Ex冒険者カイル

うさぎ蕎麦

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4章

27話「積みたくない経験」

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「ひ、ひぃぃぃ、お、お許しを、命だけはああああっ」
「カイルさん。僕から提案があります」

 エリクさんが俺に近付く。

「人を殺める経験と言うのはこれから先、生きて行く上で必要な事です。出来ればルッカさんもそうなのですが、彼女の精神状態、ウィザードである事を考慮して1人だけ生かしておきました」

 つまり、エリクさんはこの手で盗賊の親分を殺せと言っている。
 人を殺す事? セフィアさんの話から断罪するに値する相手ではある。

「そうね。エリク君がそう言うと思って私もコイツを生かしたわ。この先何があるか分からない、イザって時躊躇わない為に私からも推奨するわ」
「魔法でも構いませんよ、正直僕も近接武器でそうしろと言われたら抵抗があります」

 二人の言う通りなんだろう。
 エリクさんが言っている事も正しい。
 俺は、見習いオークを切り捨てた感覚を思い出す。
 人間に取って悪事を働いているとは言え、人型・・の獣人である事には間違いない。
 前向きに考えれば、それ等を斬る事とあまり変わらない。
 そうだ、あの時俺は何も躊躇わなかった。
 大丈夫だ、コイツは既に沢山の人を殺して来ている罪人だ。
 自分が殺されても誰からも文句を言えない罪を犯している。

「分かりました」

 俺はホールス・ソーラを鞘から抜き覚悟を決める。
 盗賊の親分に近付き右手を振り上げる。

「がっはっは! 掛かったな! 馬鹿な奴め、貴様は人質にッ!」

 盗賊親分が突然立ち上がり俺に強襲を仕掛けるが、コイツの身体が微動した瞬間俺はバックステップを踏み間合いを確保。

「はぁ、僕はSランクって言いましたよね? この程度想定してないとお思いですか?」

 この瞬間、エリクさんが『拘束(バインド)』を発動させ盗賊親分の自由を封じ、

「同意ね」

 セフィアさんが盗賊親分の肩に麻痺矢を撃ち込んだ。

「うごぉぉぉぉっ、キサマ、きさ」

 もはや盗賊親分は動く事もしゃべる事も出来ない。

「さっ、これで彼を撃たない理由は消えましたね、どうぞ、カイルさん」
「はい」

 俺は深呼吸をし、目で命乞いを訴える盗賊親分の首目掛け、ホールス・ソーラを一閃。
 首を跳ねられた盗賊親分は大量の血を流しながら絶命した。

「テメーもそうやって何人もの命を奪ったんだろ」

 俺は小さく呟きながら剣に付いた血海苔を振り払い、鞘に納めた。

「さっ、終わったわね。お嬢ちゃん?大丈夫?」

 セフィアさんが、うずくまっているルッカさんに手を差し伸べる。
 だが返事はない。
 それを見た俺は『精神治療(キュアメンタル)』をルッカさんに掛けた。

「はぁ、はぁ、カ、カイル? 君は平気なの?」

 未だに焦点の定まらない瞳で息を荒くしながらルッカさんが言う。

「それは、割り切るしか無いよ。相手が悪党と思って、いつかどこかで人を斬らなければならない時の経験として割り切るしか」

 ルッカさんに紡ぎ出す言葉も楽じゃない。
 正直、未だに身体が震えている。

「ボウヤ、自分にも掛けた方が良いわ」
「そうですね」

 俺は自分にも『精神治療(キュアメンタル)』を掛けた。

「この前斬った見習いオークと根本的には変わらないって俺は割り切ったよ」
「そっか、君は、強いんだね、あはは」

 ルッカさんが乾いた笑いをしながらゆっくりと立ち上がる。

「そうね。お嬢ちゃんはウィザードだから無理する必要無いわ」
「そうですよね、あはは、あははは」
「ルッカさん、一度ヴァイスリッターに戻りますか?」
「いえ、私は大丈夫です」
 
 ルッカさんは気丈に振舞って見せた。

「分かりました、ダメになったらおっしゃって下さい、いつでもどうにでもなりますから」
「すみません」
「アリアちゃん居たらよかったのにね~」
「ははは、あんな一面アリアさんには見せられませんよ」
「それもそうね」
「さっ、僕は懸賞金貰いに行って来ますね」

 エリクさんは盗賊親分の首を拾い、転移魔法を掛けた。
 暫くして、冒険者ギルドへ報告を終えたエリクさんが戻って来た。

「僕達からしたら端お金ですのでお二人で分けて下さい」

 エリクさんは報奨金を俺とルッカさんに手渡した。
 抵抗しても無駄と分かった俺とルッカさんは言葉通り受け取る事にした。
 しかし、これで端お金ってやっぱりSランク冒険者は凄いんだなぁ。

「さっ、中に入りましょう」

 セフィアさんが先導し、俺達は神殿の中へ入る事にした。
 中に入ると、光が入り込まない構造なのだろう。中に入ると以前俺が入った洞窟と同じ様に漆黒の闇が広がっており、とてもじゃないけど周囲の情報を把握する事が出来ない。

「暗いですね」

 エリクさんがそっと呟き『照明(ライティング)』を完成させると、手の平サイズの光体を頭上に移動させた。
 流石はエリクさんだ、彼の作ったライティングは広範囲に光を届かせられ、視界を確保するには十分だ。

「凄いですね!」
「はっはっは、任せてくださいよ!」

 神殿探索に対してテンションが上がったのだろうか? 道中までの様子とは違い得意気な様子を見せたエリクさんは溢れる気持ちを抑えながら奥へ先導した。
 暫く探索を続けたところで俺は足で何かを蹴ってしまう。
 それが何だったんだろうと気になって視線を下ろしてみると、

「うわ!?」

 その先には何かの骨があり、思わず驚きの声を上げてしまった。
 骨? でも魔物は力尽きると魔石になるじゃん? 骨で残ってるって事は、ゲッ!? これってもしかして冒険者の奴なのか!?

「この神殿に宝物があると踏んで無謀な装備で探索した冒険者と思います」

 エリクさんは、元冒険者が身に付けていたと思われる装備品を指差しながら推察をした。
 確かにそんなに強そうな装備品じゃない。

「ば、化けて出てこないですよね?」

 ははは、無いよね? そんな事? 幽霊系のアンデッドも居るけどこの中にそれらを召喚する人間はいないし大丈夫だよね? ね? ね?
 あれ? 何か少し暗くなって来たような?

「フフフ、カイル君、実はヴァイス・リッターの裏では夜な夜な」

 エリクさんが頭上にある光体の出力を絞り顎の下へと移動させ、不気味でゆっくりした声でまるで怨霊かの様に呟いた。

「ぎゃーーーー、俺、悪い事してないから許してぇぇぇ!?!?」

 エリクさん!? そんな所に光体置いたら本当に怨霊に見えるじゃないですか!?

「カイル? 君は幽霊が苦手なの?」

 ルッカさんが、何か良いモノを見つけたと言わんばかりに、ニヤニヤしている。

「ま、まさか、セザール学園トップの俺が幽霊如き怖いワケ無いって!」

 うん、大丈夫、邪術以外で幽霊系のアンデッドは出ないから、大丈夫、大丈夫だ。
 おりょ? ルッカさんがエリクさんに耳打ちしてるぞ?
 あれ? 何か少し暗くなった様な?
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