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第一部
旅に危険はつきもの
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旅行は海のあるバル・クエール、砂漠のあるサハラヴィスタ、一番天国に近い国とされるエーテリアへと向かう。
転移魔法の使える魔法師を二十人、護衛となる魔法騎士十人を含む旅団は転移装置を使う旅行としては大規模だ。
私たちは連れてきた魔法師を使って魔法で移動し、たくさんの観光地に行った。デイヴィッドは甘やかすのが好きなようで、私の手にはハンカチ一つ握られることはなかった。どこに行くにも魔法師と騎士が先に現地で視察をして、安全を確かめる徹底ぶりで、私が特別なのだと叫んでいるような気さえした。
美しいプライベートビーチ、オアシスを中心とした一面が砂の世界、雲を見下ろす断崖絶壁。
私たち二人は、どこでも歓迎された。最後に訪れたエーテリアでもそれは変わらなかったーーーーはずだった。
「ステラ様ーッーー!!」
それは、デイヴィッドが商談で席を外している間に起こった。塔から見える絶景を見ながら、侍女の入れたお茶を飲んでいた時、日差しを避ける為にカーテンをずらしてもらう予定が、後ろから殴られてしまった。最後の記憶は、侍女の悲鳴のような声と飛び出そうなほど見開かれた瞳。
不意をつかれた為、魔法を使う暇もなく、気がつけば私は地下牢に入れられていた。
「誰か!誰かいないの?」
手は魔法で拘束され、結界が張られた1人用の地下牢からでは誰の気配も感じなかった。記憶では、カーテンを開けようと背後に回ったのは、エーテリアの騎士だった。考えられる目的はそれ程多くはない。
「拘束魔法を使われたのは初めてだわ…」
ステラが呪文を唱えると手首の拘束魔法は砕けるようにしてこぼれ落ちた。解呪魔法と呼ばれる上級魔法師や才能のある一部の貴族が護身用として覚えてはいるが、一般的には使えるものはごく少数だ。
次に牢にかけられている結界を壊すと、勢い余って壁も崩れ落ちた。
「力加減が難しいわね…」
閉じ込められた場所がどこかは分からないが、建物が壊れてしまったら一緒にいた侍女や魔法騎士が捉えられていた場合、助けることはできない。慎重に行動すべきと判断したが、そこに慌てたようにエーテリアの騎士が駆け込んできた。
「お前っ!」
何か他にも言いたそうだったが、ステラは直ぐにその男の口に拘束魔法をかけ呪文を封じ、拘束魔法を放った。自分の口に拘束魔法がかかっていなかったのは不自然だったが、その理由を考えるのは後回しにした。
牢から出ると、そこは直ぐに廊下で、他にも単独で収容された魔法師達がいた。誰も口を拘束されている様子はない。結界の威力に自信があっての事かもしれない。
我がフッケルン王国の魔法騎士を見つけた。地下牢に放り込まれた物を檻から出しながら窓が一切ないことから地下牢であろうと当たりをつけ、上へ上へと壁を崩しながら進む。
倒したエーテリアの騎士は数十にも及び、騒ぎで集まったのか、その数は次第に増えていった。この調子ではデイヴィッドも心配だ。彼もアカデミーの魔法科を卒業してはいるが、アカデミーで学ぶのは中級魔法までであり、戦闘魔法は範囲外だ。
「魔力の多い魔術師は私に任せて、援護をお願い。ダリアに指導を受けた人はいる?」
ダリアは定期的に魔法省を訪れ、魔法師団や魔法騎士団に主に戦闘訓練を行っている。王宮の結界に魔力を奪われている状況では、魔力は思い切り使えはしない。
「師匠の指導は一応受けたことがあります…」
一人の騎士が名乗りを上げたが、自信はなさそうだった。それでもやるしかない。
「そう。全員に防御魔法をつけるから、魔法攻撃は気にしなくていい。物理攻撃だけ確実に避けなさい」
「はっはい!」
物理攻撃を防御するには加護魔法を纏わせなければならない。建物を極力壊さずに突破するのは難しいことだ。壊してもいい場所ならば、一発で片付くというのに、情報がない中では慎重にならざるを得なかった。少しの魔力も惜しかった。
ステラはまずパンッと音が鳴るほどの光玉を放った。ステラの周りにはいくつもの光玉が漂い、様子でも伺うように揺らめいている。
「ノーモーションで攻撃…」
「後ろも決して油断しないで!」
呆気に取られたのは敵だけではなかった。挟み撃ちに合えば自分一人では対処は難しく、自分の魔力には限りもある。敵の悲鳴の中でもはっきり周りからごくりと息を呑む声が聞こえて、ステラは危機感を覚えた。戦闘に慣れていなさすぎる。
そこからステラは狭い通路に次々と魔力を放ち、防御されれば風を放ち、口を塞ぎ、水を降らせた。敵の強さを探りながら最低限の魔力を繰り出すのは神経を使う。ステラの額には汗が滲んでいた。
「行くわよ」
屍を蹴飛ばしながら先頭に立ち地下から抜け出すと、そこがお茶を飲んでいた、塔の中だということが分かった。ドーンとどこからか爆発音が聞こえ、状況から考えて商談が行われていたはずのこの塔に、まだデイヴィッドがいると考える。
彼らの目的は恐らく私自身。今殺されていないということは、王国の結界を維持出来なくなるまで弱らせて王国を支配した後、奴隷にでもするつもりだったのだろう。
「あなた達は隠れていて。助けが必要な時はどこかの壁に向かって攻撃魔法を放って。そのくらいは出来るわね?」
「ですが…ステラ嬢はどうなさるのですか?私たちはステラ嬢の護衛として…」
「私の方が強いのに護衛が必要だとでも?誰かのことを守りながら戦うほどの余裕がないの。大人しく待っていなさい」
ステラはそのままホールの真ん中にある螺旋階段を見上げた。ここを訪れた時は塔の魔法師が風魔法の一種で目的の階まで上昇させた。魔法石が埋め込まれた昇降装置が用意されていたのだ。しかし、それを使う為に戦闘している暇はない。ならば螺旋階段の中央を自身を浮き上がらせて行った方が早かった。
初めての試みだが、浮遊の魔法はクロエの読んでいる本で見たことがあった。デイヴィッドと踊った時を思い出す。安定した魔力でふらつくこともなく踊り続けることができた。必ず助けると思いながら、ステラは空中に身を置いた。
転移魔法の使える魔法師を二十人、護衛となる魔法騎士十人を含む旅団は転移装置を使う旅行としては大規模だ。
私たちは連れてきた魔法師を使って魔法で移動し、たくさんの観光地に行った。デイヴィッドは甘やかすのが好きなようで、私の手にはハンカチ一つ握られることはなかった。どこに行くにも魔法師と騎士が先に現地で視察をして、安全を確かめる徹底ぶりで、私が特別なのだと叫んでいるような気さえした。
美しいプライベートビーチ、オアシスを中心とした一面が砂の世界、雲を見下ろす断崖絶壁。
私たち二人は、どこでも歓迎された。最後に訪れたエーテリアでもそれは変わらなかったーーーーはずだった。
「ステラ様ーッーー!!」
それは、デイヴィッドが商談で席を外している間に起こった。塔から見える絶景を見ながら、侍女の入れたお茶を飲んでいた時、日差しを避ける為にカーテンをずらしてもらう予定が、後ろから殴られてしまった。最後の記憶は、侍女の悲鳴のような声と飛び出そうなほど見開かれた瞳。
不意をつかれた為、魔法を使う暇もなく、気がつけば私は地下牢に入れられていた。
「誰か!誰かいないの?」
手は魔法で拘束され、結界が張られた1人用の地下牢からでは誰の気配も感じなかった。記憶では、カーテンを開けようと背後に回ったのは、エーテリアの騎士だった。考えられる目的はそれ程多くはない。
「拘束魔法を使われたのは初めてだわ…」
ステラが呪文を唱えると手首の拘束魔法は砕けるようにしてこぼれ落ちた。解呪魔法と呼ばれる上級魔法師や才能のある一部の貴族が護身用として覚えてはいるが、一般的には使えるものはごく少数だ。
次に牢にかけられている結界を壊すと、勢い余って壁も崩れ落ちた。
「力加減が難しいわね…」
閉じ込められた場所がどこかは分からないが、建物が壊れてしまったら一緒にいた侍女や魔法騎士が捉えられていた場合、助けることはできない。慎重に行動すべきと判断したが、そこに慌てたようにエーテリアの騎士が駆け込んできた。
「お前っ!」
何か他にも言いたそうだったが、ステラは直ぐにその男の口に拘束魔法をかけ呪文を封じ、拘束魔法を放った。自分の口に拘束魔法がかかっていなかったのは不自然だったが、その理由を考えるのは後回しにした。
牢から出ると、そこは直ぐに廊下で、他にも単独で収容された魔法師達がいた。誰も口を拘束されている様子はない。結界の威力に自信があっての事かもしれない。
我がフッケルン王国の魔法騎士を見つけた。地下牢に放り込まれた物を檻から出しながら窓が一切ないことから地下牢であろうと当たりをつけ、上へ上へと壁を崩しながら進む。
倒したエーテリアの騎士は数十にも及び、騒ぎで集まったのか、その数は次第に増えていった。この調子ではデイヴィッドも心配だ。彼もアカデミーの魔法科を卒業してはいるが、アカデミーで学ぶのは中級魔法までであり、戦闘魔法は範囲外だ。
「魔力の多い魔術師は私に任せて、援護をお願い。ダリアに指導を受けた人はいる?」
ダリアは定期的に魔法省を訪れ、魔法師団や魔法騎士団に主に戦闘訓練を行っている。王宮の結界に魔力を奪われている状況では、魔力は思い切り使えはしない。
「師匠の指導は一応受けたことがあります…」
一人の騎士が名乗りを上げたが、自信はなさそうだった。それでもやるしかない。
「そう。全員に防御魔法をつけるから、魔法攻撃は気にしなくていい。物理攻撃だけ確実に避けなさい」
「はっはい!」
物理攻撃を防御するには加護魔法を纏わせなければならない。建物を極力壊さずに突破するのは難しいことだ。壊してもいい場所ならば、一発で片付くというのに、情報がない中では慎重にならざるを得なかった。少しの魔力も惜しかった。
ステラはまずパンッと音が鳴るほどの光玉を放った。ステラの周りにはいくつもの光玉が漂い、様子でも伺うように揺らめいている。
「ノーモーションで攻撃…」
「後ろも決して油断しないで!」
呆気に取られたのは敵だけではなかった。挟み撃ちに合えば自分一人では対処は難しく、自分の魔力には限りもある。敵の悲鳴の中でもはっきり周りからごくりと息を呑む声が聞こえて、ステラは危機感を覚えた。戦闘に慣れていなさすぎる。
そこからステラは狭い通路に次々と魔力を放ち、防御されれば風を放ち、口を塞ぎ、水を降らせた。敵の強さを探りながら最低限の魔力を繰り出すのは神経を使う。ステラの額には汗が滲んでいた。
「行くわよ」
屍を蹴飛ばしながら先頭に立ち地下から抜け出すと、そこがお茶を飲んでいた、塔の中だということが分かった。ドーンとどこからか爆発音が聞こえ、状況から考えて商談が行われていたはずのこの塔に、まだデイヴィッドがいると考える。
彼らの目的は恐らく私自身。今殺されていないということは、王国の結界を維持出来なくなるまで弱らせて王国を支配した後、奴隷にでもするつもりだったのだろう。
「あなた達は隠れていて。助けが必要な時はどこかの壁に向かって攻撃魔法を放って。そのくらいは出来るわね?」
「ですが…ステラ嬢はどうなさるのですか?私たちはステラ嬢の護衛として…」
「私の方が強いのに護衛が必要だとでも?誰かのことを守りながら戦うほどの余裕がないの。大人しく待っていなさい」
ステラはそのままホールの真ん中にある螺旋階段を見上げた。ここを訪れた時は塔の魔法師が風魔法の一種で目的の階まで上昇させた。魔法石が埋め込まれた昇降装置が用意されていたのだ。しかし、それを使う為に戦闘している暇はない。ならば螺旋階段の中央を自身を浮き上がらせて行った方が早かった。
初めての試みだが、浮遊の魔法はクロエの読んでいる本で見たことがあった。デイヴィッドと踊った時を思い出す。安定した魔力でふらつくこともなく踊り続けることができた。必ず助けると思いながら、ステラは空中に身を置いた。
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