ウルフカーバン帝国

紀利クルーガー

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〈序章〉異世界からの迷子

キリは現世へ

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 ミハイルが兵士に指示を送る間キリはシェードと逃げようと森へ走った。彼が辺りを警戒しながら走っているとやはりゴブリンが現れシェードへ襲いかかってきたがそれをなんとかかいくぐっているとどこからか声が聞こえた。
「キリー!!どこにいるのー?」
「(誰かの呼ぶ声。この子を呼んでいるのか?)」
 キリの名を呼び叫ぶ母親の声とわかったシェードは彼女に叫んだ。
「キリ!この先でお前の母親はお前を呼んでいる!!走るんだ!!」
「で、でも!あ、お兄ちゃん後ろ!!!」
「っ!俺の事はいいから、走れ!」
 食いかかってくるゴブリンを剣で受け止めなぎ払い切り捨てる。その後ろからもゴブリンが数匹近づいてきていた。キリは怖くなりシェードの言われたとおり母親の声のする方へと走り出した時だった。彼女は振り返りもせずただ母親の声のする方へと逃げているとそれよりも小さな個体が彼女とぶつかり悲鳴を上げた。その声が森に響くとゴブリンは兵士の拠点からキリの声がする方へと進み出した。その光景を見た兵士達はある方向へ走り出すゴブリン達にあっけにとられていた。だが先に体が動いたのがミハイルだった。
「くそ!!」
「王よ!どこへいかれるのだ!!」
 兵士達の言葉を無視しミハイルは馬を走らせる。そしてその後を追うように颯爽とエスティが走り去っていった。キリが転んだ拍子に視線を足元へ向けると驚いたようにその子犬を抱き上げた。そしてシェードに視線を向けるとすでにゴブリンに数匹で襲われているのが見え声をあげる。
「お兄ちゃん!!」
「来るな!!」
 だか彼を救ったのが颯爽と現れたもう一匹の黒い狼だった。彼を襲っていた数匹のゴブリンに噛みつくとゴブリンは黒い灰と化した。狼はまだ若く牙を後方から近づこうとするゴブリンに向けて吠えた。彼を守るかのように立ちすくむ狼をおとりに彼女のそばへと駆け寄ると彼女に騎士である勲章のネックレスタグを外し彼女の首にぶら下げてきた。
「これ何?」
「これがお前を守る、だから母親の元へ帰れ。俺の事は構うな!!行くぞ!!」
 そう話すと若き狼に声をかけまた近づくゴブリンの群れに立ち向かっていた。キリは泣きながらその場に座り込みシェードを見ているとゴブリンをかき分けて馬が走り抜けてきた。
「シェード!!飛び乗れ!!」
 シェードには乗れと伝えキリを子犬ごと抱き上げてくれたのはミハイルだった。
「ミハイル!!」
「ようやくお前も番を見つけたようでよかったよ。それより、この子を親の元へ返そう。」
 彼はそのまま馬を走らせ声のする方へと走った。その頃キリの母親は叫ぶのをやめて馬の足音を聞き分けたのか視線を森の中へ向けリトに叫ぶのをやめるよう声をかけた。
「静かに。何か、来るわ。」
「何って・・・な、何だ!?アレは・・・騎士!?それと、狼だって!?」
 リトは近づいてくる騎士と二頭の狼に驚きを隠せずそのまま座り込んでしまった。エダはその懐に抱きしめられているキリを見つけると彼女の名を呼び両手を広げた。
「キリ!!」
 キリもまた母親の姿を確認するとその小さな手を伸ばして泣きじゃくった。母親との再会を果たしたキリ。
「ママ~」
「あぁ~キリ。よかったわぁ~もう大丈夫よ。お母さんとお父さんがついてるからね?ありがとうございます。なんとお礼をいったらいいか…」
「いや、有余に話している時間はない。後ろを見ろ。」
 ミハイルに後方を見るよう伝えられ夫婦は後ろを見た。そこには黒い狼と灰色の狼が牙をむいて近づいてきていたゴブリンを遠ざけている。だがもっと奥からはゴブリンが群れをなして迫ってきていた。その危機をエダに伝えるミハイル。
「逃げよ、ここは我らが引き受けよう。その子を守りたいのなら逃げて元いた世界へ帰れ。」
「リト、キリをお願い。」
「エダ、一体どうするつもりだ!!?」
 エダもまた決意をしたのか彼女はキリをリトに託すとどこからともなく現れた白き狼フェルンと共にどこからともなく現れた光の刃を構え、ミハイルのそばにたった。
「この場は自分達で納めるわ。私の愛しい子をこいつらに食わせてたまるものですか。」
 その言葉と決意の瞳にリトは涙で瞳が揺らいだが彼は泣かずキリと狼を抱いたまま洞窟へと向かった。エダも振り返り涙ぐみながら小さなキリを見つめていた。
「待って!!お母さんどうして!!パパ!ママは来ないの?!ねえ!!ママ!!」
 その間もなぜ母親がこないのかなぜ一緒に来ないのかと問いただすよう泣き叫びながらキリは現世へと戻りエダはその洞窟に向けて封印の印字を結び現世とこの世界の時空を閉じた。
「驚いた、エルフが来訪世界に行っていたのか?」
「ちょっとした冒険よ。」
「は、もし生き延びたら共に話しをしよう。」
「えぇ。」
 エダはミハイルと共に迫り来るゴブリンの群れに立ち向かった。これが彼女、キリとこの国の物語を結ぶ話これから先どう動くかは誰も知るよしもない。
その後何も覚えていなかったキリは父親と共にスウェーデンの森から町中へと移住し普通に生活をし始め大きく育っていったのだった。ただ見習い騎士にもらった首飾りは肌身離さず持っていたのだった。
 その反対側の世界では動乱と戦禍が起こっていた。人々は森から離れ魔女や逸れ者が森に住み着き邪悪な者どもが息の根を殺して岩場や夜に潜む。今この世界で天界と冥界の均衡が崩れようとしていた。それを押さえることが出来る白き巫女と黒き騎士が必要だった。だがそれは御伽噺に過ぎなかった。母、エダはミハイルの側室となりしばらく国の政に手を貸していた。そんなある日突然姿をくらませてしまったのだった。彼女がこの世界へ再び訪れるまでこの世界ウルフカーバンは静寂が訪れていた。
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