皇太子殿下に捨てられた私の幸せな契約結婚

佐原香奈

文字の大きさ
25 / 52
第一部

彼はミューズ

しおりを挟む
社交シーズンを終えたら、穏やかな毎日が訪れた。
マリチェッター夫人が、婚約祝いに人気のドレスデザイナーを専属で雇い入れ、お針子もアシスタントとしてデザイナーについた。


プロムのスーツを買いに行った際のいざこざの件を耳にした夫人がとてもお怒りになって、気合いを入れて口説いてきたらしい。


「これは…」


デイヴィッドは綺麗な金髪なので、明るい色のスーツがよく似合った。パーティでは女性のドレスに合わせて黒や紺、グレーのスーツを着て、アクセントのタイやポケットチーフで色を合わせることが無難だ。


今日はデザインの相談のはずだったが、先に薄いブルーグレーのスーツをデザイナーが激推しとして持ってきたので、着せてみたら本当によく似合った。


「スマートな佇まいに美しい金色の髪に緑の瞳。ぜひ着ていただきたくて頑張りました。すみません…私鼻血が出そうです」

「大袈裟な…」


流行の最先端のドレスを作るのが得意としている若手デザイナーの代表と持て囃されていた彼女は、客を選ぶことで有名だった。いくら他の貴族を紹介したいと言われても、彼女のお眼鏡にかなった存在でないと男性も女性もお断りという若干の問題児でもある。
それでも人気が高かったのは、流行に埋もれてしまいがちな中で、一際存在感のある色の使い方をするからだった。

彼女のドレスを真似て流行が作られても、すぐに流行を塗り替えてしまう。それが、彼女のドレスだ。
ケアリースタイルという名前でアクセサリーも扱った店舗は完全予約制。王都では知らない女性はいない。


「ケアリー。いい仕事だわ」

「分かっていただけますか!淡い色合いの中にグレーを感じることで引き締まった印象を与えるこの絶妙なカラー。この布を作るのに何度羊毛加工場に足を運んだか…それに…見てくださいこの艶。この艶を出すために表面は丁寧にローラーで毛焼きをしてるんです。この艶があるからこそ際立つ上品さが、公爵様にピッタリだと思っていたんです!」


ケアリーは興奮しっぱなしのようだ。だが、疑問が出てくる。


「よくそんなに早くこんな凝ったスーツが作れたわね」

「あっ!いや…その…実はですね…大変言いにくいのですが、私公爵様の大ファンで、全てのスーツやドレスのデザインは公爵様をイメージして…」

「……デイヴィッド、この子を解雇したら夫人は怒るかしら?」

「いや、君の好きにすればいいんじゃないか?」


夫となる人に明らかな好意を抱いている女性を側に置いておくべきか、少し考える時間が欲しいと思った。早めに排除した方が後々やっかいなことにならないので、排除するなら早い方がいい。しかし、せっかくのトップデザイナーなので悩む気持ちはある。が、悩むより早く、デイヴィッドがドレスを着てる姿が頭を独占しているのだ。


「おおおぉお待ちくだしゃい!誤解を招く言い方でしたが、公爵が私のミューズだということです!こここっこれを見てください!私のデザインには必ず対になる女性がいます。私はずっと、公爵と公爵夫人となる方を想像してデザインをしてきました。ドレスだけを買われた方がいれば、対になるスーツは作ることも出来ませんでした。スーツだけを求められれば逆もそうです。私はずっと、捨てることになるデザインが辛かったのです。だから!私を解雇するなんてそんな!!!このブルーグレーのスーツはこのドレスとセットなんです!ステラ様のサイズで既にココに!あるのに!そんな!受け入れられません!あぁ…」


ケアリーは大きなスーツケースからドレスを取り出し、必死に訴え続けている。


「ブフッ」


デイヴィッドが堪らず吹き出す。


「いいじゃないか。羊毛にレースがついて、このドレス、ステラに似合いそうだ」

「はぁ…分かったわよ。確かにドレスは素敵だわ。但し、一度でも二人で部屋にいる状況があれば即解雇する。これは譲れません」

「あぁ、お慈悲をいただきありがとうございますぅ~」


こうして、私たちのプロムの衣装は予定外に決まった。



「ステラが嫉妬してくれたと思うと、私はちょっと嬉しかったな」


デイヴィッドはあれからずっとソワソワしていると思ったら勘違いしているようだ。


「いい?あれはデイヴィッドへの忠告でもあるのよ。自分で囲う職人が職を失うような失態を起こさないように肝に銘じてちょうだい」

「囲ってるのは母だけどね。勘違いすらもさせないようにするよ。ステラに嫌われたくないからね」


軽く受け流されたかと思ったけど、デイヴィッドはケアリーが公爵邸に入れるのは私がいる時だけと、門番や騎士を含む使用人全てに話したそうだ。
それでも私は目を光らせるつもりだ。自分の間違いは自分の命取りになるのだから。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

完結 殿下、婚姻前から愛人ですか? 

ヴァンドール
恋愛
婚姻前から愛人のいる王子に嫁げと王命が降る、執務は全て私達皆んなに押し付け、王子は今日も愛人と観劇ですか? どうぞお好きに。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】姫将軍の政略結婚

ユリーカ
恋愛
 姫将軍ことハイランド王国第四王女エレノアの嫁ぎ先が決まった。そこは和平が成立したアドラール帝国、相手は黒太子フリードリヒ。  姫将軍として帝国と戦ったエレノアが和平の条件で嫁ぐ政略結婚であった。  人質同然で嫁いだつもりのエレノアだったが、帝国側にはある事情があって‥‥。  自国で不遇だった姫将軍が帝国で幸せになるお話です。  不遇な姫が優しい王子に溺愛されるシンデレラストーリーのはずが、なぜか姫が武装し皇太子がオレ様になりました。ごめんなさい。  スピンオフ「盲目な魔法使いのお気に入り」も宜しくお願いします。 ※ 全話完結済み。7時20時更新します。 ※ ファンタジー要素多め。魔法なし物理のみです。 ※ 第四章で魔物との戦闘があります。 ※ 短編と長編の違いがよくわかっておりません!すみません!十万字以上が長編と解釈してます。文字数で判断ください。

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...