ウルフカーバン帝国

紀利クルーガー

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〈第二章〉初めての依頼

依頼の前の腹ごしらえ

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翌朝、いい匂いで目が覚めたキリは眠い体を起こしながら支度を済ませ下へ降りていく。するとすでにもうダリエルが起きていてキリが座る席にはもうご飯が準備されていた。
「おはよう、キリ。昨日は眠れたかい?」
「おはよう、ダリエル…えぇ、よく眠れた…これ、どうしたの?」
「ふふん、こう見えてお前が狩りや武器の練習をしてる間、何もしてない訳じゃないんだぞ?」
「薪割り、くらいしか思いつかないけど…」
「キリ、ダリエルがあんたのためにって朝早くに起きてこしらえてくれたんだよ?他のみんなもダリエルの料理に大絶賛さ。」
「あんたに料理の素質があったとわねーこれからが楽しみだわ。」
マーサがそう言ってダリエルを褒め称える中ダリエルはキリに椅子に座るよう勧めた。
「さ、特性のスープとパンはいつものだけどそれにチーズとか色々サンドして見たんだ。これで生気がつけばいいと思って。」
「そう、なんだ。じゃあいただきます。」
キリは意外な事に驚きつつ目の前にある食べ物に手をつける。するとあまりのおいしさにあっという間に食べ尽くしてしまった。お腹が膨れたところで武器を背負い直した。そしてダリエルに笑顔を向けて振り向くと一声かけた。
「うまかった。また、帰って来たらおいしいの作ってよ。」
「ほ、本当かい?あ、あぁ!作って待ってるから、必ず帰ってこいよ!」
「あぁ、じゃ、行ってきます。」
優しく微笑んだキリはそのままルナと共にホリホック亭の入り口へ向かう。ダリエルはうれしさが一杯でキリの食べた後の食器を片付けるんるんで皿洗いをし始めていた。そんな彼らを見てマーサのおばさんも嬉しそうに笑っていた。ルナと共に王都近くの村、リヴァプール。そこは湖は広がっているがここ何年かは沼地と化している。馬を歩かせ落ち着かない様子の馬を宥めながら湖の上に渡された木の古びた橋を渡って行く。落ち着きのない馬グラニはキリの声でようやく落ち着けるほど荒々しく早歩きになったりしてその都度ルナは黙ってついて行った。
「しー、大丈夫だ。どうどう。」
「君のとこの馬は随分と言うことを聞いてるけど落ち着きもないね。」
「あぁ、元々落ち着きのない子でね。これでもまだ子供なんだ。」
「へー、そんなでかい体してるのにね…」
「けど、たくましいよ。主の言うことはちゃんと聞いてる。」
「ふふ、いいことだと思うよ。馬との信頼がなきゃ旅なんて安全にできた物じゃない…」
「そっか…ルナのとこの子は随分落ち着いてるね。」
「あぁ…もう随分と代替わりしたけど乗りこなして来てるからてなづけなんて、慣れてるんだよ。」
するとその妙に不気味な湖を抜けた先に村が見えて来た。村が見え始めた頃にルナが声をかけてくれる。
「そろそろ村だ。なんだ?何か騒がしいな…」
「行ってみよう。」
村に着くなり村人が騒がしかった。そこには騎士団の姿にギョッとした様子でルナは顔色を変える。
「まずいな、王都の騎士団の連中だ。」
「何か揉めてるようだが…」
「税金の話じゃないか?農民からも王都の規則として同じほど税金を支払わせているからな。」
「税金を同じほどなのか?」
「税として農作物を捧げてることが多いな。だがその額は変わらずの値打ちさ。」
「ふーん…」
「厄介な連中だ。関わるとやれ変な罪をなすりつけてこっちを罪人扱いするのさ。あまり関わるなよ?キリ。」
「あぁ、気をつけるさ。」
だが農民たちが攻めているのはまだ新入りの騎士団の者だと気づいたキリは聞き耳を立てて揉めている話を聞いてみることにした。
「ですから、今日、冒険者ギルドのいずれかに依頼書を出しているので、そのうちに…」
「そのうち!?それじゃあうちの娘が婚姻の印を受けてしまってからもう時間がないんですよ!?」
「あんた聖騎士じゃないのか!」
「ですから、ぼ、僕はまだ見習いで…」
「聖騎士の見習いならこんな仕事を任されてもおかしくないはずだ!じゃあ何故ここに来たんだよ!」
歪み合う双方の会話を聞いてため息を吐けばルナに一声かける。
「ルナ、自分の依頼はここで間違いないようだ。あんたは?」
「うーん、もう少し先…かな?でもキリ1人で平気?」
「あぁ、平気だ。」
「なら、頑張ってきな!練習したことを忘れずに!」
「ありがとう、ルナもね。」
「あぁ!」
ルナは馬を走らせ少し先の村へと向かっていった。キリは早速歪み合う夫婦と見習い騎士団のところへ馬を歩かせて行く。正体はバレないだろうが念の為としてフードを被ったキリは見習い騎士団の青年の近くで止まるとビラを夫婦に見せた。そのビラを見るなりキリを凝視した。
「このビラはあんた達か?」
「そうだが…あんた、もしかして…依頼を受けてくれるのか?」
「あぁ、そのつもりだ。詳しく話を聞かせてくれ。」
「は、はい!ど、どうぞ中へ!あなた!馬をお願いしますね!」
「あ、あぁ!」
キリが降りると落ち着かない様子のグラニの体に触れてトントンと宥めてやると旦那さんの言う事を聞くようになった。唖然としていた見習い騎士は我に返りキリに声をかけた。
「お、お願いです!この依頼、僕にも手伝わせてください。」
「ふーん、見たところ見習い騎士だな。噂じゃ王都の聖騎士には関わるなと言われているが?」
「ぼ、僕はそんなことないです。団長に就いてきて王都より下のこの村々を見て回って調査しているんです。」
「依頼の邪魔しない?」
「し、しません。ほ、報酬もあなたに差し上げます。」
「なら、手伝ってもいいけど。」
「本当ですか!?」
「勝手にしな。」
キリはたやすく受け入れ奧さんに彼も同行すると一声かけると難なく受け入れたがその顔つきは軽蔑の眼差しだった。依頼の本題を詳しく聞くために家へ入ると問題の娘の部屋へと行けばベッドで泣く女の人の声がした。
「アマーリ、顔を見せてちょうだい。あなたと同じくらいの女の人が依頼を聞いて来てくれたわ。」
それに納得したのかすすり泣く顔のまま顔を上げるとあちこちにフジツボが出来ていた。頬から首筋にかけてひっきりなしについていて体温がだいぶ下がり始めていた。
「ここ数日前、沼地の近くでこの沼に住む主様に声をかけられ印をつけられた物です。そこの傷口からどんどんフジツボが広がっていきとってもとれず、等々こんな所まで。娘は外にもろくに出れないのです。」
「ふむ。これは厄介な契約の呪いですね。」
「知ってるのか?」
「ある諸説で聞いた事があります。この沼地の主である魔物に契約の印をつけられた者はその魔物の嫁となると。」
「そんなの、いやです。私は、まだ、何もしてない。何もしてないのに嫁となるのはいやです。」
「デリカシー無い事いうな;あんた。この子の気持ちも少しは考えてやれよ。」
「あ、あぁ:すみません。別に対処法もあるんですよ。」
「どうせ魔物を討伐すればいい話だろ?」
「そうです!」
「なら、調査必要かな…どの辺りで襲われたか覚えてる?」
「えっと、この村より先にある湿地帯で薬草を積んでた時に…」
「そうか、辛い思いを思い出させてすまないね。あとは任せて。」
娘にそう言って肩に触れ宥めると武器を手に持ち散策をし始めた。散策にはもちろん見習い騎士がついてくる。ハティも騎士団のことはわかっているのか人睨みしながらキリの隣を歩く。見習いの青年はオドオドしながらもついて行く。それを心配そうに相棒のカヌがついて行くと見習い騎士が話しかけてきた。
「あ、あの一つ聞いても?」
「いいよ、ついでだこちらからも質問だ。」
「貴方はどうして冒険を?貴方ほどの腕なら王都に売り出してもおかしくなかったはず。」
「別に王都へは行く予定なかったしそれより先に冒険者に勧誘を受けたんだよ。」
「つ、つまり、冒険が目的ではないと?」
「まあ、色んなところは旅してみたいかな。」
「そうですか…」
「君は?どうして王都から出たいと思ったの?」
「僕、ですか?それは、騎士団長に憧れて進んで外部の調査へ志願しました。」
「そう。その騎士団、あまりこの辺ではいいイメージが持たれてないけどどうして?」
「そ、それは…ある一見から、そうなったんです。」
「その一見ってのは?」
「数ヶ月前になります。この国の王が今の王になり変わった年に色んな制度を変え、税を貧民からも底上げをしたのです。」
「税金の底上げね…それと騎士団と関係あるの?」
「い、いえ、特には…ただ魔物が各地で増え死人も出る中対処をしてくれない王都に腹を立てているんでしょう。現に今は貴方達のような冒険者が問題事を解決して回ってくれてますし。」
「人手が足りないとか?」
「いえ、そういうわけでは………」
「じゃあ何?」
「ぼ、僕以外ほとんどの人が半獣なのです。その多くは人前で半獣にならず時と場合を問わず突然発動してしまいます。」
「ふーん。」
「半獣故にこの王都周辺に穢れがたまり浄化してもすぐに発生する。もうこれは典型的な我々騎士団のせいでもあるのです。」
「なぜ?そうとは限らないだろう。その突然発してしまう発作のような現象が原因だ。」
辺りを見渡しながらそう言うキリに青年は気が沈むように顔を暗くする。そんな彼を見てキリは周辺を見渡してから青年に声をかける。
「ふむ。この辺りが襲われた場所で間違いないな。」
「は、はい?」
「見てみな。そこに人骨の死体が転がっている。何人もここで食われたか。連れていかれたと見える。」
「連れていかれた………?」
「あぁ。この沼で食われた。または連れていかれたと考えた方がいい。」
「だとすれば彼女も……」
「食われる、と思った方がいいが厳密にはあんたが行った嫁になるが正しいだろうね。」
「と言うことはもし襲うなら夜か早朝。」
「ご名答。冒険者としての感はあまり持ち合わせていないがなんとなくわかるんだよ。たぶん、魔物はここへ誘き寄せて連れ去るつもりだろうさ。」
「なるほど。さすがわ冒険者の感ですね。」
「いや、そう言うのじゃ無いんだけど。まあ、いいさとにかく日も暮れる。私達があの依頼主の娘から離れていては元も子もないだろう?」
「そ、それもそうですね。」
1度村へと戻り護衛を夜通ししていた青年とキリは彼女や家族が寝静まった頃台所の近くのテーブルで朝が来るのを待ってみることにした。キリは刀を抱えて片膝を立てて目を瞑っていたが沈黙を破ったのは青年の方だった。
「あ、あの、一つ聞いても?」
「またか。今度は何?」
「まだ名前を言っていなかったので。」
「あぁ、そう言うこと。キリだ。キリ・ブランド。あんたは?」
「ぼ、僕はアーサー・カイル。聖騎士の見習いとして王都を旅しています。」
「よろしく。アーサー。さ、そろそろ寝な。夜は深い。いくら待っても来ないなら今日ではないだろう。」
「あ。はい!」
そう言われアーサーは長椅子に横になり眠りについた。それを見計らいキリは被っていたフードを取り一息つくと机に突っ伏して眠りについた。
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