ウルフカーバン帝国

紀利クルーガー

文字の大きさ
8 / 36
〈序章〉異世界からの迷子

キリと騎士団

しおりを挟む
その頃もう日も暮れて夜になりかけている中母親エダは落ち着かない様子で暗くなった森を探し回っていた。父親のリトも近隣をくまなく探すが何も見つからなかった。
「あぁ…キリ、一体ドコに…キリー!!キリー??どこにいるの?」
エダが声をかけても返事はなく不安がっているとリトが声をかけてきた。
「エダ!見つかったか?」
「ううん。どうしよう、見つからないとなると…や、やっぱり現世から異界の扉が何らかの形で開いたのかしら!!」
「落ち着け、エダ。君にしか扱えない力があるんだろう?それを使ってみるのはどうだ?」
不安がる母親に父親は落ち着くよう宥め、落ち着かせると彼女は深呼吸をして気配に集中し始めた。するとふと何かを感じたのか森のさらに奥地を見た。
「微かにだけど魔力を感じるわ。この奥にある洞窟よ!」
「洞窟だな。行ってみよう!」
そこへ行くと洞窟がありその中は変にゆがみが生じていた。
「何だこれ…森の中にこんな場所があるなんて…」
「リト、離れて。私が行くわ。」
父親は近づくことを許されず母親のエダが近づくとそのゆがみははっきりして空気の違う場所へと変化した。洞窟から森林へと変化した世界に驚いた2人。
「なんてこと。この洞窟も入り口だなんて…」
「エダ、どういうことだ?君の世界かい?ここは…」
「話は後よ。とにかく、キリを探しましょう。」
「そうだな。大丈夫だ、きっと見つかるさ。」
「えぇ。」
世界が変わったとしてもまずは我が子を探し出すことに決めた夫婦2人は捜索を始めた。夫婦2人がこの世界に探しに来ている事すら知らないキリはミハイルのテントで休んでいた。
夜も老けた頃、キリはミハイルに寝かしつけてもらいながら簡易ベットではあるが横になった。朝になれば元いた場所へ返すと言われて安心したが最後に彼のテントに横たわる大きな狼が気になり声をかけた。
「ねえ、その狼はなんていうの?」
「こいつか?こいつは、、、とそうか、お嬢ちゃんには神話というか昔話を聞かせてやろう。」
「いいの?」
「あぁ。昔な?この狼より遙かにでかい狼がこの地の理を乱さないように力を合わせていたそうだ。4匹の狼は天界の狼、大地の狼、風水の狼、冥界の狼。それぞれが力を与えられてこの地を維持してきた。その狼たちの加護を受けた狼が産んだ子供が勝手に親元を離れ我々人間の元へとやってきて生涯と共に過ごす親友となるんだ。」
「うーん、なんだか難しい話だけどその狼死なないの?」
「あぁ、加護を受けて普通の狼達より人間と同じ寿命で生まれてくるのさ。」
「でも、その狼達はどうやって人間のところへやってくるの?」
「不思議なことにな?いつか出会えるんだ。その狼と。俺はこいつと10歳の時に出会ってな。もう長らく共にいる。」
「へー」
「さて、もう昔話は終わりだ。良い子だから寝るんだぞ?」
「うん、おやすみなさい。」
ミハイルにおやすみの挨拶を交わすとキリは眠りについた。そんな彼女の頭を触りながら狼であるエスティを呼んだ。
「エスティ、俺が見廻りに行っている間この子を見ていてくれ。頼んだぞ?」
そう言うとわかったように彼女の足元に寝そべり主を見送るエスティだった。だが事件はすぐに起きようとしていた。真夜中になりゴブリンが群れをなして襲ってくるのだった。真夜中に差し掛かる前見張りをするシェードの元にミハイルがやってきた。
「寒くないか?」
「ミハイルこそ。子供は?」
「眠ったさ。なんせあの子は肝が座ってる。まだ幼いのに怖がるそぶりもせず目の前の興味のある事には目を輝かせてる……」
「は、まだ世界を知らないからだろうさ。」
「はは、それは言えるな。まあ、番探しに俺の兵士になったのはいいがあまり躍起になるなよ?」
「わかってるよ。ほら、あんたがいなくなるとあの子泣くんじゃないのか?」
「大丈夫さ、テントには…ん?エスティが吠えてるな…」
「何かあったのかも…」
エスティの吠える声を聞き取った2人はテントへと足早に向かえばそこにはゴブリンに牙を向くエスティの姿があった。目線の先には叫ばないよう手で口を押さえたキリの姿、ゴブリンは連れ去ろうとしていたのだ。涙を流しながら必死で抗おうとするキリにシェードはゴブリンに怒りを覚えて声を荒げた。
「子供を離せ!」
ゴブリンは威嚇するようにシェードに吠えるがシェードは構う事なくそのゴブリンを切りつけた。見事に腕を切り落としゴブリンの手から離れた彼女にミハイルがこちらへ来るよう叫んだ。
「キリ!おいで。」
「ミハイル~うぇぇん~」
「よしよし…良い子だ。もう大丈夫だ。大丈夫、脅威は去ったぞ。」
優しく宥めるミハイルを見て気に食わなかったシェード。ゴブリンにとどめを刺し終わり苛立ちを募らせたままのシェードがミハイルに怒鳴りつけた。
「くそ、初めからこの娘が狙いなんだ。」
「やはりな。」
「やはり?ミハイル、なぜ彼女をかばう?何を隠しているんだ!」
ミハイルに食ってかかるシェードに彼は落ち着くように宥めて見せた。相棒エスティもシェードがミハイルに近づき過ぎるのを拒むかのように牙を向けて吠えた。エスティの怒り具合でわかったのか彼は一歩引いたが納得行かない表情のままだった。ミハイルは宥めるように落ち着かせた。
「落ち着くんだ!シェード!」
「その子供に何かあるんだろ!何でそんなにかばうんだ!!」
「それはだな、」
言いかけた時だったテントの外が騒然として化け物の鳴き声も響いた。その声にキリは肩をすぼめさせ怖がった。彼女を宥めミハイルは手短に話した。
「この子はエルフの子かもしれん。」
「な・・・だとすればエルフに引き渡さないのか?」
「あぁ。それがこの国の者ならな!だが、この子供は来訪から来てる。返したところで逸れものと罵られるだろう。」
「じゃあどうするんだ?」
「彼女を元いた世界へ戻すだけだ。」
「なんで!じゃあどうして助けたんだよ!」
「死んでほしく無かったからだよ!お前の母親のようにな!」
「………な、何だって?」
「お前は北西の地からやってきたダークエルフの子供だ。お前をかばい追手のダークエルフから逃げおおせたが後一歩で叶わずだった。」
「ミハイル?今、どうして…そんな話しを。」
「いいか?お前にはまだ底知れぬ力が秘められている。それが一体何なのかはわからない。今怒った時に見せた表情も我ら人間の知らん力だ。決して悪い物ではないのだがな。」
「力?」
「お前を助けるため崖を駆け下りた時にはお前が意識を失った状態で倒れダークエルフの死骸がたくさんあった。いいか?もしお前が何かの力に目覚めても俺は絶対止めてみせる。今じゃなくてもだがな。」
シェードの胸に拳を当ててそう言ってきたミハイルの眼差しは真剣な者だった。だが外の騒動に意識を向けたミハイルはまだ混乱しようとしていたシェードの背中を叩きテントを後にした。シェードはそんな彼の後を追ってテントを出ると軍は騒然として慌てるがミハイルが応戦せよと声を上げ指示を送った。
「狼狽えるな!相手は化け物だ。これまでの鍛錬は何のためにあったかを思い出せ!各員配置につき立ち向かう準備を!」
『おぉー!』
その掛け声と共に動き出し各員の持ち場へと向かったり馬に乗るもの鎧を着る者で騒然としている中ミハイルは武装してきたシェードに声をかけた。
「シェード、お前はキリを森へ連れて行け。ここで我らが食い止めておくがそれでも向かう奴はいるだろう。彼女を襲わせないためにもお前が守れ。いいな?これは団長としての命令だ。」
「ミハイル・・・」
混乱した表情だったが団長命令と言う言葉にシェードは納得はいかなくても胸に手を当てこの騎士団の敬礼を示した。その対応にミハイルはうなずきキリに視線を戻すとキリにこれからの事を言った。
「キリ、まだ出合って間もないが君にはエルフの血が流れてるんだ。それを彼らは察知し、ここへ来た。魔力も何も備わっていない君に言うのも何だが元いた世界へ帰えるんだ。いいね?」
「でも、おじさん達は?」
「俺たちは強い騎士団だからな。大丈夫さ。さあ、ほら。行くんだ。シェードがお前を護衛してくれる。」
キリの背中を押してシェードに彼女の手を握らせると彼に視線と頷くと彼女の手を引いて森へと歩いて向かいミハイルから遠ざけていったのだった。その小さな背中と少し大きな背中を見送ったミハイルは団員達に指示を送りなんとしてもこの場所から奥へと通させまいと活気づいていた。たった一人の小さな少女を守るため一つの国の軍が立ち上がった瞬間だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

もしもゲーム通りになってたら?

クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら? 全てがゲーム通りに進んだとしたら? 果たしてヒロインは幸せになれるのか ※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。 ※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。 ※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。 ※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。

処理中です...