ウルフカーバン帝国

紀利クルーガー

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〈第一章〉出会いと冒険

ホリホック亭へようこそ!

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目の前に広がる光景、ホリホック亭の立ち姿を目にしたキリは目を輝かせて辺りを見渡した。感動のあまり唖然と口を開けて………
馬を下りれば馬番が近づいてきた。そしてルナには他愛もなく挨拶を交わした。
「やあ、新入りでも連れてきたのかい?」
「いいや、放浪者さ。酒場で手配所にあったメンバーの人買いどもを捕まえたんだ。そいつはそこで一緒に戦ったんだ。」
「へー、だからルナの方は荷車だったんだな。しっかしまあ、どえらい量だな。」
山積みにされた連中を見て驚いている馬番をよそにキリに引き渡す準備をしてくると言いルナはその場を離れていった。
「こいつらを引き渡してくる、あんたは先に中に入ってな。珍し馬を連れているがこいつに預けたら誰も取りはしないさ。」
「そう!このホリホック亭の馬番は俺に任せな!心強い相棒も一緒だからよ。なあ!」
そう言うと足元から狼が現れこちらを人なつっこそうに見つめ尻尾を振った。まるで犬のようだとキリは思った。
「じゃあ、よろしくお願いします。」
そう言って馬から下りて手綱を手渡した。そして荷車の方を見つめるとダリエルまで大男に下ろされているのが見え慌てて駆け寄ってダリエルを下ろすよう伝えた。
「あ、すいせん。そいつは自分の連れなのでもらうよ!」
大男にそう言うと無言で他の連中とは違い酒場の方へと歩いて行く。キリは慌てた様子で彼について行く。すると男は何も言わずに自分の相棒の狼を呼ぶと自分達の狼より少し大きめの狼が来たかと思えばその狼にダリエルを乗せた。
「あ、あの…」
また声をかけようとした時に大男はこちらを睨んだまま。また無言で外に残った指名手配の連中を片付けに出て行った。一体何なのだろうと思っていると狼が一吠えしてくれて気がつけば今度は狼が道案内をしてくれるように鼻先でついてくるよう促してきた。言われるがままついて行ってたどり着いたのは酒場の二階に位置する宿場の一部屋。そこの扉を前足で器用に開けると中へと入りまだ未だに眠りこけているダリエルをベットへと丁寧に寝かせた。何も言わずに去ろうとする狼にキリは一言言った。
「ありがとう。」
そう言うとジトッとこちらを睨むなり小さく尻尾を振りゆっくりと出て行ってしまい扉が閉じられた。やっと独りになってまだ寝ているダリエルを心配していたがそこへ扉をノックしてルナが入ってきた。
「オルシュウに案内されたんだね?よかった、どこへ行ったのかオルムに聞いていたんだ。」
「あぁ。彼は一体?」
「彼もここの門番だよ。ぶっきらぼうで無口で怖いけどいい人だよ。」
「そう。なあ、さっきからダリエルは眠ってしまって起きる気配がないんだが薬が効きすぎてるのか?」
「う~ん。そうかもねーあとは長旅での疲れもあるのだろう。彼はここへ寝かせておいても大丈夫だよ。あの酒場で何も食わなかっただろ?下で何か一緒に食べよう!」
「あぁ、だが宿屋も食べ物も払えるお金なんて………」
「それに関しては心配ご無用!うちの家業はそんな貧しい連中から奪い取ったりしないさ。さ!食べよ!」
元気が良すぎる彼女、ルナに腕を引かれるがまま下の酒場へ行くとカウンター席にもうすでに2つ飲み物と食べ物が置いてあった。
「先に頼んでおいたのさ。」
美味しそうな匂いに思わず目を輝かせるキリに厨房から出てきた女主人が声をかけた。
「腹は空いてないかい?うちのは特別美味い料理ばかりだからね!あとで寝てるお友達にも食わせてやりな!いつでも準備してやるよ!」
「ありがとう。」
「さ!冷めないうちに食べとくれ!」
「いただきます。」
一口口にすると美味しさが広がったスープに目を輝かせルナと顔を見合わせ笑顔を浮かべた。あっという間に食べ終わり人心地ついていた2人。ルナが思い出したかのように聞いてきた。
「そういえば貴方達はどこから?見たところ東や西の者ではなさそうだね。」
「話していいのかわからないけど、私たち違う世界からきたんだ…」
「えぇーー!!」
「ちょ、声が大きいよ!」
「いや、そりゃ驚くさ!だってあの数100年前のお侍の話以来だよ?」
「数100年前の侍?」
「そうだよ!」
「へー、あんたが来訪者…見るからにこっちのエルフ族に似ているんだがね。特に、耳かね?」
話を聞いていた女主人が来訪者と聞くやキリの顔をマジマジと見つめた。キリは内心、ルリに言われた事を思い出した。決してこの世界の人間には言ってはいけないと、言えば兵器にされかねないと…そう思うとだんだん黙り込み下を向いた。それはもちろんルリの言いつけを守らず来訪者と言うことを他人に話してしまった事への罪悪感が彼女を襲った。
ルナは何かを察したのか少し暗く感じるキリに声をかけた。
「なあ、もしかして来訪者って言葉気にしてるのか?」
そういうと黙ったまま頷いた。そんなキリにルナは優しく肩を叩き安心させるように話した。
「怖がる事なんてないさ、ここにいる連中は昔が来訪者の末裔だったり、来訪者と関わりのあるエルフ族がいたり、そんな連中がたくさんいる場所なんだ。」
「兵器にされかねないと聞いた。それは本当か?」
キリのきつい口調と睨んできた瞳にルナは笑ってまた話してきた。
「大丈夫さ、それは王都での話。ここら辺は治安も悪いし、もし君が来訪者と言っても笑って誰も信じないんだ。」
「そうなの?」
「あぁ。現に今さっき言ったことも本当さ。ここはあんたがいても大丈夫な場所さ。」
「来訪者は良い物を持ってきてくれる。知恵であり、技であり、衣服や料理の事だったりとこの世界にいろんな者を残してくれたすごい人たちだ。」
市民としては来訪者というのは情報交換の一つ、技や技術を磨くための知恵をもらう大切な存在と言うことをここでキリは初めて知った。ルリが言う兵器となるようなそんな存在に扱われる訳でもないのだと…キリは一つ引っかかる言葉、100年前の侍について聞いてみることにした。
「じゃあさっき、100年前の侍について聞きたいんだが。」
「あぁ、侍の話ね。もう今じゃお伽話さ。数100年前、弓や刀が伝えられてそこから戦に勝利をもたらしたとされてるんだ。その太刀筋は見たこともなくエルフと人の争いでエルフが勝利を収めてしまったんだ。詳しくは王都の書庫に知りたきゃある。」
女主人が詳しく教えて暮れた時だった。ルナが勝手にキリに決断を迫ったのだ。
「キリはどうしたい?このまま当てもなく旅をするか。この世界を知るためにここでやってる傭兵仕事をしてみる気はないか?」
「ちょ、いきなりすぎやしないかい?」
「いいんだよ。マーサさんも人手が足りないと嘆いていただろ?」
いきなりの勧誘にキリは唖然と言い合う2人を見つめていた。困り果てるマーサにルナは余裕そうにそう話す。キリは状況が飲み込めずにいたがふとマーサがこのホリホック亭の主人であるコトを聞いてみた。
「あの、もしかしてなんだけど。マーサさんがここの冒険者ギルドのマスターなの?」
「あぁ、そうさ!驚いたろ!これでも昔は無茶やってたんだ。」
「伝えるの忘れてた、マーサはここホリホックのオーナーでありギルドマスターの女主人なのさ。そんな彼女を支えるのが門番であるオルムってわけさ。」
「あいつ口は無口だろ?怖くなかったかい?あぁ見えて若い子にはシャイなんだよ。たく、困ったやつだよ。」
「へー……」
一気に情報が舞い込んできて放心状態になるキリだが我に返ってまた改めて考え直した。
「そうだな…この世界を知るためにはこういう所のほうが得…かもな。」
ぽそっと独り事を言うキリにルナは目を輝かせて期待の眼差しを向けるように身を乗り出して話しかけてきた。
「お!それじゃ、入ってくれるのか!?」
「うお;って、鼻っから誘う気で私達をここに?」
「いや、そうじゃないって。ただ稼ぎ所なかったらいろいろとあれだろ?だから勧誘もかねてついてきてもらったんだ。」
「まあ、助けてもらったからな。」
「そうそう!世界を知るならうちのホリホック亭がおすすめだよ!」
いきなりの勧誘とおいしいお話にキリは内心疑心暗鬼したが決意を固めるのにはそう遅くはなかった。
「じゃあ、改めて、よろしくお願いします。」
「あぁ!大いに歓迎するよ。みんなも喜んでるさ、なあ!皆!!」
「「おぉー!!」」
新たな新入りにカウンターで声を上げたルナのかけ声に反応するようにジョッキを掲げる連中にキリは少し驚いた心持ちだった。一体このギルドでどんな世界の情報が聞けるのだろうかというワクワクとこれからの不安とを思っていた。
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