩猟大会は魔法の使用は一切禁止で、使用できるのは弓と剣のみの古典手法で行われる。魔力の強弱で結果が見えてしまうのはつまらないからだ。


「狩猟は運も必要ですからね。祈って待つしかないわね。改めてご紹介するわ。息子と婚約したイシュトハン伯爵のご令嬢のステラ嬢よ。って言ってももう顔馴染みよね」


マリチェッター夫人のお茶会は以前から何度も呼ばれていたので知らぬ顔はいない。それでも婚約者として対面するのは初めての方が多い。


「ステラ様が嫁がれるなら、これからの公爵家も安泰ですわね。」

「鎖を解かれた時はどの殿方が射止めるのかと思っておりましたら、公爵様なら納得ですわ」

「本当です。運命かのようにお似合いなお二人ですわ!」


こちらが挨拶をする隙もないほど声が上がって、夫人が着席を促してくれて、私は夫人の隣に静かに座った。公爵家のテントに集まるのは好意的な立場の方ばかりなので、皆が領地に帰る前に公爵家の人間として顔を合わるのはとても都合が良かった。これで、私は未来の公爵夫人として振舞うことができる。


「そういえば、フロージア殿下は今年は不参加ですわね。結婚式も間近で忙しくしていらっしゃるのかしら?」

「いくら皇族でも、もうすぐ皇太子妃になる方をお連れにならずに参加するのは憚られるでしょう。アルギミール侯爵もお見えになっていないようですし、それが無難な対応ですわ」


参加してもしなくても、良い話題にはならない。いくらなんでも皇室もアルギミール令嬢をもう表には出さないだろう。恥の上塗りを自らしたいと言うなら別だけど。


私は今日は無難にやり過ごすだけで良い。顔合わせが目的なので話題を無理に合わせる必要もない。ただ、失敗は許されないので、口を出すなら細心の注意が必要だ。


「そういえば、今年もフリードリヒ殿下は参加されていましたね。まだお身体は小さいですが、去年も入賞されましたから、今日も期待が高まりますわね」

「そうですわね。でもクロエ嬢はお見かけしておりませんね。ステラ嬢、お二人はどうなんですか?」


クロエは狩猟に全く興味がないし、引きこもりで社交には向かないので、皇室に入るのは心配だ。公爵家に私がいればある程度はフォローできるが、それよりも後継者に養子に入ってもらうことになり、イシュトハン家の直系ではなく母方の侯爵家の血筋になるので、本来ならば望ましいことではない。


「まだ成人も迎えていない二人ですから、陛下も配慮されて何も言わないのでしょう。でもフリードリヒ殿下は妹のことしか見えていないようですし、後は妹次第といったところなのでしょう。まだまだ妹は魔法にしか興味がなさそうなので、殿下には頑張っていただきたいですわね」


イシュトハン家の三姉妹の誰かは二人の王子どちらかと結婚すると言われていたし、皇室もそのつもりだったはずだ。貴族は今でもそのつもりでいる。フロージアと私が結婚しなかったので、妹のクロエと第二王子のフリードリヒの結婚を前提に、婚約がいつになるのかと考えているに違いない。


「そうは言っても、確かあと二年程でお二人とも成人なさいますし、アカデミー入学前にはご婚約の流れが一般的ですわよね」


私はアカデミー入学前に婚約どころか婚約者候補の発表が伸びたにも関わらずイシュトハンの後継者の位置にいたので候補にも選ばれなかった。本当に笑える話だ。


「お二人が結婚なされたら、皇室も落ち着きますのにね」


もしフリードとクロエが結婚したら、アルギミール令嬢は完全に立場を失うだろう。突出した魔力があるわけでもなく、議会の議長も務めた実績もある家だが、イシュトハンほどの歴史があるわけもない。筆頭公爵家にいる私と、最強魔力を持つクロエとずっと比べられることになる。さらには現王妃は社交界に根を張っていないどころか、イシュトハンとは嫁ぐ前からの友人関係。私だったらとても怖くてその席には座らない。


「あら、帰ってくる方が見えはじめましたね」


殆ど今の皇室の話をして私のお披露目は終わった。


「ステラ嬢、妹君の話の返しはお上手でしたわ」


マリチェッター夫人からお褒めの言葉が出たと言うことは、ここに座っていた方々の合格をもらえたと言うことだろう。


「デイヴィッド!!凄いじゃない!怪我は?どこもない?」


デイヴィッドの後ろで従者が荷車を押していた。荷台に足が出るほど大きな鹿だ。マックイーンから降りたデイヴィッドの周りを一周しながら怪我がないか確認する。

「怪我はないよ。でもほら、フリードリヒ殿下を見てみなよ。アレには勝てないな」


デイヴィッドの見つめた方を見ると、フリードも荷車で獲物が運ばれていた。大きな猪だ。重さで勝敗が決まるので、一目で優勝はないと分かった。


「フリードやるじゃない…」

「でもほら見て。ご希望のリンクスもちゃんと捕まえた」


狩猟大会は意外と大物を狙って優勝を目指すタイプと、ウサギやリンクス、狐などの毛皮を贈り物にする為に参加するタイプの二手に分かれる。
狩猟大会で得た毛皮を贈られるのはとても名誉なことだ。その中でもリンクスは希少価値が高く、狩りに成功すれば英雄扱いだ。


「えっ!凄いじゃない!しかも二匹も!?」

「タイのお礼にはなったかな?」

「もちろんよ。充分すぎるわ」

「実は前から狙いをつけてる場所があったんだ」


タイを渡しながら、リンクスが欲しいだなんて冗談で言ったのだけど、まさか本当に獲ってくるとは思ってもいなかった。自信ありげにしていたのを不思議に思っていたけど、当てがあったと聞けば納得した。

「鹿はマットにでもしよう」


狩猟大会の獲物は、解体されて領民に振る舞われる。慈善活動の一助となり、毛皮だけが返されるのだ。


「たまには格好つけてもいいだろう?」

「最高にカッコいいわ!」


優勝は当然のようにフリードが勝ち取って、デイヴィッドは三位だった。上位二人は猪だったので、体重では勝てなかった。しかし、リンクスを捕ったのは今年はデイヴィッドだけだったので、優勝したのと変わらない位話題となった。

「ステラはどうだった?」

「何とかなったわ。これで春には招待状を贈れるでしょう」


来年の社交シーズンの始まりに結婚式の招待状を送る手筈となっている為、春になってからの顔見せでは遅かった。結婚までの一つの難関を突破したと思うと肩の力が抜けた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】姫将軍の政略結婚

ユリーカ
恋愛
 姫将軍ことハイランド王国第四王女エレノアの嫁ぎ先が決まった。そこは和平が成立したアドラール帝国、相手は黒太子フリードリヒ。  姫将軍として帝国と戦ったエレノアが和平の条件で嫁ぐ政略結婚であった。  人質同然で嫁いだつもりのエレノアだったが、帝国側にはある事情があって‥‥。  自国で不遇だった姫将軍が帝国で幸せになるお話です。  不遇な姫が優しい王子に溺愛されるシンデレラストーリーのはずが、なぜか姫が武装し皇太子がオレ様になりました。ごめんなさい。  スピンオフ「盲目な魔法使いのお気に入り」も宜しくお願いします。 ※ 全話完結済み。7時20時更新します。 ※ ファンタジー要素多め。魔法なし物理のみです。 ※ 第四章で魔物との戦闘があります。 ※ 短編と長編の違いがよくわかっておりません!すみません!十万字以上が長編と解釈してます。文字数で判断ください。

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

完結 殿下、婚姻前から愛人ですか? 

ヴァンドール
恋愛
婚姻前から愛人のいる王子に嫁げと王命が降る、執務は全て私達皆んなに押し付け、王子は今日も愛人と観劇ですか? どうぞお好きに。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...