33 / 36
〈第3章〉エルフの森へ
エルフの都、エルル
しおりを挟む眩い陽の光で目が覚めたキリはゆっくりと目を開けた。自然の風が体を起こすように撫でるようにすぎて行った。体を起こせば天窓のついた部屋のようだった。寝ぼけた頭で辺りを見渡したキリは一言つぶやいた。
「…ここは?」
気づけば衣服も違う服が着せてあり戸惑っていた。裸足のまま地面に足を下ろすと首に痛みが走りそこへ手を当てると湿布のようなものが貼り付けてあった。誰かが処置を施してくれたのか?と疑問に思いつつ誰もいない部屋を探り始めた。
「何か武器になるようなもの…」
引き出しを開けてゴソゴソ探し始め探し当てたのは金色のかんざしだった。
「…なんとか行けるか…」
すると物音に気付いたのか誰かが扉の鍵を開ける音がした。それに気がついたキリは金の簪を隠しもち入り口付近に待機した。扉が開いた瞬間少し驚いたようにその人物を見つめた。肌も白く金髪の男性が立っていたのだ美しくも綺麗なその顔つきに目を丸くしたキリはジッと彼に見とれた。彼も彼女の黄色と緑の瞳にあっけにとられていた。だが咳払いをしてその場に跪きキリに頭を垂れた。
「失礼、お目覚めとは…手荒なまねをして申し訳ありません。我がエルフに幸せをもたらす賢者様。」
「…賢者?私は普通の…いや、ここへ来て違うか…」
「まずは反対側に隠し持っている簪をお納めください。我々はあなた様を傷つけたりはしないのだから。」
「…手刀で気を失わせておいてよく言うな。アーデス・ヴィク。」
そう言って隠し持っていた簪を取り出し彼の首筋に簪をあてがった。簪とはいえ、とがっていて危険な物だったが彼はびくともせずにあてがわれたその簪に手を伸ばし彼女の手からそっと優しく抜き取った。そして彼女の手に触れるとそのまま忠誠を誓うように手の甲にキスを施した。いきなりの出来事に驚きを隠せないキリは彼の手から自分の手を引き抜いて見つめた。
「あのお方の子孫がいたとは…まずは湯浴みと着替えを。このエルルの森を案内いたしましょう。」
「(あのお方とは?)エルル?エルフではなく?」
「我らの住まいです。エルルというのは。」
男に手を引かれながら紳士的な彼を警戒して距離を取っていた。そして連れられやってきたのは女のエルフが一礼をして数人待っていた。手には衣類やタオルが持たれていた。
「では王子、ここは我らにお任せを。」
「あぁ。では外で待っている。まずはその血や泥を落とさねば。」
そう言われたがタイミングを見計らって抜け出してやろうと思いつつも大人しく女達のエルフに従った。湯浴みを終えて風呂場から上がると着替えを手に女達が待ち構えていた。袖の長い黄緑のドレスに着替えるとさっさと中庭らしき場所へ出された。中庭は花も咲き緑が生い茂り気分がいい場所だった。サワサワと木々が風に遊ばれて揺れる音、遠くでも聞こえる小鳥の囀り、何とも気分が良かった。
「この中庭、気に入ってもらえたかな?」
いきなり耳元で声をかけられ驚いたキリは耳を押さえて引き下がり後ろにいたアーデスから距離をとった。アーデスはおかしく思いくすくすと笑い始めた。
「相変わらず不思議なお方だ。」
何も言わず黙り込んで彼を睨むキリにアーデスは相変わらずの笑顔で答えた。
「そう睨むな。言ったであろう。このエルルの都を案内すると。」
そっと手を取られて引っ張られていく。中庭から抜けるとそこにはエルフの都エルルの風景が広がっていた。森林に囲われつつも家家は木々でできておりその中をくり抜いた作りになっていた。新鮮な木々の香りは濃く伝わってきてい風に吹かれて葉が擦れ合う音が響いていた。そこにエルフ達の楽しそうに笑う声や話し声が聞こえてきていた。なんだか落ち着く空間にキリも小さく呟いた。
「穏やかね。外の世界とはまるで違うみたい。」
「…えぇ、これが長年我々エルフの騎士が守ってきた者です。」
「そう。長らく続いているのね。」
街の様子を観察しつつ気に入っている様子のキリにアーデスはそっと結われていない部分の髪を触り答えた。
「きっとあなた様にも気に入ってもらえると良いのだが。」
「誰が住むって言ったの?」
「はは、これは手厳しい。」
住むと言っていない彼女にアーデスは困った表情で見つめ軽く払われた手を引っ込めた。森を歩き街を見て回ったキリはまた都の中心部にある物にあっけにとられその銅像へと駆け寄った。そこには頭に花の輪で作られた髪飾りが置かれ目の前には供え物をいくつか供えられていた。
「穂希仁…」
「やはり、ご存じですか。この方の名前を。」
「(しまった、つい感動のあまり何も考えずに発言してしまった;)なぜここに像が?」
「この方がこの国を治め統治し安寧をもたらしたとされています。」
「(そうか、日記の通りだったんだ…実際ここで都を納め、統治したんだ…)そうなの。」
「穂希様は我々にとってかけがえのない希望の象徴です。」
「もう何年も昔の話でしょ?」
「えぇ、それでも…我々にとっては神その者です…」
「人間は嫌いじゃなかった?」
「えぇ、この世界の人間はそうです。でも彼は違う。」
夕日に照らされる彼は神々しくもどこか不気味さも醸し出していた。もう夜が来ようとしている中、キリは仲間である2人、ダリエルとシェードを気にしてアーデスにまた問いかけた。
「そういえば…私の連れはドコ?」
「あぁ、彼らならばこのエルフの森の入り口へと明日には送り届けられるだろう。今はあなた1人のみだ。」
「そんな、なぜ私は連れてこられたの?」
「刀をお持ちであった。このエルフの希望であるあのお方の刀を持っておられたから…」
「ふざけないで。2人が帰ったなんて…」
「実質的に言えば我々エルフの騎士団によって丁重に送り返した。」
「そんな…」
少々落ち込む彼女を宥めるように肩に手を添えるアーデスだがすぐに警戒されその手を払い除けられてしまった。ずいぶんと警戒心が強い彼女にますます惹かれるアーデスだがそんな様子を垣間見ている人物がいた。
『あらあら、振られちゃったみたいね。アーデス。』
「リョースアーヴルか。何か用かな?」
『えぇ、えぇ、それはもちろん。祝福されし子を見に来たのだわ。こんにちわ!この時間じゃこんばんわ、かしら?愛し子』
緑のような姿だが太陽のよりも美しく輝いていた。キリにかわいくお辞儀を交わすとその小さな唇でキリの鼻頭にキスを落としてきた。小さくてかわいい生き物はキリも驚き唖然としている姿にリョースアーヴルはクスクスと笑っていた。
『うふふふ、かわいい人。あなたをこちら側へ招待したいのだけれど、あなたには使命がアル物ね。残念だわ。』
「こらこら、いくら君たちといえど困ったことはしないでくれ。」
『あら、あなたも実際彼女を困らせていたじゃない。』
キリを庇うようにアーデスとの間に入ってきたアールヴは強気でアーデスに言い寄る。アーデスも困った物だとため息をもらしつつも彼女達へ向ける眼差しは優しい物だった。だが夕日が沈む頃にアーデスが彼女達に帰るよう指示した。
「そろそろ帰る時間じゃないか?」
『えぇ、そうね。じゃあ、またね!アーデス、愛しき子』
リョースアーヴルは光の速さで近くの小さな扉から別の世界へと渡っていくのが見えた。向こうの入り口は彼女達が通れる程度だったそんな入り口を見つめつつ名前を聞き忘れたキリは独り言をぼやいた。
「そういえば、名前を聞いていないのだけど…」
「あの者らはリョースアーヴル、そう呼んでいる。もっと近くで呼ぶのなら隣人と。」
「そう…」
「さ、帰ろう。夜は少しばかり冷える。」
「(なんとか抜け出す方法を見つけないと…)」
キリは脱出方法を模索中…アーデスに連れられ都の城に帰り大人しく部屋で窓から見える空を見上げていた。そんなときだった、急に首飾りが震え始めたのだ。首飾りの構造は今だ解明できていないが危険信号と受け取っているキリは震えている首飾りをそっと手に持った。それと同時だっただろうか、地鳴りのような大きな遠吠えが聞こえ驚いて立ち上がり2人の心配をした。
「(今の銃声!?まさか…ダリエルか、あの人に…何かあったのか?)!!何の笛?」
唐突に鳴り響く警告の笛、外の扉を開けると兵士が駆け足でどこかへと走って行き指揮するエルフが声を荒げているのが聞こえた。
「西門に化け物出現!!総員直地に対処へ迎え!!」
すると遠くから聞き慣れた銃声の音が鳴り響いた。ダリエルはこう見えて護身用に自分だけ拳銃を持っていたのだ。その音を聞くやキリはいても立ってもいられず扉を開けて出ようとしたが兵士達に引き留められてしまう。
「だめです!!危険です!!あなたは中へ!」
「衛兵、ここはいい。君たちは向こうの対処へ。」
「は!」
アーデスがキリを引き連れ部屋の中へと戻り周囲を伺うアーデスに混乱の目で見つめる彼女に気づき宥めてみた。
「落ち着け、君が出て行っても何にも。」
「何にもならない?!じゃあ私の知り合いだったら、?!」
「…それは…」
「一体この森で何が起きてるの?答えなさいよ!」
「伝承によるダークエルフかもしれぬのだ。」
「…ダークエルフ?」
「そうだ。狼男と称される彼らはこの暗闇で人々を襲う。それはエルフ達も同様だ。もしそうならば対処する必要がある。」
「でも、今の銃声は確かに知り合いの音だ。確かめる必要がある。」
「君はここで待て。もし、彼なら…ここへ連れ戻すと約束しよう。」
「…わかった。」
アーデスは納得が行ったのかと安堵の笑みを浮かべると一礼して去って行こうとしたがキリがそれを止めた。
「でも、私の方が早く着ける。」
「は?」
振り返ればそこには彼女の姿はなくベランダに立ち尽くしていたキリを見つけた。焦りながらもアーデスは彼女に待ったをかけた。
「待つんだ!!キリ!!」
「じゃあね。」
手をひらひらとしてベランダの上へといとも簡単に登っていく彼女に唖然としていたアーデスだったが我に戻った途端、急ぎ足で彼女を追いかけようと必死で外へ出るとすでに騒ぎが起きていた。
「賢者様が!!屋根の上に!!」
「どうなってるんだ!?」
「たく、無茶ばかりを…」
キリは屋根伝いに走り兵士達の声を無視して都の西へと足を進める。裸足で地面を走るが瓦が足に刺さり痛さを隠しつつも走って行く姿はまるで自分達が崇拝する彼と同じ姿と思った瞬間だった。アーデスも彼女を追て馬を走らせた。まるで彼女自体に何者かが乗り移っているようなそんな気がした彼は彼女の行動を見守っていた。そうこうしていると西ゲードに到着してしまい馬を下りたアーデスは先にたどり着いた彼女に声をかけた。
「一体どうする気だ?」
「そんなの、わかってるでしょ?」
そう言って片手を横にかざせば白い日本刀が姿を現しずしりと重さを感じたキリはふっと人が変わったように目つきを変えた。操られているようなそんな感覚をアーデスは感じ取っていたため危険だと彼女に告げる。
「危険だ!もど」
『戯け、儂が引くと思おてか!!』
ビリビリと空気でも伝わる威圧に一歩も動けなかったアーデスはその場で立ち尽くした。まるで人が変わったようにこちらへ睨み光らせている眼光が恐怖を味会わせていたのだ。キリは森の奥から松明を掲げたエルフ達に気づくと刀を抜く体制に入った。何も知らないダリエルがキリに気づくと安心したかのように声を上げた。
「キリ!!よかった、無事だったんだな!」
黙り込むキリを見て不思議に思ったが後ろから聞こえる無数の咆哮に恐れを成して逃げたダリエルを無視してキリはまた体制を低くし始めた。近づいてくる脅威に落ち着いたように息を吐くと脅威が迫る寸前で目を開き化け物を一掃してしまったのだ。当然化け物がそれで終わるはずも無くキリに襲い掛かって見せた。だがあっけなく避けて斬り伏せてしまう。そんな彼女を初めて見るアーデスは近くにいたダリエルに声をかける。
「あれは…一体いつからなのだ?」
「さあな。俺も初めて見る。」
「まるで所業が鬼ではないか。」
「あぁ、そうだな。」
最後の一体を片付けたおりに奥地から遠吠えが聞こえたのに気づき後ろにいるアーデス達に声をかけた。
『今宵は、この門から一歩も出すな。儂が様子を見てきてやろう。』
「え?どういうことだ?キリ!!」
「キリ!行っては!!く、総員警戒を怠るな!キリのご友人は丁重に中へ!」
「アーデス様は!!」
「私は彼女の後を追う。」
「そんな無茶な!!」
アーデスは正門を飛び出しキリが走って行った方角へと馬を走らせていった。キリは後ろから彼がついてくることを知っていながらも遠吠えの場所へとたどり着いた。そこには無惨な化け物の残骸が散乱していた。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
もしもゲーム通りになってたら?
クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが
もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら?
全てがゲーム通りに進んだとしたら?
果たしてヒロインは幸せになれるのか
※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。
※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。
※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。
※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる