ウルフカーバン帝国

紀利クルーガー

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〈第3章〉エルフの森へ

エルフの番人

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その夜、セイレーンが囁き出す頃ダリエルが不意に起き出しどこかへ行く。その気配にいち早く気づいたのはキリだった。ハティもスコルと共に寝ている中どこかへ向かうダリエルにキリは声をかける。
「ダリエル、どこいくの?」
向かったのは不思議な球体が沼地の上を浮遊する場所だった。沼地を見てそこで立ち止まったダリエルに声をかける。
「ダリエル?」
「やあ、キリ。来てくれたんだね。」
「どうかしたの?」
「いや、その…俺さ。お前にちゃんと伝えて無くてさ。今ちゃんと伝えないとだめだなって思って。」
「伝える?何を?」
「あぁーもう!こういうとこだけは鈍いんだから。俺が、お前の事好きだって事だよ!」
その言葉に唖然と見つめたキリは一言言った。
「知ってる。」
「え?」
「知ってたよ。ダリエル。」
「じゃあ、なんで、あの男とつるむんだ。」
「それは、成り行きだよ。仕方のない事だ。現に私にも知らない力がある。それを調べるために今こうして旅してるんじゃない。」
「俺だけだ。こうやって何も出来ないでいるの。お前の役に立ちたいのに。待ってるだけなんて。」
「今は一緒に旅してるじゃない。あの時勇気出して止めてくれてありがとう。あの堅物と2人なんてごめんだもの。」
「じゃあ今からすることも許してくれるか?」
「え?」
そういった瞬間ダリエルの顔つきが変わりキリを沼地の近くに押し倒した。起きあがろうとしたがそれは彼が覆い被さってきて起き上がれずにいた。
「ダリエル、ちょっと、何すんの!」
抵抗虚しくダリエルは彼女の衣服を引き裂き首筋に唇を当てた。びっくりして声を出して嫌がるキリ。
「やだ!離してよ!!」
「いやだ!俺の物になってほしい。だから…こうして。」
「ダリエル、何か変だ!もう昔の関係じゃない!!」
そうキリが言った瞬間行為を止めて絶望したかのようにキリを眺める。キリは半泣きになり体が震えていた。そんな彼女を見てかダリエルが泣きべそを掻いて言い出しその場に座り込み顔を覆って小さくも呟いた。
「できない…俺には…君に、こんなこと。」
「…ダリエル?」
「よく言った!料理人!お前はキリを抑えて伏せろ。」
その声にダリエルはキリをまた押し倒し彼女をかばった。キリはその光景をシェードがダリエルの背後から現れた魔物、グレムリンに向かって波動をうつ瞬間をしっかりと見つめた。グレムリンは吹っ飛びその辺に転がるがすぐに立ち上がりダリエルにとりつこうとまた近づこうとする。だがそれはスコルによって阻まれてしまう。グレムリンは悔しそうにその場で怒り狂い地面に拳をたたきつけスコルに威嚇するとシェードが言い放つ。
「無駄だぜ。俺の狼を何だと思ってやがる。」
不意に見せたシェードの顔つきにキリは凍り付く。普段も変わらず不機嫌な顔をしている彼が狼さながらに怖い顔をしていたからだ。その表情を見てかグレムリンは一瞬でびびり顔を覆い許しを請うようにひざまずく魔物にシェードは容赦なく低い声でスコルに指令を下した。
「やれ。」
その号令と共にスコルはグレムリンに噛みつき簡単に息の根を止めてしまった。一部始終を見ていたキリは唖然とした表情でシェードをもう一度見返すと元の仏頂面に戻っていた。ダリエルはグレムリンの呪詛から逃れたせいで意識を失っていた。シェードはバツが悪そうに言い放つ。
「今のは秘密だ。あまり知られてないんでな。そいつの意識はあるか?」
「ある…けど…」
「なら、目覚めるまではお前がそっちの馬に乗れ。逃げようとは考えんことだ。今のでわかっただろ?」
「えぇ。」
「汚れたスコルを洗うために進むぞ。夜明けが近い。」
「わかった。」
シェードの出発合図で出発となりグラニにはキリとダリエルで乗りシェードの後をついて行く。すると沼地をいとも簡単に抜けて聖なる木が生い茂る場所に出てきた。不思議に見上げると木漏れ日が差し込みなんとも幻想的な雰囲気を醸し出していた。その頃には侵入者を感知したエルフ族の1人が様子を伺いに来ていた。湖で聞こえる水音は一つだけ。聖なるエルフの森にある水で清める者は侵入者か同胞しかいない。弓を持ち構えた男だったがふと気に掛かった弓が目に入る。そこには自分が作り運命の者を探すための弓があったのだ。男は驚いて湖に視線をやると銀色の髪を洗う女の姿が見えた。
水浴びを終え体を拭いて衣服を着ていると不意な物音に気づき逃げようと武器を装備し逃げようとした時だった罠に足が引っかかりつり上げられてしまった。勢いでつり上げられ近づいて来た連中に驚き矢を構える。同じように男のエルフ達も構えた。
「女、なぜこの領域に足を踏み入れた。」
黙っている彼女へ近づき吐かせようと弓で殴ってきたエルフの男にキリは傷みに耐えながらも急に笑い出した。
「ふ、ふふ。それだけ?」
エルフの男達はその挑発に驚きながらももう一度殴って事情を吐かせようと殴りかかった瞬間だった。彼女は一人のエルフの首に足を巻き付け締め上げるとつり上げられたロープの回転を利用し近づいてこようとする他のエルフ一人に向けて矢を放ちその男から矢を引き抜くと近づいてこようとしたもう一人のエルフに放てば肩に当たった。一段落ついたことを確認すると刀を鞘から取り出し足に着いていたロープを切り落とした。落下衝撃を和らげたのはエルフの上に落ちたからでまた起き上がろうとするエルフに弓で殴り刀を向けた。
「女だと思って甘く見ない事ね。」
エルフの男は顔が強ばり彼女を恐れた目で見つめるが一人の気配に気づくととっさに起き上がり地面に跪いた。エルフの男が跪いた方向へ視線を向ければ男が立っていた。
「誰?」
「ここはエルフの領地だと知っているか?娘。」
「ええ、知ってる。」
「ならば立ち去れ。」
「断る。こっちにも事情がある。」
双方睨み合ったまま動かずにいた。だが男が話題を変えて彼女の手元にある弓について質問をし始めた。
「その弓、あの鍛冶場の主人から受け取ったのか?」
「金貨50枚でね。って、あなたのものだったの?」
「いや、それは食料を調達するために手放したものだ。」
「そう。返して欲しい?返さないけど。」
「いや、君が持っていろ。弓は使い手を選ぶ。実際手に馴染むだろう。」
「…そうかな?」
「最近、何か射るようなことはあったか?」
「ないな。あ、今さっき君の部下を射ったよ。普段はほぼ刀で解決してる。」
「そうか。では、矢を持たず引いてみろ。引きが軽くは思わないか?」
自分の部下への配慮はなく冷静さを保つ彼を不振に思いながらもキリは言われた通り矢を置き弓を引いてみると見事に軽く引いた。それをみてエルフの男はまた話し出した。
「やはり、俺の作った弓矢だ。このような人の子に渡るとは…娘、名を聞こう。」
「見ず知らずの人に教えるわけないでしょ?それにあなたエルフ?」
「いかにも。では娘もう一つ質問だ。何しにこのエルフの領地へ来た?」
「私の持つ刀の真相を突き止めるため。」
「…なんだと?」
キリの思わぬ発言に顔をゆがませる男だったが切り替えて腰にぶら下げている刀に視線を送る。
「刀というのはその事か?」
視線の先に見える白い刀に目が行く男。そして辛く重い顔つきに変わりその刀に触れた。すると刀が異様なまでに光を放ちエルフである彼を受け入れていた。キリも初めての現象に驚き唖然と男を見やり自然と名前を聞いてきた。
「あなた名前は?」
「ようやく聞く気になったか。我が名はアーデス・ヴィク。娘よ、その刀のこともっと知りたい。」
「は?なんで?う!」
「我がエルフの都へ招待しよう。我が君。」
唐突に首に衝撃が走り意識を簡単に手放してしまった。崩れ落ちる彼女を受け止めるとそのまま抱き上げていると兵士が近づき膝をついて報告してきた。
「王子よ、その者は侵入者です。」
「いや、お通ししろ。我々が長年追い続けた刀を彼女は持ってきたのだから。我々にも知る必要がある。」
「では、近くの男2人は?」
「…眠らせ、必要に抵抗するなら殺せ。狼は傷をつけるな。わかったな。」
「仰せのままに」
「やっと見つけた…あのお方のご子息。」
抱き上げつつも気を失ったキリに語りかけていた男アーデスは彼女を連れて兵が捕らえに行った方角へとゆっくり歩いて行った。
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