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〈第3章〉エルフの森へ
暗闇の中。
しおりを挟む脅威が近づくことなど知らず待つ2人。一向に水浴びから戻らない彼女を心配し落ち着かないダリエルは声をかける。
「なあ、それにしも遅すぎやしないか?」
「女の身支度ってのは長いものなんだ。俺もうんざりと言うくらい付き合った。」
「それでもハティもここにおいて1人なんて。危険すぎる。」
「…心配性だな。お前も。」
そう蔑みながら武器である剣を引き抜いた。手入れの行き届いた剣は寂れることもなく綺麗な銀を光らせていた。ジッと見つめて来るダリエルに気づき剣をしまうと何用だと聞いて来た。
「何だ。」
「あんだけ刀の秘密を知りたがるのになぜここでは落ち着いていられるんだよ。」
「別になれてるだけだ。」
「そういやぁ許嫁がいるとか言ってたな。」
「うるさい。黙れ。たく、お前もあいつもなんでそんなに俺の事知りたがるんだよ。気味が悪い。」
「普通のことだろ!?お互いをよく知らなきゃわからない事だ。」
「あぁ、そうだな。俺は耳が良いんだ。心音、嘘をつくときの仕草すべてわかる。お前はわかりやすいが…あいつはわかりにくいんだ。」
「キリが?ふーん、俺にはわかりやすいと思うんだが…」
「たく、いつまで入ってるんだ。風邪引くぞ。ハティ、悪いがお前の主人を見てきてくれないか?」
そう言ったシェードにハティは素直に従い体を起すと水辺の方に向かう。だが数分もたたないウチにスコルがうなり声を上げて当たりを警戒し始めた。不審に思ったシェードはスコルに声をかける。
「スコル、どうした?」
シェードも周囲を警戒し始めると途端に矢が飛んできてダリエルに当たりそうな矢をシェードが素手で止めた。ダリエルは目の前に鏃が来た事に焦りびびりシェードの衣服を掴み怯えだした。
「な、なんだ?!」
「服を引っ張るな。体制が取れん。エルフの連中だな。やあ、お前達の領地を荒らしに来たわけじゃない。落ち着いて武器を下ろしてくれるだろうか。」
「断る。貴様、あの王国の忌み子だな。その様な汚らわしい者がなぜ我々の領地へと踏み入った!返答次第では殺す。」
「知り合いを待ってるんだが…(こうなると彼女もおそらく…)」
「もう一度問おう。なぜこの領地へと侵入したか。これが最後だ。」
矢を構え始めたエルフ族にシェードは冷や汗を流す。答えない彼にエルフは不法侵入と見なし矢を放ったがそれはシェードが出す波動により跳ね返されてしまった。そして同時に視界を奪うために煙り玉を使ったシェードはダリエルに指示を言い渡した。
「二手になって逃げよう。お前はスコルについて行け!俺は一人で切り抜ける。」
「はあ!?」
「念のためだ。お前にはキリが残した馬がいるだろう!!行け!!」
「わ、わかった!!」
ダリエルはグラニに乗るとグラニがシェードの指示をわかっているかのようにスコルの後を追いかけた。煙のおかげで森を切り抜け行く当ても知らないままスコルについて行くダリエル。彼が逃げた事に追おうとしたエルフの連中はダリエルが去った道をシェードに引き留められる。
「おい。お前らは武器のない者にまで危害を加えるのか?お前らの相手は俺がしてやる。掛かってこい。」
シェードの挑発にまんまとのったエルフは矢を構え出す。それにのってくれた事に彼はにやりと笑みをこぼした。斬りかかるエルフ、矢を射てくるエルフ攻撃的にはその二択だけだが短剣使い、両手剣使い、使用は様々だった。それを全て避けるのは安易ではないのだが彼は違うかった…
「なんて事だ!まるで化け物同然ではないか!!」
「落ち着け!何としてもここで食い止めねばが!!あ…貴様…」
「運が悪かったな。ここでお前らは俺を見逃すべきだった。」
1人のエルフの首を締め上げ持ち上げるシェード。
「さあ、これがわかったのならお前らの主人に伝えるんだな。」
「それは俺の事か?」
そう聞き取れた声の方を見ると片手にキリを抱き止めていた。意識のないキリを見てシェードは驚くが同時にエルフの男アーデスに怒りを覚えた。
「貴様こそ。我が部下を離してもらおう。お前が逃した部下も捕まえた。この方を送り届けてくれてご苦労。」
「何?」
「我々にとってはこのお方がいてこそ意味があるのだ。貴様は元いた王国へ去れ。呪われた子よ。」
キリを横抱きにするとそのまま連れて行こうとする。シェードはそれに待ったをかけるが後ろから頭に衝撃が走り意識をそこで手放してしまった。最後に移ったのは抱きかかえられ連れていかれるキリの姿だった。倒れ込んだシェードを忌み嫌うようにアーデスが眺めているとエルフの兵士が声をかけてきた。
「アーデス様、その女はどうされますか?」
「無礼だぞ。この方は刀を届けるために来られたのだ。その者らは目が覚め次第入り口へ返せ。」
「御意!」
アーデスはキリを自分の馬に乗せ連れ帰ってしまった。茂みに隠れていた狼の相棒であるハティとスコルは気まずそうに様子を見ていた。寝転んだ2人は縛り上げられお互い背中合わせで座らされていた。スコルは思い着いたかのように動き出すとハティもそれについて行った。しばらくして意識を取り戻したのは図太い男の声に起されたシェード。
「…い!おい!大丈夫か!?シェードさん!!」
「ダリエル…か?」
「よかった。目が覚めたみたいだ。」
「どのくらい眠っていた?ここは?」
「ここは森の中みたいだが…暗くてよく見えない。」
「…ふう、そうか…」
「ちょ!何安心しきって;」
「そこの2人!目を覚ましたようだな。」
「ひえ;お、俺達をどうする気だ!」
「案ずるな。夜が明ければこの森の入り口へ連れて行く。貴様らはこの森の危険だ。」
「そうかよ。なら、闇夜の化け物に用心するんだな。」
「化け物だと?」
「夜は火を消すもんだ。わかったら火を消した方が実のためだぞ。」
そう、この森は一見エルフの森と言われるがその逆も意味し、エルフ達が夜見廻りしないのには意味があった。夜には魔物がウロつき兵士達を惑わす魔界の森としても有名である。シェードの忠告も無視して火を囲むエルフ達を横目に静かに休んでいるとダリエルが声をかけてきた。
「な、なあ!何で夜は危険なんだよ。」
「……この辺り一体夜の魔物に襲われやすい場所になるらしい。見ろ、そこかしこに迷い込んだ生き物の死骸だらけだ。」
『あら、御名答!流石は忌み子ね。』
「うわ!」
「静かにしろ。いちいち反応がでかい奴だな。」
「だ、だってこいつは?!」
『あら、あなたも見えるのね。エルフ達には見せていないのに…』
「何のようだ。リョースアールヴが無闇に歩んでいい夜道じゃないだろ。」
『あら、あなた達ではなく彼らに忠告をしにきたのだけど…』
リョースアールヴと言われる明るい姿の妖精が心配そうに見つめるのはエルフ達の方だった。心配そうに見つめるアールヴ達をみてシェードはひとつ提案してみせた。
「なら、この縄を解いてくれ。それだったらあいつらを死なせずに済む。」
「な、何言ってんだよ!?」
『ふぅん。案外利口な考えを持つのね。半端者の貴方でも役に立つ事があるのかしら?』
「さあな、役に立つかはわからん。」
『まあいいわ。一つ、貸しよ?』
そう言って後ろで縛られていた縄はみるみる朽ち果てていった。自分の武器を手に同じくして縄を解かれたダリエルに声をかける。
「お前はあいつらと共にエルフの都に行け。」
「はあ?!なんで!!」
「その方が安全だからだ。!!来るぞ。」
闇に潜む化け物がエルフ達に襲い掛かろうとした瞬間シェードが自分の剣を槍のように扱い魔物を一気に突き刺した。いきなり飛んできた剣に驚き焚き火の周りを囲んでいたエルフが驚き臨戦態勢に入った。
「うわ!な、なんだ!?」
「貴様!何故、縄が解けている!!」
「どうでもいいだろ。そんなこと。それよりここから離れろ。化け物が襲ってくるぞ。」
「化け物?」
「ひ!な、何だお前ら!!」
暗闇に潜む化け物が目を光らせ睨んでいるのが見えた。シェードが警戒していると案の定1人のエルフが足を引っ張られてしまう。
「うわぁ!た、助けてくれ!!」
「ち、面倒だな。」
シェードは黒い刃を手の中に作り出すとそれを足を引っ張られているエルフの足を持っている化け物の腕へ向け斬激を放った。狙い通り化け物の腕は取れて転がりエルフの兵士は唖然と暗がりを見つめているとすぐ目の前にシェードが立ちはだかった。
「おい、兵士。お前らそいつを守って都へ帰れ。」
「は、は!」
エルフの兵士は素直にその命令に従い、ダリエルを真ん中に夜道を歩けるように松明をこしらえると明かるく周囲を照らしつつもその場から離れていった。ダリエルは終始シェードの心配をしているが彼の忠告を素直に聞きその場を離れた。シェードはというと周囲に広がる無数の影に警戒しながら消えかけの焚き火の火が消えると周囲を化け物が囲み始め苦笑いした。
「は、これは…生き残れるかな?」
そう言いつつも顔色を変え瞳が光り出し暗がりの中シェードの姿は変化していった。すでに遠くへと逃げているダリエルは確かに遠吠えを耳にした。地響きにも似たその遠吠えは同じく歩いていたエルフの兵士達を怯えさせていた。
「な、なんだ!!今の…」
「まさか…例のダークエルフ?!」
「おいおいおい!落ち着けって!一体何がどうなってるんだよ。」
「貴様は知らないのか!?」
「知らないって何を?」
「狼男の伝承だ!噂やお伽話と思っていたが…まさかこんな…」
「とにかくアーデス様に報告が先だ。」
エルフの兵士達はダリエルを連れ都へと逃げ帰っていった。夜が明け翌朝になったころ森を歩いて来たスコルが血だらけの彼を見つけるとそっと近づいた。そのそばにはハティが着いてきていた。ハティが小さく遠吠えをするとシェードの傷だらけの体は少しずつ治癒した。
「ん…ハティか?」
ハティは自分が呼ばれたことに嬉しそうに吠えつつ尻尾を振った。まだ体が鉛のように動かないシェードはがさつながらもそっとハティの頭を撫でて褒めた。
「傷、治してくれたのか?ありがとうな…」
きゅんきゅんと嬉しそうに尻尾を振って喜ぶハティを見て笑みをこぼしたが小さくため息を吐いた。逃がしたとはいえエルフの都がドコにあるのか、それすらもわかっていないシェードにとっては難しい問題だった。ハティを撫でているとスコルが不服そうに睨んでいるのが見え自分の相棒にもこちらへ来るように合図を送ると素直に近づいて来て座った。二匹を撫でつつも小さくぼやくシェードはエルフの森に1人取り残されてしまったのだった。
「さて、これからどうするか…」
独り言をぼやきながら2匹を連れて森を彷徨うことにした。
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