ウルフカーバン帝国

紀利クルーガー

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〈第二章〉初めての依頼

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キリはハッと目を開けてみせるといつも見る光景草木などが何も無い空間に一人寝転んでいた。一体どこだろうと辺りを見渡していると少し先に青白い光を放つ魂が具現化し一人の東方の男の姿へと変わった。
「誰だ?」
男はキリを見つめ何か愛おしそうに笑うと触れもできないであろうその手で頬をそっと撫でてきた。嫌がるわけもなくそっと撫でられたキリはなぜか唖然と彼を見つめそして一筋の涙を流した。知っているような、知らない感覚これが一体誰の感情なのかわからずにいた。
「あなたは…誰なの?」
『どうか。我が子の生き様を探ってくれ。西のエルフの森に行けば真相がわかる。』
「エルフの森へ?」
『頼んだぞ。』
そう言ってその暖かな手をどけて一礼すると消え去り夢から目覚めたキリは泣いている自分の瞳を拭った。ゆっくりと起き上がり辺りを見渡す。そばには刀が置いてあり見知らぬマントが体にかけられていた。目が覚めた事に気づいたハティが近づいて来て小さくもキュンキュンと鳴き出したのでそっと優しく撫でてやった。朝日が差し込む中洞窟の入り口で見張りをしていたシェードは座って眠りこけていた。その姿を見てふと寒かろうと思ったキリは体を起してマントをシェードへかけてやった。そして世界が明るくなる様を見つめながら近くに寄ってきたスコルに驚きを隠せずにいた。
「触ってもいいの?」
狼は話すことすら出来ないがスコルは牙を向ける事も無くキリの隣に大人しく座り撫でてもいいよう背中を向けて視線を送ってきたのだ。普段主を守るためにいる狼が背中を他人に預けるなど無い事だったからだ。スコル自身キリに対して心の許せる人物なのだろうかそれとも主人にマントをかけたからだろうか。狼の心は読めなくともそんなことを考えながらスコルを撫でているとハティが背中を押して甘えてきた。
「なんだよ、お前ら。2匹揃って甘えたなのか?」
ハティを抱きしめつつスコルを撫でながら2匹の狼に話しかけていた。2匹も満更ではないのか撫でられて尻尾を振っていた。近くで声がしたことに目を覚ましたシェードは自分のマントがかけられていることに気づく。物音に気づいてキリが声をかけた。
「あ、起きた?おはよう。」
「お前、気がついたのか。て、なぜスコルもお前に懐いている?」
「知らないよ。彼がこうして撫でられに来たんだよ。」
「雄だと、わかるのか?」
「あぁ。わかるよ。こんなに凜々しいイケメンの顔をしてるんだもの。」
スコルの顔を撫でてその様子に嫌がる様子のないスコルは尻尾を振って嬉しそうにしていた。そんな嬉しそうな彼を見つめ微笑むシェードは口笛を吹いてスコルを呼び寄せるとスコルは大人しくキリから離れシェードの元へと近づき座った。
「それで体はもう何もないのか?」
「体?なんともないよ。」
「そうか。」
「ねえ、昨日あの後どうなったか…教えてくれない?」
馬をゆっくり歩かせ雨も上がった森の中を下る二人の沈黙をキリが破り声をかけてきた。シェードはめんどくさがらず答えた。
「あの後お前は力の暴走を止めれずにいた。そうしたら、妖精王の配下だろう。泉の王が姿を現しその家臣がお前の力を止めた。」
「力を止めたって、私、何か暴走を?」
「……まあ、魔力の暴走だ。普段使い慣れていないとそうなる。」
「ルリ、来てくれなかった訳じゃないんだ。」
「泉の浄化をありがとうと言っていたぞ。俺には信じられん光景だ。伝説と言われていた泉の精霊王が姿を現したんだからな。」
「そうなの?」
「あぁ、普段、お目にかかれない神聖な者達だ。」
「そっか…」
「さて、話は済んだ。お前の酒場へ案内してもらおう。」
「…わかった。ねえ、捕まえないの?」
「お前のその力を見たからな…何かわかるまで付き合ってやる。」
気分やなのか何なのかわからないシェードの言い分にキリは呆然と立ち尽くすがシェードを追い越してやろうとグラニを走らせ山道を懸命に駆け出すキリにシェードは待ったを欠ける。
「あ、おい!山道は駆けるな!危険だぞ!!」
「ふふ、平気だよ!下の街道まで競争だ!俺においていかれたくなかったらついてくるんだな!騎士殿!!」
「はあ、まったく。どこまでお転婆なんだ。あの女は。」
頭を抱えため息を吐いているとスコルが置いていかれるぞとばかりに吠える。シェードは考えるのをやめて馬の手綱を握り直しキリについて行った。難なく街道へ下りホリホック亭へと道案内するキリについて行くシェードだった。ホリホック亭へと戻ればすでにその場にとどまっていた騎士団の人たちと出くわす事になるのだった。冒険者ギルドへ戻る道中を歩いて進んでいると入り口付近でタバコを吹かしているウォルトの姿を見つけたキリは警戒して立ち止まった。不意に立ち止まり顔を曇らせたキリに気づき馬を止め聞くシェード。
「おい、どうしたんだ?」
するとハティが牙をむいて威嚇を始めた。その声に前を向けばウォルトの姿があった。面倒くさそうに首に手をあててため息をまた吐くとウォルトに声をかけた。
「ウォルト。何の用だ。」
「何の?どこぞの騎士団長殿が仕事ほっぽり出すからだろうが。誰のために来たと思ってるんだ?」
「は、悪いが戻る気はないぞ。」
「そうだろうな。俺らもあの皇室で待ち議論をする老いぼれどもといるよりお前とそのお嬢さんがどうしたいのか見届けたくなった。それに、お嬢さんには魔力に慣れる時間が必要だしな。」
そう言って優しく微笑むウォルトにキリは顔を赤らめた。それを遮るようにシェードが間へ割って入り文句を彼に言い出した。
「見届けたくなった。だ?あんだけやれ任務へ戻れ、やれ会議に参加しろだ言ってた奴が今更なんだよ。」
「はいはい。怒るなって。お前の脱走には慣れてるんだ。仕方ないだろう。」
「まったく。それで、他の連中は?」
「冒険者ギルドの連中に技の相談をされてるよ。まあ、色々とあるがな。」
酒場へ戻るといつもと変わらない賑わいと共にルナが明るい顔で出迎えてきた。その声を聞いてダリエルも厨房から飛び出してきた。
「キリー!!ひっさしぶりー!なんだか変わったんじゃ無い?」
「え!?キリだって!?」
「ルナ、久しぶり。」
ルナの胸元に顔を押しつけられ少し困っているキリだったがウォルトやアレルが少々うらやましいと感じた光景だった。そんな中一目散に近づいてきた狼がいた。アーサーの相棒であるカヌだ。キュンキュンの声をあげて心配してたとでも言っていたように尻尾を振ってキリを出迎えた。そんな彼女をキリも優しく微笑み撫でてやる。
「ふふ、カヌ、久しぶりね。」
「驚いたな。ここまで狼に好かれてるのか?お前。」
「うん、よくわからないんだけどよく懐かれるよ。」
「ふーん、驚いたな。」
「キリー!!」
声に釣られて振り返ればダリエルが駆けつけてきて抱きついていきた。抱きつきながら泣きべそをかくダリエルに驚いたキリはそれだけ心配させてしまったかとダリエルを抱きしめて見せた。
「どこ行ってたんだよ!心配しただろ!?俺、俺…冒険者でもないし助けに行けないから…」
「あんたがいなくなってから皆そこの騎士団達も総出で捜索したんだよ。ダリエルはね、あんたをずっと待ち続けていたんだ。」
自分の肩で泣きじゃくる彼に少し申し訳なくなりそっと彼の頭を撫で小さく謝罪の言葉を述べた。
「悪かったよ、次からは何か連絡できるようにする。」
「おやおや、ここの料理人はえらく泣き虫なんだな。」
ウォルトの言いようにキリも困った顔をしながら付け足してきた。
「もとは坊ちゃんだからな。」
「うるさい!お前が言うな!危険な事ばっかやりやがって!」
泣きべそを掻きながらそんなことを言うダリエルにキリは呆れたように眉を下げて笑顔を向けた。ダリエルも泣きべそをかくのをやめて切り替えるようにみんなへ声をかけた。
「皆、疲れてるだろから一休みしないか?キリがいつ戻ってきてもいいようにたくさん料理を準備してるんだ。」
「うっし、まずは腹ごしらえだな。お二人さん。」
「ホリホック亭へお帰り。」
マーサが笑って受け入れ周囲も笑い出しいつもの感じのホリホック亭の感じが戻ってきたのだった。それを嬉しく思ったのか笑顔になったキリは小さくも言葉を発した。
「ただいま。」
その言葉を聞いていたのはシェードだけだがそれでもこの酒場に明るさと活気がいつも通り続きはじめたのだった。
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