ウルフカーバン帝国

紀利クルーガー

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〈第二章〉初めての依頼

王都からの依頼

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俺もキリもこの世界の人間じゃない。それは十分承知さ。俺が彼女をそばでみて感じたことをここに話そう。なんたって俺はあいつの親友…になる存在の予定、だからな。
キリとダリエルはその翌日からこのホリホック亭で働くことになった。慣れないうちからキリはルナと共に行動し手軽な任務を任された。狩の練習と言って弓を初めから持たされ森へと駆り出されたキリはルナの狙う物を射止めれるよう努力した。その射撃は百発百中で命中し、依頼である本数をはるかに上回っていた。
一方、ダリエルはというと戦闘はからきしだめということもありホリホック亭の門番、オルムに薪割りを指示される。これがまた難儀な作業。薪を割る斧ですら重く木も重たい。5本やったところでひと休憩を挟まないと息が持たない。昔からキリにこき使われ体力はあるが同じことを繰り返しする作業には慣れていなかった。やっと5本目を割り終えその切り株の上で一休みしていると狩から戻ってくるキリが見えた。楽しげでルナとはすぐ打ち解けていたキリは今まで見せたことない笑みをルナへ向けていた。キリに見惚れていると背後から大男の低い声がした。
「おい、薪は割り終えたのか?」
びっくりしたダリエルは切り株から飛び退き後ろを見やる。そこにはオルムが仁王立ちして立っていた。
「い、今やってるところだ!」
「なら、追加の分だ。女に見惚れる暇があるならやっとけよ?」
それを言い残すとまたどこかへと去っていく。大抵現世から来た人間に狼はいない。つまり奴隷同然に扱われることも多い。でもこのホリホック亭は違っていて住むとこを与え仕事を与え夜には寝床を与えてくれる。いい職に運良く出会えたと言うべきだろうがここでの資金関係はいまいちわからない二人にここでの振る舞い、資金の動きから価値順についてマーサが直々に教えてくれた。それを学びながらキリもダリエルも今は生活をしている。キリは狩から帰ればルナと共に剣術の練習や瞑想、逆にルナに体術を教えた。それもずっとつきっきりで教え合いフロまで一緒に入る中だった。
そんな日々はとても充実していて楽しい日々とも言えたそんなある日依頼ボードの前で他の冒険者がざわついてある書類を見つめていた。依頼ボードに人だかりができるのはキリが来てから初めてのことで少し驚きルナに声をかけた。
「ねえ、何事?」
「あぁ、年に一回か2回くらいしかないと言う王都からの依頼だろ?王都の依頼は報酬がいい。」
「へぇー。その報酬目的でやってる奴もいるのか?」
「あぁ、早く見ておかないと変な任務しか残らなくなるんだよな。キリ、やってみるか?」
ルナがそう訪ねるとキリは金銭的な事は一切考えず一枚依頼書を手に取った。その依頼書には魔物討伐と書かれており王都近くに出没する水系の魔物が描かれていた。
「ふむ、水性の魔物か。少し厄介だけどやってみても可笑しくないんじゃないか?」
そう言ってキリの背中を叩くルナにキリは少し自身がなさげに依頼書を戻そうとするがルナがその紙切れを取り上げた。
「おっと!1度依頼書を手に取った以上はここへ戻さないのが王都依頼の掟みたいなものだ。1度それをこなしたらまたここへ来れば良いさ。」
「けど!実力が無いんじゃ…元も子もない。」
「やってみなきゃわからないだろ?それに、しっかりと訓練は受けてきたじゃない。」
「そうだが…不安だ。」
「ふう、あれだけ実力を見せつけて起きながらまだ不安?」
「だって魔物だ。どう太刀打ちすればいいか…」
「まあ、そうだね。あんたが今まで関わってきた動物とはちょっと違うかもしれないね。」
キリはこれまで関わってきた動物たちとは違う魔物退治に不安がっていた。そこへ薪割りを終えて帰ってきたダリエルが来た。それに気づいたキリも依頼書を片手にダリエルに困った表情で出迎えた。
「ダリエル、薪割りは終わったの?」
「あぁ。さっきな;はー疲れた。」
すぐ近くにある椅子に斧を立てかけすぐにだれていた。そんな彼を見てクスッと笑うがキリは依頼書を再確認するため紙に目を通す。
「ふむ、王都までは案内できるのか?ルナ。」
「あぁ、私もキリの近くでの魔物退治する依頼書を取ったから行き先は一緒だ。ついでに王都の国際図書館ヘいって本を買おう。」
「なんだ、依頼か?」
「そうだ。王都からの依頼で報酬もいい。年に何度かの荒稼ぎが出来る。さて、そうと決まれば武器を新調しよう。キリ。」
「自分には弓も自前の刀もある。だからいいよ。」
「いいや、だめだ。私の古びた弓矢より新調していい武器にしておいた方がいい。行くよ!」
ルナはこう見えて何かと強引な節がある。キリに有無を言わさず連れて行ってしまう後ろ姿をダリエルはまた見送ることになりそのままだれていた。だが、ルナがまたやって来て耳を引っ張ってきた。
「いてて!何するんだ!」
「ほら、あんたも!ついてくるの!」
そう言って耳を引っ張られたままホリホック亭を後にする。市場へ辿り着けば賑わいがあるのは当然だった。当然キリとダリエルは賑わいに唖然としているそんな2人を見てルナは笑った。
「ふふ、2人ともなんで顔してるのよ!ほら、行くよ!」
2人の腕を引っ張り武器屋に連れて行く。そこで品定めをして迷っているルナの隣で同じく迷っているキリ。その光景に呆れ気味のダリエルはルナに声をかけた。
「一体何を迷ってるんだ?」
「武器の品定めだね。よく見て買わなきゃ欠品があっちゃ困る。戦闘が予想されるとこではちゃんとした武器をこしらえないといけないからな。」
「はーそんなのがあるのか。」
「キリ、弓は見つかった?」
ルナが声をかけるが無言で一つの弓を手に取ると見とれたようにジッとその弓の弦を弾いた。すると奥で作業をしていた鍛冶場のおやじが声をかけた。
「お、あんたお目が高いねー!そいつは今日の目玉商品さ。何でもエルフが置いていったとされる弓だそうだ。」
「置いていった?盗んだのではないのか?」
キリのストレートな質問に鍛冶場のおやじは驚いて目を丸くする。だが困った末本当の事を頭を掻きながら言ってきた。
「まあ、実の事言えばエルフが人里へ下りてくることなんてめったにない。そんな彼がそれを売ってきたんだ。金貨100枚でな。すかさず受け入れて買い取ったよ。」
「エルフ族?私もそうだけど最近はめっぽう少なくなったからね。」
「あぁ、まあ値は安くするつもりだがどこの鍛冶場でも扱えない金属で出来ているからな。どうしてこんな物をウチに売ってきたのかすら定かでない。」
「へーそいつ売った後すぐに去ってしまったのか?」
「あぁ。ローブを着ていた物だから顔まではわからなかったがあんたと同じ耳をしていたのは確かさ。」
「ふーん。よほど生活に困ったのか・・・」
「おやじ。これ買うよ。ただし、値は安くしてくれない?」
「ちょっとキリ!」
いきなりの申し出に鍛冶場のおやじも目を丸くしルナも驚いていた。キリの即決な判断はたまに回りをびっくりさせるようだ。
「いくらなら売る?」
「金貨100枚同等の値段をしたいが50枚でどうだ?あんたの持ってる金貨の半分になるが。」
「んー…45は?」
「よし、ならそれで取引しよう。」
キリは金貨45枚でエルフ族が持つ弓を購入した。ルナも武器を新調すると市場を後にした。酒場、ホリホック亭に戻った3人は仲良く木のコップに入った飲み物を飲んで話していた。
「キリ、明日すぐ出発だ。買い忘れしてないかい?」
「あぁ。」
「なぁ、どこ行くんだ?」
「王都近くの村に行く。そこで魔物退治をお互い受けているんだ。」
「へー危険な任務になるのか?」
「いや、水属性の魔物らしい。平気だよ。ハティもいるしね?」
すぐ足の下で大人しくしているハティが尻尾をふる。それを見てダリエルはため息を吐いて深刻な顔をしてキリを注意しだした。
「お前、危険すぎるぞ。」
「けど他に稼ぎがない。それに一度手に取ったビラは戻せないらしいから。サッとこなして帰ってくるよ。」
「俺が稼ぐからお前はここにいたらどうなんだ?別に女が無理して稼がなくていいじゃないか。」
「どうしたの?ダリエル、今日はやけに食いつくな。」
いつもは行ってらっしゃいと言うダリエルがいつも以上にキリにその任務をさせたくなさそうだった。ルナはそんな2人のやりとりにニヤニヤしながら聴いていて横から話しかける。
「おやおや、夫婦喧嘩は程々にしないとだめだよ?」
「違うよ、ルナ。とにかく、明日は朝早いんだ。もう寝るから…」
キリは半ば不機嫌のまま椅子から立ち上がるとホリホック亭の食堂から出ていく。荒々しく扉が閉まる音を聞き、そんな彼女をほってダリエルは不機嫌な顔でコップに残った水を一気飲みした。少しからかいすぎたと反省したのかルナは彼に話しかける。
「そんなに気になるなら意地でもついていけばいいのに。」
「いや、俺がついていっても足手纏いになるだけだ。ルナ、ここに来てあいつもだいぶ変わったよ。」
「(足でまといは自覚してるんだ。)どう変わったか教えてくれる?私はこの世界に来た頃のキリしか知らないから。」
「あいつ、昔から危ないことばかりするんだ。盗賊に喧嘩はふっかけるし殺し屋に追われたり色んなことでヘマやらかす俺の尻拭いばかりしてた。そんなあいつを…俺は償いたいんだよ。」
「それが今じゃどう違うの?前と変わらなさそうだけど?」
「いや、変わったさ。あいつは…」
ダリエルはこのウルフカーバンの世界に来てから彼女が変わってしまったように見えるのだ。自分が見て来た彼女は危険を顧みないトレジャーハントで稼ぎのことなど気にしてなかった。それより何かを探し求めていた。真剣に話すダリエルにルナは真剣に耳を傾け聴いていた。
「あいつは俺が惚れた相手で何度も口説いてる。でも届かない。どうしてなぜかあいつだけいつも違う世界を見ているようで…」
「ふぅーん、一度は口説いたのに向こうが振り向かず突っ走っていると?」
「そうだな、そう捉えてしまうのがいいかもしれない。」
「つまり君は今彼女にどうして欲しいの?」
「俺はあっちの世界じゃ御曹子の息子。なのに今は…一銭も金を持たないへったくれだ。あいつを支えてやりたいのにそれすらもままならない。」
「あら、それならとっくにできてるじゃない。彼女のそばにいて同じ違う世界から来て同じところにいる。恋人になれなくても友達なら、話くらいは聴いてあげたりできるんじゃない?」
「友達…あいつの…」
「そういえばまだどこか関わりずらいところがあるわね、あの子。私には怒ったり呆れたりそんなことしないけどダリエルにはしてるじゃない?」
ダリエルは普段のキリの行動を振り返ってみる。確かにいつも構うと怒ったり呆れたりここへ来た当初からよくそんな扱いになっていた。
「じゃあなんだって言うんだ?俺は嫌われてると思っているんだが…」
「そうじゃないってことさ。ここへ来て不安が募るのは君だけじゃない。彼女も同じく不安なんだよ。君が悩むようにあの子もあの子なりに悩んでる。」
「いつもあんなに普通に君らと接しているのにか?」
「そうさ、あれでも不安を隠しているんだろう。丸見えだけどね。だから恋人になれなくても友達としてあの子の支えになってあげたらどうだ?」
「そうか…そうだな!俺明日あいつに弁当渡したいんだ。だからマーサさんに何か聞いてくる!」
やる事ができたようでダリエルは厨房にいるマーサに声をかけに行った。そんな彼を見送りルナはもう一杯コップに入った水を飲むと足元にいる狼に声をかけ自分の部屋へ行った。
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