Ex冒険者カイル

うさぎ蕎麦

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1章

86話

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 瞳を嬉々として輝かせながらアリナさんの手を掴み胸元まで持ち上げるエリクさんだ。
 このままでは、ひい孫さんを僕のお嫁さんにして下さいという流れになりそうではあるが。
 
「ふむ、やはり若い男の肉体は悪くないのぉ、どれ、ちょっくら味見」

 アリナさんが最後まで言葉を言い切る前に突然頭を抱えのたうち回りだした。

「あ、アリナさん?」

 俺は慌てて『異常治癒(キュア)』を完成させるが、その前にアリナさんはゆっくりと立ち上がった。

「どきなさい」

 エリクさんの手を強く振り払い、冷たく凍り付く言葉を彼に向け投げかけた。
 まるでアリアさんを見ている様に見えるが。

『なんじゃ、聖神の杖め、調子に乗ったせいでひ孫に怒られおったわい』

 非常に楽し気に言う闘神の斧だが、誰がどう言わせても、あんたに言われたくないって言葉が返って来るだろう。
 
『ふぉっふぉっふぉ、言ったモン勝ちじゃわい! 今表に出てるのはアリアっちゅう女の子じゃ』

 闘神の斧に指摘され、改めて見ると身長も髪の色もアリアさんの物に代わっていた。
 アリナさんが掛けていなかった眼鏡も、だ。

『しかしこれでは戦力が落ちるからのぉ、出来る事なら元に戻って欲しいんじゃが』

 確かに闘神の斧の言う通りだが。
「やりたい事があるなら元の身体でやりなさいっ」

 アリアさんは溜まった怒りをぶちまけるかのように吐き捨てると、姿をアリナさんのモノへ戻した。

「やれやれ、誰に似たのやら、厳しいのぉ」
 
 戻って来たアリナさんは深い溜息を一つ付いた。

「そうじゃそうじゃ、カイルよ、あそこに飛んでいる物から強い魔力を感じるじゃろう?」

 アリナさんが空の方を指差し言う。
 だが、俺にはいまいち分からない。
 
『ほれ、アレじゃアレ、ルミナスっちゅーボンキュッボンなお姉ちゃん居たじゃろ』

 俺は何時の時代の言葉だよ、と思いながら聞く。
 
『あやつに近い魔力を感じるぞい』

 それって、つまり魔聖玉を持ったセリカさんかルッカさんか?
 ギルドハウスに居た彼女達の雰囲気を見る限り、ルッカさんの可能性が高い。
 そこから邪属性の気配は?
 
『せんぞい。 炎と雷の気配が強いぞい』

 やっぱりルッカさんか。
 今のメンバーで空を飛べる人は、エリクさん位か? でもエリクさんの飛翔の術の性能を詳しく知らないな。
 俺とルッセルさんは闘気の力を使ってある程度空中で動ける位だ。
 どうしたものか。
 ルッカさんが向かう先は永氷の洞窟の筈だ。
 少なくともそこで合流は出来そうだが。
「エリクさん、飛翔の術って速度出ますか?」
「出ませんよ、元々人間が空を飛ぶと言うのは難しい事ですから、僕位の魔力ですら馬が走る速度とかその位しか出ません」

 藪から棒な質問に対してもエリクさんはすんなりと答えてくれた。
 ルミナスさんと戦った限り、もっともっと早く飛んでいたと考えると、魔聖ルッカさんを空から追いかけるのは無謀だろうな。
 この雪山で分散行動をするのは良くないし。
 ルッカさんとは永氷の洞窟で合流するしかなさそうだ。
 俺が答えを導き出した所で、何か気になった事があったのかルッセルさんがこのことについて尋ねて来た。
 俺は考えた事を述べた所、やはりルッセルさんも俺と同じ結論を出した。
 ルッカさんの存在を知った俺達は永氷の洞窟へ向かう速度を少しばかり上げる事にした。
 
 
―魔聖ルッカ―
 
 
 カイル達が上空で見かけた存在は、やはり魔聖ルッカだった。
 今回の作戦まであまり時間が無かった事もあり、ルッセルが魔聖玉関してあまり干渉しなかった事が災いしたのか魔聖玉を保持していたルッカはカイル達が出たのを見計らい、その力を使い空から後を追った。
 彼女もまた、カイル達同様にフレイムバリアにライティング等の支援魔法を掛けている為猛吹雪の中であるが問題無く飛行している。
 
『何度も言うけど、アタシは知らないわよ?』

「へーきへーき、マスターには何とか言い訳するつもりだから」

『そうじゃないわよ、賢神の石と遭遇しない保証は無い事よ』
 
 新しい力を手にて調子に乗っているのか、お気楽な事を言うルッカに対し、ルミナスが釘を刺しているのだがあまり効果は無いみたいだ。
 
「確率は殆ど無いんでしょ? だったら大丈夫よ」

 確かにルミナスが見積もる確率では、今回永氷の洞窟で賢神の石を持つダストと遭遇する可能性は極めて低い。
 ただし、それはあくまでルミナスが見積もった確率であり、その率が正しい保証すら存在しない。
 カイルやルッセルならば、想定される被害を考慮し万が一が起きる事を回避する選択をするのだが、デビッド同様脳筋チンパンジー組に属するルッカがカイル達の様な発想をする事は無かった。
 勿論、カイル達が慎重すぎると言われてしまえば否定出来ない事ではある。

『アタシの力は一介の魔族の力しか無いのよ、幾らアタシが魔将軍になれる力があってもアーティファクトの前では赤子と変わらないワケ。 言わなかったかしら? アタシが闘神の斧の一撃でやられたって。 アタシだって防御力自体は高いか低いかで言えば高いのよ。 それをたった一撃で仕留められた訳。 当たらなければ良いかもしれないけど当たっちゃったから終わってしまったのよ。 それだけの力がアーティファクトにはある訳よ』
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