ウルフカーバン帝国

紀利クルーガー

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〈第3章〉エルフの森へ

漆黒の狼

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化け物の残骸を見つつ周囲に警戒するキリだったがふと何かの気配に気づくとキリの意識と変わり彼女の中にいたナニカはいなくなってしまった。我に返ったキリは知らない森の中に1人刀を持って立ち尽くしていた。
「え?あれ?ここ…確か、化け物が来て西の門へ向かって…」
小さなうなり声に気づきハッと暗闇を見つめるとそこにはハティやスコルより大きな狼が姿を現していた。少し警戒しつつも彼の足から血が出ていることに気づくと近づこうとした。だが狼は警戒して牙をむき一吠えしてきた。少しビビりながらも近づく事を決めた彼女はそっと狼に近づいて見せる。
「ごめん、脅かせるつもりは…ただ、傷を…治させてほしい。」
唸る狼男に近づきそっとその足に手を当てると初めこそ血が滲む場所に手を置いて痛そうに牙をむくがキリは負けじとその足に魔力を注ぎ込んだ。目一杯流し込んだ治癒魔法は不格好でも足がきちんと治った。治った喜びに飛び上がって喜んだキリを狼男は困ったように見つめた。
「やった!!治癒できた!!けど…やぱり、だめみたい;」
その場に倒れ込もうとするキリに驚き狼男はそっと仁王立ちで立ち上がり倒れる彼女を支えた。キリも意識がまだあるようで狼男に話しかけてきた。
「ふふ、助けてくれるの?ありがとう。」
そっと手を伸ばしてきたキリは狼男の鼻を撫でて見せた。急なことに困り硬直はしたがじっと彼女を見つめる。
「どうしてそんな顔をしてるの?あなたの目。私と同じ瞳で…綺麗。」
話をすることすら出来ずにいる狼男は困り果てたように彼女を地面にそっと下ろしそっと彼女にお礼として頬ずりをすると撫でていた鼻から手が離れ最後に力尽きる直前、呟いた言葉に驚いた。
「まるで…シェードさんみたいに。優しい。」
その言葉を聞いた瞬間狼男は再度彼女を持ち上げたかと思えば優しく抱きしめるとすでに彼女は眠りについていた。彼女にもう一度触れようとしたが蹄の音が近づいてくるのに気づきそっと彼女を地面に下ろせば暗闇へと消えていった。馬でようやく追いついたアーデスは地面に倒れ込んでいるキリを見つけ駆けつけた。
「キリ!!一体…何が…」
周囲に広がる残骸を見て驚きが隠せずにいるアーデスだがまた化け物が襲ってきても可笑しくない森から都へと彼女を抱えて帰ることにしたのだった。馬を走らせ都へと帰ればダリエルが駆け寄ってきて眠る彼女に驚いた。そしてアーデスに感情を抑えきれないまま問いただす。
「おい!キリに何があったんだよ!!意識は!!」
「ある。落ち着いてくれ。衛兵、彼は彼女の連れだ。安心してくれ。」
ダリエルは気づいていなかったがこのときエルフ達は警戒心の目でダリエルを睨みつけていた。そんな視線を気にしてかアーデスが宥めに入りキリの部屋へとダリエルを通した。キリは意識のないまま。目を覚まさないキリにダリエルは必死に呼びかけていた。
「狼もいないし、お前は意識不明だし。頼むよ、目を覚ましてくれよ…」
「安心しなさい。彼女のご友人。どれほど体力が回復まで向かうのかそれはわかりませんが3日後にまた来ます。」
「ありがとう。また何かあれば連絡する。」
「えぇ。では私はこれで。」
医師のエルフは部屋を後にした。アーデスも一息ため息を吐くとキリを心配するダリエルに声をかける。
「今宵、お主が我々のエルフ兵を連れ帰らなかったら今頃、彼らはどうなっていたか。」
「い、いやぁ;その…成り行きだよ!!俺も賭けでした事だし。」
「なぜ、彼女だと気づくと?」
「俺が窮地の時は使わせてくれって彼女に頼んでいたんだ。それで一か八かで使った。彼らも、落ち着かず怯えていたし…」
「そうか…彼女は勇ましく、本当に穂希様が君臨したかのようだった。」
「あぁ、それは思ったよ。ナニカが取り付いた感じだったみたいでまるでキリじゃ無かった。」
「そうか…長に話す必要があるな。」
「長?」
「この国を治めている長だ。お前はこの部屋からは出るな。長に指示を仰いでからお前を元いた世界に帰さねば。」
「わかったよ。」
「では、失礼する。」
そう言ってその場で一礼をするとキリの部屋から出て行ったアーデス。ダリエルは眠るキリを心配そうに見つめて一言言った。
「早く、目が覚めろよ。キリ。」
彼女はそんなことも知らずに1人、また白い空間に取り残されていた。波紋が広がる水の音しか聞こえず立ち尽くした。声も届かないだろうそう思っていた矢先自分にまた声が流れた。
『やっと、この森へ帰ることが出来た。お主のおかげだ。』
「あんた…また来たの?」
『頼む、この森に住まう武者を連れ帰ってほしい。これから其方の役に立つだろう。』
ぼやっと浮かび上がる男の姿、その姿はどこか和装をしておりこちらに向けられた眼差しは温かかった。キリはまた彼にまた声をかけた。
「あんた、一体…」
『其方に力を貸す物だ。キリ、其方はいずれ選択肢がくる。その時が来るまで力を蓄えよ。武者から、人々から。』
「そんなの急に言われても困る。」
『それがそなたの運命だからだ。』
「運命…」
『この森に隠されている。努々わすれるな。儂は其方をずっと見ているのだから。』
「待て!まだ、話したい事が;」
まぶしくなり目を開けると小鳥の囀りが聞こえた。ゆっくりと体を起せば部屋にいて誰もいなかった。そっと扉を開けるが遠くに兵士の声が響くだけで抜け出すにはもってこいだった。中庭を抜けようとしたが終始兵士が見廻りに来るため身をかがめて進んだ。
「誰もいない…今のうちか?」
「ここにいたか。キリ。いえ、祝福の子。」
「なれなれしく呼ばないで。」
肩に添えられた手を払い除け威嚇混じりに食ってかかると彼もまたわかっていたかのように笑って見逃すようにその手をひっこめる。
「これは、失礼を。ようやく目が覚めたようだな。」
「こそこそ抜け出したのに、もう気づかれるなんて、あなた私のストーカーでもしているの?」
「す…何を言っているかわからないが目覚めたときにウチの狼が察知して知らせてくれたのだ。」
「なぜ、ここへ連れて帰ってきたの?私の刀はどこ?」
「刀は今、エルフの鍛冶場にて手入れをしております。」
「あなたにはこの国の領地を守っていただかねば。その昔、ご先祖がそうしたように。」
「先祖?うちにはそんな家系ないけど?」
「いいえ、あるのです。あなたはこの森を訪れた一人の東洋の人間に似た人物。その人物こそが我らの領地を栄えさせるきっかけとなったのです。」
「東洋って、確かに父も東洋の生まれとは言ってたけど、私がそうとは限らない。」
「現に昨夜、見せてもらった。あなた様は族長と話す必要がある。」
「族長?」
「この国の王たる位置の者です。どうぞ。こちらへ。」
アーデスに案内され中庭を抜け城の中心部に向かえば書類を整理して座るご老体のエルフの姿があった。その足元には珍しい色の狼が寝そべっていた。キリに気づいた狼が立ち上がるそぶりを見せるとやっと気がついたようにキリに視線を向けたご老体は驚きつつも急いで椅子から立ち上がった。アーデスは族長の前に来てすぐに跪きこう答えた。
「族長。例の娘が目を覚しました。」
「うむ、これはこれは我らを導き戦の勝利へと導いて下さったお方。その子孫とお見受けしても?」
「いや、その事だが…あなた方は何か勘違いしているんじゃないか?」
そう言って崇められる自分を否定したキリ。拒否したことに対して驚きを見せる族長だがすぐに笑って話し出した。
「確かに。あなた自身その自覚があまりないと見える。ですが我らはやっと帰ってきた英雄の子孫に喜びを募らせておるのです。」
キリは困ったように顎に手を置き考えた。はたしてこのエルフたちを信用していいのか?と言う疑問が過ぎる。どこかかみ合っていない会話に違和感を覚え警戒するように彼らを見つめていた。エルフ達からすればキリは救世主、英雄同然の扱いだが、キリからすれば良い迷惑な話なのである。
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