Ex冒険者カイル

うさぎ蕎麦

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1章

88話

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―魔聖ルッカ―


 上空よりカイル一行を追い越し永氷の洞窟に辿り着いた魔聖ルッカであるが、洞窟の入り口でカイル達を待つ事無く一人洞窟の中へ入った。

『思った通りね』

 一人洞窟の中に入る魔聖ルッカに対しルミナスが溜息をつく。
 
「良いじゃん、弱そうな魔物の気配鹿しないんだからさ、先に私が倒してカイル達を驚かせてやるんだ」

 ニコッと笑う魔聖ルッカの言う通り、魔物の強さだけで言えばCランク程しかなく、今のルッカならば簡単に倒せるだろう。

『確かに貴女の言う通り魔物は弱そうね、けれどこの気配少なくともスルーフちゃんとルカンちゃんが居るわ。 アタシの力じゃ太刀打ちできない相手よ、悪い事は言わない下がりなさい』
 
 スルーフとルカンが同じ場に居る事に対しルミナスは何か違和感を覚えた。
 自分の記憶が正しければ、大きな戦いでもない限り今まで一度たりとも彼等が組んだ事は無い。
 更に、彼等と同行している強い氷の気配を持つ何者かと存在意外一切気配を探知できない何か。
 ルミナスは背筋がゾッと凍り付く感覚に襲われた。
 気配を遮断した事を考慮すると、もしかしなくても賢神の石の可能性が考えられる。

「でも、距離はあるんでしょ?」

 新しい力を試したくて仕方が無いのか、魔聖ルッカはこのレベルの忠告ですら聞き入れようとしない。

『違うわ! そう言う問題じゃない、奴が居るわッ』

 ルミナスは覚えた違和感を確信に変えルッカに対し伝える。
 だが、等のルッカは鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしたままルミナスの変化を捉える事が出来ていない。
 これがカイルやルッセルならば捉えられたのかもしれないが。

「奴って何よ? 今更引き返させようたって遅いんだからね」

 魔聖ルッカは下をチラッと出して見せる。

『チッ奴の声がする、良いから逃げなさいっ!』

 どうやらルミナスには賢神の石の声が聞こえた様だ。
 しかし、その声はルッカの耳には届いていないのか、それでも尚引き返すそぶりを見せない。

『力ならアタシが与えたわ! アンタの好きにさせる訳には行かない!』

 ルミナスは賢神の石に言い返すが、それも無駄な抵抗だったみたいだ。

『アタシはアタシがやりたい事をやるだけよ! 魔族だった頃の精神は思い出せないけどっ思い出したくも無いッ。 アタシは聖将をやっていた以上人間に加担する事の何が悪いのさッ』

 ルミナスが何を言っているか分からない魔性ルッカは理解に苦しむ表情を浮かべながら周囲を見渡している。
 これがもしもカイルやルッセルであれば突然生じた違和感から何かしらの予測から仮説を立て別の行動、逃げると言う選択肢を導き出せたかもしれない。
 だが、ルッカにその様な技術は持ち合わせていなかった。

「え? 力は欲しいよ? もっともっと。 ねぇ? 貴方は誰なの?」

 遂に賢神の石はルッカに対して直接話掛けて来た。
 ルミナスが必死に従うなと言うがその声はルッカには届いていない。
 賢神の石が言うまま、ルッカは肯定の意を返す。

「良いの? 今よりもっと強い力を貰っても。 これでカイルにも勝てる様になるんだね」

 ルッカは再度笑顔を浮かべる。
 しかし、今回の笑顔は先程と比べ邪悪と言う言葉がにじみ出ている。
 ルミナスの忠告、警告は全て虚しく終わり、1分程経過したところでルッカの身体にどす黒いオーラが纏い始めた。

「これが、ワタシのチカラ? 凄いよ、身体の奥底から魔力が満ちて来る」

 賢神の石の力により魔聖ルッカはさらなる力を得た。
 しかし、その瞳は邪に染まったかの如く鋭さを放っている。
 最早人間の瞳とは言えず、ルカンやスルーフ、ルミナスのそれよりも闇に染まっている。

『ごめん、アタシの力じゃもう貴女を止める事は出来ない』

 この様な事態に陥ってしまった事に対し、ルミナスは自分の無力さを痛感していた。
 後は、闘神の斧と聖神の杖に託すしかない、実に無念な気持ちに陥ってしまった。

「あーはっはっは、これが私の力よ。 ねぇカイル、貴方なんか私の足元にも及ばなくなったんだからね?」

 新しい力に対し不敵な笑みを浮かべる魔聖ルッカ。
 そこに、侵入者の気配を探知したアイスタイガーが現れた。
 アイスタイガーは目の前に居る魔聖ルッカから放たれる強力な闇気の前に怯み身動き一つ取れなくなってしまった。
 
「なーに? 私の実験台になりたいのー?」

 魔聖ルッカは『地獄炎(ヘルフレイム)』を完成させ、アイスタイガーの足元に展開させた。
 放たれた地獄の業火は一瞬でアイスタイガーを水へと変化させ亡き者へと変える。
 ルミナスから、洞窟が溶けたらどうするかと問われるが。

「あはははっ、壁なんてすり抜けてしまえば良いじゃないの」

 ルミナスの問い掛けをあっさりと一蹴されてしまった。
 遅れて辿り着いたアイスゴーレムに対しても同じく『地獄炎(ヘルフレイム)』を放ち一瞬で水へと変化させた。
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