ウルフカーバン帝国

紀利クルーガー

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〈第二章〉初めての依頼

聖騎士の見習いと冒険者

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翌朝、朝日をあびるために外へ出て行ったアーサーは背伸びをしているとこの家の娘が珍しく外へ出て行く姿が見えた。声をかけようにも様子が妙なことに気づき後を追うことにした。ちょうど外で寝ていたハティが片目を開けてアーサーが行ってしまったのを確認すると起き上がり机に突っ伏して寝ているキリを起す。揺すられて起きたキリはハティに目をやるとハティが困った表情で何かを訴えかけるように娘が寝ていた扉を見つめる。まさかと思い扉を開けるとそこに彼女の姿は無かった。
「(あの見習い兵もいない。となると…)くそ、まずいな。ハティ!」
ハティに声をかけながら自分の武器を手に家を飛び出していった。すでにもう娘が魔物に攫われていたら依頼は水の泡。娘が襲われた場所に近づくにつれてハティが唸り声をあげると同時に誰かが何かと戦う鋼の音が聞こえた。その音に気づいたキリは弓を取り出しそっと木の陰から除けばアーサーと娘が沼地のすぐ近くで何かと戦っているのが見えた。触手はアーサーを襲いボロボロになりながらも立ち向かっていた。視線を沼地にやればそこには上半身だけを現した男がいた。
一方その頃、リヴァプール村の近くで待ち合わせをしていたシェード達がアーサーの帰りを待っていたが一向に帰ってこない事に不信感を覚えた。周囲の村々を一つずつ潰していくのは至難の業、ではどうするか手当たり次第部下と別れ三日後には集まる予定で解散させたがアーサーだけが一向に帰ってこないでいた。
「魔物にでも襲われたんじゃ無いんですか。」
「アレル、それより探している娘は見つかったか?」
「いいえ。どうします?また手分けして探しますか?」
「いや、こうどこにも情報がないと言うことはまだ散策は必要だがアーサーの行った村リヴァプールはこの先だったな。」
「えぇ、あそこは沼地一帯に囲まれていて魔物がでる。それでも行くのか?」
「当然だ。アーサーを探しながら、待て。誰か来る。」
自分達が来た方角から馬の走ってくる音が聞こえ不振にも警戒をするシェードだが、その人影が知り合いと知るとシェードは大きなため息を吐いて警戒心を解いた。
「ウォルトか。」
「すまん、どうにもジッとしていれずに来てしまった。」
「は、お前も昔の冒険心にくすぶられてくるとは。軍はどうする?」
「王にはお許しを得ている。お前らだけじゃ酷だし新人も一人抱えてるだろ?熟練の冒険者が一人いても良いんじゃ無いか?」
「そうか。アレル、出発するぞ。」
アレルに声をかけシェードは馬に跨がった。先頭を切って走り出すシェードの隣をウォルトが走り声をかける。
「行き先は?娘は見つかったのか?」
「いいや。まだだ。だが新入りが帰ってこなくてな。何かあったのではとアレルとリヴァプール村へ行くつもりだ。」
「そうか。あそこは魔物が出ると王都の依頼書にあったな。」
「あぁ。運が良ければ魔物が冒険者に倒されているが運が悪ければ。新入りのあいつも命は無いだろう。だがどうも嫌な予感がするんだ。」
「お前の直感は外れたことが無いからな。急ごう。シェード。」
馬を走らせリヴァプールに向かうシェード一行だった。その頃、キリは木の木陰から隙ができるのを待ち続けていた。アーサーは必死に沼地にいる男に抵抗するため剣を振るい近づく触手を断ち切るが途端に生え替わり襲ってくるのだった。沼地の男も痺れを切らしたのかアーサーの剣を持つ手を叩き剣から離すと首と胴に巻きつきアーサーの体を最も簡単に持ち上げてしまった。
「貴様、いつまで邪魔をするつもりだ。私はそこの娘に用があるだけだ。」
「だめだ。渡さない!絶対に、彼女は渡さない!これ以上村人を悲しませたくない。」
「愚かな。お前が死ぬだけだぞ?怯えたままの正義は何もならない。私の手によって殺されるだけだ!」
男が触手を一気に放てばアーサーに目掛けて飛んできた。キリはそのチャンスを逃さず弓を思い切り弾いて狙ったのはアーサーの首に巻き付いている触手だった。触手が貫かれ一体何が起こったのかとあたりを警戒し始める男は木の木陰にいるキリに気づきそちらへ触手を放つがそれは最も容易く避けられてしまった。
アーサーの近くに立ち刀を抜く体制のまま構えると男は女と気付いたのか態度を一変させた。
「おや、冒険者ではないですか。私を倒しにきたのですか?」
「まあ、元々もはその娘の親からの依頼だ。報酬を騎士団に取られるわけにもいかないしな。」
「な!あなたは、さっき寝ていたじゃないですか!」
「私を起こさず報酬を横取りしようとしていたんじゃないのか?」
「ぼ、僕はただ娘がフラフラと歩いて行ったのを見かけたので追いかけたらこいつがいたんです!」
「そうかよ。おい、化け物…娘をどうするつもりだった?」
「化け物だと?この、私が。化け物だと!?」
「見るからにそうだろ?お前を美しいともイケメンとも思わないさ。そっちにいるアーサーの方がよっぽどイケメンだ。」
突拍子もなくそんな発言をするキリにアーサーは戸惑いを隠せずにいた。その言葉が余計に化け物の逆鱗に触れ起こり出した化け物はキリに向けて攻撃を放つ。だがそれも避けられしまい、避けられたのと同じタイミングだろうか、刀を抜いて触手を切り刻まれてしまった。
「くそぉぉ!!何だっていうんだ!君は。」
「別に普通の冒険者だ。ただ、ちょっと変な力があってちょっと体術に自信があるだけさ。」
「普通の冒険者はこんな風に僕を切り刻んだりしないで誘惑に負けるのに!なぜ君は墜ちない!!」
「そこらの女と思わない事だな。精神力も色々あった経験で鍛えられてるし妙な洗脳も聞かなくなった。」
そう、キリは元々トレジャーハントを習わしとする職業をしていた。もちろん命からがら逃げた事もあり、拷問ですら受けたことがある。洗脳と言う名のものは彼女には効かない。基本直感と行動力で物を言わす彼女は頭脳戦は嫌いだが直感を信じた事で成功へと進んできたのだ。ただ、この世界で通用するとは言ってない。
「まあ、魔物の洗脳みたいなのは食らったこと無いけどあんたの洗脳は効かなさそうだし。」
「ち、僕の魅力が役に立たないなんて…なら、これならどうだい?」
男は触手から紫の煙を放つ。キリは何かわからず首をかしげていると急にめまいと吐き気がしだした。アーサーも同じ症状を現しその場に倒れ込んだ。キリは片膝をつき何が起ったのか考えていると男が沼地から上がってきた。その姿は人ではあるが半魚人に近かった。キリがひざまずく所へ近づくとキリの顎をすくいあげ余裕そうに笑みを浮かべる男。
「くく、やっぱり。毒は知らないな。」
「ち;力が入らない。」
「キリ、さん…」
「おや、男の方が意識を保てないようですね。それにしてもあなたは根強い。まだ倒れませんか。」
「うるさい。化け物。」
「ふん。それよりあなたに興味がわきました。村娘よりあなたを嫁にした方が都合が良さそうだ。より強い子孫を残せる。」
「馬鹿じゃ無いのか?繁殖期の蛙がたぎってる用にしか見えない。」
「減らず口を…!!」
男が怒りを露わにした時だったハティが男の腕に噛みついたのだ。そしてハティの体が急に光り出し男の化け物を遠ざけてしまったのだ。一体何が起きたのかわからず掴まれた首をさすっていると驚いたようにハティを見つめる。ハティは何食わぬ顔で主が無事であるコトを確認すると笑って尻尾を振った。ハティから発動した光の波動のような物に男は驚き警戒しながら攻撃を受けた腕を見つめると腕はすでに溶けてなくなってしまっていた。
「あぁぁぁぁ!!な、なんだこれは!!!」
聞いたことも無い叫び声にキリも溶けた腕を見つめて驚いた。昔は普通の狼として過ごしていたはず。ここへ来て特殊能力があったなんて聞いてないキリはハティを見ると彼女は何食わぬ顔でこちらを見てきて心配までしていた。その姿にアーサーも驚きを隠せずにいた。
「まさか、これは驚きだ。」
「何?ハティが何をしたの?」
「あなたの狼、白魔法の使い手ですよ。おそらく、治癒も。」
狼が遠吠えをするとキリとアーサーの体から毒気が消え去って行った。重かった体がすっと軽くなりすぐに起きられるようになった。なんともない体に驚くキリは自身を見渡した。
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